熱い手
「いつまで寝てるつもり?」
そう問われたのは、午後の授業が終わった後だった。窓の外をみていたつもりだったのに、いつの間にか片肘をついて眠りについてしまっていたらしい。
グラウンドに散っていた体育の授業をしていた、多分一年の生徒たちの姿はもうない。
「ああ、へんだな…」
首を傾げて、問いかけてきたラウンズ様……スザクの顔を見上げた。
「寝るつもりなんて、なかったんだけどな」
彼の表情が微妙に固いことがわかる。過去を思い出しているのだろう。そしてその過去と同じことが繰り返されているのではないかと疑いを寄せている。
それは、正しい。
「夜更かしでもしてたのかい?」
「いや、昨日は――何時だったかな。結構早くに寝たつもりなんだが」
機情で書き換えたデータを思い出す。夕食後、ニュースを見ながら確かソファに横になったはずだ。そこをロロに起こされて、ベッドに入った。
そうなっていたはずだ。
「そうだ、9時のニュースもみれないままに寝たんだった。寝過ぎで眠いのかもしれないな」
「そうか」
今朝、確認してきたのだろう。知っている情報と同じであることに、彼の表情がわずかに緩んだ。見逃さず、わざとらしくないよう気遣いながら小さくあくびをする。
懸念通り、今日のルルーシュは寝不足だった。早朝まで外にいたのだ。朝、ロロが食卓についた時間にクラブハウスへ戻った。もちろん人に見られるような愚はおかしていないが、眠りが圧倒的に足りていないのは確かで、授業など子守唄にしかならなかったのだ。
「珍しいね、そんなに早く寝るなんて」
「ちょっと風邪気味かもしれないんだ。だからかもしれない」
これは本当。嘘は事実を織り交ぜなければうまく効果を発揮しない。
「え、じゃあ学校来てて大丈夫なの?」
「この程度なら大丈夫だろう。咳もないし、少し熱っぽいくらいなだけだ……ぅあっ」
にゅ、っとのびてきた手が、急に額に触った。
驚くのは当然のことだろう。
「あ、本当だ。結構あるね」
「そうか? 微熱程度だろう?」
「僕の手、温度高いから。それでこんだけ感じるって結構な熱だと思うよ?」
「………そうか?」
自分の手の甲で額に触れてみる。今朝の感覚と大してかわっていないように思えた。
「保健室へ行こう。うたた寝するくらいなら、どうせ一緒だよ」
「だったら早退の方が……」
「一応、保健室登校だけでもしてたら? サボり扱いになっちゃうよ?」
「そうか……まあ、いいか」
正直助かった。監視カメラだらけの自室より、よほどゆっくり眠れるだろう。
「ほら、行くよ」
伸ばされた手に、一瞬だけ躊躇する。
ほんのわずかな間に気付き、小首をかしげたスザクへ、ルルーシュはあきらめその手を取った。
「手も熱い。結構あるよ、解熱剤ちゃんともらって、静かに寝なきゃ」
ほんのわずかな罪悪感など、熱のせいに決まっている。