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届かない


「願いとは、かなわないものの総称だ」
 と、目の前の仮面の男は言った。
 何を突然言い出すのだろうと思ったが、彼が無駄な事を口にすることはまずあり得ない。カレンはゼロと呼ばれるこの男に心酔していた。事実彼の起こす行動は自分たちの願いを叶えて行く。いや、叶えようとしていっている。
 なのに、何故そんな事を口にするのだろうか?
「願いは心で思うもの。そのようなものが物理的に作用する訳がない。分かるか、カレン。そこに行動が伴えばそれはもう願いではなくなる」
「よく……分かりません」
「力だよ、それは。君たちは日本を取り戻したい。私には私の目的がある。エリア11を日本という名にする……そのために行動を起こした。力は当然行使するためにあり、行使されたものには結果がもたらされる。それが、これだ」
 疑心暗鬼の中、当初あった彼は、今は誰もが認める英雄だ。正義の味方として行動を開始し、ブリタニア人の中にも支持者は多い。そして、起こすテロリズム。いや、彼の言葉を借りれば、戦争だ。
 その直前で言葉遊びをしているような暇などないはずなのに、ゼロは悠然と語る。
「だから、黒の騎士団がある、と言うことですか」
「そういう事だ」
 簡単に言うと、彼は立ち上がりマントをたなびかせて自分の愛機へと向かった。
 総決戦は間近に迫っている。小競り合いは未だに起きているが、以前に比べて格段に減っていると果たしてブリタニアは気付いているだろうか。この後に起きる事態を想定出来ているだろうか?
 それによって、私たちの命運のわずかは変わる。
 隙のないコーネリアの戦闘は、今や大きな組織となった自分たちへも未だ脅威をもたらしている。
「待ってください、ゼロ!」
「なんだ?」
「行政特区は、成功するのですか?」
「さあ」
「私たちはどうすれば」
「――ただ、待てばいい。行動を起こせる、願い続けるだけではない力をお前はもう手にしているはずだ、カレン。待てば、状況は自分たちに有利に働く」
 誰もが迷っていた。
「はい!」
 その迷いすらも払拭させてくれる、ゼロの言葉。玉城辺りならまだ不満を口にするだろうが、自分にはもう十分だと思った。
「願いません。私は、叶えるのだから」
「そう、叶えるために私がいる。ついてこい」
――はい、と。
 再び、すべてを吹っ切った彼女の声が付き従った。


2010.7.16
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