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久しぶりに軍務が明けたと早朝から登校してきたスザクに、何故か心が落ち着くのを感じた。先日起こしたテロの後始末に奔走していたのだろう。その事に対しての申し訳なさは感じるが、こうやって久しぶりに会えるとそれすらも忘れてしまう。
早速、リヴァルが嬉しそうに駆け寄って、シャーリーも囲むようにして
「久しぶり」の応酬が始まっているが、自分は敢えてそこまで行かず、視線だけで相対した。
久しぶり、との自然に浮かぶ笑み。
そして、ごめんね、と返される小さな笑み。
彼がブリタニア軍に属している事を、自分が快く思っていない事は良く知っている、だからだろう。そんな顔をしなくてもいいのにと思うけれども、くすぐったいような気持ちになる。
自分にだけ向けられる気持ちが嬉しいものだと気付いたのはいつの事だっただろう?
7年前はそうじゃなかった。そういう状況ではなかった。
だって、お互いとナナリーしかいない状況だったのだから。
きっと、彼がここに来てからの事だ。周囲にあまたの人間がいても、自分だけが彼の特別の席に座っているという充足感。そして、同時に自分の特等席も彼にだけ与えているという満足感。
再会できた高揚感と、互いに変わったあれこれが自分達を多分少し微妙な関係に姿を変化させた。触れた手の温度をずっと忘れられなかったり、瞳に映る自分の姿がどうなのだろうか、なんて中学生の女の子のような淡い感情から、不意のキスでようやく自分が抱いていたものがなんであったのかを理解した。そして、幸運にも彼にもそれは同じようにやってきてくれたようなのだ。
再会の僥倖と共にいもしない神に感謝した。
触れた唇は少しかさついていて、だけどその後の深い口づけで全てを忘れてしまった。不意打ちはずるかったと思う。さんざんに口づけた後、告白された。
だが、すっかり流されるばかりか感情までも気付かされた後では、卑怯だなどと言えるはずもなかった。
授業が始まるまで後数分。まだ輪の中にいる彼はちらりと自分に視線を投げて、『あとで』と唇でだけ告げた。微笑みとともに、ルルーシュは頷いた。
あとで、が何の意味を示しているのかはその時分かっていなかった。
昼休み、他のメンバーが誘いをかけるのを断って、ルルーシュはスザクとともに屋外へ出た。アッシュフォード学園は広大な敷地を有する。人気のない場所などいくらでも存在する。休憩時間に買ってきたと言うパンを食べようとするスザクに自分の弁当を押し付けた。
「え、でも君は?」
「お前のパンをもらうから、それでいい」
「でも…」
押し付けられる形で受け取ったお弁当箱と、ルルーシュを交互に見やって逡巡の表情を浮かべる。
「俺は普段からきちんとした食生活をとっている。お前はそうじゃないだろ? それとも俺の手料理が食べられないとでも?」
「そんなはずがないだろ!」
「じゃあ、素直に受け取っておけよ」
笑顔というには淡い表情で告げれば、スザクも折れた。実際彼の食生活は軍で支給されるレーションや、あやしげな上司の差し入れ、そして外食がほとんどだ。まともな手料理を食べられる機会など皆無に等しい。しかもルルーシュの作るものは美味しい。妹のために作られるものだから栄養計算もきっちりされているし、なにより彼自身の愛情がこもっている。
「………じゃあ、ありがとう」
受け取ってしまったものは仕方が無い。だが、どうにも申し訳なくて間が開いてしまった。
「なんだ、不満なのか?」
「違うよ! 君のを奪ったみたいで、なんか…悪くて…」
「だから言っただろう? いつも普通に俺は食べてるんだから、一食くらいジャンクフードでも構わないんだ」
それに、食べる機会もめったにないし珍しいと言い、総菜パンの封を開いた。
「じゃあ、遠慮なく。本当は、すごく嬉しい。ありがとう」
「最初から素直にそう言えばいいんだ」
ふん、と不遜に笑ってコロッケパンをほうばる姿はなかなかに見物だ。なにせ、偉そうな皇子様然としているのに手にはコロッケパンなのだから。
「君、似合わないね。そういうの」
思わず吹き出して言いながら、ルルーシュの弁当箱をあける。
「今日、一日お休みなんだ。学校終わったら遊びに行ってもいいかな?」
「もちろん」
とても幸せな気持ちだった。
夕食を終え、朝食も一緒に食べれる事を喜んだナナリーが自室へ下がり、それぞれにシャワーを浴びて自分の部屋へ戻ったときに、「あとで」の意味がやっと分かった。
先にシャワーを浴びていたスザクがバスタオル一枚腰に巻いたままでベッドに座っていたからだ。関係はあるが、そこまで露骨な態度で待たれていた事はない。むしろ奥手な自分に気を使ってか、普通に普通に、でも少しずつずらして行きコトへ持って行くのが彼の常なのだから。
「あとで、って言ったでしょ?」
思わず顔を真っ赤にして、扉の前に立ちっぱなしになったルルーシュへ、スザクが笑いかける。
「わあ、すごいね。顔真っ赤だよ。耳もだ」
脱がせたら、もっとすごい事になるのかな、などととんでもない事まで言う。
「す、すざ、すざく」
「なに? どうしたの?」
「なんで…」
「だって、久しぶりにお泊まり出来るんだもん。君だってそのつもりだったでしょ?」
「………………それは…」
確かに、否定出来ない。
自分も彼も多忙な日々を送っている以上、こうやって共に過ごせる夜があるのならば出来る限り体を重ねたいと思ってしまうのは仕方のない事だろう。肉体的だけでなく心までも満たされる快楽を知ってしまったのだから。
「だから、あとでって言ったんだ」
「昼の事だとばかり…」
「うん、それも。君と一緒に過ごす時間が欲しかったんだ。いっぱい、いっぱいね」
にっこり笑う表情に邪気はない。だが姿はバスタオル一枚だ。
「こういうの、慣れてないでしょ? だからしてみたんだけど……刺激強かった?」
「バカ! 誰か他の人間が入って来たら!」
「ナナリーならもう寝たでしょ?」
「だけど!」
「君にだけだよ」
にっこりと笑い、立ち上がる。そして扉の前から動こうとしないルルーシュの元へ彼は足をすすめ、唇にちょんとキスをした。
もう動揺の針は振り切れている。どうしていいのか分からなくなっているルルーシュの事を知ってか知らずか、スザクはルルーシュの手を取って、ベッドまで導いた。
「電気、付けたままでいいよね?」
「ばっ」
「久しぶりなんだから許してよ。ね?」
ねだるような上目遣いの目。この目にルルーシュは滅法弱い。う、と一瞬たじろいだが、だが駄目だ駄目だと必死で心の体勢を立て直した。
最初からそうだ。最初から彼のこの瞳に負けて来た。
抱かれる側というのも男としてそれはどうなのだろう? と思ったけれども経験のない上に今まで興味を示していなかった事にルルーシュはどうしていいのか分からなかったし、この目でねだられれば頷くしか無かった。結果、それは良かったとは思っているけれども。
「だ、だめだ!」
「じゃあ、枕元灯。これくらいならいいでしょ?」
「………………………………………………………………………う」
「ね?」
答えられないルルーシュをじっと見つめながら、リモコンで部屋の灯りを落として枕元灯を付ける。手際が良すぎる。
「この灯り、ルルーシュがすごくきれいに見えるんだ。好きなんだよね」
このたらし、どうしてやろうかと思いながらも折れるしかなかった。と、言うよりもう抵抗の道は塞がれてしまっていた。
来ていたパジャマの胸元のボタンを外され、口づけを交わしながら素肌に触れられる。自分よりきっと体温の高いスザクの手のひらは気持ちよくて、それだけで思わず喘いでしまいそうになるのが悔しかった。
何度も思う事だ。どうして自分で良かったのだろう?
自分はスザクが好きだ。だが抱くには適していない体だとは自負している。最初から彼は手慣れていて、それなりに経験はあるのだなと思っていたし、実際に尋ねてみたこともある(ちゃんと答えてはくれなかったけれど)。
だが彼は毎回宝物に触れるようにして、ルルーシュを抱く。軍を優先する態度に、きっと自分ばかりが好きなんだろうと思う気持ちをきれいに打ち消してくれる抱き方だ。
「あ、今日はね、ちゃんと持って来たんだ。最初からそのつもりだったし」
と、ふくらみのない胸を触れ、乳首を吸い、陥落し甘い声を上げさせた彼はまだまだ余裕のありそうな声でそう告げる。何を? と尋ねるまでもない。
今までのセックスで、ちゃんとした潤滑剤を使った事は一度もない。なぜなら二人ともその手のものを買うには気恥ずかしさがあったし、代用品もあったからだ。なのに、何故、今更?
「上司がパソコン使っていいって言ったから、こっそり。……後で使うね」
ぞくんと心臓の裏側から叩かれたようなしびれが全身に広がる。ただの言葉なのにスザクの声はさっきと全く違っていて、最後の一言だけ掠れるような色気に満ちた声だったのだ。
「今、使ってもいいか…」
一度離れて行く体温が寂しい。
でも、小さな10cmくらいのボトルを手に、体温はすぐに帰って来た。
思わずその姿を抱きしめてしまい、キスをねだってしまう。
「どうしたの? 甘えたさんだね」
「お前の体温が離れるのが、イヤだ」
「……煽るのが、上手くなったよね」
くすりとスザクが笑って、再び軽く口づけると、耳朶をねぶり始めた。
「すざく、そこ…や…」
「弱いもんね、ここ」
指先までしびれるような快感が弾ける。耳にこんな機能があったなんて、スザクと関係を持つまでは知らなかった。スザクの背中に回した両手をぎゅっと握りしめ、逃げるように頭を打ちふるうけれども快楽に負けた体は弱くてちっともスザクをふりほどけやしない。
その合間に、スザクは潤滑剤の封を開けていたらしい。
「つめた……っ」
「ごめん!」
腹の上に垂らされた粘度の高い液体は、触れた瞬間ひどく冷たかったのに、徐々に温度を上げて行く気がした。今まで代替えに使っていたハンドクリームやソープなんかとは全く違う、『そのため』の品物なのだ。それが思考を強く焼いた。
ぬるぬると腹の上をスザクの手が這い回る。
「…っ、あ…ん、んんっ」
時折ひっかかる胸の尖りや、腰骨の付近に触れられて、慣れない感触とともにいつもよりずっと感じて声が抑えられなかった。
「気持ち良さそう。すごくいい表情してる」
発情した声でスザクが告げ、聴覚を犯す。耳朶をねぶっていた唇は首筋を這い、ルルーシュは与えられる過ぎた感覚から逃れようと体をくねらせる事しかできなかった。だが、両手はしっかりと上にかぶさるスザクに回されたまま。時折カリ、と爪を立てて悦楽を逃そうとするが、その程度では到底たりない。
ぽたり、と顔に水滴が落ちる。スザクの汗だ。
「駄目だよ、ルルーシュ。今日はやらしすぎる」
「だめ、に……して、る、のは、おまえ、だ……っ」
まだ触れられもしていないのにルルーシュの茎はしっかりと立ち上がっている。それに時折触れるのは、同じく成長しきったスザクのものだ。
ルルーシュの媚態と感覚だけで、スザクも興奮しきっているのだ。
そう思うと、じん、とまたしびれるような感覚が走った。快感の欠片だ。
「もう、いいから……はやく」
「ダメだよ、今日は、せっかく……」
ぬるり、とした指先が円を描くように後孔をまさぐる。
「あっ、ああ、だめだ、スザクッ」
「ルルーシュ、声」
普段はそんな事ないのに、しっかり体が出来上がってしまっているのか、それともぬるつく指の感覚のせいか、声の制御も出来ない程に感じてしまった。
「だ、だって、ダメ……だ……っ」
ぬる、と指先が一本入ってくる。唇を合わせる事で声を封じたスザクは、そのまま指先をぐるりと一回転させ、危うく舌を噛み切ってしまうところだった。
「感じ過ぎだよ」
「おかしい、こんなのは…」
「媚薬、入ってたのかな」
「確認してないのか?!」
思わずがばっと身を起こした。対面で座り合う姿になるが、それでもいい。
「いや、確認したけど。……入ってる方にした」
「スザク!」
「だって、君がどこまでも乱れる姿を見たかったんだ。いいよね?」
「よく……………ない………!」
「でも、きっとよくなるよ。ほら」
後孔に入れられたままの指は深い場所になっている。片手であぐらをかいたスザクの上に乗せられ、思わず首に腕を回した。
「この、卑怯者」
「はは。終わってから聴くよ」
「爽やかに笑っても駄目だ!」
「でも、もう無理だし」
「ぅあっ………あ、ああ、あ」
細い指一本がピストン運動を始める。たったそれだけの事でもう達してしまいそうだった。
媚薬の効果は絶大だった。幾度吐精したのか分からない。いつもなら体力不足ですぐに参ってしまうのに、終わってもすぐに欲しくなってしまうのだ。スザクとしては本望だったようで、嬉々として体をつなげた。座位、正常位、後背位、騎乗位。取りあえず思いつく限りの体位を試してみた。騎乗位はほとんどスザクにゆさぶられるばかりで、ルルーシュはかろうじて体を立てていただけだけれども。
どれもあり得ない程感じ、声を上げていた。防音されているから大丈夫だとは思うが、いつもなら気にするナナリーの事すら忘れて鳴いていた。
「もっと、もっと……っ」
「ああ、もちろん」
正常位でほぼ抱き合うような形で強く穿たれるごとに、指先どころか足の先までが弾けてしまいそうな快楽を余す所無く、刻まれて行く。このままおかしくなってしまうのではないだろうかと時折まともな自分が出てくるのだけれども、それもすぐに穿たれる動きで霧散してしまう。
狂っても構わない。スザクさえいればいい。
そんな事すらも思った。
「ああ……っ、あ、あ、だめだ、また……ッ」
「んっ」
早くなる律動に、脳みそが撹拌される。
「もう……し…ぬ………っ」
吐精した瞬間につぶやいた。そのまま、意識はブラックアウトした。
果たして翌朝、スザクはルルーシュから叱られなかった。
毎回2回が限度のルルーシュが数えるのも面倒な程、体を重ねたのだ。当然足腰は立たず、ぐったりと朝になっても意識を取り戻したもののぼんやりとしている。そして声はひどく掠れてまともに出ない。
目だけで威嚇されたが、それも短い時間で、ちょっとやりすぎたなとスザクもさすがに反省した。
だが、本当に久しぶりだったのだ。思う存分ルルーシュを堪能したかったし、ルルーシュにも味わってもらいたかった。
でも少し使い過ぎてしまったかな、と残りが半分になってしまったボトルをこっそり鞄の中におさめた。次に使うのは、忘れた頃にしようとも思う。こんなのが癖になってしまっては、だめだ。
「ごめんね、ルルーシュ。さすがにやりすぎた」
「………………」
「でも、君もすごく気持ち良さそうだったよ」
ほら、見て、と背中を見せる。そこにはルルーシュの爪が付けた引っ掻き傷だらけになっていた。
「ごめんね。でも、僕は幸せだったよ。君のあんな姿が見れて」
「………っ、っ」
「覚えてないかな……」
「っ!」
ぱくぱくと口を開けたり閉じたりとしている彼の姿は間抜けだが、とても可愛い。あの様子だと、記憶が飛んでいたとしても仕方ないだろう。なにせ最後は気持ちよすぎて失神だ。
「今度、教えてあげるね」
「………この、バカ!」
掠れた声で、精一杯の声で、スザクは怒鳴られたがそれすらも満足だった。