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愛の欠片


 愛情はあったのだろうか?

 誰もが同じような顔をしている、とスザクはラウンズ就任の式典で感じた。
 それはそうだろう、口に出すのもはばかられるようになってしまったユーフェミアの騎士、ナンバーズの自分が皇帝直属の騎士に配される事になったのだ。ユフィの騎士の就任式の時以上の反発を自分は体中で感じなければならなかった。
 だが、同時に実力主義との皇帝の言葉が背中を後押しする。友人を売って奪った地位だ、利用しなければ意味がない。冷たい視線も非好意的なささやき声も全てを遮断して、静かにスザクは新しい剣を受け取る。青い、青い青い空のような色のマントと共に。心の底に、ゼロの復活をどこか願う矛盾を空色で覆い隠して。


 誰もが探し物をしている。
 それが、自分は、ゼロ――ルルーシュなだけだ。
 彼がまた復活すれば、と何故考えてしまうのかは分からない。ユフィをこれ以上もない汚名の元に殺した事を許した訳ではない。罰を与えた事も後悔していないし、あれ以上の罰もルルーシュ本人を知っているつもりでいる自分には最上だったと思っている。だが、自分の手でその首を落としたかったのかもしれないと思ってもいた。
 完全な私情だ。
 ラウンズを名乗るのだから、それは忘れなければならない激情だ。
 ただ――思うのだ。彼も、同じ事を考えていたのではないか、と。
 あのような罰ではなく、自分に殺された方が良かったのではないかと。

 愛情があったのかどうか。
 それを思うたびに自分ではなかったと否定する。ルルーシュの書き換えられた記憶はたった3つ。皇族であること、ナナリーの事、ゼロであったことのみ。1年もブランクを空けてしまったけれどもお互いの関係は依然として続いているのだと、暗に匂わせその体を抱いたのはエリア11に訪れ、復学してすぐの事だった。
 複数の監視カメラの前で彼の体を暴き、乱れさせた。
 愛情なんかなくてもこんな行為は可能だ。ただ、欠片くらいはあったのかもしれないと思い、その度にやはり否定する。もし、あの時にもう一歩踏み込む勇気があれば、最悪の事態を招く前に疑問を抱いた時に踏み出せていれば、こんな事をせずに済んだのかもしれない。最悪な気分になりながら、窓の外からの朝の気配を感じ、身を整える。体力以上の事を強いたルルーシュはくったりベッドに沈み込み、見えているのかどうか分からない目をぼんやりと開き、動くものを追う、動物のような反射でスザクをみていた。
「同じ、顔してる……」
 小さなささやきのような声だった。ここが静寂で満たされた場所だからこそ、聞き取れた言葉だ。
「何が?」
「おれと、お前」
「…?」
 唇の中央だけを開いて小さくつぶやかれた言葉は意味不明だった。
 ただ、そうだろうなとも思った。自分たちは同じ人殺しの顔をしているだろう。だが、今のルルーシュにその記憶はきっとない。それともこれはヒントなのだろうか?
 おにごっこは既に始まっているとの。
「どういう事?」
 低い声で問いかけると、ルルーシュの表情は淡く笑みが浮かべられ、そのままシーツの隙間へ潜り込まれてしまった。
「おい、どういう事だって……」
「満足した猫みたいだ。そんなに飢えていたのか、俺に?」
 予想もしていなかった言葉に、スザクはぽかんとする。
「俺は満足したよ。飢えてた、お前に」
「だから、同じ顔で、嬉しい」
 もぞもぞとベッドの中で動きながら紡がれる言葉は彼なりの照れ隠しの一環なのだろう、ちっともじっとしていない。
 愛の欠片くらいは、あったのだろうか……………?
 いや、なかった。そんなものは存在しなかった。
 昔も、今も、今なんて屑すらも!
「まだ、時間があるならお前も寝て行くといい」
「いや、戻るよ」
 ひどい衝撃を受けて、冷たすぎる声になった。
 気を使う必要も感じなかった。そんなものは誤解だと言う事すらも出来なかった。


 自分の手で殺してやりたいと感じる事は、愛情の裏返しである事にすら気付けなかった、この頃。
 裏切りがまだ心を苛んでいると気付けもしなかったこの頃。
 また、思ったのだ。ずっと、ずっと後で。
 この時に向き合っていれば、踏み込んでいれば、手をつないでいられたのかもしれないなんていう幻想を。


2011.2.1.
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