カウントダウン
第二次トウキョウ決戦が終わって、一ヶ月が過ぎようとしている。
しなければならない事は山積みだ。現在、ほぼベッドの住民と化しているスザクへ世界情勢をイチから説明するのは結構骨の折れる作業だったし、いくら奴隷化させているとは言え、仮宮殿にいる人々は自己の意思で動かない。命令された事は従順に従うが、それだけなのだ。なんとも空疎な空間なのだろうと自嘲が浮かぶが、これが必要なのだと自分で自分をたしなめた。
政治は日々動いている。それこそが自らの求めた明日の象徴だ。
エリア制度の解放、貴族制度の解体、そして次は何だ? 力を自分一人に集約させるためには黒の騎士団は手に入れたし、超合衆国の議長席も手にした。民衆に危害を加えるのは本意ではない。だが、ユフィの名を打ち消すほどの汚名を残すには手にかけるしかないのだろう。
数多くの書類を決済し、部屋へ戻ろうと思えたのはもう深夜も遠に過ぎた時間だった。灯りは煌煌とともっている。ここが皇帝のおわすところだと知らしめるために。
「どうだ、昨日の宿題は分かったか?」
現在、時間の無駄を省くため、スザクとルルーシュは同じ部屋を居室としている。
「君こそこんな時間なのに、大丈夫なの?」
「慣れっこだよ、こんなものは。ゼロだった頃は二重生活すらやってのけたんだ。数時間でもきちんと眠れるなら十分に過ぎる」
自虐的に言えば、案の定スザクは表情を曇らせた。
ゼロであった過去を、彼はもう肯定している。それでも宿る嫌悪感はぬぐい去れないのだろう。それは、仕方のないことで――だから、ルルーシュには何の手だてもない。
「分かったよ、昨日の宿題」
自嘲に気付いたか、スザクは妙に明るい声で告げた。
「君の教え方はいつだって上手い。だから留年せずにすんだんだ、僕も」
「そういえば、あの頃からお前の家庭教師は俺だったな」
笑い、昨日手渡した書類の束を受け取る。
「要するに残る火種はEUとアフリカの稀少鉱物。サクラダイトが少なくなった今なら、それらを欲する人間が現れておかしくないって事だろう?」
「良く出来ました。サクラダイトほどではないが、それらも超伝導物質ではある。第二のサクラダイトとして奪い合いが勃発してもおかしくないな」
「で、君はそれを奪い取る、と」
「お前、スザクか? 冴えすぎてるぞ」
顔を覗き込んでやれば、憮然とした表情を浮かべていた。
苦笑を浮かべて、間近の唇に口づけを落とす。
「大変良く出来ました、だ。その地域を超合衆国の制圧下に置く」
「超合衆国? ブリタニアじゃなくて?」
「そう」
短い口づけだけでは足りそうになく、追ってきそうになるのを制してルルーシュは制服を脱ぎ、ハンガーへ掛けた。必要とは言え、大げさに過ぎるのだ、この服装は。
「いずれ俺が姿を消した後、ブリタニアのものとなればまた紛争が起きる。それに何より、せっかくエリア制度をなくしたのに意味がないだろう?」
アンダーのみになって、スザクの元へルルーシュはやってくる。
「調子はどうだ?」
「退屈で死にそう」
「本当に死にそうになったやつの言う言葉じゃないな」
くすくす笑って、こんどは深い口づけを与えた。
唇同士をすりあわせ、温度の違いを確かめる。ぬるりとした肉片が唇を割って入ってくるのを素直に受け入れ、好きに動き回ろうとするのをヨシとせず、こちらからも仕掛けて行く。
「一応、病人なんだけど」
「知ってるが、完治したも同然だろう?」
「分かってたんだ」
「そりゃあ、医者を手配したのは俺だからだな」
「じゃあ、遠慮なく」
ベッドに腰掛けていた手を引っ張られ、無駄に広いベッドへ転がされる。覆い被さられるようにして四肢をついたスザクの目は挑発的で、きっと自分の目も同じ目をしてるのだろうと思った。
唇ではなく、首筋へと口づけが落とされた。傷みをもたらすほど強く吸い付かれ、ひくりと体が動くのを止められない。
「敏感だね、我慢、してた?」
スザクが負傷してから今まで、こういった行為は避けてきていた。偏に彼の怪我のためだ。彼が完治しなければゼロレクイエムは実行に移せない。
だが、毎夜のように繰り返した行為を体自身は忘れていなかったらしい。
敏感に過ぎる程反応する事に羞恥を覚えるが、相手はスザクなのだ。今更だとも思いもした。
首筋、内腕、脇腹。
所有物のようにキスマークは増えて行く。やんわりとした手の動きが余計に自分を追いつめて行くような錯覚を覚えた。
「……っ、は」
いつの間にか詰めていた息を吐けば、甘いニュアンスが含まれていたようで、スザクは嬉しそうな顔をしていた。
腰骨、へそ、あばら。
キスマークは増えてゆく。
いずれ消える自分の体へと。
息づいたものはパンツの中では既に苦しく、解放を求めている。
「やらしいね、ルルーシュ。パンツ、濡れてるよ」
「言うなっ」
そんなことは知っている。なによりも自分の体なのだ。
焦る気持ちの中、生身でそこを触れられて体は大きく跳ねた。
「ぁ……っ、あ、ああっ」
「ぬるぬるしてる。気持ちよそう」
だから、言うなって繰り返そうとしたがもう快楽の方が高く上回ってしまっていた。自分のこぼした先走りの液体を媒介として、ぬるぬるとスザクの手は上下している。時折先端をくるくる描いたり、袋をやんわりにぎられ、もう我慢も限界とばかりにスザクの名を呼んだ。
「いいよ、イって」
「………っ、ぁあ、スザ……ッ」
合図のようにして、放った。ひくひくと震える体は、自分で制御出来ない。
はあはあと荒い呼吸を放つ自分へ、スザクは満足そうに放ったものをルルーシュの腹へ塗り込めて行った。
「気持ち良さそう。僕も、そろそろ限界かな」
うっとりとつぶやき、スザクは寝間着を脱ぎ捨てる。立派に成長しきったものが、下着越しでも分かった。
潤滑剤はないが、ここはスザクの病室だ。代わりはいくらでもある。
傷薬を彼は手に取り、まだ不随意の体を折り曲げ、腰の下に枕を突っ込まれた。
この格好は全てが見えてしまうから好きではないのだけれど、今日ばかりは許そうと思う。全快に近い祝いなのだから。
軟膏を手にとり、くるりと後孔に塗り込める。少しひんやりしたが、すぐに体温に解けてゆくのが分かる。
「すごい、ひくひくしてるよ」
「だから、言うな………って、言、って、」
ぐり、と十分な潤滑を持って指が一本入り込んで来た。抗議の声はとぎれとぎれでこれじゃあ全く役を為さない。
「大丈夫そうだね、これでも」
ぐりぐりと中で指が動かされる。違和感はあるが、既に慣れたものだ。この先を知っているからこそ、逆に興奮する。
「ぅあっ、あ、ああ、ん」
「見つけた」
快楽の凝りを指先で刺激され、体はまた跳ねる。施されてばかりのこの性行為に以前は不安感やこのままではいけないのじゃないかと思った事もあったが、スザクはこの体を好きにするのが何よりも好きなのだと言う。想い通りに鳴く声が気持ちよいと。その証拠に、彼の勃起はさっき目にしたときよりも成長していた。
「あ、ダメだ、そこばっか……ッ」
「きゅうきゅう締め付けてくるよ。すごい」
二本目の指を入れられる。そして、間を置かずしてたっぷりの潤滑剤と共に三本目も。中をばらばらに動かされ、それだけでイってしまいそうになるのを涙目でこらえた。
「スザ……もう……」
「うん、もう大丈夫だよね」
する、と抜かれた指の喪失感に声が出る。
「いやらしいね」
「お前は、いちいち………っ、オヤジくさい!」
ばふ、と手を伸ばして取った別の枕を投げつけてやると、何の雑作もなくよけられてしまった。
「ひどいな、これから愛し合うのに」
「だから、だ!」
「しょうがないな」
下着を脱ぎ、砲身に潤滑剤を塗り、ぺとりと後孔にくっつけて来た。
それだけでさっきまでの事を忘れ、ぞわぞわとした感覚が襲ってくる。
「いいね?」
こくり、と頷く事で肯定の意を示し、ずるずると入ってくるものを受け入れた。
十分にほぐされた場所だから、抵抗もない。むしろ快感が次から次へと弾けるようにわき出してくる。
「………くっ」
「ぁあ……あ、ああ……ん、ぁ」
それでも狭い場所だ。ぽたぽたと背中に落ちるスザクの汗を感じながら、またルルーシュもシーツを強く掴んでいた。
「入ったよ」
最奥まで突き刺さった熱の様な熱いもの。
心臓の鼓動がばくばく早く打ち過ぎて、このまま死んでしまいそうになる。いつもだ。
ずず、ずず、と太い砲身が緩く動いたのは、慣れを待ったほんの数分後だった。
「………っ……ぅ」
「あぁっ、ふあっ、あ、んっ」
慣れている体はすぐに快楽を拾い出す。すぐにでも激しく動いて欲しくなるが、それでは自分の体は壊れてしまう。いっそ壊れてもいいんじゃないかと思う時もあるが、今はゼロレクイエムを控えた身だ。そういう訳にはいかない。
「ぁあっ、あ、や、あ」
ちょうど、スザクの段差が気持ちのいい場所を摩る。狙って動いているのだろう。こんなんじゃあ、全く持たない。
「いいよ、先にイっても」
「でもっ……っ、あ」
大波に翻弄されるようだった。急にスザクは動きを変え、体勢も変え、そこばかりを突く動きに変えたのだ。
声もろくに上げれないまま、ルルーシュは二度目の吐精をした。だが、まだスザクがイっていない。いったばかりの体は敏感になりすぎてつらいけど、それでも身もだえながら、やがてスザクが最も奥へ吐き出すまでの時間、感じ続けていた。気がつけば三度目の吐精も終えていた。
「スザクは足りないんじゃないか?」
バスルームで身を清めながら、それでももう今日は無理だなと思いながら問うと、彼は十分だと言った。
「だって久しぶりに乱れまくる君の姿を堪能出来たし、中にも出せたし?」
としれっと言ってのける。
「………っ」
今日の宿題は、取りあえずお預けだなと甘い夜にはふさわしくない話題は避けて、バスルームからあがると二人抱き合って眠りについた。
もう、朝も近い時間になっていた。
幸せな時間だった。