近頃ため息が増えた、とスザクは思う。
甘い睦言の後にもルルーシュは吐息のようなため息を吐く。自分の何がいけないのか分からず、もどかしい思いをしているけれども、それはなにも自分にだけ向けられたものではないのだと最近知った。
生徒会で、ルルーシュが居ない時の話だ。
シャーリーがサボりに憤慨しているのはいつもの事だけれども、でも…と、心配気に続けたのが、ため息の事だったからだ。
授業中でも彼を見ている事の方が多い彼女だ。ルルーシュの些細な変化はすぐに分かるのだろう。
「なんかあったのかしら。ナナちゃんは元気だし……後は、ルルが学校に来ないだけだけど」
そこで、自分もため息を落としてしまってしまったと思った。まだこれは表に出して良い感情ではない。推論どころか妄想に近い考えだからだ。
「ねえスザクくん、何か知ってる? ルルの事」
多分スザクはシャーリーより、ルルーシュの事を知っている。それは過去に起因するものだけではなく、彼女に申し訳なくもあるのだがいわゆるおつきあいというのをさせてもらっているからだ。乱れる体も、汗に張り付く髪も、どんな声で喘ぐのかも、全てスザクは知っている。
「さあ……特には」
だが、肝心な事はさっぱりだ。シャーリーと同じ。彼はなかなか内側を見せようとしない。今までの生活が生活だったのだから、彼なりの処世術ではあるのだろうが、なにも自分にまで隠し事をしなくてもいいと思う。
だが、彼は踏み込ませない。それは、踏み込んではまずいものがあるからだろうか??などと、スザクは考え、その考えを一瞬でなかったことにしようとした。
近頃、このような事が多すぎる。
自分に自信が持てなくなる。
彼が??だなんて、ありえるはずもない妄想が頭をよぎるなんてどうにかしている。
「そっか、スザクくんも知らないんなら」
ちらり、とリヴァルをシャーリーは見る。
「俺が知る訳ないでしょ」
「だよねー」
なんかむっとするぞ、との抗議は聞き入れず、そのままその場は散会となった。何も生徒会室にいたからと言って、仕事があったわけではない。単に集まっていただけなのだ。居心地の良いあの場所は、いつまででもいたくなるけどそういう訳には行かない。自分は軍属で、今から仕事が待っている。
軍属である事がいけないのだろうかと思うが、それはもう彼も諦めた筈の思いだ。
何度もやめろと説得された。だが、自分は諾としなかった。それで喧嘩になって一週間口をきかなかったこともあったけど、結局それがきっかけとなってスザクの思いをルルーシュも理解したはずなのだ。
それから後、軍属に関する事でマイナスの話題が上った事はない。
あの、ため息。
黒の騎士団は勢力を増しつつある。民事警察のまねごとのような事をしながらも、支持者を圧倒的に増やしていた。だが、万一ルルーシュが??だとすれば、そんな事は必要のない出来事だ。彼が行いたいのがブリタニアの破壊であるなら、手っ取り早く政庁を押さえればいい。聞く所によれば、キョウトが騎士団のバックアップに着いたとも言う。であるならば、尚更今の出来事は不可解だ。
だから、安心も出来る。
あれはルルーシュではない。理解し得ないあれはルルーシュではなく、愛するルルーシュは自分の手の中にいる。
そう、思えればため息の件は今度尋ねてみようと軽い気持ちになれた。