傍にいると見えなくなるもの。
ひとつ、相手の愛情。
ひとつ、相手の優しさ。
ひとつ、色とりどりな表情。
全てに慣れていってしまう。
あんなに好きであれだけ独り占めしたいと思っていたのに、これはどういう事だろうか。
今日はスザクが家に来ていた。偽の弟をナナリーと同じように扱い、微笑む姿は懐かしさすら感じさせるのに、全てが嘘くさい。
自分達はそう傍にいてばかりいれる訳ではない。
だから、傍にいれば見えなくなるものと言う訳ではないだろう。これは単なる欺瞞に満ちた世界が自分に与えた虚像にすぎないのだ。
薄く笑みを浮かべながら、涙の気配がして困った。
スザクは自分を売った。そのことを許すつもりはない。憎んですらいる。
だが、もう彼を素直に見れなくなってしまっていること、そして相手も素直に二度と自分を見ないだろうと言う事実を突き付けられれば、感傷が勝った。
あれだけ好きで、煩悶とした日々を過ごして、それで勝ち得た関係だった。
それがあっけなく失われてしまった事実に悲しみを覚える。
この世界はこんなにも美しいのに、ここだけがモノクロの世界になってしまったようだった。
「どうしたの、ルルーシュ?」
さっきからスザクはロロと話をしていた。それを外側から眺める姿になっていた自分へ、不自然を感じたのだろう。彼の表情にはわずかに疑念の色が浮かんでいた。上手く隠せていないなと、装う事に慣れ親しんだ身としては思ってしまう。
ずっと傍にいたい、そう思っていた筈だった。
だが今は苦痛に近い。
「いや、なんでもないんだ。ロロがそこまで親しくする人間は珍しいからな。見てて、楽しんでた」
こちらは完璧な微笑みを浮かべて、答える。
少しの安堵の気配を隠しきれず、スザクは「そう」とだけ告げる。
「せっかくなんだから、ルルーシュも一緒に話をしようよ。久しぶりなんだもの」
「そうだな」
虚構だらけのふたりの会話は面白くもあった。
自分が参加して、どう変化するのかも気になった。スザクは上手く隠し通す事が出来るだろうか?
あのバカ正直と言っていい性格をしていたのに、装う事を覚えた顔は酷く醜く見える。
それは、単に感傷なのだろう。そんな表情をして欲しくないと願う自分のこころ。
ああ、見えなくなってしまっている。
愛情も優しさも表情も、全て。
傍にいないのに失われてしまうものはあるのだと痛感した。
軽いポップスが歌うメロディが頭に流れた。そう、失ってしまうものの列挙はその中にあったのだ。
歌の中では思い出したよと歌っていたが、果たして自分には可能なのかどうかは非常に疑問だった。