「結局、僕が喧嘩をふっかけたのも悪かったよね」
などと帰路のアヴァロンでスザクが言ったりする。
「バカか、そんな問題じゃないだろう」
苦笑を浮かべて、彼にもたれかかった。この温度が残されている。
全ての夢は、きっと叶ったのだ。優しい世界はこれから作られてゆく。母の死の真相は分かった。そしてスザクはこうやって傍にいる。きっと、ずっと。
そう、悪い事などなにもなかったのだと自分に言い聞かせるしかない。
母の事は悪い夢だったのだと、思う事にした。あのとき母は永遠に失われてしまったのだ。ナナリーを庇った優しい母の姿を、最後の姿とすることにした。
ずるり、と肩にもたれていた頭をずらして彼の膝の上に横たわる。足も上げて、ソファに完全に寝そべった。
「どうしたの? 誘ってる?」
「お邪魔なら出て行くぞ」
C.C.が遠慮のない言葉を掛けてくる。
だが、それに素直にルルーシュは頷いた。
「ああ、邪魔だな。出て行ってもらおう」
「分かった。後で、私の願いも叶えてもらうからそれは忘れるなよ」
「はいはい」
「――へえ、ルルーシュも言う時は言うんだ」
スザクがやけに感心した声を出して、言った。
「まあな」
そして、腕を伸ばしてスザクの頭を下げさせた。唇を迎えに来させる。
まだ、C.C.は出て行っていないのにどうしてもスザクの温度が欲しかった。
気配を察してか、部屋の扉が開き、再び閉じる音がした。彼女は出て行ってしまったのだろう。そこで積極的にスザクが動き出した。
唇を奪われる。荒い勢いのあるキスだった。
望んでいたのはそれだったので、ルルーシュも喜んでそれを受け入れる。
両手を回して、彼の頭を抱きしめた。口づけはより深くなる。舌を絡めあい、ぞくぞくとした感覚がルルーシュを襲う。
両親を失った直後だというのに、不謹慎だろうか? いや――あれは、親と言う生き物ではなかった。それに、とっくに決別していたものなのだ。今はスザクがいればいい。スザクとナナリーが傍にいてくれれば、それだけで生きて行けるだろうと思えた。
貪るようなキスはそれだけで終わる筈がない。もっとと先を求める。
彼の手は、横たわったゼロの衣装を脱がし始める。
体にフィットするこの衣装は脱がしにくいと、スザクにはえらく評判が悪い。今度マイナーチェンジでもしようかと考える。
そのうち、素肌に彼の手のひらが触れて来た。優しい触れ方だった。やんわり撫でるようにして、上半身全てを撫でてゆく。胸の突起に引っかかると、そこをくるくると撫でだした。
「……っ」
焦れったい感覚がする。なのに、下腹部に痺れるような感覚ももたらすのだ。
すっかりこの体はスザクのものになってしまっている。彼のもたらす感覚が、ルルーシュを全て支配していく。
キスをもっと求めた。だが、スザクの唇は逃げ、肌を直截愛撫していく。
尖った乳首を口に含まれると、甘い声が漏れてしまった。
「……っあ、」
こんな場所が感じるなんて知ったのは、彼とこういう関係を持ってからの事だ。
思い返せば、最初は強姦めいた行為がスタートだったと言うのに、今となっては自分から求めてしまっている。
肌を優しく撫でる手は、止まらない。下肢を覆う場所ギリギリまで手は滑り、くすぐったさをもたらしながら官能を刺激した。
そして、彼の方が焦れたようにして下肢を全て脱がしてしまった。
露出した場所は、すっかり勃起し濡れてしまっている。たったこれだけの愛撫で既にいく直前まで追い立てられているのだ。
「ルルーシュ、目に毒」
「お前のせいだ」
ちゅ、と一度だけ唇にキスを落とすと、その唇は勃起へと向かった。
じゅぷじゅぷと育ちきったそれに舌は絡められ、上下へ動く。
「ああっ、すざ…く…っ、もっ」
「早いよ」
そして、彼は根本を押さえた。優しさだけをもたらしていた手のひらが、ルルーシュを抑制する。
だが、この行為の意味もルルーシュは既に知っていた。より強い快楽が先に待っている。
そう思えばぞくぞくとした感覚が再び全身を駆けめぐる。
「は……ああっ、あ」
ひくん、と体が跳ねる。もう達したい。でもいけない。
そのじれったさが体を蝕み、だが期待が高まっていく。
「もう、限界?」
甘い優しい声で、スザクが問うてくる。
こくり、と小さく頷く。だがまだいきたくない。
「そう」
伝えると、押さえられていた根本は更に強く押さえられた。
そして遠慮なしに口撫される。唾液と先走りの混じった水音がじゅぷじゅぷと激しく音を立てる。
「ああっ、あ、んっ、あああっ、あ、い……いく……っ」
「ダメ」
「や……っ、ああっ」
もがくようにして、ソファの片隅を握りしめた。それだけが救いのような気持ちになって、しがみつく。
「どうせなら僕にしがみついて……は、無理か」
下肢に体を埋めている彼にはしがみつけない。どうせなら、ルルーシュだってそっちの方がいいのだ。だが、口撫に夢中な彼は自分を与えてはくれないようだった。
そのうち、会陰部を指がなぞり、その先へとたどり着く。すぼまった場所は、なかなか簡単にスザクを受け入れる事はない。だけど、丁寧にスザクはほぐしていくのだ。
最初は先走りと唾液で、ぐるぐると周囲を撫で回された。
もう、達するとばかり思った瞬間に会陰部を舐められ、びくびくと体が震える。多分、軽くいってしまったのだと思う。
だが吐精は出来ず、快楽だけが体の中をぐるぐると周り、増幅されていくようだった。
そしてスザクは後孔を舌を使って柔らかくし始めた。
「や…っ、それ…、ああっ」
それは、あまり好きじゃない。だけどスザクは許してくれそうにない。
ソファの片隅を握りしめた手を、改めて握り直して快楽を逃がそうと必死になった。
体の中で増幅された快楽は、もうゆるく達し続けているかのような錯覚にとらわれる。そこへ新たに刺激が加わり、その先を知っているルルーシュとしては、どうしようもなく怖くすらあった。
舌先が、内をくじる。
「ああっ」
細く尖らせた先を、内側に入れて中から周囲を舐め回されて、今一度からだが跳ねた。
「もっ……あああああっ」
「いった?」
「ああっ、ああああんっ、あっ」
答えを返す事も出来ない。舌は指に変わり、感じる場所を集中的に撫でてくる。それがピストンするかのような動きに変わり、内側を広げる動きになり、スザクはようやくルルーシュの視界に入ってくれるようになった。
「キス……っ」
「うん」
唇を重ね合わせる。
それだけでまたいきそうだった。
摺り合わせ、その間にスザクが中に入って来る。
何故か、涙が溢れた。
ぽろぽろと、絶え間なく涙があふれ出る。
スザクが完全に中に入り切った。こぼれ出る涙を舌ですくい、彼は優しい表情をした。
うっすら開いた視界は涙で曇りきって見えないのに、彼の表情だけは分かった。
「動くね」
「ああ」
とん、と最初は軽い動きだった。それがどんどんと勢いを増してゆく。
片足を持ち上げられ、肩に担がれるとより深い場所にまでスザクのものが届いてひどい嬌声を上げた。
「ああっ、あああっ!」
もう、いきっぱなしだ。
吐きだすものはなにもないのに、空っぽの空気が吐き出されているような気がする。
絶頂感の最中に放り投げられ、揺らされているような気分だった。
涙はまだ止まらない。
ぽろぽろと、ソファの上に転がってゆく。
「ルルーシュ、ルルーシュ」
スザクの動きが速くなった。彼も絶頂が近いのだろう。
「そんなに、泣かないで」
「スザク……」
手を伸ばし、彼の体を抱きしめた。
スザクの腕も、ソファとの間を縫って抱きしめて来る。
胸も腹も密着させて、ただ達するために動き続ける。
「僕は、ずっと傍にいるよ。だから泣かないで、ルルーシュ」
「スザク……っ」
ぎゅう、と手に力を込めた。
これは俺のものだ、と心の底から思った。
愛おしい。愛している。誰にも渡したくない。
――彼がいるから、自分は立っていられる。
細かな震えが走った。今度こそ、完全に絶頂に達した。ルルーシュの勃ちあがったものはとっくに解放されている。とろりとろりと精液が溢れ出すのが、どっと一気に吐き出された。
「ああああっ!」
「ルルーシュっ」
中に、熱が広がる。
強く抱きしめ合って、お互いの快楽を分け合った。
もちろん、一度きりで満足する筈もなかった。
アヴァロンが日本に到着するまでの間に何度交わったことだろう。
最後は、意識を手放すようにしてブラックアウトした。なのに手だけはつないだままだった。
基地は喜びに溢れていた。
ゼロは解放に導いた英雄として歓迎される。
一晩の祝宴が開かれ、大いに盛り上がった。
その夜。
ルルーシュは私室で仮面を脱ぐ。そこにはスザクもC.C.もいた。
「私の願いは――もう、いい」
「どういう事だ?」
「もう叶ったよ。私はお前に夢を見せてもらった。これで十分だ」
そう言って儚げに笑う。
そんな筈がないだろうと思った。
だが彼女はそれ以上を決して言わなかった。
「なら、これからも共犯者として共に過ごさせてもらおう」と告げたのが、結論になった。
それくらいならば、受け入れられる。
ナナリーは既に、全てを知っているのだから。
そして、電話を掛ける。
久しぶりに聞く声だった。
『お兄様?』
喜びに満ちた声が帰って来る。
自然とルルーシュは笑顔になった。
彼女に真実は話せないままだろう。だが、それでも良かった。
「明日には帰るよ。ああ、家族がふたりばかり増える」
『そうですか! 楽しそう、いいですね。スザクさんと、――あとひとりは、どなたですか?』
終わり