ポケットに何か違和感を感じると思ったら、キャンディが出てきた。
確か昨日、スザクにもらったものだった。知り合いにもらったものの中でもマシなものだったから、ルルーシュにもあげるよ、と言って渡されたのだ。
マシなものとはどういう意味だろうと思いながらも、ルルーシュはキャンディの包みを開いてそれを口に放り込む。
途端、甘酸っぱい香りと味が口の中いっぱいに広がった。
「ブルーベリー?」
おいしいな、と思いながら小粒のそれを口の中で転がす。味は悪くない、どころかひどく爽やかで美味しかった。
この後、生徒会に顔を出す予定だった。今日の予定らしき予定はない。早めに帰ってロロの夕食に手を掛けるか、ゆっくり今後の策を練るかのどちらかだった。
ラウンズが転入してきたのだ。今後、学園がやりづらくなるのは目に見えている。
咲世子の代役はいろいろまずい点もあるので、そのことも考えなければならないだろう。
考えつつ校舎を抜け、木々の植わった道を歩く。生徒会室は自室とも近いので、便利だった。
そうして、まもなく生徒会の建物に着こうという時だった。
急に視界が揺らいだ。
ふらりと足下も揺らぐ。
地震か? と思ったが、ここトウキョウ租界は耐震構造に優れた作りになっている筈だ。
おかしいのは自分の方かと思い、手近な木に手をつき、体を支えた。
なのに揺らぎはおさまらない。酷い酔いを感じている時のようで、立っているのもやっとの状態だった。
どうしたものか、と思う。息が荒くなる。冷や汗めいたものも浮いて来る。
体調でも崩したのかと思った瞬間、腕を掴まれた。
「……っ」
体に走る感覚に、戦慄を覚えた。
「どうしたんですか、ルルーシュ先輩?」
「……ジ、ノ?」
甘い痺れが走った。それは明らかに性的なものだと、経験のほぼない自分でも自覚出来た。
ではこの揺れもそれがもたらしているのだろうか。冷や汗だと思っていたのも、違うものなのだろうか?
「そうですよ? どうしたんですか、顔が真っ赤ですよ」
「真っ赤……?」
思考が鈍磨している。
彼の言葉を繰り返すので精一杯だ。それより、手を離して欲しかった。そこからの痺れが甘い疼きとなって体に走るのだ。
「手、を、離して、くれないか……」
「ダメですよ先輩。そんなしんどそうなのに」
「しんどい訳じゃないんだ、体調も崩してない。手を……」
と、求めた瞬間、抱き上げられた。
「……っあっ」
「え?」
「ち、ちが……っ」
思わず漏れた甘い声に、ジノが驚いた顔をした。
発汗に甘い声。あきらかに欲情していると思われても仕方ない。
そう、今の自分は欲情している。
体のバランスが取れない程に。
ジノに触れられている場所全てがむき出しの性器になったように、感じてしまってしかたない。
「なにか盛られましたね?」
「なにも……あ」
何もない、と思ったがひとつだけ思い当たるものがあった。
まだ口の中に残っている。甘い甘いキャンディ。
「これ……か?」
「これ? 飴?」
「もらったものなんだが」
「そう簡単に、人からもらったものを口にしちゃダメですよ」
「とは言っても、スザクからもらったものなんだ」
「スザクから? ――ふうん」
「ところで、この格好……」
「ああ、部屋まで送りますよ。困るでしょう?」
「この格好が困る!」
「そう言う訳には……っと」
「ジノ! 何やってるんだ、お前」
「スザクこそ、何を企んでたんだい?」
「………何も」
「なんだ、その間は」
生徒会室側から飛び出してきたスザクは、慌てた顔をして自分を見ると、ジノをきっとにらみつけた。
「交代して。これは僕のだから」
「いやだ、って言ったら?」
「そういう訳にはいかない」
ふたりでにらみ合う姿勢の丁度中間にいたルルーシュとしては、もうどっちでも良かった。
早く室内に入りたかったのだ。
「どうでもいい、早く部屋まで連れて行ってくれ!」
「あ、うん」
「じゃあ僕が」
「私が連れて行く。わざわざ抱き直すのは変だろう?」
「ジノがどうしてルルーシュを抱きかかえてるのさ。そっちの方がおかしいだろう?」
「だから、どうでもいいって言ってるだろう、分からないのか!」
「は、はい!」
「分かったよ」
と、汗を流し紅潮した顔のルルーシュに言われたふたりは、その言葉に従うしかなかった。
スザクは非常に不服そうな顔をしていたが、ルルーシュはそれどころではなかったのだ。視界は揺れる。声を上げるのにも、非常に労力を使う。体力のほぼ全てを別のところに持って行かれて、体を動かすのもままならない。
こんなのは初めてだった。風邪で酷い時だってこんな風にはならない。
一刻も早くベッドで横になり、何か変なものを吸収してしまったのならば眠って落ち着くのを待ちたかった。
■ ■ ■
結局生徒会には顔を出す事をせず、ルルーシュの私室へと運び込まれた。
ベッドへそのままジノはゆっくりと横たわらせる。
そして、襟元を緩め始めた。
「そこまで……しなく、ても」
ただでさえ、マズいのだ。バレる訳にはいかない。ルルーシュは荒い息を吐きながら、その手を遮ろうとした。だがその前に遮ったものがいる。スザクだ。
「ジノ、君がそこまでする必要はないんだよ」
「なんだよ、スザク。やけにつっかかるな」
ふたりは視線だけで戦闘を繰り広げていた。ルルーシュの状態は、本人が必死に隠しているにも関わらず丸わかりだ。真っ赤な頬、荒い息、時折上がる甘い声。これで分からない方がどうにかしている。
少しだけ緩められた襟の内側までほんのり淡く染まっていた。
目に毒な状況だ。特に、このふたりにとっては。
ジノはルルーシュの事を先輩と慕いつつも、彼が男性としては華奢すぎること、そして振りまく硬質な色香がかなり気に入っていた。
一方スザクはと言えば、幼なじみで、最悪の友人だ。一度は皇帝に売ったとは言え、彼への執着は消えていない。元から恋情めいたものを抱いている。今、この瞬間だって彼の記憶を疑っているのに、彼に劣情を抱いているのも確かなのだ。
お互い、譲る訳にはいかない理由があった。この状態のルルーシュを放置して去るなんてのはもっての他だ。
「僕が責任を持って後を見ているから、君はもう生徒会に行っていいよ」
「いや、私が先に先輩を発見したんだ。責任があるだろう。スザクこそ生徒会に行って構わないんだぞ」
「そういう訳には」
「奇遇だね、私もそう言う訳にはいかないんだよ」
お互いの意図が完全に分かった瞬間だった。
「どうでもいい、ふたりとも部屋から出て行ってくれないか!」
精一杯の声をふりしぼり、ルルーシュは告げるが、ふたりはびくりとも動く気配を見せなかった。熱い。今すぐこの服を脱いでしまいたいのに、ふたりがいればそれも適わないと、ルルーシュはうだるような頭の隅で考える。
だがふたりは動いてくれない。仕方ないと言う思いで、上着を脱ぎ捨てた。
「ちょ、ルルーシュ先輩」
「ルルーシュ!」
「熱いんだ……っ、どうにかしてくれ」
こくり、とふたりが息を飲む。
「どうにでも!」
と、先に飛びついたのはジノの方だった。
「ジノ! 今は君の出番じゃない!」
「スザクの出番とも限らない!」
もみ合い、その合間に伸ばしたスザクの手がルルーシュのシャツに引っかかり、派手に破いた。ちょうど合わせの場所だ。ルルーシュの上半身が綺麗に剥かれた。
「先輩……」
「ジノ、下がっててくれ」
「そういう訳にはいかないよ」
「どうして」
「だって先輩があんな姿してるのに!」
「それを見てもいいのは僕だけだ!」
「どうして言いきれるんですか」
「僕が彼の幼なじみだからだ」
「それを持ち出すのは、ずるい!」
「お前達! どうするつもりもないならさっさと出ていけ!」
――どうするつもりもない?
という事は、裏を返せばどうしてもいいと言うことだろうか。
それならば、とスザクとジノは視線を合わせた。
「先輩に譲るよ」
「――ありがとう」
「原因だからね。それに、後で交代してくださいよ?」
「分かった」
ここは協定を結んだ方が得策だと考えた。
スザクは、ルルーシュのむき出しにされた肌へ直接触れる。
その途端に甘い声があがった。
「ルルーシュ」
そして、口づけをする。
背後でがたりと音がするのが分かったが、無視した。
ずっと、ずっと好きだったのだ。スザクはルルーシュの事を。
裏切られたと思った、だから皇帝へ売った。でも、彼の傍を離れる事なんて出来なかった。だからこうやってここにいる。決して暇な身でもないのに学生を続けているのはそんな理由だ。
あばらの浮いたからだのラインを辿り、漏れ出す声を全て飲み込んで行く。
「ああ……ルルーシュ先輩が………」
背後がうるさいが、この際は無視だ。
やっと夢にまで見たルルーシュと抱き合える。それがセシルの作った、どうやら失敗作だったらしいキャンディが原因だとしても。
自分も昨晩食べたのだ。おかげで、昨日は大変な事になった。はやい内にルルーシュから回収しなければと思って、授業には間に合わなかったから生徒会室で待機していたと言うのにこの有様だ。
まったくなってない。
「……んっ、んんっ」
口蓋を舐めると、ルルーシュは苦しそうに喉奥で声を殺していた。
それが可哀想になって、口づけを解く。
「あ、ああっ、あ、んっ」
手のひら全部を使って、彼を追いつめる。あのキャンディの効力は既に自分の身で実証済みだ。何を目指して作ったのかは知らないが、よくもこんなものを作ってくれたと思う。料理音痴と言っても限度がある。
少々セシルに恨みを感じたせいか、手の動きが乱雑になっていた。
「スザク、そんなんじゃ先輩が可哀想だ」
「ジノ、君は待ってるんじゃなかったのかい?」
「でも……黙って、見てられないよ!」
と、ジノはルルーシュに口づけた。
はっと驚いた顔をして、ルルーシュが目を見開く。そこにあるのは、金色の髪と空の様な青い目だろう。その事に嫉妬して、スザクはルルーシュの下肢を暴いた。
すっかり成長しきってるそれを、手ではなく、唇で撫でる。
「んんっ、んーっ」
銜えると、腰がびくんと跳ねて、あっけなくルルーシュは吐精した。それもしかたないだろう。今まで良く持った方だと思う。色事にほとんど関係したことがないだろうルルーシュが薬をもられた状態で、他人から愛撫されて、いかない訳が無い。
ジノの口づけは執拗に続いていた。
それを横目で見つつ、スザクは萎えないそれを再び口撫し、ルルーシュを追いつめる。
「……っは、ああっ、あ、ん、スザク、スザ、クッ」
キスを解かれた途端、飛び出した喘ぎ声。甘ったるくて、直截腰に来る。
それに呼んだ名が自分だったことにも、スザクは満足した。
「いく、も……いく、からっ」
「いいよ、いって」
手での愛撫に切り替える。根元から先端までを筒状にした手でしごき、全体を刺激すれば再び白濁が飛び出した。それが、スザクの手を汚す。
「す、すまな……」
「いいよ、まだまだ足りないでしょ?」
「…………う、ん」
素直な返事に、心臓が撃ち抜かれた気がした。
伸び上がって、キスをする。
ジノは悔しそうな顔をして、その姿を見ていた。
■ ■ ■
ジノとて、黙ってみていられる訳がなかった。ふたりのキスが始まった時点で動揺した。ルルーシュ先輩が、スザクとキスをしている。しかも恍惚の表情を浮かべながら。
ひどいショックを受けている事に気がついた。
男性なのに、すこしばかり気になる先輩のつもりだったのだが、それどころではなかったようだ。かなり自分の心は彼に持って行かれてしまっている。
スザクがルルーシュを愛撫する。時折漏れる声に、自分のものが勃ってしまうのを感じた。他人のセックスを見て勃起するなんて最悪だ。しかも、自分の好きな人が他人としているものを――そう考えたとき、完全に思考が吹っ飛んだ。
ジノは席を立ち、そのままルルーシュの元に向かった。
無論スザクは文句を言ったが、それどころではなかったのだ。
スザクが施した後とは言え、ルルーシュの唇は甘かった。甘すぎて、とろけそうだ。舌を舐め、吸い上げれば喉奥で殺された声が上がる。
薄いからだだ、と思う。自分たちラウンズとは違う、戦う事のない体。
なのに、異様なほどにそそる。女性のような柔らかでたわわな胸もないのに、あばらの浮く姿さえもが心臓の鼓動を早める。
スザクはルルーシュの下肢を虐める事にしたようなので、ジノは上半身を弄る事にした。小さな突起は、完全に立ち上がっている。
そこを口に含めば、弱い場所二カ所を同時に責められているルルーシュは身もだえるようにしてあがき、喘いだ。
ベッドのシーツがくしゃくしゃになってゆく。それさえ、ゾクゾクとする。
「ルルーシュ先輩」
優しい甘い声で囁けば、ひくり、と彼のからだが跳ねた。
スザクの追い上げで、彼は一度吐精する。
こまかく震える彼のからだが愛おしかった。
■ ■ ■
もう、なにがなんだか分からなかった。
体中が熱い。それに、むずがゆいようで強烈な快感が支配している。ルルーシュは物を考えるという事を既に放棄していた。自我が崩壊しているようなものだ。
与えられる快感が誰によるものかなんて、考える事も出来ない。
ただ、スザクの体温を感じる。
それが自分を幸せにする。
もうひとり熱い温度があるが、これは誰だと思えば、ジノだった。
彼の熱い胸板が、羨ましくなる。だがその手と舌が施すのは快楽ばかりだ。
「あっ……っ、ああっ、あっん」
もう二度も吐き出したのに、ちっともこの熱は治まりそうになかった。
何故か良く分からない。ただひたすら快楽の渦に飲み込まれる。
「も………ダメ……スザク、いいよね」
「ダメだよ、そんなの!」
「でももうダメなんだ」
と、口元になにかが与えられた。それを何も考えず、押し込まれるままに銜える。
「ああ……すごい、いい」
しょっぱい、青臭い、何とも言えない味。なんだろうと思えば、ジノの性器だった。ああ、自分は今、彼に口撫しているのだと思うと、同じように自分が口撫されていることを思い出して背徳感に駆られる。だが、スザクがするのと同じように舌を使い、頭を前後させて、それに必死にしゃぶりついた。
じわりとしょっぱい液体が漏れ出してくる。それを残らず舌で掬い取り、舐め回して行く。
「ダメ、です……も、せんぱ、い」
ぐ、っと頭を引き離された。
そして、ぴしゃりと顔に熱い液体が掛けられる。
青臭い匂いがして、決して気持ちいいものではなかった。
「ああっ、何してるんだよジノ!」
「つい……我慢、出来なくて」
「ついじゃないだろう!」
スザクが怒っている。何故だろうと思うが、思考が上手く回らない。こんな事は初めてで、混乱する。
「スザク……スザク……っ」
なので、彼の名を必死で呼んだ。
顔のものをぬぐってほしい。でもそれは、スザクではなくジノの手で為された。
「もう……いいよね?」
「……え?」
スザクの声が低く掠れた声に聞こえる。
そして、足を曲げられ、大きく広げられた。ひどく恥ずかしい格好をしている。分かっている。早く足を閉じなければいけないのに、そうするとスザクを怒らせてしまう気がして、だから屈辱にも耐えた。多分、スザクは今怒っているだろうからだ。
さっきの声音で分かった。
ジノがした事のせいだろうか?
だが、ジノは再び何もない胸を弄っては舐めている。
そんな場所が感じる筈もないのに、そのままダイレクトに腰に響いた。
スザクの指は、大きく開いた足の間を辿っている。
感覚を辿るだけで、大忙しだった。回らない頭が、それだけを拾って快楽を響かせて行く。
会陰部を通り過ぎ、後孔へとたどり着くと、そこをくるくると撫でられた。
既に自分の吐き出したもので濡れた手は、スムーズにそこを動く。
「ああっ、や………スザ……く」
「私の名前も呼んで欲しいな」
「ジ、ノ?」
「そう」
そして胸からへそまでを一気に舐められる。ゾクゾクとした快感が背をくうっとしならせた。
「あまり、刺激しないで。こっちに集中して欲しいから」
「それはスザクの勝手だろう?」
「割り込んで来たのは君だ」
「………」
そこで、諦めたらしい。刺激がひとつ減る。
後孔へは、ゆるゆると押したり開いたりを繰り返され、むずがゆいくすぐったさを感じていた。
「こうした方が、先輩は楽なんじゃないかな」
と、ジノが言うのが遠くに聞こえる。
感覚が快楽以外を置き去りにして、どこかへ家出してしまったようだ。五感も酷く曖昧だった。
「ああっ、あ………あっ」
再び、勃起を粘膜に包まれる。
これはさっきと温度が違うと思った。じゃあ何だろうか。ジノだろうか? まさか。
「あ、その方がいいみたいだ。続けて」
「ああ」
銜えたまま、彼が返事する。と、言うことはやはりジノなのだろう。だが何故と言う思いが去来する。
ラウンズふたりで、一体何をしているのだろう。体の苦しさを取り払ってくれるのは嬉しいが、これは一種の拷問なのだろうか? これで自白させようとしているのだろうか?
と、思った瞬間だった。
「や…………め……っ」
ぐぐ、と後孔に挿し込まれたものがある。多分スザクの、指。
「やっぱり、苦しそうだね」
「そりゃあ、潤滑剤もナシじゃあね」
「そうか、潤滑剤か……ちょっと待って、傷薬くらいはこの部屋にあるから」
「了解」
傷薬はクローゼットの中。告げようと思ったが、口を開けば喘ぎしか出てこない。
「ああっ、あ、ああっ、く、ん……っ、ん、だ、め、また……っ」
「いいよ、いっても」
「ダメ、だ……だって、スザク……っ」
「スザクじゃないとダメだって言うのかい? ちょっと傷つくな」
「ちが……っ」
何が違うのかすら分からなかった。そもそもスザクがどうしたと言うのだろう。
勝手に口が動いて、何をしているのか分からない。感じる事だけでせいいっぱいなのだ。
「クロ、ゼット」
「ああ、傷薬?」
こくこくと必死で頷く。
「スザク」
「聞こえたよ」
そして、戻ってくる雰囲気。
ほっとして、その瞬間に吐精した。
「ご、め……っ」
ジノの口の中だ。思わず反射的に謝ったが、ジノはそれを更に搾り取るような動きで勃起を下から上へと吸い上げる。
「あああっ、ああっ、あ、あああああっ」
その合間に、再び指が挿し込まれる。こんどは苦しくなかった。いった直後の敏感になっている感覚が良かったのだろうか? それとも探し出した傷薬のおかげ? 良く分からない。分からない事だらけだ。
「ごちそうさま、先輩」
言われて、全て飲まれたのだと知る。これ以上頬に血は昇りようがないだろうと思っていたのに、頬が熱く感じられた。
「ジノ、あんま刺激しないでよね」
「それって嫉妬?」
「当たり前だろう」
「へえ……」
彼の声は、ひどく楽しそうだった。
「じゃあ、私も嫉妬してもいい?」
と、うっすら開いたまぶたの、薄い涙の膜の向こうにスザクと身を寄せ合うようにしているジノの姿が見えた。間にある銀色の缶は、多分傷薬だ。
それを、手に取っている。
「ダメだよ、順番って言ったじゃないか」
「準備くらいは手伝ってもいいだろう?」
「ダメ!」
「ダメじゃない!」
と、ぐぐっと太い指が入り込んで来た。これも違和感がなかった。
「……っあ、ああ」
むしろ、気持ち良い。
二本の指がばらばらに動き、放ったらかしにされてる上半身が勝手にくねった。
シーツを必死で掴む。そうでなければ、このなけなしの思考すらも奪われてしまいそうだったからだ。
「あ、ああっ、あああああっ」
「あ」
ひどく鋭い感覚が、足の先から頭のてっぺんまで走り抜けた。
その瞬間に吐精していたらしい。腹部にとろりとした感触と、熱を感じる。
内側を探っていた指――多分,スザクのものが触った場所がひどく怖い場所に感じた。今の感覚はなんだったのだろう?
「ここだね」
「うん」
分かった、と、二人の指が交互にそこを触り出す。
こちらはたまったものじゃなかった。もう、悶えて欠片しか残っていなかった思考も吹き飛んでいた。
甘い声で鳴き続ける事しかできない。
「いいよ、もう」
スザクの声が聞こえて、指が抜かれて行く。
代わりに、熱いものがその入口に押し付けられた。
「ごめんね、ルルーシュ」
スザクの声が聞こえる。
「う…ん………」
謝る必要なんてないのに、何故? と思った瞬間に衝撃が来た。ひどい圧迫感と違和感。痛みは幸いにもない。だけど、そこに入って来たものの正体は分かった。
スザクの性器だ。
今、自分はスザクに犯されている。
「ああ…………っ、あ、あああっ」
再びゾクゾクとした感覚が全身を襲った。
スザクが自分を抱いている。そんな事があるのだろうか? あの憎しみしか自分に向けていなかった彼が、こんなに優しく? ――いや、これは新しい拷問なのかもしれない。なぜなら今の自分の思考は全くコントロール出来ていない。今、ゼロなのかと問われても上手く躱す言葉を思いつけない。
「動くよ」
と言われ、最初は小刻みに彼は動き始めた。
「すごい……ルルーシュの中、すごくいい……っ」
「ああっ、あ、あああっ」
掠れた声は、欲情の声だという事に気がついた。
スザクのものが、さっき鋭い感覚を生んだ場所を絶妙に擦り、動いて行く。
高まるのはあっと言う間だった。だが、勢いの良い吐精ではなかった。
「あれ? ルルーシュ先輩?」
と、見ていたジノが屹立に手を這わす。そして、搾り取るように、手を動かされる。
「や……じの、やめ…………っ」
「ジノ、反則!」
「だって、先輩可哀想じゃないか」
「そういう問題じゃないよ」
そう言いながらも、スザクは腰を使ってくる。
「ああっ、ん、くぅ……すざく、すざくっ」
「どうかした?」
スザクの声は,ひどく優しい。その声に縋りたくなる。
「も……こわ……っ」
「こわい? でも、ダメだよ」
「スザク……っ」
手を伸ばした。その手は、ジノに取られる。違う、と思ったがその温度は気持ちよかった。指と指とを絡め合い、突かれる動きに合わせて、力がこもるのを緩和してくれる。
「っ、あっ、あ、っあああっ、すざく、も、だめ」
「まって、ルルーシュ」
と、急にスザクの動きが強くなった。
突き上げられる動きに、喘ぎすらも上げられなくなる。
荒い息ばかりを吐き出し、それはスザクも同じで、重なった吐息に幸福感を感じた瞬間に、内側へ熱い物が広がった。その反射でルルーシュも白濁を飛ばす。
「は…………っ、は、あ」
「ああ……っ、あ、ああ」
ぎゅう、とジノの手を握りしめていた。
それに気付いたのだろう。逆の手を、スザクが握り締める。
両腕を取られ、ベッドに縋り付く事が出来なくなったことに不安感を覚えた。
だが、それはスザクであり、ジノなのだと思えば少しは気が楽になる。
これで終わりだろうか、終わって欲しいと思う。だけど、体の熱はまだ引かない。
何を盛られたのだろう。スザクは何を企んでいたのだろう。
ようやく、一息がついて物を考えられるようになっていた。
やはり新手の拷問なのだろう。これから何を尋ねられるのだろうか。今ならば、ゼロではない、記憶を取り戻していないとの詭弁を用いる事が可能だ。
少しだけ冷静を取り戻している。するのなら、早くしてもらいたかった。
「どうしたんだ、早くしたらどうなんだ?」
荒い息の合間に、一息で告げる。
そうしたら、ふたりは顔を見合わせた。
何か間違えた事をしたのだろうか?
「じゃあ、遠慮なく」
と、ずるりとスザクのものが抜かれて行く。
「………っ」
その感覚に、また勃ってしまいそうなのを、必死で耐えた。
だが、すぐに来たのは次の熱塊だ。
ジノがそこにはスタンバイしていた。
「え………」
「希望通り,早くしますよ」
「なに……ちが……あっ」
ぐり、と先端が飲み込まれる。そして、そのままずるずるとスザクの付けた道筋を辿るようにジノのものが入って来た。
「あああっ」
背中が反る。
顎を突き上げて、その快楽に耐えようとした。
だが、その顎を掴まれてしまった。スザクだ。
「今度は僕のを銜えてね」
「スザ、ク……っ」
ジノが動き始める。
最初から奔放に、抜き挿しが激しくて体ががくがくと揺れた。
「ああっ、ああああっ、ああああっ!」
「ジノっ、あんまり激しくしないで! ルルーシュを壊す気?」
「え? そんな事はない。これが普通だけど?」
「や、あ、ああっ、んくっ、んっああっ」
ひどく感じた。最奥まで突かれ、入口直前まで抜かれ,再び最奥まで突かれる。スザクの動きとは全く違った。感じる場所も少ししか触れられないのに、その一瞬がスイッチを押されたようにして、全身に電流が走る。
びくびくと、まるで打ち上げられた魚のようにのたうちまわるしかできない。ひどすぎる快感に、物も言えなかった。スザクのものを銜えたはいいものの、上手く口を動かす事が出来ない。
「ジノ!」
「分かったよ……」
スザクの叱責の声で、ようやく動きが楽なものに変わった。あの快楽は捨て難いが、しかし怖くもあった。
それに、スザクに何もしてあげる事が出来ない。
ぴちゃり、と唾液の音をさせて舌先だけでスザクのものを舐める。
その合間にも、細かく開かれた足の合間をジノが行き来している。
「は……っ、あ……っ」
銜えようとしたが、それは大きすぎる。だから横から銜えて、舌で愛撫する事にした。
ちらりと上を見ると、スザクと視線が絡む。きゅ、と後背がしまる感覚がして、直後に大きな快感がやってきた。彼は感じているようだった。目を細め、まるで愛おしいものでもみるかのような顔をして自分を見て、髪を撫でている。その手の動きが気持ち良い。
あれだけ憎まれていたはずなのに、嘘のようだった。
「ダメだよ、スザク。君ばかり」
「ジノの技量の問題だよ」
「それは君がストップを掛けたせいだ」
「あんなやり方じゃ、ルルーシュが壊れるだけだ」
「日本人とブリタニア人じゃ、また違うんだ。な? ルルーシュ先輩?」
ぼんやりと頭を上げる。違うのだろうか? そうなのだろうか? 良く知らないルルーシュには答える事が出来ない。
だが、その直後から動きは激しすぎないものの、強い突き上げる様な動きへとジノは変わった。
「先輩、その顔は反則です」
「うん、反則だったね」
「え……」
何だろう、と思う間もなく、突き上げが来る。
「ルルーシュ、こっちがお留守だよ」
と、スザクには口撫を強要される。
「ああ、んあ、あ、は……っ、ぃく、いきた……」
「ダーメ」
「ヤ……っ」
「じゃあ、僕のをいかせて?」
こくり、と頷いてルルーシュは必死でスザクのものを口撫した。裏筋から袋、会陰部まで。
「は…………気持ちいい,ルルーシュ」
「ん、んんっ、あ、ん、………っ」
そして、全ては無理だが勃起を口に含む。先端部を尖らせた舌先で弄れば、スザクの息は途端に酷く荒いものになり、髪を撫でていた手は、ぎゅ、と髪を掴んだ。
「は……っ」
だが、そればかりでもいられない。
ジノの突き上げが本格的なものになる。達しようとするものの動きだ。
「や,あ………っ、ジノ、ジノこわれ、るっ」
「ジノっ」
「無理」
既にほどかれていた手が、目の前にあるスザクへと伸びた。そして胴体を抱きしめる。
こわくて、でも気持ち良くて、どうしたらいいのか分からなかったのだ。
「あ、ずるいスザク!」
「仕方ないよ」
「ああっ、あ、も………っや…………あっ!」
ぎゅううとスザクに抱きついた。その瞬間に射精する。そして内側へも、追って再び熱い感覚が広がって行った。
その感覚が広がって行くにつれ、意識の端から黒くなっていく。
やがて、ルルーシュの意識は真っ黒に塗りつぶされてしまった。
■ ■ ■
気がつけば、ベッドの上だった。
室内には誰もいない。だが、衣服が改められている。
制服ではなく、パジャマ姿だ。いつの間に……と、思ったが、あれは夢だったのではないかと思ってしまった。
そうだ、きっと夢だったのだろう。あんな事が実際に起こる筈がない。あのスザクが優しく抱きとめてくれたり、ラウンズであるジノが自分に好意を抱くかのような言葉を告げる筈が無い。
だが、腰は鈍く,重い。
まるでまだなにかが挟まっているかのような感覚が、後孔にはある。
おそるおそる起き上がろうとしてみたが、腰から下の感覚がなくて、無理だった。
「嘘、だろう……?」
そして部屋の片隅に押していた、ボタンを見た。
あれは制服の下に着る、シャツのボタンだ。
――夢じゃない。
じゃあ、何故あんな事になったんだ?
何故あのふたりなんだ?
寄りに寄って、最も敵対するふたりだ。その二人が拷問でもなく、この体を好きに扱った。……いや、違う。自分が求めたのだ。
あのキャンディを舐めてから、おかしくなった自分を慰めてくれたのだ。
何故だろうか。
答えなど、出るはずがなかった。
今度あの二人と顔を合わす時は,一体どんな顔をすればいいのか、ルルーシュには分からなかった。
ただただ、頬に血が昇る。
自分が犯した狂態は、残念な事に覚えてしまっているのだ。
どうしたらいいのだろう。
そればかりがぐるぐると頭を巡った。