気持ちがわかってしまえば、結構楽になれた。
そうか、自分はスザクが好きだったのか、と。
授業中もそればかりを考えていた。朝、あの目覚ましが鳴らなかったらどうなっていたのだろう。どくんと心臓が跳ねて、頬がじわじわと熱くなっていく感覚がする。
あのキスや、スザクの声は、思い返しただけで心臓に悪い。
だけど、気持ちよかったし、もっと聞いていたかった。
目覚ましさえ鳴らなければ………
「ルルーシュ・ランペルージ」
「は、はい!」
「設問2」
すっかり授業を放棄していた。見破られていたのだろう、いつかの女性教師が厳しい顔をして自分を当てた。
何ページの設問なのかも分からない。
「何をぼんやりしていたのですか?」
「いえ、ちょっと……」
「いろいろ大変な事は知っていますが、授業中は授業を受けて下さいね。四十二ページ」
「はい」
くすくすと教室中で笑いが起こる。
恥ずかしさにまた頬が熱くなりながらも、そのページを開けば、問題自体は簡単ですらすらと答えられた。
それで満足したのだろう、女性教師も顔に笑みが浮かぶ。
「やれば出来るんだから、しっかりとね。家庭の事情は大変なようなら、担任に相談するのも手だから十分に使いなさい」
「はい、ありがとうございます」
しかし、スザクとの恋愛を担任に相談する訳にはいかない。
きわめて個人的な事情だったのだが、そうと気付かれなかった事だけでも良かったと思う事にした。
「どうしちゃったの、ルル?」
「え?」
「授業は真面目に受けてたのに。何かあった?」
「いや……別に。ちょっとぼんやりしてただけだ」
「そっか。そういえば、カレンとスザクくんのこと、みんなに訂正しとかなきゃだよね」
「ああ、そうだな」
そうだ。そんな事もあった。
ひとりやきもきしてたのがバカみたいだったと苦笑が浮かぶ。
「あ、ルルがひとり勝ちね、賭け」
「ああ、そうだ」
「え、どういう事?」
と、いつものメンバーがわらわらと寄ってくる。
「あの二人、付き合うつもりもその気もないって言い切ってたわよ。ね?」
「ああ。スザクもそのつもりはないって」
「あれ? スザクくんにも聞いてくれてたの?」
「ちょうど、そんなタイミングがあったんだ」
「ええー。じゃあ、ランペルージのひとり勝ちかよ!」
「そういう事になるな」
「ちぇっ」
と、それぞれに言いながら小銭が舞い込む。合わせてみれば、今日の昼食代くらいになりそうな額だった。
「ありがとう」
にっこり周囲に向けて笑った。もちろん、意識して作った笑顔だ。
「わ、その笑顔は反則!」
「ルル………っ」
女子は赤面している。中には、男子まで混じっている。どういうことだ。
一度自分の事を把握してしまうと、他の事まで見え始めた。きっとシャーリーは自分の事を好きでいてくれている。でもそれには応える事が出来ない。申し訳ないな、と思いながら気付かない振りをするしかなかった。
まあ、今日もなんとか急いで作ったお弁当は持参している。この小銭はありがたく食費の足しにさせてもらうことにして、ポケットに入れた。
「なにか? どうしたんだ、みんな」
フリーズしたままの面々へ、これは長過ぎるだろうと突っ込みを入れる。
「ルル、そういうとこ反則だよね!」
「え、どういうとこだ?」
「分かっててやってるでしょ!」
「えーと……」
そうだが、そうと言えば何か手ひどい反発を受けそうな気がする。
「どれのことか」
「どれ?! ってことは他にも?!」
「え、なに?」
今度は素で答えた。
「あ、ダメだ。違うわこれは………。ただの天然だわ」
「天然?」
「いいの、ルルは知らなくて」
「知らない事は気になる。教えてくれないか?」
「じゃあ改めて言うのも野暮ったいけど、説明するとね。ルルは天然ボケで、天然たらしなの。おわかり?」
「………ひどいな」
言われた言葉に憮然とした。
ボケとはなんだ、たらしとはなんだ。そんな事は意識したことは一度も無い。
そう告げれば、だから天然なの! とシャーリーが切れたように言った。
どうやら、彼女の機微に触れる問題だったらしい。
謝った方がいいのかな、と思っている間にチャイムが鳴った。
わらわらと生徒たちが自分の席へ戻って行く。
ポケットの中の小銭だけがずっしり重かった。
そして放課後。毎日来る必要はないと言われていたので、生徒会には寄らずに自分たちに宛てがわれた家へと戻る。まだ誰も帰っていない。
スザクはともかく、ナナリーはどうしたのだろう? と思うが、まだ時間は早い。きっと友達とおしゃべりでもしているのだろうと思えば頬も緩む。
彼女に取っては,学校へ来た事はとても良いことだったのだろう。自分しかいない世界を広げる事が出来る。自分のハンデを思って引っ込み思案になりつつある彼女に取っては、非常に良いことだと思われた。兄にすら遠慮するようになりかけていたのだ。そんなのは、間違えている。
甘える事、そして周囲に合わせる事や逆に甘やかす事を覚えてくれれば、嬉しいとルルーシュは感じた。
今朝と弁当が急ぎだったせいで、やや手抜きになっていた。その埋め合わせをすべく、夕食には腕を振るう。
もう準備を始めた方がいいだろうと思い、ビーフシチューを作る事に決めた。
もちろん一品で終わらせるつもりはないから、しっかり下準備をして煮込み始めると他にも料理を作り始める。
そのうちに,ナナリーが戻って来た。
「お兄様、ただいま。なんですか? すごくいい匂い」
「今日の晩ご飯だよ。今朝はすまなかった、簡単なのしか作れなかったからな」
「いいんですよ。でも、すごく楽しみ。着替えてきますね」
「ああ。急ぐんじゃないぞ」
「はい」
と、彼女は自分の部屋へ向かって行く。
それから更に三十分あまりすぎて、スザクも帰って来た。彼はキッチンに直行してきた。
「ただいま、ルルーシュ」
「おかえり」
「今日は腕を振るってるようだね」
「今朝も弁当もあれだったからな。埋め合わせをしようと思って」
「あれ? お祝いの料理じゃないの?」
「何の」
と、言えば、淡く唇が重ね合わされた。
「ス、スザク!」
「これの」
彼は確信犯めいた笑いを浮かべている。
「するわけないだろう! ナナリーもいるんだ」
「あ,言わないんだ」
「あ,あ,当たり前だ!」
「なんだ、残念……まあ、でもそうだよね。ナナリーだけのけものにしちゃうみたいで、あまりいい気分でもないし」
「それは、そうだな。でも俺のナナリーへの愛情は変わらない」
「はいはい,知ってるよ。僕もナナリーの事は大好きだから」
「でも、渡さないからな」
「どっちを?」
と問われて、思わず手が止まった。
この場合、どちらだろう。
しばらく考えて、「どっちもだ」と答える事にした。
スザクはひどく笑いながら、着替えるねと部屋に戻って行った。
夕食は好評のうちに終わった。自分でも自画自賛したくなるほどの、シチューの出来具合だった。時間をかけただけの事はある。
咲世子が来てナナリーを風呂に入れている間に、二人で部屋に戻る。
妙な緊張感が走ったが、スザクは宿題を開始した。
そこで残念に思ってる自分に気付いて、自分を叱咤する。甘い事ばかり考えていてはダメだと。
でも、彼とふたりきりの空間はひどく落ち着いた。幸せを感じる。
昨日までの動揺が,嘘のようだった。
「ねえ,ルルーシュ。物理の五十八ページなんだけど」
「ん?」
教科書を開いて、そのページを見る。
「設問3、意味分かる?」
「分からないのか?」
「分かってたら聞いてないよ」
「………はぁ」
「なに、そのため息! ちょっと失礼じゃない?!」
「だってこの問題は設問2のただの応用じゃないか。2は解いたんだろう?」
「うん、一応」
「見せてみろ」
と、ノートを受け取る。その時に手が触れて,思わず手を引いてしまった。
「ルルーシュ?」
「す、すまない」
床に落ちたノートを、拾い上げる。
「………ルルーシュ?」
「……なんだ?」
含みを持たせた呼びかけに、間をもたせ、返事する。
新造が早鐘を打っている。あんな些細な事が、引き金になってしまった。
ぎゅ、と、自分の手は腿の付近を握りしめる。
「どうして、手を離したの?」
「……………」
「僕と手が触れたから?」
「ちがっ」
「違わないよね」
そして、彼は笑う。反則の笑顔だった。今なら、今日学校で生徒達の言っていた反則の意味が分かる。意識的に作られたものだと分かる。なのに、魅力的で目が離せない。
「スザク………」
「宿題、一日くらい忘れたって構わないよね」
「いや、ダメだ」
「でもそんな顔して、勉強なんてもう無理でしょ?」
「どんな」
顔を、しているのだろう。思わず手を頬に添える。そんな事で表情なんて分かりはしないのに。
スザクが席を立って,自分の元へ来た。
思わず背もたれに体重を預け、逃げるような姿勢になる。
でも椅子がそれ以上動いてくれる訳ではない。逃げれる筈もない。
「ルルーシュ、好きだよ。ずっとずっと好きだったよ」
「反則だ、スザク。今、それを言うなんて」
「どうして? いつだって言いたいよ。君と二人きりなら構わないかと思ってたのに、君は宿題に夢中なんだもの。嫉妬しちゃうよ」
「宿題なんかに嫉妬してどうする」
「うーん。でも僕の相手、してよ」
と、スザクは腰を屈めた。
口づけを、される。
初めて意識的になされるキスだった。いや、今朝のあれも起きていたのだから、二度目になるのだろうか?
触れるだけのキスの後、強く抱きしめられる。そのままじゃひどくバランスが悪くて、ルルーシュも結局立ち上がった。
「好きだよ」
「そんなの、俺もだ」
「気付いてなかったくせに」
「でももう気付いた」
「そう」
良かった、と呟いて今度は深いキスを施される。
それはとても気持ちが良かった。動転したままに行われるものじゃない。こちらも心の準備ができている。たったそれだけで、何もかもが違うのだ。
唇を割り入って来たスザクの舌を迎え入れ、舌を絡める。甘くてぞくりとした痺れのようなものが、じわっと体に広がる。スザクの舌は好きに動き、歯列を舐めたかと思えば、舌の側面を尖らせた先端でなぞり始める。くすぐったいような、しかしぞくぞくとしたような感覚に襲われ、思わずぎゅっとスザクにしがみついた。
「ルルーシュ、しよう?」
「………ああ」
ここで断る理由など、何も存在しなかった。
スザクが欲しいと感じる。スザクの熱も心も体もなにもかも。
独り占めしたい。
そして、自分自身もスザクに独り占めされたかった。
そのまま手を引かれ、近かったスザクのベッドへと転がる。のしかかるようにして、スザクが顔を覗き込み、いたずらっ子のような笑みを浮かべた。
「どうしたんだ?」
「ううん。反則だなあと思って」
「それは、お前だ」
ルルーシュは反論する。
「だって、ルルーシュのそんな顔、見た事ない」
「俺は………」
ある。こんなまぶしい笑顔を朝に何度も見ていた。
幸せだと思っている表情なのだと思えば、とても気分が良かった。
「頼りなくて、縋るようで、なのに幸せそう。僕がそうさせてるのかな」
「お前以外に、誰がいるんだ」
「そうだよね」
「お前にしか、見せない」
「そうだね」
そして、再びキスが落とされる。最初から深いキスだった。貪るように口腔を荒らされ、ルルーシュは息も絶え絶えになる。ぎゅっとしがみついたスザクの腕は、しかしそのままではいてくれなくて、シャツを引っ張り出すとその合間から素肌へと直截触れて来た。
「………っあ」
思わず、声が漏れる。
その瞬間を狙って口づけをほどくのだから、本当にタチが悪い。
でも、スザクの高い温度はとても気持ちがよかった。
くすぐったいような感覚が、徐々にじれったい感覚へとシフトして行く。シャツのボタンを自ら外し、脱いでしまった。ひどく熱かったのだ。
「ルルーシュ、煽ってるの?」
「ち、違うっ」
「でも、そんなに簡単に肌を見せちゃダメだよ」
「お前以外になんて、見せない」
「じゃあ、その約束ね」
と、鎖骨の下に唇を落とされる。そして強く吸われた。
「……んっ、いた」
強すぎて、痛みすら伴う。
「ごめん。でも、ほら」
自分では見えない場所だ。そこにはだけど、くっきりと吸われた跡が残っているだろう。
「ルルーシュの肌は白いから、ひどく目立つね。キスマーク」
「キス……マーク……」
「ぼくのものって、印」
「そんなものつけなくても、お前のものだ」
そう言えば、スザクは目を細めて自分を見る。そして、
「分かってないな。いや、分かってるのかな」
「なにが?」
「やっぱり分かってないのか……天然で煽られるから、困る」
また、天然と言われた。酷い。
「天然とか、言うな」
「だって実際そうじゃない。君の天然っぷりに僕は振り回されっぱなしだよ」
そしてなんの膨らみも無い、決して触って楽しくなんてないだろう胸に手を触れさせる。尖った乳首を執拗に撫でられているうちに、またしてもじれったい気分になってきた。薄い膜のような感覚がどんどん蓄積されていく。これが一定以上になればどうなってしまうのか、自分でも良く分からなかった。
「……っ、んっ」
ちろり、とその場所を舐められる。その瞬間に声が出た。
それに気を良くしたか、スザクは片方を手で丹念に探りながら、もう一方を吸ったり舐めたりと忙しい。
「んんっ、ぁ………っ、は…」
じれったさが加速する。頭が上手く回らなくなってくる。
そして、そんな筈がないのに自分のものが勃ってくるのを感じた。
快楽はそこに存在していたのだ。
スザクはそれに気付いたようで、胸を弄っていた手を下肢へ向ける。布越しとは言え、直截握りこまれて、思わず腰が跳ねた。
「ああっ」
「あんまりひどいことはしないから。ね?」
下から、スザクが見上げてくる。こくんと頷くしかない。
布越しにもまれて、そこはどんどん成長してゆく。細いスラックスでは、もう苦しい程だ。
「スザク、も……」
「うん」
スザクも気付いていたのだろう。ウエストを緩め、そのまま下着ごと脱がされる。
恥ずかしさがそこになかったかと言えば嘘になる。だけど、今から自分たちはセックスをするのだ。恥ずかしがっていては話にならない。
だけど、頬がじわじわと赤くなっていくのは止められない。
「ルルーシュ、甘い顔」
「え」
「すごい。食べちゃいたい」
かぷり、と頬を唇だけで食まれる。その間に、手は生身になった屹立へと這わされていた。
「ああっ、あ、ああ……っ」
ひどく、気持ち良い。自分でするのと同じ行為だと言うのに、段違いの気持ち良さが生まれては弾けて行く。
先走りが漏れてしまったのだろう、途中からぐちゃぐちゃと聞くに堪えない音がする。恥ずかしくて、顔を隠そうとしたけれども腕を押さえられてそれは適わなかった。
「恥ずかしい顔、もっと見せて」
天然たらしとは、こいつの事を言うのだとルルーシュは瞬間思った。
「や、だ……っんあっ」
先端をくじられ、びくんと体が跳ねる。
それに気を良くしたか、スザクはそのまま手を放置して、その手を後孔へと持って行った。男同士のセックスだ。そこを使うしかあるまい。分かってはいても、すこしばかりの怖さがある。
「大丈夫だから」
と、なだめるように頬にキスを落とされる。
そして、いつの間に用意していたのか、ベッドサイドの傷薬を指に取り、ぬちゃぬちゃと柔らかくしはじめた。
ああ、あれを使うんだとどこか遠くで考える。
前の直截の刺激にどんどん追いつめられ、もういきたいのにさいごの一押しをスザクがくれないのだ。おかげで、意識がどんどん朦朧としてくる。
「スザク……も、いきた……っ」
「もうちょっと、待ってね」
ぬちゃり、と音がした。傷薬の粘つく音だ。
それを後孔に塗り込められ、そのまま指を差し入れられた。
思わず、ひるむ。痛みはない。だけど、そこは排泄に使う場所で汚いという感覚と、そして入ってくるという逆の感覚にぞわぞわと背筋が粟立った。
「あああ……すざく、すざく」
「大丈夫、だから」
狭い場所に入れられた指は、先を折り曲げられ、内側を広げられる。未知の感覚が怖くもあるのに、スザクだからとの安心感もある。複雑な感覚を抱きながら、スザクの肩を必死で掴んだ。手を伸ばして届いたのがそこだけだったのだ。本当は抱き合いたいけど、後孔をほぐしているスザクはそんな余裕がない。
「あ……ああっ、あああっ」
頼りないような、それでも微妙な感覚がまた上乗せされる。
これが決壊する時が待ち遠しくも有り,怖くもあった。
そのうち、もう一本指が追加される。それも痛みは伴わない。そして、感覚がまた一枚上乗せされる。
スザクの肩をつかむ手が、スザクの汗に滑り、ひっしでしがみつくような様相となっていた。
彼もまた、必死なのだと思うと心臓が跳ねる。
早いペースで打ち続ける鼓動は、確実に寿命を縮めていると言うのに、心地よくて仕方なかった。
「スザク、スザク……も、いく……っ」
頭が真っ白に塗りつぶされる。
もどかしいじれったさではなく、直截の刺激が自分を確実に追いつめていた。
「うん、いいよ」
そして、強い勢いで屹立はしごかれた。
「ああああああっ」
あっと言う間の出来事だった。
白濁が飛び、息が乱れる。その合間に指が三本に増えていたことにすらしばらくは気付けなかった。
「もう、いいよね」
と、スザクが言う。
「なに……?」
「挿れるよ?」
「う……うん」
こくり、と頷く。そうするのは分かっていた事だ。ただ、怖いと思う気持ちは止められない。
「大丈夫。怖くないから――僕だから。ね?」
「うん」
子供返りしたかのように、幼いたどたどしい口調になってしまっていた。
恥ずかしいのに、ストップが効かない。
「スザク、スザク……っ」
先端がそこに押し当てられる。ぐぐ、っと少しの力でそれは中へ侵入してきた。
「あ…………っ」
そして、ずるずると飲み込まれていく。
「あ、ああっ、あ」
そしてやがて、動きが止まる。深い場所で、スザクの鼓動が聞こえる。
「挿いった、よ」
「う、ん……っ」
ひどく掠れた,欲情した声だった。ぞくぞくとする感覚が、そのまま後孔を締める動きになる。それに、スザクはくっと小さな声を上げて耐え、やがて動き始めた。
「ああっ、あ、ああっ」
動くたびに、勝手に声帯が震える。
気持ち良いのかと問われれば、よく分からない。ただただ幸福ではあった。
スザクがひどく気持ち良さそうだからだ。
だけど、そんなスザクも徐々に見ていられなくなる。
彼の動きが激しくなるにつれ、目を開いていることが出来なくなっていくのだ。そしてその頃には、既にルルーシュも気持ちいいと言って良い状態になっていた。
ひどく感じる部分がある。全身に痺れが走って動けなくなるような、高い悲鳴を上げてしまうような、場所。そこを擦られるたびに、快楽が増して行く。
前は全く触れられていないのに、再び勃起していた。
うっすら開いた目が、スザクを捕らえる。視線が絡まり、お互いに微笑み合った。
酷い幸福感にめまいがする。もう、どうしたらいいのか分からない。
ただただスザクがいてくれさえすればい――……そう、思った瞬間。
「あ、ああっ、ああああああっ!」
触れられてもいない、前が弾けた。
くうっと絞り込むように後孔も動く。スザクは酷く苦しそうな顔をして、最奥までそれでもたどり着くと、同じように白濁をルルーシュの内側へと飛ばした。
指先すらもうごかせない、手ひどい快楽だった。
ただ全身の力が抜け、はあはあと荒い息を繰り返す事しかできない。
だけどスザクはまだ動けるようだ。伸び上がって、その時に挿れられた屹立がずるりと抜け出しぞくりとした感覚を与えられたが、それよりも素晴らしい感覚を与えてくれた。
甘い,キス。
笑顔で送られた、触れるだけのキス。
それは寝ぼけてしていたのとまるで同じものだった。
ああ、あれは夢だったのかもしれないなあと思う。
この瞬間の正夢だったのかもしれない。
幸せすぎて,心臓が止まりそうだった。
だが、スザクはそれだけではまだ終わってはくれなかった。
熱塊はまだ屹立したままだ。そして、また中を抉られる。
「あっ、ああっ、まだ……だめ、だ……っ」
「僕も、もうだめ」
「スザク!」
「だって、ルルーシュが」
「俺のっ、せい、なのか?」
「そう、だよ」
勝手に自分のせいにされて、手ひどい快楽を再び受け取る事になる。それは延々と朝が近くなるまで続けられた。
目を開くと,スザクが笑顔でそこにいる。
体中はべたべただ。もうルルーシュが起きなければ行けない時間はすぐ目の前に迫っている。
ほとんど、眠っていない。もうこのまま欠席してしまおうかと思ったけれども、友達が出来て楽しそうにしているナナリーのお弁当は作ってあげなくてはならない。それに自分もお腹がひどくすいている。それはスザクも同じだろう。
「おはよう」
「おはよう、ルルーシュ」
そして、キスされる。
いつかに寝ぼけてされたのと、同じキス。
幸福感に包まれて,何もかも投げ出したくなる気持ちを叱咤して、起き上がろうとした。だが、腰がかくんとなって立ち上がる事が出来ない。
「え?」
「無理だよ,ルルーシュ。あんだけやったんだから、今日は使い物にならないよ?」
「え?」
そんな、どうすればいいのだろうか?
ナナリーのお弁当は? 朝食は?
「僕がするから――そりゃあ、君が作るものには適わないけど、僕だって少しくらいは出来るよ」
「ああ…………それじゃあ、頼む」
呆然としたまま、スザクに依頼してベッドに沈み込んだ。
まさかこんな形で交わった事を実感するなんて思っていなかった。
立つ事も出来ないなんて………!
でも。
だけど。
ルルーシュは、その全てを受け入れても尚、幸せだった。
気付けなかった自分がバカのように思える。こんなに目の前に転がっていた幸せを,一体何年気付けず放っておいたのだろう。
スザクだってそうだ。
どうして、ずっと――。
片思いの相手の事を思い出す。
あれは、自分だった。確信を持って思える。
そりゃあ、言えないだろう。
同性の同居人です、なんて言ったらスザクの学園生活は真っ暗だ。
だけど、こうやって共に暮らして共に愛する日が来てくれたことに感謝する。
学校へなんか来なければ良かったと思った気持ちを撤回する。
学校へ来なければ,きっとずっと同じ日々が続いていたことだろう。自分の気持ちにも気付かないままで。こんな幸福も知らずに。
スザクの父に感謝する。
そして、きっと、生まれて初めてほんの少しだけだけど、実父に感謝をする気持ちが沸いた。
スザクと共に過ごさせてもらえているのは、彼が自分を捨てたおかげだからだ。
スザクに出会えて、本当に良かった。
背中合わせで寝る事は今後、きっと二度とないだろう。
一緒のベッドで抱き合って眠る日々が、そうして始まる。
終わり