雨の降る一日だった。
ずぶ濡れになりながら犯人確保に走り回り、解決したのがついさっき。
今回、バーナビーはポイントを四百点獲得した。つまり決着を付けたのが彼だったのだ。
もちろん他のヒーロー達の助けもあった、だが殆どの立ち回りを決めたのはバーナビーと虎徹のふたりだ。珍しい事もあったもんだ、と他のメンバーは顔を見合わせる。彼等はむしろサポートに回る方が多かったからだった。
「ポイントゲット、おめでとうさん」
「ありがとうございます」
ポイントに固執しているのはバーナビーの方なのに、そう言っても余り嬉しそうな顔も見せない。
可愛げの無いヤツだなどと虎徹は思うのだが、表情に出ないだけだとも知っている。
だから一概に決めつけたりはしない。反射的に思ってしまうのは、仕方ないけれど。
「ほれ、さっさと警察に引き渡して来い」
「いいですよ、おじさんが連れて行けば?」
「おい。そんな事したら俺の手柄になっちゃうぜ?」
「いいんです、既にポイントはもらってますから。たまには先輩らしく現場を収めてみてはいかがですか? おじさん」
「……はーい、可愛くねーなあ、お前本当に」
と、言葉ほどではなく笑い混じりに言えば、意図は伝わったのだろう。バーナビーも笑っていた。彼はとっくにマスクを上げて素顔をさらしていた。
気絶した犯人を肩に担ぎ上げて、「そんじゃ行ってくるわ」と、虎徹はその場を立ち去った。
足場は悪い。雨に濡れて滑りやすくなっている。
そこをひょいひょいと歩く虎徹は、やはり場慣れしてるなあとバーナビーは後ろ姿を見ながら思っていた。
自分だって当然それくらいの動きは出来るのだが、背中に背負うものが違う気がする。
彼の事を正義感ばかりが空回りなおじさんとばかり思っているのだけれども、たまにそうやって感じさせる事があった。本当に、こんなどうでも良い時に。
翌日も雨は続いていた。
道には大きな水たまりが出来、視界が悪くてバイクで走るのもなかなか難しい。
そんな中を、傍らに虎徹を乗せて現場に向かっている。二日続けてのヒーロー出動は珍しい。
だがしかし、ふたりとも今日はヒーロースーツを着用していなかった。出勤前の緊急招集だったからだ。そのまままっすぐ会社に向かうのが本来だったのだが、その通り道に現場があるのだから仕方ない。
「おい、どうする?」
「何がですか」
「会社寄る?」
「そうしなきゃ、マズいでしょう」
「……だよなあ」
現場を目前に控えて通り過ぎるのは、なんとも居心地が悪い。だけど、ヒーロースーツ無しでヒーロー行為を行うのは、バーナビーはともかく、虎徹の美学に悖る。ヒーローは謎の存在でいなければいけないのだ。
だが、しかし。
「こりゃ、進めないぞ」
「……参りましたね」
道が封鎖されている。現金輸送車が強奪犯によって乗っ取られたのはほんの三十分前。そして今はそれを追い詰めたところだ。その場所がちょうど会社に向かうまでの道なのだろう。
黙って見ているのも、ヒーローとしての美学に悖る。
「おい、バニー。お前は素顔晒して大丈夫なんだからとっとと行け」
「怪我しろと言うんですか」
「そんなどんくさい事しねーだろ、お前は」
「もちろんそうですが」
冷静に返されると、ちょっと腹立たしい。
でも、今は仕方ない。
「なら、向かえ。俺は歩いて会社まで行く」
「了解しました。僕のスーツも持って来てください」
「斉藤に言っとくよ」
「そうですか……」
声のトーンが沈んだ。彼もどうやら、斉藤の事が苦手らしい。自分だって苦手だ。
だがそんな事を言っている場合でもなさそうだった。
人混みのむこうから、激しい電撃が見える。ドラゴンキッドが到着したのだろう。
「おい、急げ!」
「分かりました」
と、バーナビーがバイクを道端のコインパーキングに止めて、走り出す。
そして自分も走り出した。
「どいてどいて」
人混みをかき分ける。
野次馬が山のように涌いている。そりゃあ、ヒーローの戦闘が生で見れるなら人混みも出来るだろう。ちくしょう、俺だってヒーローなのに、と思いながら走り込んでいると、急に目の前が暗くなった。
あれ、と思う間もなかった。
自分は闇に包まれてしまったのだ。
「相手のネクストは」
「あら、バーナビー、スーツは?」
「今出勤途中だったんですよ」
「そう」
ファイアーエンブレムが悠長に告げる。ほぼ片は付いたと言う事だろうか? だとすれば虎徹の行動は無駄になってしまう。早めに連絡を入れた方がいいだろうと思っていたら、
「相手の能力が分からないの」
と、彼は告げた。
「ネクストなのは分かってるんだけど、私たちの攻撃が効かなくて。あなたたちを待ってたのよ」
「肉弾戦じゃないと無駄、と言う事ですか」
「多分」
「犯人は?」
「車から逃走。今は人混みに紛れてるのを、折紙とブルーローズが追ってるわ」
「何故あなたは?」
「私の能力じゃ人を傷つけちゃうもの」
「そうか……」
方向を尋ね、そしてバーナビーもそちらへ向かった。
人混みはその部分が割れている。分かりやすかった。
駆け込む事で、自分の正体もバレる。とは言え、バーナビーは有名人だ。逆に人が寄って来て大変な事になった。
「退いてください、危険です!」
「みんなー、退きなさい!」
道を確保しながら進む。
果たしてそこには、地面に倒れ伏している虎徹と、それを呆然と見下ろすブルーローズがいた。
「何があったんです?!」
「分からないのよ」
「犯人は」
「今、折紙が追ってる!」
「分かりました、相棒をお願いします」
「え、相棒?!」
「そいつですよ。僕も犯人を追います!」
方向は人が割れているのですぐに分かる。時折、虎徹と同じように倒れ伏している人が存在した。
面倒な事が起きている気がして、バーナビーは非常に嫌な予感がした。
だが、ヒーローは自分の選んだ職業だ。逃げる訳にはいかない。虎徹をあんな風にした事にも蹴りをつけなければならない。
その方向へ向けて、必死で走った。
ハンドレッドパワーを使うべきだろうか? その方が早いと今更のように気がついた。
力を溜めて、青い燐光が全身を覆うのを意識する。その瞬間、人混みを飛び越え、その犯人の元にたどり着いた。
「折紙!」
「バーナビーさん!」
折紙の能力では立ち向かえないらしい。
場所は、道の真ん中だ。犯人らしき男はそのまままだ逃げようとしていたが、バーナビーはひとつジャンプして、その前へ回り込んだ。
「そこまでだ」
「お前……!」
名が売れているのは、この場合いい事なのかどうなのか。
自分がヒーローだと分かると、男は足を止める。
そこへ痛烈な蹴りをひとつ入れたが、間一髪で避けられ、バーナビーの足は地面を抉った。
「まさか」
あの速さを避けるなど、あり得ない。
「お前もネクストだものな」
そして、男は笑っている。
「確かにネクストだが、お前達とは立ち位置が違います」
「それはどうかな?」
と、男は笑みを更に濃くした。
それが気に障り、バーナビーはパンチを繰り出し、その返す後に蹴りを入れる。これが決まらない訳がないのに、それもするりと逃げられてしまった。
「何者だ、お前……」
「敵に手の内を明かすと思うか?」
「おじさんに何をした」
「おじさん? ああ、ネクストどもか?」
十把一絡げに、そう男は告げる。
「全部、抜かせてもらった」
「抜く?!」
「お前等のは難しそうだから、今度にしといてやるよ」
と、男は走り出す。
それを追うのは今は無駄だと思った。それよりも抜くと言う言葉の方が気になった。
虎徹は一体なにをされてしまったのだろう?
道を戻る。既に五分は過ぎ、バーナビーは只人へと戻ってしまっていた。
ただし、有名人であることには変わりない。
人混みはそのまま人垣になっていた。それを押しのけて、ブルーローズの元へ向かう。彼女も有名人だが、アイドルの上に近寄りがたい雰囲気がある。彼女の周りだけ、ぽっかり人の空間が出来ていた。
「どうですか?」
「目を覚まさないの……さっきから呼んでるんだけど」
「おじさん、目を覚ましてください。おじさん!」
「ちょっと!」
乱暴に引っ張り上げて、頬を叩く。
それにはブルーローズも驚いたようだった。
だが、それでようやく虎徹が目を覚ます。
「お、おお……どうなった?」
「逃げられました」
「お前っ、何やってんだよ!」
「大丈夫です、現金輸送車は無事取り押さえましたし、一般人に被害らしき被害はおそらく出ていません。ただ――」
「ただ?」
「ネクストと思わしき人のみが、反応をしたのだと」
途中倒れている人間が、極少数だがいた。あれは多分人混みの中に隠れて生きているネクストなのだろうと思われた。
「犯人は、『抜く』と言っていました」
「抜く?」
「良く分かりませんが、おじさんも一度会社に向かいましょう。精密検査が必要です。もし僕の勘が正しかったら……」
「かったら?」
「とんでもない事になるかもしれません」
「それは今教えてくれないんだな」
「ええ。あくまでも推測にすぎませんから」
「分かった。じゃあ、向かうか」
「ブルーローズ、ありがとう」
「え、うん。構わないけど」
「ポイントは今回ついたんですか?」
「まさか! 犯人には逃げられちゃったのよ。出動損よ」
「そうですか」
犯人らしき人間は、ぴんしゃんしていた。ダメージも与える事が出来なかったのだろう。
今回ポイントを獲得したのは、きっと現金輸送車を止めたドラゴンキッドだけだろうと思われた。
それでも、今回は構わなかった。それよりも自分の勘がいやな事を訴えかけている。
一刻も早く会社に向かいたかった。
「おかしいな……」
やはり、だ。
彼――虎徹は、ハンドレッドパワーを発動しようとしても、発動しないのだ。
抜いた、とはネクストの能力の事だったのだ。
彼の能力は、抜き取られてしまった。それが一体どうなっているのかは分からないが、少なくとも今の彼はヒーローとして活躍することが出来ない。
それらを話すと、当然のように虎徹は激高した。
「許せねぇ、そいつ!」
「でも、一概に悪とは言えませんよ」
「どういう事だ」
「一般市民として生きているネクストにとっては、能力を抜き取られたのはありがたい事だと思います。異端ですからね、そうとバレないように生活するのはとても面倒な事だったに違いないでしょう」
「まあ、それは――」
「それに、ネクストが減ると言う事は、結果的に犯罪者が減ると言う事です」
「そう、だな……」
「おじさんには気の毒ですが……」
「おいおいおい、ちょっと待て! 俺に引退しろってのか?!」
「そうするしかないでしょう」
「バカかお前! 取りあえずそいつの能力がどんだけ有益かは分かった。それでも元々現金強奪犯なんだ、犯罪者なんだよ。そいつを捕まえるのは俺等の仕事だろう?!」
「――そう、ですね」
「肝心な事を見落とすな」
言われ、バーナビーは悄然とした。
確かにそうだった。彼を危険にさらさずに済むと考えたのは良かったのだが、それをヨシとする人間でないのが虎徹なのだ。
進んで危険に飛び込んでいくだろう。
「俺の力が使えなくても、ヒーローなのには変わりない。スーツさえ着れば衝撃にも耐えられる。行くぞ」
「無茶はやめてください!」
「無茶じゃねえ」
その瞬間、緊急招集が掛かった。
「ほら、出たじゃねえか」
「同じ犯人とは限りません」
「どっちにしろ、ネクストは全滅なんかしねえ。ヒーローは必要なんだよ。行くぞ!」
「おじさん!」
だが、彼は行ってしまうのだ。こちらの心配など無視して。
ヒーロースーツを着込むと、今回は虎徹は重火器を手にしていた。今回、ハンドレッドパワーが使えないのだから仕方がない。ヒーローとしての美学に悖るが、それでも犯人を捕まえないと言う方が彼に取ってはあり得ない選択なのだろう。
いつからだろうか。
彼の事を意識してしまっている。
いらいらしてしまうのに、腹立たしいのに、それは何故かと言うと、彼が無理をするからなのだ。
とっくに円熟期を過ぎたヒーロー。もう引退して後生をゆっくり過ごしてもいい筈なのに、彼はけっしてそうはしない。助けてきた人々の感謝の言葉だけを受け止めて、ポイントになんて固執せず、自分だけの美学に生きている。
ずるい、と思った。
そんな事が出来るなんてずるすぎる。
自分は復讐の為に生きる事で精一杯なのに、彼は余裕すらあるのだ。
「ほら、なにしてるんだ、バニー。行くぞ」
「はいはい」
そして、出発する。
場所は腕に巻かれたバンドが伝えてくれていた。
そして、再び犯人と対峙する。
やはりと言うか、当然と言うか、それは今朝の男だった。
「なんだ、懲りずにまた来やがったのか」
「どうやら一番乗りのようですね、おじさん」
「そうだな、バニー」
そこで、容赦なく虎徹は散弾銃を撃ち込む。
「お、おい!」
この国に死刑制度はない。だから、本気の銃撃ではないが、威嚇には十分だった。
その隙にハンドレッドパワーを発動させたバーナビーがとんと軽く宙を舞い、彼の背後に立つ。
「返してもらいますよ、ネクストの力」
「――……そんなもの」
「返せないとは言わせませんよ。返せないとしたら――あなたを殺します」
「ひいい」
低い地を這う声だった。本気の威嚇だった。
もし虎徹に能力が戻らなければ、自分はまた別の人間と組まされる事になるだろう。そして虎徹は只人に戻って市政で暮らす。
その方が、きっといい。彼は危険にさらされる事がなくなる。
だが、それがどうしてもバーナビーは嫌だった。
相棒と呼べるのは、彼だけだと思ったのだ。
「おい、返せよとっとと」
銃を再び構える虎徹は、威嚇の為に空へと今度はライフルを撃った。
腕を捕まえた男は、びくりと震える。
「ひとりくらい、人口が減ったところで分かりはしないんですよ――それも犯罪者ならね」
「な、なにを……死刑制度は……」
「僕達は裁く権利はない。だけど、この場のミスでうっかり殺してしまうことはあるでしょう」
「…………っ!」
男は戦慄したようだった。がたがたと震え始める。
「能力は?」
「返す、返す!」
そして、ぽうっと青い燐光に包まれた球状の物を手のひらの上にのせた。
それを、バーナビーに差し出す。
「それを、突っ込め。本人に」
「分かりました。では、あなたにはこれをプレゼントしておきますね」
と、今度こそ蹴りを決めた。ストレートに綺麗に決まり、男は昏倒した。その状態のままワイヤーでぐるぐる巻きにしておく。
「手間掛けさせないでくださいよ、おじさん」
「悪ぃ」
そして、バーナビーの手のひらの上ににるそれを、体に取り入れた。
酷く苦しそうな顔をしている。まさか騙されたか、と一瞬思う。かたかたと虎徹は震え、そしてその場に昏倒してしまった。
「おじさん、おじさん!」
背筋がぞっと冷えた。
自分が与えたものは何だったのだろう?
もしかしていっぱい食わされたのだろうか――? まさか。そんな筈がある訳ない。
あの男もいっぱいいっぱいだったように見えたのだ。そこでトラップなど仕掛ける余裕があるほど、器のでかい男にも見えなかった。
「おじさん!」
だが、彼は目を覚まさない。
バンドに直截犯人確保を伝え、場所も同時に告げる。
そしてサイドカーに彼を乗せたまま、再びバーナビーは会社に戻った。
ひどい冷や汗をかいていた。
会社に戻り、目を覚まさないままの虎徹を医療室へと運び込む。スーツは着せたままだった。開発班の人間が立ち会い、それを脱がせて行く。
すると、あれを取り込んだ付近の腹部が真っ黒に染まっているのが分かった。
「………っ」
やはり、罠だったのだ。
医療班が精密検査を始めた。触診しても意識がなければ分からない。
CT、MRI、レントゲン、その他諸々。
だが、原因らしい原因はその時点では分からなかった。
目を覚まさないままの虎徹が乗ったベッドが、運ばれてくる。
「おじさん! 目を覚ましてください、おじさん!」
――こわいものが、くるよ。
それはウロボロスの入れ墨を持った男。
――こわいものが、くるよ。
それは火に包まれる家。
――こわいものが、くるよ。
それは、二度と目を覚まさない両親の姿。
――こわい、ものが、…………目から、涙がこぼれそうになった。この年になってなんてことだろう。自分のミスが招いてしまった事だった。そして、ようやく彼が大切だったと気付くのだ。
「おいおい、なんて顔してやがる」
「……え」
「泣いてんのか?」
病室に既に移動されていた。
壁際に逃げるようにしていたバーナビーは、突然の声に弾かれるようにして、頭を上げた。
そう、彼から顔なんて見える筈がないのだ。
なのに、なぜ。
「俺は平気だよ、気にすんな」
よっと、と声を上げ、彼は上半身を立て直す。
「ちょっと、おじさん、やめてください! 原因もまだ分かってないんです」
「分かってるよ。ただのショック状態だ。ネクストの力ってのは強大だなあ」
「はあ?」
「突っ込まれた瞬間、全身に電気が走ったみたいだった。あんなのを普段持ち歩いてるんだな、俺等は」
「え?」
「ようするに、お前が返してくれたおかげで、自分の能力のすごさを知っちゃったー、みたいな?」
えへ、と頭に手をやって、彼は笑う。
一気に力が抜けた。
その場に座り込みそうになった。
「なんですか、それ……」
「え、だからネクストの能力が……」
「それは分かりました! そうじゃなくて!」
「じゃなくて?」
「僕の心配はどうしてくれるんですか!」
「あ、それは悪かった」
「軽すぎます!」
本当に軽く言われた言葉に腹が立った。
そのまま、踵を返して病室を出ようとする。もう彼は大丈夫だろうとも思えたし、本気で腹が立ったからだ。
「すまなかった、バニー。お前の悲鳴を聞いてやることが出来なかった」
「なに……」
「俺は正義のヒーローだ。お前だって助ける立場にあるんだ。だけど、今回ばかりは出来なかった。すまない」
声のトーンが低い。本気の言葉だと分かる。
だから、ずるいのだ、彼は。
「そんな事、知りませんよ。それに僕は悲鳴なんて上げてません」
「いーや、上げてたね。俺が能力失ってから、ずっと」
「そんな……」
「そんなに俺と別れたくなかった?」
急にまた、声のトーンが戻った。笑いを誘うような声音だ。
だが、バーナビーは気持ちの切替など出来なかった。
「ええ。別れたくありませんでした。では、失礼します」
そのまま振り返らずに、外へ出る。
彼がどんな顔をしたのかは見たかったけれども、振り返ったら負けのような気がした。
だから、そのまま廊下に出て、自分のオフィスへ戻る。
犯人逮捕。
手柄はブルーローズのものになっていた。
それでも構わない。一番大事なものは、自分の手で守れたのだから。
バーナビーは自分の席に座り、じわりと目元が熱くなる感覚をやり過ごそうと必死になっていた。