「なんだ、珍しいのを引き連れてるな」
と、アントニオに顔を見るなり言われた。それもそうだろう、自分はひとりではない。
あり得ない顔が背後にはいる。
「珍しく、付いて来たいって言ったんだよ」
「たまには僕も外で飲みたい時もあります」
「へぇ」
と、アントニオに自分と――バーナビーを見られるのが、ひどく居心地が悪かった。
三日前の事だ、酔っぱらった挙げ句、つい寝坊して遅刻してしまった事があった。
その時にさんざバーナビーには嫌味を言われたのだが、ついでに外で飲んでいる事までも問いただされてしまった。家飲みだけのみならず、外で醜態なんてさらしてませんよね? と厳しく言われたのがその時。
外では嗜む程度しか飲まないと言い切っても彼は全然信じてくれなかった。
そして、こうなってしまったのだ。
見張りがあっては飲むものも飲めない。
取りあえずいつも通りに焼酎のロックを頼むと、バーナビーはいきなりブランデーのストレートをオーダーした。しかもかなり高級な品物だ。
「お前、嫌味か」
「単に好みなだけです」
「それが嫌味なんだよ」
「そう感じるおじさんがの感性がひがみで歪んでるんですよ」
「なんだ、お前ら仲良くて来た訳じゃないのか」
ははは、とアントニオが笑う。
笑い事じゃない。
この生意気な後輩は、口が悪くていけない。
「あのなあ、誰がこいつとなんか」
「僕だって来たくて来た訳じゃありませんよ」
「なんだ、やっぱり仲がいいのか」
「違う!」
「違います!」
タイミングもぴったりに、ふたりの声が重なった。
しばらくしんとした後、アントニオには盛大に笑われてしまった。
さすがに虎徹もバツが悪い。隣のバーナビーも同じようだった。
「なあ、証明してくれよ。俺がここで悪酔いなんかしてないって」
「なんだ、そんな事を確認しに来たのか?」
「ええ。この間、深酒のしすぎで遅刻してきたんです、この人」
冷たい視線で見られた後、アントニオには営業スマイルなのだから憎々しい。
「俺は外ではそんなに飲まねえ」
「まあ、確かに。それほど飲んでねぇよ」
「そうなんですか?」
「意外そうだな」
訝しげに聞くバーナビーに、アントニオは笑いかける。
「心配しなさんな。お前さんの相棒はそこまで落ちぶれちゃいない。ヒーローとしての振る舞いくらいは身につけてるさ、安心しろ」
声を潜めて、彼はバーナビーに告げた。
自分がヒーローであることも、アントニオがヒーローであることも、ここでは当然秘密の事だ。
ただ、バーナビーがここに来た事で少しばかり空気がざわめいたが、元々大人向けの静かなバーだ。騒ぎにまではならなかった。
虎徹とバーナビーの関係にまで思いを馳せる人間などそうはいないだろう。
「そうですか、アントニオさんが言うのなら、安心しました」
「おい、お前な、俺の言葉は信用しないくせにこいつの言葉は一発OKか?」
「実績の違いです」
きっぱりと言い捨て、バーナビーはブランデーを半ば以上一息で飲み干した。
「おい、お前こそ無理な飲み方するなよ?」
「平気ですよ」
斜めに見て少し微笑む顔が、小憎らしい。
しかし、虎徹はそれを少しばかり気に入ってもいる。と言うか、言葉で言う程彼の事を嫌ってなどいないのだ、本当は。
最初こそクソ生意気な新人だと思ったが、今では一端のヒーローであり、大事な相棒だと思っている。彼がどう思っているのかは知らないが、自分はそれなりに信頼もしていた。
だからこうやって、自分の行きつけのバーまで案内したのだ。嫌いな人間になど、隠れ家は紹介しない。
「マスター、おかわり」
嘆息し、自分のグラスを飲み干すとマスターへとグラスを差し出す。
黙ってそれは受け取られ、新しいグラスはすぐに差し出された。
「ペース早いですね」
「まあ、いつもこんなもんだ、こいつは」
「そうなんですか?」
「ああ、悪いか? それほど酔いもしねえよ」
にやり、と笑って新しいグラスを残り半分になってしまったバーナビーのグラスにチリンと合わせ、にっかり笑った後、口を付ける。
「今頃だけど、いらっしゃい。俺の隠れ家へ。バニーちゃん」
「……ありがとう、ございました」
妙に居心地の悪そうに彼は告げる。
あれ、と思った。
どうしたのだろう?
「今日くらいはおごるから、好きに飲めよ」
「いいですよ、薄給の身でしょう? 僕は高いブランデーしか飲みませんよ」
「それくらいの金は払えるよ」
「自分は焼酎のくせに、ですか?」
「これは単なる好み。お前と一緒だ」
そう、と彼はグラスに口を付けた。
急にしおらしくなってしまった。
アントニオの言葉と、自分の歓迎の言葉が効いたのだろうか。
そんなに簡単なものだったのだろうか。あの日の嫌味は三十分近く続いたと言うのに、とんだ聞き損だ。
そのうちアントニオが、仕事には慣れたか、だの、こいつには慣れたか、だの普通の会社員のようにぼかして会話を始める。
自分は急に殊勝になってしまった彼を観察するので精一杯で、盛大に楽しませてもらった。
「ほらな、酔いはしねえだろ?」
「今日だけかもしれません。僕がそばにいたから」
「そう言ってるお前の方が足下危ないだろ」
「そんな事ないですよ」
アントニオは別方向だ。
店を出たのはあれから二時間後、グラスを四杯は空けた後だった。
その程度では酔わないのは実証済みだ。自分はいつもと同じペースだった。
お前のまでは払わねえよとアントニオには自分で払わせ、いつもの倍額以上の金額を払って店を出た。
夜風が涼しくて気持ち良い。と言う事は幾分酔ってはいるのだろう。
それよりも問題は、この後輩だ。
次々とグラスを空けていくので強いのかと思いきや、帰る段になってようやくしこたま酔っている事が判明した。
今もひとりでなんとか歩いているが、時々たたらを踏む。見ていられなくて手を差し伸べれば、その手を払われるのだから、なんとも扱いにくい酔っぱらいだった。
ただ顔色も変わらないし、言動だって普通なのが危険だ。
見た目、分からないのだ。現に店では気付かなかった。
「お前、結構弱いのか? それとも密かに緊張してた?」
「まさか。そのどっちもあり得ませんよ。僕は今も普通です」
「千鳥足で歩くヤツの言う事かよ」
「普通に歩いています」
「はいはい」
酔っぱらいには逆らわないに、限る。
そして、「おじさんの家はどっちですか?」と尋ねて来た。
今日は泊まる気なのだろう。まあ、ここまで酔っぱらった同僚をひとりで送り返すのは甚だ心配でもあったので、丁度良かった。
「歩いてすぐだ。だから一緒に来い」
「僕を泊めてくれるんですか?」
「ああ。でも寝るのは床だぞ」
「……ベッド貸してください」
「ヤだよ、一個しかねぇのに」
「一緒でもいいです」
「狭いっつの」
うっかり街路樹に突っ込みそうになったバーナビーを、慌てて腕を引っ張って引き寄せる。
バーナビーは驚いた顔をして、自分を見た。
「どうしたん……っ」
その瞬間、口付けをされた。
まだ終電の終わっていない時間。だが、こんな狭い道には人通りもない。
ふたりきりの場所で、彼はそのまま自分を抱きしめてキスをする。
振り払う、と言う考えが思い浮かばなかった虎徹はそのままキスを甘受していた。
抱きしめられる腕の強さにも、だ。
「………嫌じゃ、ないですか」
「なにが」
「キス」
「………っ、お前、正気か」
彼の目は酔っていなかった。歩みはたどたどしい物だったが、思考は酔っていないのだ。
「だから言ってるじゃないですか。普通ですよって」
「それが……ああっ、もうっ」
手を引いて、ずかずか歩く。
返事はしてやらなかった。
何を思ってキスをしたのか、あの目を見て一瞬にして分かってしまったからだ。
そして、それを嫌と思わない自分にも。
徒歩十五分の距離を多分十分で帰った。
部屋の鍵を開けると、バーナビーをベッドへ押し倒す。
「お前、いいんだよな?」
「あなたこといいんですか?」
ちらり、と彼は家族写真を目にする。
それを見なかった事にした。そして、唇を無理に重ね合わした。
決して酔いの衝動ではなかったことは確かだ。自分は酔っていなかったし、バーナビーも思考までは酒に浸っていなかった。
お互い正気での行動だった。
こぞって、キスの合間に自分の衣服を脱ぎ捨てた。それをベッドの下へ落とす。
計らずしも、ベッドを貸す事になってしまった。狭いと文句を言ったのに、一緒に寝る事になってしまった。しかも違う意味で。
ああ、自分は何をしようとしているのだろうと頭の隅で冷静な虎徹は思う。
だけど、衝動が体を突き動かして、止まらなかった。
彼の意外そうだった顔。殊勝な声、営業用でなく、笑った顔。
そんなものが思い出されてぶわっと自分を襲って来る。
「キスだけで終わるとか、思ってねえよな?」
「じゃなければなんで脱ぐと思うんですか、おじさん」
「お前、経験は?」
「ありませんよ、もちろん」
「奇遇だな、俺もだ。乱暴になったらすまない」
先に謝っておく。低い声がゾクゾクと背筋を粟立たせた。甘い色香を漂わせた声だ。
「構いません……あなたになら」
反則だろう、と思った。
口付けだけで終わるなんてとんでもない。それ以上をしても足りない。
この気持ちはなんと言うのか、虎徹は知っている。
だが、この相手にそれを感じるのか? と驚きを持ってもいるのだ。
肌に唇を落とし、まだ若いすべやかさを堪能する。小さな尖りは既に立ち上がり場所を主張していたので、余す所なく舐め回した。
「……っ、んっ」
感じるのだろう。男でもここは性感帯になりえる。
低く潜めた声にぞわりと性感が追い立てられる。ひどく焦った気持ちになっていた。本当は丁寧に施さなければならない行為なのに、気持ちばかりが焦って、そして動きも荒くなる。
手を伸ばせば、バーナビーのものはすっかり勃ちあがっていた。手で刺激すれば、彼の腰がびくりと跳ねる。そして、再び甘い声。
くわん、と世界が回ったような気になる。
酔っているかのようだ。
「…っあ、ああっ」
彼の声が耳から頭の中を犯して来る。犯しているのは自分の方なのに、まるで逆のように感じてしまう。
「お前の声、甘過ぎ」
「そん…なっ、言われても……っ」
手でいかせるつもりだったが、気が変わった。
乳首を舐めていた舌をそのまま腹筋に沿わせて下げて行く。それに気付いたバーナビーは、慌てて自分の頭を押さえ始めた。
「ダメ、ダメ、です…っ」
「ダメじゃねぇよ」
そして、すっかり先走りに濡れたそこへかじりついた。
「あああっ」
やわく歯を立てた。そのまま、口を上下させる。
「あっ、ああっ」
バーナビーの声はひどくいやらしく聞こえた。ひどく煽られる。
そのまま手を後孔へ伸ばし、漏れ伝った先走りの液を塗り広げた。
「や……っ、だめ、で…っああっ」
黙らせる為に、勃起を舌に絡める。強く吸い、先端を刺激すればびくびくとそれは震え、吐精の前兆が伺われた。
「どうしたい?」
そこで意地悪に、虎徹は口を離して尋ねる。
「いきたいか?」
「………っ」
当然のように先があると思っていたバーナビーは、唖然とした顔で自分を見ていた。
その顔が、へにゃりと崩れる。男前も台無しだ。
「いきたい……です」
「よし、良く言えたな」
「子供みたいなっ、扱い……っあ」
再び口に勃起を含む。反抗する言葉は急速にしぼんで喘ぎにすり替わった。
このまま口に出されても構わないかな、と思い口撫を激しくした。
「や、ああっ、あ、あああっ」
その隙に後孔へ指を一本忍ばせる。そこは酷く狭かったが、だからこそ自分の性器が弾けそうになった。指で犯しているだけなのに、その狭さがたまらない。
「ダ、メ……はなし、くだ…あ、ああっ」
「やーだよ」
一瞬だけ、唇を離して言ってやる。そして最後の追い打ちを掛けた。
「やああああっ!」
びくびくっと彼の体は跳ね、大量の白濁が口の中に吐き出される。到底旨いと思えるどころかマズイものだったけれども、そのまま虎徹はそれを飲み干した。
ひくり、ひくり、と、いった彼の体はゆるやかにまだ震えている。
体中が弛緩していた。指も自由に動く。
その隙に、更にもう一本追加していた。
大きく二本の指を広げ、そこを広げてゆく。到底こんな狭さでは自分のものは受け入れられないだろう。だが、ここに入れたくて仕方がない。
諦めて丁寧にほぐすしかなった。
先走りの液体など、すぐに揮発して消えて行ってしまう。
弛緩した体が動きを取り戻せば、バーナビーは酷く痛い目に合うだろう。それは避けたかった。
一度、二本の指を抜く。そしてベッドサイドに置いてあった傷薬を手に取る。気休めくらいにはなるだろうと思ったのだ。
にちゃり、としたそれは指で繰り返し伸ばしているうちに、粘性が弱くなり、液体に近づく。
それを持って、再び彼の後孔へと指を伸ばした。
「な、なに……」
「自分だけ気持ち良くなってオシマイ、はナシだろう? バニー」
「……っ」
意味が分かったらしい。
一度引いた紅潮が再び見る間に元に戻って行く。
「経験ないのはお互い様。まあ、手探りでやろうぜ」
「は…はい」
従順なバーナビーなど珍しい。だがそれが愛らしくもある。
ゆっくり指を沈め、中を探る。
「痛いか?」
「いえ」
「でも、そんな顔してねえぞ」
「なんか変な感じがするだけです」
「そうか……じゃあ、続けるぞ」
「はい」
中は熱い。指で触っても頼りなく柔らかな場所だが、それがたまらなく気持ち良かった。
早く入りたい一心で、入り口をほぐしていく。
「や……あああっ」
だが、内を探っている指先がふと他と違う指触りを返して来る場所があった。そこに触れた瞬間、吐精した時と同じくらいの嬌声が上がる。
どうやらひどく感じる場所のようだと気付き、そこを執拗に撫でた。
「や、やめ、そこ…っ、ああっ、おじ、さ…ああっ」
見る間にほぐれていく。内部がひくひくと収縮している感じまでも分かり、たまらなく卑猥だった。
「も、大丈夫だな」
我慢も限界だった。
自分もギリギリまで勃起している。一度抜いておけば良かったと思ったが、それももったいなく感じる。その中間で、指を引き抜き自分の先端を底へ押し当てた。
「あ………っ」
「は…ぁ、っ」
じり、と内側へ飲み込まれていく。
熱さが自分を包み込む。
いつの間にか汗だくになっていて、こめかみを汗が伝っていた。今からこんなで、どうしようと言うのだろうか。
「痛く……ねぇか?」
「だい、じょうぶ…です」
バーナビーの息も上がっている。
自分の息も上がっている。
お互い、みっともないったらありゃしない。なんて思いながら、セックスなんてみっともいいものじゃないと笑いが漏れそうになった。
なんと言っても欲望のぶつかりあいだ。人に見せて良いものでもないし、見せられても困るものだ。
「じゃあ、行くぞ」
と、ぐ、っと体重を掛けた。
ずるりと先端が飲み込まれる。
「ああ…っ」
その後はスムーズに飲み込まれて行ってくれた。バーナビーはぽろぽろと涙をこぼし、受け入れている。
「痛いのか?」
「違います」
「嬉しいのか?」
「……違いますっ!」
「そっか、嬉しいのか」
この生意気な後輩は、素直に物を言いやしない。言葉が反射的に反抗的になった事で、あからさまに本意が分かり思わずにやけた。
「なににやけて……っああ」
ずず、と動かし始める。彼の憎まれ口もここまでだ。
感じていた場所は覚えている。そこを集中的に狙えば、彼は息も絶え絶えの嬌声を上げて、一度も二度も白濁を飛ばした。
「おじさ、の、くせに、体力……あり、すぎです……っ」
「そりゃあ、ヒーローだから、な」
リズミカルに腰を使ってやると、彼はもうすすり泣く様な声で喘ぐ。
一度虎徹とて吐精していた。だが全く萎える気配が見えない。一度いったことで、余裕が出来たのも確かだ。
泣きながら鳴くバーナビーの顔を眺めたり、白い肌がピンクに染まっているのを見たり、いたずらめいた気持ちで繋がっている場所を指で辿れば、ひどく彼が感じてしまったりで、徐々に再び追い詰められていく。
「ひーろー、は、こんなこと……っ」
「するよ、人間だからな」
「は、ああっ、あっ、あああっ」
突く勢いを強くした。自分もそろそろいきたい。
しぼられる感覚と内側のうねりにも、耐え兼ねられなくなってきている。
「もう、いくぞ」
「あ……ああっ、ああ、あ、ああっ」
もう聞こえてすらいないのかもしれない。
シーツをぎゅっとつかみ、目を伏せて涙をぽろぽろ流しているバーナビーはひたすらに喘ぐ。
それに乗っかるようにして、自分も息を吐き、そして幾度か目の最奥で白濁を放った。
「………くっんっ」
「はっ、はっ、はあ……っ」
彼は背をしならせ、再び吐精している。もう、色もついていないような状態だった。
とろとろと勢いなく吐き出されるそれは、大量の先走りにも見えた。
自分も息が上がり切っていた。
そのまま、抱き合うようにして眠った。
シャワーを浴びた方がいいことも、シーツを変えた方がいいこともわかっていたけれども、今のこの感覚を手放したくなかったのだ。それはお互いだっただろう。
翌朝目が覚めれば、バツの悪い顔をしたバーナビーが自分を見ていた。
目を覚ました事に気付き、慌てて目を反らす。
「おい、どういう了見だそりゃ」
「別に……」
「抱かれて失敗した、とか思ってんじゃねえよな?」
「ち、違います!」
慌てた顔で、バーナビーは視線を戻す。再び近い距離で合った視線で、問いかける。出来るだけ優しい顔をしたつもりだった。
「…………違い、ます。あなたが」
「俺が?」
「後悔、してるんじゃないかと、思って」
また視線が外された。
「俺が?」
目を見開いて、彼の顔を挟み込む。そして、まっすぐにこちらを向かせた。
「これが後悔してるヤツの顔か?」
「…………」
「こいつ……全く、世話の掛かる」
そして、口付けを額に落としてやった。
「後悔なんかしてねぇよ、当たり前だろ。お互い素面だった。お互い求めてやったんだ。お前こそ後悔するなよ」
「しません! ……するはずが、ないでしょう」
「へえ」
「……なんですか」
「盛大な愛の告白を、今聞いた」
「そんなの言ってません」
「いーや、言ったね」
そして唇にキスをする。
「さて、仕事行くか」
そして時計を見る。
――時刻は、午前十時を示していた。
二人揃っての遅刻の言い訳は、どうしたらいいのだろう?