空調が壊れたとの事で、室内が過ごせる温度ではなくなってしまった。
夏だ、大きく窓の取られたこの部屋では熱死すると思い、避難することにした。残念ながら今日は休日で、職場は閉まっている。いや、メディア系の会社だから会社自体は開いているのだが、何も休日に好き好んで出社する程の気質でもない。
だから、車に乗って相手に確認もせずにブロンズステージへ向かった。
どうせ怠惰に過ごしているであろう、虎徹の家に行くのだ。
彼の家なら空調があってもなくても、それなりに過ごせてしまえそうな自分がイヤだった。
彼に心をすっかり持って行かれてしまっている。慣れとは怖いもので、自分の中へ踏み込まれた時はうんざりし通しだったというのに、今では彼が踏み込んで来ない事が怖くなってしまった。
自分には唯一の目的がある。
それを阻害するものは排除すべきなのに、心は素直に従ってくれなかった。
だから二律背反のまま、自分は結局虎徹を選んでしまっている。空調の効いた図書館へ向かうと言う手だってあったのに、まだ開館時間じゃないからとの言い訳を準備して嬉々として慣れた道を走っているのだ。
受け入れられた事も、また悪かった。
彼には余裕がきっとあったのだろう。自分みたいな余裕のない人間を抱きしめてくれる包容力があった。それに甘えてしまっている自覚はある。
でも、この二十年知らなかった甘いものを与えられてしまっては、今更なかった生活に戻る事が出来ない。世の中にはこんなにおいしいものがあったのだと知ったのに、それを目の前に食べられないのと同じ事だ。
だから、と言い訳をしながらブロンズステージへと車が入った。
虎徹の家は同じ作りが並んだ石造りのアパートメントだ。中は意外と広い。
その間取りは既に熟知していた。ほぼ住んでいるかのように毎晩泊まっていた時期もあるのだ。
今は、それなりに自重という言葉を覚え自分の部屋へ帰る事も多くなったが、それでもこの家で過ごす時間は多分自分の部屋で過ごす時間よりも長いままだ。
その事実に苦笑しながら、車を降りた。合い鍵は既に預けられている。
一応部屋に入る前に携帯でコールをしたが、相手は出なかった。まだ眠っているのだろうか。
PDAの緊急コールには反射のように反応を示すが、携帯には無反応なのは良く知っている。
まあ、寝てたら寝てたで良いかと思い、鍵を差し込み部屋に入る。
石造りのためか空気が外より少しばかりひんやりしていた。それが気持ち良い。
室内は薄暗いままだ。やっぱり眠っているのだろう。腕時計を見れば、午前十時になろうとしている。さすがに寝過ぎじゃないのだろうかとロフトに向かいかければ、居間にビールの缶が大量に転がっているのが見えた。
また飲み過ぎたんだなと再び苦笑が浮かぶ。
ならば、まだ起きない事にも納得行く。
ロフトの階段を上がれば、Tシャツに下着一枚というなんとも言えない格好のまま、布団を蹴飛ばして眠っている彼に出会った。
「おじさん、もう朝ですよ」
呼び掛けてみる。しかし反応はない。
しょうがないなと思って、近寄ってキスをする。
「起きてください?」
そして、再びキス。
唇を重ねるだけのものだ。
だけど、二度目のキスの時に、ぐいと抱きしめられ、そのままベッドへ引っ張り寄せられた。
「……っと、おじさん?」
彼は眠っている、ように見える。
だが頭を抱き込んだ腕の力は強い。それをなんとかかいくぐると、ほうと息をついた。
「動物的勘だな」
笑いが浮かぶのを止められない。きっと自分の匂いに反応したのだろう。それか、深層に響いた声にか。だが、どうしても前者であるように思えておかしくなった。
「おじさん」
少しだけ、大きな声で呼びかける。
するとようやく反応らしきものがあった。
「――んだ、夢かと思った」
うっすら目を開け、顰められた不細工な顔だ。それも可愛いなと思ってしまう自分は既に手遅れだ。
「お邪魔してます」
告げると、ごそごそと彼はベッドの隅に寄り、ぽんぽんと出来た空間を叩いた。
それは、ここに来いと言う事だろう。しかしこんな早朝から――と、思ってしまう。
躊躇している間も、ぽんぽんぽんぽんとベッドを叩き、自分を見上げてくる。目が訴えている。
――負けたのは、自分の方だった。
ライダースジャケットを脱ぎ、その場所に横たわる。
その瞬間に抱きしめられた。
「うん、バニーの匂い」
やっぱりか、と思った。彼は自分の匂いに反応したのだ。自分は彼と違って香水などつけていないのに、一体どこで判別しているのだろう。
すんすんと首筋に顔を埋められて、匂いをかがれる。それがくすぐったい。
「くすぐったいですよ、おじさん」
「そうか」
でも彼はやめてくれそうにない。――どころか、シャツまでも脱がそうとし始めた。
背中を引っ張り出され、ぺろりとめくり上げられる。
むき出しになった素肌をぺたぺた触れて、満足したような吐息が首筋をくすぐる。それは決して性的なものではないのに、ふるりと体が震えてしまいそうになった。
「あ、欲情した?」
さっきよりは随分覚醒したらしい。彼は笑いを滲ませた声でもぞもぞ聞いて来る。
「してませんよ」
「でも、反応した」
手のひらの動きが、とたんにいやらしくなる。シャツを引っ張り上げて、
「ほら、万歳」
と言うものだから素直に従えばシャツをすぽんと抜かれてしまった。
「たまには怠惰に過ごそうぜ」
「いつもおじさんの休日は怠惰です――まだ、お酒の匂いがしますよ」
「うん。だってバニーちゃん来てくれなかったしさー。楓もとっとと電話切りやがるし。寂しかったのよ、おじさんは」
「だったら……」
電話の一本でも入れるなり、彼が自分の家に来れば良かったのに。と、言いかけた口を封じられた。
合わせた唇が割られ、明らかにさっきまでとは違う性的なキスを施される。たった今まで眠っていた人間特有の乾いた舌が、自分の唾液に濡れて行く。
「……んっ」
舌を絡められ、ぞわぞわとした震えが今度こそはっきりと背中を走った。
それを彼も感じ取っているのだろう、口腔内で彼の舌は好きに動き始める。歯列を舐めて、そのまま口蓋を舐められる。そこは、弱い。
「んん……っん」
ぎゅ、と彼の体にしがみつく。
汗っぽい匂いと香水の匂いが混じり合った、彼特有の香りがまるでセックスの最中のように感じられて、ますます性感が刺激された。
手のひらは背中を不埒にさまよっている。
背骨を際までなぞり、ベルトでがっちりホールドしてあるその隙間をぬって割れ目の入り口にまで指が侵入して来た時には、さすがに体が跳ねた。
「……は、ぁ」
キスが一時中断される。
すっかりその気になってしまった虎徹は下着一枚の姿だ。そこがどういう反応を示しているのかなんて、見ただけですぐに分かる。
「ベルト、外せよ」
「……はい」
自分でかちゃかちゃと外した。二穴バンドのこのベルトが虎徹は酷く苦手らしい。スムーズに外せた事がない。だから近頃では自分で外させるようになっていた。
ベルト、変えるかな……などと思ってしまう。
自分でベルトを外すのはその先を要求しているようで、気恥ずかしくてたまらないのだ。
無事バックルを外し緩めると、虎徹の手がボタンを外しジッパーを降ろした。そして、そのまま下着ごと自分の下肢を素っ裸にさせる。
自分のものも彼に劣らず反応してしまっている。キスひとつでお手軽なものだった。彼だからこそ、ここまでになってしまう。女性経験がないではなかったが、キスひとつ取ってもなにもかもが違った。それは性差ではなく、心の問題であろう事は、復讐心以外育ててこなかった、つまり何事にも疎いという自覚のある自分でも既に分かっていた。
きっと、彼に育てられてしまった。いろいろな感情を。
心を動かすと言うことを知ってしまった。
「はは、すっかりその気だな」
「おじさんこそ」
手を伸ばして来た彼の手を払い、自分が彼の下着に手を掛ける。先走りが下着を濡らしている。自分より性的に興奮しているのはむしろ今現在、彼のようだった。
「寝起きだし、生理的現象」
「……最悪な事言いましたね、今」
「え、そう? バニーも勃つだろ?」
「そういう問題じゃなく」
生理的現象を自分で処理しようと言うのだろうか。だとすれば、なんとデリカシーのない。だがしかしそれがこの鏑木・T・虎徹と言う男なのだ。とっくに諦めてもいる。そんな部分も含めて好きなのだから、仕方がない。
手を伸ばし、脱がせた下着から顔を出し勃ちあがったものを手で刺激する。
至近の距離にある彼の顔が快楽に歪む。いつも劣勢の自分が、なんだか彼を追い詰めるというのは珍しくてひどく興奮した。
そのまま手を筒状にして、上下に擦り上げる。先走りのぬめりを全体に塗り広げているから、スムーズに動く。時折先端をくるくる弄ると、彼は低くうめきを上げた。
声を上げさせたいな、と思う。でもそれはどうやら難しいだろうなあと思った。
挿入して快楽の最中にある時ですら、自分は訳が分からなくなって喘ぎまくってしまうのに、彼は低いうめきを漏らすのが精一杯だからだ。吐精する時だってそうだ。
だけど、意地になって彼の性器を両手で弄り始めた。
裏筋を辿り、袋を軽く揉む。本当は咥えたかったが、しっかり彼に抱きしめられた状態では無理そうだった。きっと自分が感じるだろうから、彼もそうだろうと会陰部を撫でるように押せば、
「ダメ、そこダメだから、バニーちゃん」
と、手を止められた。まさか逆を怖れたのだろうか? 残念ながら、今のところ彼を抱きたいとは思ったことがない。抱かれる喜びを知ってしまった。男なのだから、当然突き入れて相手を揺さぶりたいという欲求がない訳がないでもない。だが、虎徹はそんな風に扱ってはいけない相手のように思っていた。
「大丈夫ですよ、おじさん。別に突っ込みませんから」
仕方なく性器に手を戻しながら、小さく笑い彼に告げる。
途端、そうなの? と言う言葉が返ってきて、ああやはりそれを怖れたのかと思った。
さすがに抱かれる勇気はないらしい。いや、覚悟がまだない、だろうか。もし自分がいつか抱きたいと告げれば彼も彼なりに考えてくれるだろう予感はしている。
こう見えて、自分はべたべたに彼に愛されているのだ。
「それより……気持ちいいですか?」
「ああ、たまんねぇ」
感じ入ったように、掠れた声で告げられる。
ぞくぞくとこちらが感じてしまう声だった。
「おじさんは動いたらダメですからね。僕がいかせるんですから」
「分かったよ」
笑いの気配を感じたかと思うと、低いうめきが再び上がった。
そろそろ相当追い詰められているだろう。握っている場所は硬度も増し、張り詰めんばかりに勃起している。痛い程じゃないだろうか?
「おじさん、手を緩めて?」
言われた通りに解かれた腕にほっとする。
そのまま体をずらすと、ぱくりとその場所をバーナビーは咥えた。
「……はっ」
じゅぷり、と唾液の音をさせて咥えた口腔内で舌先を動かす。
性器を辿るように動かし、やがて頭全体を使って唇をすぼめ、彼の性器を絞るように口撫した。
「やめ…バニー、い、く」
言われてもやめる気などなかった。そのために口でしているのだ。
髪を握られた瞬間、先端を甘噛みした。
「………っん」
びくびくんと口の中の性器が跳ねる。と、同時にどろりとした青臭い液体が口の中に広がった。
「す、すまん……っ」
焦ったように虎徹は告げる。今更だと言うのに何を言っているのだろう。こうやって虎徹の熱を飲むのはなにも初めてではない。
こくんと決して旨くはないそれを嚥下すると、少しばかり満足した。
キスをしたいけれど、今自分のものを飲んだ唇では少し彼も辛いだろう。
そう思って、仕方なく伸び上がって彼の肩口に噛みついた。
「謝らないでくださいよ、今更です」
「……だな」
笑いの気配。もうとっくに彼は覚醒していた。
噛みつかれた肩の痛みにびくっとしていたが、そのまま背中を再び不埒な手がさまよい始めた。今度はガードするかのように頑丈に絡まっていたベルトはそこにない。遠慮なく、その場所へ手を伸ばされた。前は一切刺激されないままだ。それなのに勃起はますます固く、快楽を得る。
虎徹は手を伸ばし、自分と関係を持つようになってから常備されるようになったローションを手に取る。そして後孔へと塗り込めて行った。
まだ覚醒したと言ってもどこか意識ははっきりしないのだろう。非常に欲望に忠実だ。
ぬるりとした感触とともに、指が一本入って来る。
その指がとっくに知られている自分の弱い場所を掠りながらも内側を広げて行く。
二本、三本と増やされ、自分の息が荒く、時折喘ぎが混じるようになって来た時に、虎徹はようやく指を抜き去りむくりと起き上がった。
そして自分の足の膝を立てさせ、左右に大きく開く。
慣らされたとは言え、羞恥を感じるのは仕方がない。
見られていると思うだけで、淡い喘ぎが漏れる。
そして、いつの間にかしっかりと復活していた虎徹のものに貫かれた。
「――ああぁああっ」
熱い。熱が一気に差し入れられる。十分にほぐされた場所だったから痛みはないけれども、快楽はとてつもなく手酷くバーナビーを打ちのめした。
「あっ、あぁああっ」
シーツをぎゅっと握る。その手を、虎徹によって彼の背に回された。
前傾姿勢を取った彼の背中に抱きつくような形になり、そのまま律動が開始されるのを待つ。
じっとしているだけでもいってしまいそうだ。
「あー、いい顔。すげぇ、好き」
「やらしい、事言わないで、くださ……はやく」
「淫乱なバニーちゃんもいいよね」
などと言いながら、しかし虎徹は自分の欲求に答えてくれた。
最初はゆっくりと、しかし次第と彼の欲望そのままに激しく強く突き入れられる。
そのやり方が好きだった。彼が自分で快楽を得ているという事実が自分の快楽を更に深める。
汗で滑り始めた手を必死で回し、時折爪を立て、彼の背中に引っ掻き傷を作ってしまう。彼の背中の傷は二種類ある。ヒーローとして戦った時に出来た古傷と、日々に近く増産されて行く、バーナビーの爪の跡だ。
トレーニングセンターのロッカールームで偶然ネイサンにその傷を指摘された事があったが、彼は苦笑して上手くごまかしていたけれども、自分は顔を真っ赤にしてそのままロッカーの影に隠れた記憶があった。
だけど、こうでもしなければ過ぎる快楽を逃す事がでいない。
「ああぁああっ。ああっ……っんっあ」
声だって漏れ放題だ。だけど、肉を割る動きにはそれほどの快楽が伴う。自分一人では手に負えない程のものだ。
「あ、ああぁ、あぁっ、もっ……おじ、さ……っ」
それはいつも唐突だ。
快楽はいつだってある。だがぐわっと押し寄せるように来る大きな波を感じるようになったのはここ最近の事だった。そしてその波に身を任せれば、もみくちゃにされるがとんでもない快楽を得られるとも知った。
吐精もろくに出来ない快楽だ。
まだ、バーナビーは一度も精を吐き出していない。それでもそちらの波が押し寄せて来た。
声に反応して、虎徹の動きは更に激しくなる。
弱い場所を狙うようにして動き、ぽたぽたと汗を落としてくる。それが自分の肌に触れるだけで媚薬のように感じてしまうのだからもう本当にどうしようもない。
「あ………あぁああああ――っ」
びくんっ、と大きく体が跳ねた。顎を突き出すようにして、その快楽を少しでも逃すようにとするが到底そんなものでは手に負えない。
とろり、と勢いなく精が吐き出されている事が分かった。
そこでようやく、虎徹の手が勃ちあがった自分のものに添えられる。
「やっ、ああぁあっ、あっ、ダメ、あっ」
ひどい快楽が増す。
だが吐精を促す彼の動きはそのままで、後背を酷く締め付ける結果となった。
「すげえ、もう俺もダメかも…」
そう告げ、前を弄ったまま虎徹は再び、今度は少しペースを落とした律動を開始させる。
それすらも酷く感じる。いきっぱなしの感覚は怖くすらある。彼の背中に必死になってしがみついた。
「よしよし、怖いんだよな」
こく、こく、と頷くしか出来ない。
分かってても、だけど彼は動きを止めてなどくれない。
律動は再び激しくなって行く。
自分が達しようとする動きだ。
「あ、あぁ、ああぁああああっん、ぅ、あっ」
涙がぽろぽろと落ちて行く。
怖いのだ、確かに。こんな快楽なんて知らなかった。吐精の瞬間より下手すれば強いそれがずっと続いている。
「も……俺も……っ」
「おじさ…ん…っ」
ぐ、と一番奥深い場所に虎徹はとどまり、そして熱を解放した。
その熱にも感じる。
とろり、と再び自分の性器からは精液がこぼれ落ちた。
もちろん一度きりで終わる訳がなく、もういきっぱなしになっている自分には怖いくらいに気持ち良い時間がそれからしばらく続いた。二度吐精した事で相当余裕を持った虎徹が、これでもかと言う程に自分を開発していくのだから、耐えられない。
既に感じ切っているところに施される愛撫は気が狂わんばかりの快楽を生み出すばかりだった。
虎徹がようやく三度目に達した時、バーナビーは、意識に霞が掛かっているのに気がついた。
ずるりと性器が抜かれて行く感触にも感じ、体が震える。
焦点の合わない目で、ぼんやりと天井を見上げていた。
「おい、バニー。バニー?」
ぺちぺち、と頬を叩かれる。
ゆっくりと虎徹に視線を向けるが、やはり視界は霞が掛かり、上手く焦点を結べない。
「おまえ……そんな顔してっと……」
こくり、と彼が息を飲んだ動きがなんとなく分かった。
「やめて、やれねぇぞ」
「も……むり、です……」
「いきっぱなしの顔してやがんな」
「も、むり……」
そして、ふっと世界が暗転した。
気がつけばベッドで抱きしめられたまま、眠っていた。
酷く男臭い。
だが彼の香水のラストノートがわずかに香る。それが好きで、くん、と彼が好んでつける耳朶の裏側へと顔を寄せた。
「お、目が覚めたか?」
「――おはよう、ございます?」
「なんだ、記憶までぶっとんだか?」
「………」
彼とセックスしていたのは覚えている。だが、確かに終わり際の記憶がまるまるなかった。
ひどく泣いた後のような目の腫れぼったさを感じるが、少なくとも自分は泣いた記憶なんてない。
急に怖くなった。
「な、なにか僕……」
「すげえ、可愛かったぜ。つーかお前ヤバすぎ」
「え」
「すげえ顔してやがんの。いきっぱなしでもう感じて感じてしょうがありません! って顔し…」
「してませんよ!」
「いや、してたね」
「しません!」
「へーえ、記憶、あるんだ?」
にやり、と虎徹は笑う。
まさかそんな顔をしていたのだろうか。確かに今日はひどく気持ち良かった。だけど、意識どころか記憶まで飛ばしてしまうなんて……。
「馬鹿な、事。言ってませんでしたか?」
急に怖くなる。
自分はまだ、この人に好きだと告げていない。
「言う? そんな余裕あるかよ、喘ぎっぱなし」
揶揄するような言い方だったが、しかし逆にほっとした。
彼もまだ口にしない言葉だ。自分もまだ口にしたくなかった。
「さ、取りあえず風呂入ろっか。――ところでなんでバニーはこんな時間からうちに来たんだ?」
今更な事を問われて、バーナビーは思わず返答に困った。
すっかり汗だくだ。空調の話なんて切り出せる筈がなかった。