「ふ……ぅ、んっ、ああっ」
深夜だった。酒よりセックスとばかりに帰宅してすぐにシャワーも浴びずにベッドの上にふたりでなだれ込んだのだ。夏の暑い日は、とことんまで暑くなるに限る。
一度バーナビーをいかせ、後孔を弄り甘い声を漏れさせている所だった。
自分の性器は張り詰めんばかりに硬度を増して、今、指が堪能している場所に入りたがっている。
既に三本の指が突き入れられた場所はいびつに歪みながらもひくひくと動き、自分を誘っている用にしか見えない。
「――もう、いいか?」
「あ、ああぁあっ、あ」
良い場所ばかりを弄っているせいか、バーナビーの意識は既に朦朧としている。そう言えば空調すらもつけていないので、室内は蒸し風呂だ。そのせいもあるだろう。熱に犯されている。
まともな返事は期待出来そうにないので、まとめて三本の指を引き抜いた。そして、自分の熱を挿入させる。
相変わらず、狭くてきゅうきゅうと締め上げてくる場所は気持ち良くてたまらない。すぐにでも最奥まで突き刺して、バーナビーが壊れるくらいに突き動かしたくなるのだが、これは同性同士のセックスだ。そう簡単にいかない事も分かっている。濡れない代わりにローションを用いても、それだけじゃあやはり足りない。
ようやく、じっくり時間を掛けて最奥まで達した時だった。
耳障りなコール音が聞こえる。
熱に浮かされていたバーナビーも、一瞬で正気に戻った。
「おい、ふざけんなよ……?」
ここからだ、と言うのにPDAは無情にも鳴り響いた。
サウンドオンリーに切り替えて、受信する。まさか無視する訳にもいかなかった。
『ボンジュー、ヒーロー』
「なにがボンジュー、だ。深夜だっつうの!」
『その割に反応早かったのね、起きてた?』
ああ、起きてたさ。そしてまさに今から最も気持ち良い行為に移るところだった!
「なんだよ、しょうもない事件だったら怒るぞ!」
『なにイライラしてるの? もしかしてお取り込み中?』
女のくせに、赤裸々だ。
素直に答える事は出来ないので、虎徹はそこで黙り込んだ。
『バーナビーは捕まらないのよね……眠ってるのかしら。サウスシルバーで宝石店強盗が発生よ』
「なんだよ、そのちゃちい事件」
『時価八億円のダイアモンドが盗まれたとしても?』
「はぁ? なんでただの宝石店にそんなもんあるんだよ」
『ただの宝石店じゃないからあるの、展示中だったのよ。だからこそ警備も厳重にしてあったんだけど……バーナビーと至急合流して、向かってちょうだい。いいわね?』
「はぁい」
諦めるしかないようだった。
それより、萎えてしまった。
バーナビーも通信を聞いて、しっかり醒めた顔をしてしまっている。
「まあ、ヒーローっつうのはそう言う仕事だけどさあ」
「諦めましょう、おじさん」
「だな」
ずるり、と萎えた性器を彼の中から抜き出す。
残念そうな顔をしていたのはバーナビーも同じだったので、ここは諦めるとする。
「さ、とっとと捕まえて続きすんぞ」
「ですね」
シャワーを交互に浴び、服装を整えると自分の車でふたりして会社へ向かった。
別々の車でも良かったのだが、どうせ帰る場所は同じになるのだ。無駄を省きたかった。
目的の逃走車はすぐに見つかった。
既にスカイハイとドラゴンキッドが到着している。スカイハイはともかくとして、ドラゴンキッドはまだ幼いのにこんな時間でも元気だなと感心してしまう。
スカイハイが風力で車を止めると、上手い連携でドラゴンキッドが車のボンネットに飛び乗り、電流を車に流し込む。
扉を開き、ほうほうの態で逃げ出して来た二人組を迎えるのは、こちらの番だった。
ハンドレッドパワーをオンにし、構えられたマシンガンの銃弾をかいくぐり至近の距離まで詰める。
同じく、バーナビーも同じようにしてもう一人の方へと向かっているようだった。
至近で「よう」と言ってやれば、覆面の男は「ひぃ」と後ずさる。
「この街にはヒーローってのがいるんだぜ? 知らなかったか?」
この手の犯罪にヒーローが駆り出されるのは当たり前の事で、そしてその捕縛率も高い。というか、百パーセントと言ってもいい。なのに犯罪が減らないのはなんでだろうねぇと虎徹などは思ってしまう。あわよくば、自分は無事に逃げおおせるのではないか――などと思っているのだとすれば、甘い考えだ。
カン、と良い音がしたと思えば、バーナビーが相手の銃を蹴り上げ、車の上へとそれが乗り上げた音だった。
まあ、こっちものんびりしていられない。
銃を掴むとぐにゃりと曲げて、使えない代物にする。
あり得ないものを目前で見た恐怖にか、男は急にガタガタと震え始めた。そして、一目散に逃げ始める。
「あ、おい!」
「なにやってるんですかおじさん!」
追いかけると、既にバーナビーは捕縛が終わったのだろう。追いかけてきて併走を始める。
この脚力で逃げおおせる筈はない。
案の定、あっと言う間に捕まった男は、虎徹のワイヤーでぐるぐる巻きにされた。
「いいところ持ってっちゃってさ!」
などとドラゴンキッドが憤慨していたが、単にタイミングの問題だ。
今頃到着したブルーローズたちは、既に事が終了している事に、更に憤慨しているようだった。
時刻はまもなく午前三時になろうとしている。こんな時間に叩き起こされて出動したのに無駄足だった訳だから、その気持ちは分からないでもない。
「さーて、終わり終わりっと」
今捕らえた男の首根っこを捕まえて、担ぎ上げる。そしてもう一人とセットにして警察へ引き渡した。
無事盗難された宝石類は車の中に積んであったらしい。持ち主の宝石商らしき男も同行し、その事に涙を流さんばかりに感激していた。
「まあ、たまにはいいものですね、ヒーローも」
「おや、殊勝」
「たまには、ですよ」
これから細かな取り調べと、盗難品の照合も行われるのだろう。しかしそれは自分達の出る幕じゃない。
帰投命令が出たので、速やかに自分達はその場を後にせざるを得なかった。
しかし、なんて時間に事を起こしてくれたんだと思わないでもない。
気分はすっかり入れ替わってしまっていた。帰ってさあ続きと言われてもそんな気になれそうにない。
くすぶった熱が体に残ってはいるのだが、その気になってくれそうにない。
サイドカーでため息を落として、あの少し前の淫靡な時間を思い出して悔しい思いになった。
ヒーロースーツを脱ぐと、汗でぐっしょりだった。通気性は良いものの、この季節だ。少し動いただけでも汗だくになる。なのに自分達の能力は肉体勝負と来ているのだから、汗なんてかいてなんぼの世界でもあった。
さっさとシャワールームに入る。開発室の片隅に取り付けられた場所だ。鍵は掛かるものの、殆ど隣室に音は漏れ聞こえる。
迂闊な事は口に出来なかった。
「おじさん……」
しかし、バーナビーは小声で自分を呼ぶ。
「どうした?」
「あの……これから、あなたの部屋に戻りますよね?」
時刻は三時半を過ぎた。これからブロンズステージの自分の家に戻れば、朝の四時近くになるだろう。明日も平日で、出社の日だ。
「ああ、そのつもりだけど。お前、時間大丈夫か?」
「そのつもりでしたから」
確かに、自分達は一台の車で出勤していたのだ。今更彼の家に送り届けていけば、虎徹の睡眠時間こそなくなってしまう。
しかし、妙にもぞもぞとしているバーナビーを見て、もしかして――? と思う。彼の熱はまだ静まっていないのだろうか。
受け身の彼の方が快楽を長く引きずることは、今までの経験で良く知っている。
「もしかして、やりたい?」
「なっ!」
「しーっ、声でかい。斉藤さんに聞かれる」
「………なに、言ってるんですか」
「だって、そういう意味だろ?」
問えば、彼はじわじわと顔を赤らめてうつむいてしまった。
やばいかわいい、と自分も熱を無理矢理に押し込められてしまった身だ。思えば、反応するのは早かった。
「どうせだし、ここでやっちゃわね?」
「なにっ」
「だいじょーぶだいじょーぶ。シャワーの音させてれば分からないって。それに俺ら以外ここには入って来ないしな」
「それにしても」
「でも、おじさんしたくなっちゃった」
出動直前の記憶が呼び覚まされ、しかもこの相棒の可愛い姿だ。
体にぴったりとしたアンダーウェアの前を押し上げるようにして、自分が勃起しているのが良く分かる。
窮屈すぎて痛いので、それはとっとと脱ぐ事にした。
「ほら、バニーもとっとと脱げよ」
「…………はい」
ぼそ、と返事した。
彼も先ほどまでの熱を思い返していたのだろうか。
顔は真っ赤だ。
のたのたとした手つきでジップを下ろし、脱ぎ捨てたそれをランドリーボックスへ入れる。
虎徹は既に素っ裸で、二つあるシャワーブースの一方に足を向けていた。当然のようにバーナビーも同じ個室へと向かった。
「すごい、汗の匂い」
「しゃーねぇだろ、この暑さだ」
「ですね。僕も人の事を言えたもんじゃないか」
「まあ、お前のはいい匂いだ」
「――惚れた欲目にしても、言い過ぎですよ」
まあまあ、となだめキスをする。その合間にコックを捻って殆どが水のシャワーを頭から降り注ぎ掛けた。
「……んっ」
ざあざあと音が鳴り響く。
「声、注意しろよ。隣に聞こえちまうからな」
「……分かってます」
バーナビーがえらく素直な事に、虎徹の心はくすぐられる。
嗜虐心が刺激され、我慢出来ないくらいに感じさせたくなってしまう。
そのまま後孔へ手を伸ばせば、まだ若干拭い損ねていたローションが指先について、酷く興奮した。
キスをしたまま、そのローションを借りて指を彼の体内に埋め込む。ついさっきまでほぐしていた場所だ、少しばかりの捕り物劇があったところで、一日が過ぎた時のように固く閉じてはいない。自分の指はスムーズに飲み込まれて行った。
「んん……っん」
ぎゅ、とバーナビーはしがみついてくる。その背を開いている方の手でなだめ、濡れた髪をなでつけ、額を全開にさせる。思ったより広い額にキスをし、そして虎徹は顔中にキスを落とし始めた。額、頬、唇、瞼、鼻、目尻、耳朶、そして首筋。最後の場所にだけ強く吸い付いて、跡を残す。
「だ、め……です、よ、隠れないん、だから」
見える場所へのキスマークを、彼は酷く嫌がる。
「いいじゃねぇか。俺のだって印」
そしてその場所へ、キスを落とした。
一本だけ突き刺した指は好きに動き回っている。既に一度緩んだ場所なだけに、動かすのは非常に楽だった。弱い場所を刺激すれば、抱きしめてくる彼の腕の力がぎゅっと強まる。
立ったままやるのは初めての事だが、体格差が差程ない自分達にはそれほど難しい事ではないだろう。それとも彼の手を壁に付かせて背後から穿つか? と思ったがそれではバーナビーの顔が見えない。そんなのはつまらない。
思って、正面からの交接を考えた。
足を高く上げればきっと大丈夫だろうと踏んだのだ。
二本目と三本目の指は、同時に挿入した。それもするりと飲み込まれてゆく。
「……ぁあ、あ……っ」
極力抑えた声が、劣情を刺激する。シャワーの音で殆ど周囲には聞こえないが、至近の自分の耳にまでは届く。
それがなんとも良い。
余り長いシャワー時間は不審に思われるだろうか?
そう思って、しばらく三本の指で蹂躙した後孔から指は抜き出した。
そして、彼の右足を腕に引っかけて大きく足を開かせると、すっかり猛った自分のものをそこへ押し当てる。
「ああぁああ………っ」
これから来る衝撃を、彼は知っている。ついさっき経験したばかりのものだ。
薄く目を伏せ、忙しなくなる息が切ない。
だが、遠慮せずに最奥まで一気に虎徹は貫いた。
「あああああぁあぁあっ」
声、と思ったがもう手遅れだった。
それにこんな手を用いた自分も悪い。
徐々に挿入していけば押さえられたものだったのに、自分も我慢が効かなかったのだ。
だが反省した。
今度はゆっくりと揺すり上げる事にする。
強すぎる快楽の後ではきっと物足りないだろうが、彼は必死になって虎徹にしがみついてきた。
すすり泣くような声は絶え間なく続いている。
ああ、そうかと思った。この体勢では彼の弱い場所を絶え間なく突く事になってしまうのだ。
腹に触れる彼の性器はすっかり反り返り、水のシャワーに流されながらもぷくりと透明な液体が時折滲んでいる。それを救い取ると、短い悲鳴のようなバーナビーの声が上がった。
「ま、まえは……いい、です、か……らっ」
「すっかり淫乱になっちゃって」
中でいく事を覚えたバーナビーは前を触られるのを嫌がるようになっていた。快楽が過ぎると言うのだ。それはそれでいいんじゃないかと思うのだが、これ以上は怖いと言う。
可愛らしくて、ならない。
だから揺すり上げる動きを細かく突き上げる動きへとシフトさせた。
「ああ、あ、ああ、ああっ」
動きと同時に声が上がる。感じる場所を狙うのは同じ事だ。お陰でひどい締め付けと内側の収縮で自分だって瀬戸際に立たされている。
でも、バーナビーをいかせてからじゃないと、自分がいくのはもったいない。
もっと大きな動きがしたくて、彼の腕をしっかりと自分の首へと巻き付けさせた。
そして、ぐっと突き入れる。
「あああっ」
「バニー、声……肩でも噛んでな」
「あ、ああ、……は、い」
そして、ぐ、と噛まれる肩。痛かったがそれでもしょうがない。
長いストロークを早めのピッチで動く。肩がぎりぎり噛まれて痛いけれども、それだけ感じているのかと思えば痛みも快楽の元となった。
「は………は……っ」
自分の息も上がる。
もう自分がいくための動きにシフトしてしまっていた。
中を穿ち、良い場所を狙い、余計に自分を締め付けてくるのを堪能する。
もう限界だ……と、思った瞬間に最奥まで突き入れて、熱を解放した。
バーナビーも追って熱を弾けさせる。
ぎりぎりと噛まれた肩は、しっかり歯形が付いているだろう。もしかすれば、血も滲んでいるかもしれない。
「………は……ぁあ」
くたっ、とバーナビーの力が抜けた。慌てて虎徹が彼を抱きしめ、立ち上がらせる。
「続きは部屋でな?」
そして、唇にキスをした。
ざあざあと流れ続ける水が、今吐き出したものを綺麗に流し出してくれていた。