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「 Fear of sleep 眠りの不安 」


 バーナビーは眠っている時、とても静かだ。
 一緒に眠る機会が増えて、たまにドキリとする事がある。息をしているのかと確かめた事も少なくはない。薄く触れる呼吸、ゆっくりと上下する胸。そういうものに、その度ごとにほっとさせられるのだ。
 今日もバーナビーは静かに眠っていた。無理をさせた後だから、泥のように眠っている。背を向けて眠るからだを抱き込んで、自分よりも低いもののしっかりとある体温を感じながら、ほっと息を吐く。極端だとは思うし、彼はそう簡単に失われるような存在ではないと知っている。だから自分はやはりどこかおかしいのかもしれない。一度失った記憶は今も虎徹の中に染みついており、そしていつでも恐れている。首筋に鼻先を埋め、すんと匂いをかいだ。シャワーも浴びずに眠ってしまったから、そこからは汗とわずかに残る日頃つけている香水のラストノートが混じり合った匂いがした。少し甘く感じられるのは、彼のからだがとろけるように虎徹にとっては甘いものだからだ。
 舌を出し、ぺろりと舐める。もちろんこの程度でバーナビーが起きる事はない。
 なかなか眠りに落ちる事が出来ないでいた虎徹は、そのまま腕を回して彼の体を撫でる。肌の感覚を確かめるように、ゆっくりと。事が終わり、随分時間も過ぎている。汗は引き、さらりとした手触りを楽しめた。
 きれいについている筋肉を指先で確かめるようにたどれば、腕の中のからだがもぞりと動く。
「……どう、したんですか……?」
 ぼそぼそとした声で問われる。どうやら起こしてしまったようだった。
「悪ぃ」
「もう、できませんよ」
 腕の中のからだがもぞもぞと動き、こちらを向いてくれるのかと思えば小さく丸くなってしまった。拒否の意思表示だろう。声は半ば以上眠りに浸食されている、それも仕方がないだろう。最後の方はもう無理だと言いながら意識を飛ばすようにして落ちてしまったのだから。泣きはらしていた目許は、今は赤く腫れているだろうか?
「しねぇよ」
「……ねむい、です」
「ああ、おやすみ」
 そう告げながらも、小さく丸まってしまったバーナビーの体を探る手の動きは止まらない。彼の肌は、虎徹のてのひらに非常に良く馴染む。するりと手を滑らせると、胸の尖りが指に引っかかった。小さくバーナビーの体が揺れ、そして鼻から抜けるような声が響いた。一度眠りについたからだだけれども、感覚はまだ引きずっているのかもしれない。
「やめてください……」
「んー」
 するりするりと引っかかりを楽しみながら、胸元を撫でる。ぷくりと立ち上がった場所が指に触れるのが、楽しい。
「ねむいです、こてつさん…」
「ん、寝てていいよ」
「そんな…無理、です」
 小さいのに必死で主張してる場所を、指先でつまむ。途端に声が甘くなった。疲れ果てたバーナビーを休ませたくもある。だが、このいたずらめいた事をやめるのは少しばかり残念に思う。結果、手はそのまま動き回っている。
「や…だ、こてつ、さん!」
「だから寝てていいって」
「寝れるはず、ないじゃないですか」
 まだバーナビーの声はぼそぼそとした眠りの声だ。それでも必死で抵抗はしている、ようだ。甘みを帯びた声で、体は時折揺れる程度で、逃げる体勢にまでならないのだからとてもそうとは受け取れないのだが。
「…んっ、い、たい……」
「あ、ごめん」
「ごめん、じゃなくて」
 つん、と引っ張って見れば痛みを感じたらしい。さすがにそれは望むべきものではなかったので、引っ張った場所を撫でさする。するとひくりと体が揺れて、鼻に掛かった声が漏らされた。快感はしっかりと拾っているらしい。しかしやはり眠いのだろう、反応は緩慢だ。じわり、と虎徹の中に欲が沸いてくる。確かに最初は間違いなく、彼の肌に触れていたかっただけなのだ。だが、彼の中の熱を煽りたくなってきた。逃げ込みたがっている眠りの場所ではなく、ついさっきまで演じていた狂態を再びこの目で見たくなる。
「あした…しごと……」
「あー、そうだな」
 ちらりと時計を見上げれば、午前三時になろうとしている。確かにそろそろ眠らなければ仕事に響く時間だ。こんな時間から体力も使う事を強いるのはひどいだろうか――酷いだろう。でも、自分の熱も小さくだが点されてしまった。もどかしい反応を返すバーナビーの姿は新鮮で、滅茶苦茶にしたくなってしまう。
「あ…や、もう……んっ」
 もぞり、と体が動き仰向けになった。横向けになった顔がこちらをねめつけてくる。
「寝させてくれないんですか?」
「んー」
「あ……ちょ、っと」
 ごそりと身を起こすと、剥き出しになった肌へと唇を寄せ、さっきまで手で弄っていた場所を口に含んだ。舌でころころと転がし、やんわりと歯を立てると文句を言っていた口は喘ぎしか漏らさなくなった。逃げるようにもぞもぞ動く体を押さえつけると、詰まった音が頭上から降って来る。
 するりと手を伸ばせば、何も身につけていない、しかも汚れた下肢は再び緩やかにだが反応をしていた。
「やっ、ダメ…ですっ」
「ダメじゃねぇだろ、これ。どうすんの?」
「そこで喋らないで……」
「くすぐったい? それとも感じる?」
 てらてらと唾液で光る乳首に息を吹きかけるようにして告げれば、眠りの残滓をまとったバーナビーの顔が苦しげに歪められ、そして答える必要はないとばかりに反らされた。その反応が可愛らしくて、つい笑いがもれる。
 反応しているものを指とてのひらで育て、変わらず唇と舌では乳首を愛撫する。
「……も、ぉ……眠い、のに…っ」
「だから、寝ていいよって」
「これで、寝れる訳、な…、い……はっ、ぁあっ」
 しっかり育てられた屹立は、先端から涙を零している。塗り込めるようにしてしごけば、再びバーナビーの口からは甘い喘ぎしか漏れなくなった。すっかり眠りは意識の外側へ追い出されてしまっているだろう。時折引きつるように喘ぐ彼の声と、そしてとろとろと濡れる場所を思えば彼の頭の中はもういきたいばかりになっているに違いない。
 だから、その手を意地悪にも虎徹は止めた。
「え……」
「寝たいんだろ?」
「……――こてつ、さん」
 少しばかり媚びを含んだ声。目を眇め、そんな彼の姿を見下ろす。いつもはつけている枕元の明かりも落としているので、窓の外から入り込むごくわずかな光源しかないのに、彼の肌は白く輝いているように見えるし、潤んだ目は沈んだ緑に光を弾く。
「ひどい、です」
「ん? だって寝たいってずっと言ってただろ?」
「……っ、もうっ」
 ぷい、とバーナビーははだけていた上掛けを引っ張り、巻き込むようにして背を向けて丸くなる。
「お、おい」
「もういいです」
「ひとりでするか?」
「…! ち、ちがいます、邪魔されないように寝ます!」
「そんな状態で?」
「寝ます」
 言い切る彼の背中が怒りにか震えている。強がりでしかないそれらの言葉を、声に出さないように気をつけながら笑んで虎徹は見下ろしていた。
「そう、じゃあおやすみ」
「……おやすみなさい」
 返された言葉には落胆の色が滲んでいる。素直で可愛い恋人は、本当に虎徹をたまらない気持ちにさせる。寒い季節だ、上掛けを奪われたままでは素っ裸で眠るには辛すぎる。だから、もぞりと彼の背後から潜り込んだ。
 そして最初のように背後から彼を抱きしめる。
「なあ、ごめん」
「……知りません、僕はもう寝ました」
「ああ、そう」
 んじゃあ、寝てるんなら気付かないよな――そう、耳元で囁く。
 背後から抱きしめていた腕を抜く。そしてまだぬかるんでいる後孔へと手を伸ばした。
「え…ぁ?」
「寝てるんだろ?」
「寝てます!」
 強い語調に思わず吹き出し、ならいいよなーと指を遠慮なく中へ進入させる。顕著なほどにバーナビーのからだは跳ね上がった。
「や、ぁっ」
「寝てる寝てる」
「あ、やめ…やめて、ください」
「だって寝てるんだろ?」
「ちが…、あなた、寝てる相手にこんな事する趣味があるんですか」
「うーん。時による」
「…んっ、あ…や、そこ…っ、やめてやめて、やめてくださ、い」
 ぐりぐりと指先で捏ねる場所は、バーナビーの一番弱い場所だ。一度指を抜き、間の抜けた声を上げたバーナビーは一瞬体を弛緩させるが、逆の手で入り直した。そしてさっきまでの腕は再び彼を抱きかかえる。正面に回した指先は弄り続けていた乳首へと再び触れた。
「や、あっ」
 中を弄り、そして正面も弄り、彼の逃げ場をつぶして行く。寝てると言う彼がもう眠る事なんて出来ないだろう事は承知の上だ。それでも、「寝てるんだろう?」と問いかければまだ可愛くなく喘ぎの間から「寝てます」と言う。正直可愛すぎてもっとひどくしたくなるので、やめてほしいくらいだった。
 この年下の素直でないくせに素直で可愛い恋人は、いつだって上手く虎徹の本能をくすぐってくるのだ。
「ぅあ、ああっ、あ、あぁ、んっ」
 指を二本に増やし、抜き挿しする動きに変えれば、甘えるような声が上がる。荒い息が色づいている。内に溜まる熱を分散させようとしているのか、もぞもぞするからだを押さえつけるように抱けば、なおさら動きは激しくなった。
「や、だ…ぁ、ああっ、あっ、こてつ、さ……やぁ、だ」
「寝てるんだろう?」
「も……いい、ですから。寝てない、寝て、ない!」
「ん」
 するり、と腕をほどいた。そしてバーナビーを仰向けにさせると足を抱え上げる。しっかりと着込んでいた上掛けは既に暑いだけの代物に成り果てていた。ばさりと剥ぐと、どちらのものとも知れない汗の匂いがした。
 足を抱え上げる。そのふくらはぎをちろりと舐めれば汗のしょっぱい味がした。くすぐったかったのか、足が引かれる。それを引き留めるように、歯を立てればひくんと体が弾んだ。
「なあ、いい?」
「もう…、いいですからそういうの」
「なんだよ、色気ねぇなぁ」
 くすりと笑って、すっかり勃ちあがった自分のものを彼の口へと添える。期待にか、きっとめがねを外しこの距離では見えないだろうに、自分の方を伺い見る彼が愛おしい。体を前に倒し、軽く口付けるとほっとした気配が漂って来た。バーナビーの表情が緩む。そう言えば仕掛けてから初めてのキスだったなと気が付いたが、そもそも最初はただのいたずら……いや、静かに眠るバーナビーを確認していただけだったのだ。キスをするいとまもなかった。
「なあ、いい?」
「ええ…」
 ようやく満足したか気を取り直したのか、柔らかな声で返される。むくりと自分の欲がふくれあがるのを感じた。ぐ、と体を寄せ、彼の中に入る。
「…んっ」
 さっきまで入っていた場所だから、柔らかくほぐれている。包み込むようなぬくもりに、淡く声が漏れてしまった。
「あ、あ、あ…っ」
 だが、何度目になろうとバーナビーの反応はいつも新鮮なままだ。受け入れる事にいつまでも慣れたように見えて慣れない。大きく目を見開き、こぼれ落ちそうな鈍い緑を目を細め眺めながら、最奥まで突き挿れる。満足な吐息が漏れた。幾度入っても気持ち良いのは、虎徹とて同じだ。既にバーナビーは余裕を失った顔をしている。
 緩く動かし始めると、泣きそうな声が上がった。
「ぁあっ、は……ぁああっ、んっ、あ、ああっ」
 ぐりぐりと中をかき混ぜるようにすると、まなじりから涙がこぼれ落ちる。既に相当感じてしまっているのだろう、手は強くシーツを握り締めていた。既に何度も上り詰めた後だ、感じ方が早い。声に泣きが入っているし、ギリギリまで張り詰めたものからは既に白濁のようなものが混じっている。
 手を伸ばし、そこに触れると悲鳴のような声が上がった。
「や、ああああっ」
「は…すごい、気持ちいい…」
「きもち、い、です……ぼく、も」
「ああ、そうだな」
 強く屹立をしごけば、あっと言う間にバーナビーは上り詰めた。後ろを強く締め付けられて虎徹も危うくいってしまいそうになったが、辛うじて回避した。締め付けが緩み始めるのを待ち、再び動き始めるとバーナビーの体が逃げる。
「や、やだ、いまいったばかり、だから…や、つら、い……や――ぁ」
 だがこの状態で感じ切っているバーナビーを見るのが、虎徹は好きだ。若干Sの気があるのかもしれないが、それでもここで本当にやめればバーナビーも物足りなく感じる事も知っている。手加減はしない。
「ぃや、ああああ、あっ、あぁああっ、やぁああ」
「手、こっちな」
 シーツを握り締めている手を、自分の背に回させる。ぎっ、と爪が即座に立てられたがその痛みも気持ち良い。がつがつと動き、中を堪能すればぽたぽたと汗が次から次へと溢れて来た。
「ああっ、あ――っ、んぁああっ、あっ」
 喉を反り返して喘ぎを上げ続けるバーナビーは、ひどくいやらしい。
 たまらなくいやらしくて、見てるだけでもとんでもなく感じる。劣情が刺激され、それだけでもいってしまいそうになる。きっと彼は今現実とそうじゃない場所の狭間にいる。確実に曖昧な世界にいってしまっているだろう。
 それが、ぞくりとする程虎徹を感じさせる。
「もう、もう…や、あああああぁあっ、あっ」
 とぷとぷと先端からは白濁が漏れるように吐き続け、彼がいきつづけている事が分かる。締め付けも強い。
「なあ、もういいか?」
 返事が来ない事は分かっている。だが、取り敢えず問いかけてみる。いや、宣言のようなものだ。先にもう中に出してしまっているから、遠慮はしない。
 早いペースで抜き挿しを繰り返し、一番深い場所まで突き挿すと、そこで虎徹は熱を解放した。
 ひどく息が乱れていた。
「…ぁ……は、ぁあ……」
「大丈夫か、バニーちゃん」
 背中に回されていた手が、ベッドに落ちる。そして茫洋とした目が曖昧に虎徹の方を見た。声に反応しただけのようだった。腰を支えていた手を離し、抜く前にその手で同じように汗だくになっているバーナビーの髪を撫でる。そして口付けた。
 重なるだけのキスのつもりだったが、物足りない気持ちが湧き出して来たのでそのまま深い口付けへ移行する。うっかり反応してしまってはさすがにマズいだろうと思ったので、最中に抜いておいた。
 甘やかすようなキスを繰り返し、髪を撫でる。
 バーナビーのまぶたは伏せられて、やんわりと笑みの形を描いていた。
 時刻は、午前四時をとっくに過ぎていた。睡眠時間は三時間も確保出来ない。ついうっかりの情事ではあったけれども、これ以上もなくバーナビーを感じる事が出来て虎徹は満足だった。眠りの気配もようやく訪れてくれている。
「なあ……たまに俺、不安になるんだ」
「なんですか」
「お前寝てるの、あまりに静かだからそのまま死んじまうんじゃないかって」
「……何言ってるんですか」
 くすりと彼は笑う。
「そんな事で、僕を起こしたんですか?」
「……ごめん」
「残念ですが、多分僕はあなたより長生きしますよ。本当に不本意ですが」
「え、なんで」
「あなたを見送らなきゃいけないのは……すごく、嫌ですよ」
 そして、バーナビーはため息のようなものを落とす。
「だからあなたがそんな事で心配してるのは間違いです。僕が不安になったり八つ当たりすべきなんです」
「……あのな」
「年齢的に仕方ないでしょう。それとも、あなたが僕を見送ってくれますか?」
 何が起こるかは、本当は分からない。お互いの仕事が仕事でもある。
 だけど、バーナビーは静かに告げる。言ってくれる。
「だから早く寝てください。今度こそ僕も寝ますからね」
「ああ……ありがとうな」
「ありがとうじゃなくて、おやすみって言ってください。安心して眠れません」
 つん、とした物言いにくすりと笑いが浮かんだ。根っこに泣きそうな気配を虎徹は感じたけれども、それは敢えて見ないふりをした。
「ああ、おやすみ」
「おやすみなさい」
2012.1.11..
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