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「 green eyes 」



 膝の上に乗り上げた青年が、目を細める。
 欲しがっているくせに、表情は甘くとろけることはない。いつもとは違う。ねだるような事を口にしない。まっすぐに見つめて来る瞳の緑がいつもよりも鮮やかで、それは――そう、挑発している。
「なんて顔してんだよ、バニー」
「どんな顔です?」
 唇の端をくぃと上げ、彼は笑う。まるで事件の発生現場にでもいるかのようだ。だがそれとは違うのは、目の端に滲む、僅かな甘さ。
「あなたこそ、なんて顔ですか」
 どんな顔をしているのだろう? 虎徹に自覚はない。
「きんいろの目……狡いな」
「なにが?」
 手を伸ばし、彼の白いのど元へと触れた。そのまま手を滑らせて顎へ手を掛ける。
 わずかに見下ろす視線がバーナビーの表情を尚更生意気にした。
「あなたに折れて欲しいんですが」
「なにを?」
「尋ねてばかり、狡いですよ」
「キスしたいんだろ?」
「ええ。だから、あなたから求めて欲しいんです」
 ふ、と唇が、瞳が、笑みの形に歪む。
「ふぅん。じゃあ、そうさせてみろよ?」
 かちあった瞳。こちらも笑みの形へ歪ませた。どんな表情をしているのかの自覚がない程に、子供ではない。訂正。彼へ向けている表情は全て把握している。挑発的な笑みを浮かべる恋人に相応しい顔を、自分も浮かべている。
「おもしろくない」
 言った彼は、決して言葉通りの事を思っている訳でない事くらいは、理解出来た。
 緑の目が、綺麗に鮮やかに、濡れていた。
2012.1.23..
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