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その覚悟は?


「ふぁっ…あ、ああっ」
 背後から挿入されて、もう随分になる。正常位で一度無理にいかされた後、体をぐるりとひっくり返されたのだ。その時、敏感になりすぎた体のきわどい部分をえぐられ、またこぽりと精液がこぼれ出していたのは気付いていたのかどうか分からない。
 頭の中がゆだって、何をしているのかすら分からなくなってくる。
「……っ、締め過ぎだ」
「だ…って、あっ」
 ぐい、とうつぶせのまま脇の下にゾロは両手を入れると、背後に反らせるように体を持ち上げた。
「や、それ…っ、いやだっ」
 ぐぐ、と深い場所まで入ってくる熱。煮え立った頭が更に沸き立つ。
「イイ、の間違いだろ」
「ちが…イく、もう…イ、く、から…っ」
「いいよ、イけよ」
「ヤ…っ」
 太いものが体の中を奥深くから浅い場所までを余すところなく蹂躙していく。ひくっと体が震え、声を出す事も出来ず、サンジはそのまま吐精した。
「早ェな、三度目だ」
「無理矢理、すぎんだよ、てめェ」
 今日のゾロは執拗だ、いつもとてもじゃないが丁寧と言う言葉からは遠い抱き方をするが、今日のそれはまた別の気がした。
「おら、気ィ散らしてんじゃねェぞ、おれはまだイってねェ」
「分かっ、てる」
 言われなくとも熱源はそのままだ。ひくりひくりと不随意に響く体の中を、幾分ピッチを上げて抽挿されている。吐精した後の体はびりびりと電気が走っているかのように敏感に過ぎる。そこを遠慮なく蹂躙されるのはたまらない。四度目の吐精も免れないなと思いながら、背後の満足そうな気配に少しだけ頬を緩めた。



 こんな時間にシャワーを使っても大丈夫だろうかといつも心配しながら、階下へ降りる。
 下には妹のナミの部屋があるのだ。防犯上、彼女こそ二階の部屋である方が良いのだが、長兄から順に部屋を与えられて行ったら、残った応接室が彼女の部屋になるしかなかったのだ。
 いつも一等地にあるゾロの部屋と変われとナミは訴えているが、ゾロは譲るつもりはさらさらないらしい。サンジとしてはナミの応援をしてあげたいところだが、こんな関係に陥った以上、彼女が階下の住民で良かったと思っている。とてもじゃないが、夜に同じフロアに居られたらたまらない。
 そのままサンジのベッドで眠り込んでしまったゾロを放って、サンジはシャワーを浴びた。
 あちこちに精液や、なんとも言えない液体がこびりついている。明日はシーツも洗濯しないと、と考えて、どうして自分ばかりとため息が出た。
 熱い湯が心地よい。全身をシャボンで泡立て、綺麗に仕上げると、バスルームを出た。
「どうしたの、こんな時間に」
 心臓が飛び出るかと思った。
「な、ナミさん…?」
 新しいパジャマを降ろして、ボタンを留めていた手が止まった。
「こんな時間にシャワーなんて浴びてるから、学校行けないのよ?」
 いや、こんな真似させるヤツがいるから行けないのだ、とはとても言えない。
 それより、彼女はいつから起きていたのだろう。今日は無茶をされた覚えがある。このまま意識を飛ばしたいと思いながら、重い体を引きずって風呂場まで来たのだ。階下まで声は漏れていなかっただろうか?
 冷や汗がじんわりと背中をぬらす。
「ナミさんこそ、どうしたんだい? こんな時間に」
 平静に、平静に、と心がけながら掛けた声は若干ではあるがひっくり返ったみっともない声になった。
「別に。目が覚めちゃったから何か飲もうかと思って」
「そ、そう…」
 はぁ、と彼女がため息をつく。
 そしてそのままキッチンの冷蔵庫へ向かって行った。
 そのため息の意味が分からなくて、サンジはパニックに陥る。もしかして全て知っているのではないだろうか。その上で、呆れてるんじゃないだろうか。いや、呆れるどころか軽蔑してるんじゃないだろうか。
 心臓がバクバク鳴った。冷や汗が背中を流れて行くのが分かる。
「サンジ君も早く寝なさいよ? おやすみ」
 どうやらオレンジジュースを飲んだらしいナミは、一声掛けて自分の部屋へと戻って行った。
 サンジは凍り付いたまま、「おやすみ」と、ぎこちない声で答えた。

  ◆   ◆   ◆

 焦った。
 まさかこんな時間に誰かがシャワーを使っているなどとは思わなかったのだが、水音が確かにする。
 気になって部屋を出れば、丁度サンジが出て来るところだった。
 何故、こんな時間に? とは深く考えてはいけない事なのだろうか。夕食後にお風呂に入っていた筈だったことも思い出してはいけないのだろうか。
 ナミはベッドに腰掛けたまま、いやいやいやと頭を振る。
 まさかまさかと否定する。
 たまたま寝付きが悪くてシャワーを浴びていただけかもしれない。
 それにしてはサンジの様子が変だったけれども、それも深く考えてはいけないことなのかもしれない。
 実を言えば、その前から二階から物音が聞こえてきてたけど、それも忘れた方がいいのかもしれない。
 かもしれない、とは思っていたけど実際にそうかもと思うのとでは話は別だ。生々しすぎる。
 どうしよう、と思う。
 どうしようもない。ただひとつ分かるのは、完全に目が覚めてしまって、このままじゃあ朝まで眠れそうにないということだった。
 
  ◆   ◆   ◆

「おい、おい、起きろ!」
 硬直から解けたサンジはひとまずまっすぐに自分の部屋へ戻った。しっかり眠りに就いているゾロを起こすのはなかなか難儀なお仕事だ。だが、この状態をどうすればいいのか自分には分からなかった。
「おいってば」
 腹にかかと落としを決めて、ようやくゾロはうっすら目を開ける。すこぶる不機嫌な表情で。
「なんだよ、まだ夜じゃねェか」
「起きろ、ナミさんにばれたかもしんねェ」
「あァ?!」
 さすがに起きた。
「シャワー浴びて、出てきたらナミさんが立ってた」
「で?」
「こんな時間にシャワー浴びてるから学校行けねェんじゃねェかみたいな……っつか、それはどうでもいいんだよ、おれ、夕食後に風呂入ってるんだよ!」
「あ? それでどうしたんだ?」
「どうしたんだじゃねェだろ、どう考えても不自然だろ。しかもいつからナミさん起きてたのか分からねェし!」
「そりゃ……やべェな」
 淡々と言うゾロが憎らしい。原因は自分だったくせに、ちょっとは焦れと思う。
「てめェ、今日喘ぎまくってたからなァ、聞こえてたかな」
「っ! ちょっとは焦れ、このボケ緑!」
 回し蹴りで頭を狙ったら、直前を手で止められた。
「クソッ」
「焦ってもしょうがねェだろうが。それにおれは覚悟の上だぞ」
「は?」
「家族にバレても、しょうがねェとある程度覚悟は決めてる」
「お前……」
 そのままベッドの上にゾロは座り込んで、まっすぐにサンジを見た。
「弟に惚れるっつーのはどう考えても普通じゃねェしな。同じ家のなかでヤってんだ、いつかばれてもしょうがねェと思ってた。だから、その時はおれは出て行こうと思ってた」
「え」
「お前も連れて」
「おいおい、待てよ」
 ヤケに格好付けて言っているが、内容は無茶苦茶だ。
「ばれてもしょうがないっつーのは分かるけど、その時のナミさんたちのショックとか考えてなかったのかよ」
「てめェは?」
「……う。だから、極力ばれないように…」
「甘ェえんだよ、お前は」
 笑って、頭を抱き込まれた。そのままわしわしと髪をかき混ぜられる。
「おれまで出てったら、ナミさんのご飯はどうすんだよ。それにおれは出てく気なんてねェぞ」
「ねェのか? おれがいなくてもいいのか?」
「ああ、毎晩ゆっくり眠れて安心だけど」
「嘘つけ」
 ごん、とくしゃくしゃにしていた頭を拳で軽くどつかれ、笑われた。
「てめェだっておれに惚れてる事くれェ、分かってんだ。平気な訳ねェだろ」
「なっ、思い上がるんじゃねェっ!」
「でけェ声出すな」
「出すわ!」
「ナミが起きるぞ」
 うっとサンジは黙り込む。
「そんな反応取るのは図星つかれたからだろ。諦めろ、ばれてんだとっくに」
「……知りませーん、おれはそんな気持ちじゃありませーん」
「じゃあなんで抱かれてんだ」
「気持ちいいから?」
「嘘つけ」
 また、ごんと殴られる。
「何度も殴るなよ、てめェ」
 ようやくゾロの腕の中から抜け出して、薄暗い部屋の中でゾロの目をにらみつけるようにじっと見た。
「とにかく。ナミさんにばれてたらどうしよう」
「なんか言ってたのか?」
「ナミさんがそんな野暮な訳じゃねェだろう」
「でも家族がそんななってたらショックだろ、そんなそぶりもなかったんなら大丈夫だろ」
「そ、それは……そうか」
「ショックがるか、おもしろがるかのどっちかだろうけどな、あの女は」
 と言って、呵々とゾロは笑った。

   ◆   ◆   ◆

「おはよ、サンジ君」
「おはよう、ナミさん」
 びくり、としてしまうのは反射のようなものだ。
「あら、珍しい。今日は学校行くのね」
「たまには行かないとおれでも留年しちまうよ」
「そんな気あったんだ、へー」
 普通だ。それとも、珍しく制服姿のサンジへの驚きが勝っているだけなのかもしれない。
「今日はなに?」
「フレンチトーストと、ブルーベリージャム。グリーンサラダとコンソメだよ」
「やった、フレンチトースト!」
 カロリーが高いので、ナミの大好物だが月に一度にしてねと言われているものだ。
 なんだか、学校に行くのもフレンチトーストを作るのも、彼女の機嫌を取っているようでなんともなさけない。
 だが、昨日の事を持ち出されるのも困るのだ。
「あれ、ナミさん寝不足?」
 作り上げたそれを持って行くと、白目が充血しているのが分かった。綺麗な顔が勿体ない。
「う…ううん。さっき目をこすっちゃったから」
「なんだ」
 と、言ってから自ら先ほど地雷を踏みに行った事に気がついた。彼女が寝不足なのだとすれば、原因はひとつ、昨晩の出来事についてのみだ。
「あー、サンジくん。別に良くないんだけど、夜中にゾロと喧嘩するのやめてね。内容まで聞こえないけど、昨日すごく怒ってたでしょ」
「え」
「ちょっとだけ、そのせいで寝不足かな」
「え?」
 きっと彼女が聞いていたのは、ナミと会った後の会話だろう。だがあのレベルで聞こえると言うことは………?
「ご、ごめんね。あいつ部屋間違えて入って来ちゃって」
「そう。……あー、おいしい、幸せ」
 にっこりと笑う彼女の顔に邪気はない。
 気のせい、だと言うことにしようとサンジは決めた。そしてしばらくはセックスは禁止だ。むしろこのただれた関係を清算してしまった方がいいのかもしれないと、思い始めていた。
2011.3.22.
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