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セクハラ以上


「お兄ちゃーん、お兄ちゃーん」
「気持ち悪い、その呼び方やめろ」
 皆が学校から帰ってきた時間だった。珍しく今日は学校へ行っていたサンジも制服を私服に着替え、おやつの準備をしている。
 対面キッチン正面、ちょうどこちらには背中を向けているソファには、兄と妹が仲良く座っていた。すごい違和感だ。
「だってゾロってば一応私のお兄ちゃんなんだもん」
「で? 何をねだってもおれからは出てこないぞ」
 猫撫で声のナミへ、すげなくゾロは言い捨てる。
「そんな事知ってるわよ、おねだりならサンジ君にしますー」
 憎たらしい声音をわざと使って、彼女はゾロへ表情もよこした。
「じゃあなんだ、お兄ちゃんなんて滅多にどころか子供の頃すら呼んだ事もねェくせに」
「親父臭く新聞広げながら話するのやめてくれる? それもスポーツ欄しか見ないのに」
 チョコレートを全粒粉へざっくり混ぜた、チョコチップクッキーが今日のおやつだ。学校へ行っていた以上、手のかかるおやつは今日は作れない。兄妹の、外から見ればおもしろおかしいやり取りを見ながら、蚊帳の外でサンジは手を動かしていた。
「お兄ちゃんがお兄ちゃんに手を出したのって、いつ?」
 言ってる意味が分からなかったのだろう。ゾロはきょとんとナミの方を向いた。一方、サンジはと言えば、思わず吹き出して動揺のあまりボールから生地を飛ばしてしまった。
「言ってる意味がわからん」
「直接的に言えって言うの?」
「な、ナミさん! おやつもうすぐ出来るから!! そこ、ちょっと片付け……」
「サンジ君は黙ってて」
 話題を変えようと頑張ったが、ぴしゃりとさえぎられた。
 我が家で一番強いのは、きっと彼女だと思う。
「ああ、言いてェ事があんなら素直に言え」
「じゃあお言葉に甘えて。ゾロがサンジ君に手を出したのっていつ頃だったの?」
 きっぱり真っ正面から来られ過ぎて、今度はゾロも吹き出した。
 サンジの顔面は蒼白だ。作業は一時中断、思わず後ろの食器棚にもたれかかってしゃがみ込みたい衝動に駆られる。
「だって私だけのけ者だったんだもの、悔しいじゃない」
「混ぜねェぞ」
「当たり前でしょ!!」
 兄妹全部出来てまーす、なんてシャレにもならない。
 それ以前に、ナミは一応常識人だ。一応二人の関係は認めるものの、自分まで巻き添えにされるつもりはない。
「いつだっけな………おい、サンジ」
「おれに話を振るな」
「だって覚えてねェし。てめェのが覚えて……」
「これ以上、その話はするな。おれはデリケートに出来てんだ!」
 何が悲しくて兄弟のなれそめを妹に話さねばならないのだろう。彼女も彼女だ。たしかにのけ者になってはいたけれど、のけ者にされてなかった方が問題だ。彼女は女の子で、可愛くてとてももてるのだから。
 もちろんサンジだってもてる。ゾロも何故かもてる。なのに、何故こんなところでくっついてなきゃ行けないのだろうと頭を抱えたくなった。
「だってサンジ君、気になるじゃない」
「だってよ」
「………ナミさん、カンベンして」
 ついにずるずるとサンジはその場に座り込んでしまった。
「サンジ君ってば、本当デリケートね。もうバレちゃってるんだから構わないじゃない」
「構う、構います」
「なんで?」
 この家にモラルは存在しないのだろうか。
 そもそも両親が家にいなかったのがいけなかったのだろうか。手塩にかけてナミは育てたつもりだけれども、金銭感覚のしっかりした、どこに出しても恥ずかしくない愛らしいお嬢さんに育ったはずだったのに。何故、こんなことに。
「あ、思い出した。去年の冬だ。寒ィ時期だった」
「思い出すなー!!!」
「そんなに前から?!」
 ふたつの大声が重なって、ゾロは迷惑そうな顔をした。そもそもが自分が原因のくせに、わがままな。
「そっか、そんな前からゾロとサンジ君はふたりの時間持ってたんだ。ずるいなー」
「ずるくない、ずるくない」
「だってせっかく兄妹なのに、私ひとりのけ者だったんだもの。混ざりたい訳じゃないけど、隠し事されてたのは、ちょっとショック」
「悪かったな、あいつが言うなっつーから」
「ああああ当たり前だろ!」
 妹に、どの面下げて「出来ましたのでよろしく」などと言うのだ。
 いつまでも隠し通しておきたい出来事だった。
「まあ、そうね。サンジ君の心境も分からないでもないわ。どうせゾロが襲ったんでしょ?」
「ああ」
 もうどうにでもしてくれの心境で、サンジは床に座り込んだまま、煙草に火を付けた。灰皿はシンクの横だ。手を伸ばせば簡単に取れる。
「ゾロ、昔っからサンジ君への執着すごかったもんね」
「そうか? 昔は妹だと思ってはいたけど」
「ぷふー。そうか、そこからかァ」
 和やかに会話されているけれども、今日のご飯も作る気力がそがれてゆく。二人の会話はサンジに取って、破壊力がありすぎた。





「お前なァ、ペラペラペラペラ、ナミさんにお話してんじゃねェよ!」
 夜の時間、各々が部屋へ戻った後だ。サンジは珍しくゾロの部屋へ乗り込んで、ベッドの上に座りすごみを利かせた。
「いたたまれないってのはああいう時に使う言葉なんだって初めておれは知った。もう死にてェ」
「アホか。妹だろ、聞かれたら教えてやるのが兄貴の役目だろうが」
「間違ってるから。てめェの方がアホだから。そういう事は言わないでいてあげたほうがいいってこともあるんだから」
 勉強机の椅子に座っていたゾロが、のっそり立ち上がってベッドに座るサンジの横に座る。
「どうせあそこまでバレてんだ、今更隠し立てする方がやましいだろ」
 と、言いながらゾロの手はサンジの肩を抱く。ペシ、とその手をはたいて落とすと、今度は髪を撫で出した。
「なあ、ナミさんが言ってた、子供の頃から執着してたってのはホントか?」
「ああ。お前、女みたいだったからな。ナミもお前もおれが守らなきゃって思ってた」
「ニュアンスちょっと違わね?」
「………、いいだろ。昔から惚れてんだ。執着もするだろう」
 てらいもなく言われた言葉に、驚いた。
「惚れてたの?」
「ああ」
「いつから?」
「そういうのは言わねェ方がいいって場合もあるんだろ」
「おれには聞く権利があると思うけど?」
 髪を撫でていた手が、耳朶をいじりだす。くすぐったさをこらえながら、なんとしても言わせてやろうと意気込む。
「義務はねェよ」
「あ、ずりィ。ナミさんばっかひいきして」
「ひいきなんかずっとてめェにしっぱなしだ」
 言うと、唇を重ね合わされた。
 耳朶をいじっていた手に作為が加え始められる。
「ちょ……ま、て」
「待たねェよ。せっかくてめェからこっちの部屋来てんのに」
「いや、そういう訳じゃなくて。文句言いに来たんだよな、おれ」
「言い終わったんだからいいじゃねェか。ほれ」
 シャツの上ボタンをほどかれ、万歳をさせられる。するりと上半身を素っ裸にさせられた。途端に、小さなとがりに寄せられる唇。
「ちょ……ヤバくね? さっきの今で、まだナミさん起きてんだろうし……」
「どうせバレてんだからいいだろ」
「それとこれとは話が別!」
 がつんと頭を殴ると、仕返しのように尖りを強く噛まれた。
「………っ、いてェ」
「てめェは黙ってあんあん言ってりゃいいんだよ。ナミも今更気にしねェ」
「で、でもっ……ぅ、あ」
 ごろん、とベッドに転がされて、上にゾロが乗りかかった。乳首を中心にあちこちにキスを落とされる。脇腹を舐められ、思わず声が漏れた。
「気になるんだったら、その声、自分でどうにかするんだな。……まあ、おれは聞きたいからもったいねェけど」
「……っ!」
 ぐっと口をつぐんで、自由になる両手を口元へ持って行った。そうだ、確かに自分でもフォロー出来る点はある。この関係を手放す気がないのであれば、自己保身も大切だ。
 その姿を見てゾロは笑い、さていつまで持つかなと下半身を脱がせ、緩く立ち上がったものを躊躇なく口に含んだ。
「……っ。ぅ、………っ」
 意地悪だ。今日に限って、弱い場所ばかりをせめてくる。どうせギブアップするだろうと早々からスパートをかけているのだ。
「イきたかったら、イってもいいぜ」
「ぅ…………」
 自分の喘ぎがないからこそ、余計明確になる水音。ぴちゃぴちゃとなめられている音が聴覚を犯して耐えられない。余計に感じてしまう。先端を舐め、強く吸われ、穿孔を舌先でえぐられたときは、腰が跳ね思わず小さな声が出てしまった。
「ず……りィ、てめェ、こんな、とき、ばっか」
「いつも通り、だぜ?」
 などと意地の悪い顔でゾロはサンジの目を見て笑う。
 そして、再び責め始めた。後孔を濡れた指先でぐるぐるいじりながら、立ち上がった先端を強く舐められる。つぷり、と後孔に指先が入れられた瞬間にせり上がって来るものを感じた。
「……め、ぁ、あ、ああっ、イ………っ」
「いいぜ」
 くぅ、と背中を反らせて絶頂へ導かれる。全てを吸い出すように、ゾロはまだ舌を使い、吸い込もうとする動きをやめない。
「や、やァ、も………っ」
 ひくひくと不随意に動くからだが、敏感になりすぎてぐるりと横向きになり、逃げを打った。そこでようやくゾロは唇をはなす。代わりに、丸出しになった尻へと今度は意識が向けられた。
 さっき指先だけが入れられた場所。もちろん性交に適していない場所だからこそ、潤滑剤が必要になる。ネット通販で買った、とこの間自慢していたローションを垂らされ、確かに傷薬より断然良いそれに、頭がとろけそうになった。
 ぬぷぬぷと指が出入りしていく。最初ひんやりしていたそれが熱を持ち、むずがゆいような感覚となってゆく。きっと媚薬入りにされたに違いないと思っているが、ゾロは口を割らないので良く分からないままだ。ただ、いつもよりずっと感じるのは、傷薬ではないからなのか、それとも媚薬のせいなのかが分からないのが悔しかった。
「あ、ああ、ぅ、ンッ」
 ほぐす動きから、まるで性交のように抜き差しする指の動きがたまらない。このままイきたい気持ちになるが、そういう訳にはいかない。その後、ゾロが入って来て、再び快楽に落とされてしまえば理性を保つ自信がなかったからだ。今ももう、かなりヤバい自覚はある。
「も、はや…いれやがれ」
 おう、と低い声での返事があり、指が抜かれると熱いものが入口に添えられた。以前と違って、簡単に入るようになった。彼のものに慣れたせいもあるだろうし、ローションのおかげでもあるのだろう。
 寒い時期だった。あの時は衝撃を受けた。だが、今となってはどうだ。
 なくてはならない存在になっている。
 兄としてだけでなく、恋人として。
 横になった姿勢のまま片足を持ち上げられ、そのままずずと熱が入り込んで来た。
「………ぁあっ」
「声、いいのか?」
「ぁ、あ、あ、」
 ゾロに指摘されたが、早い抽挿が始まれば自制など出来る筈もなかった。ぽたぽたと落ちるゾロの汗で、彼もまた感じている事を知る。
 うっすら目を開くと、苦しそうな、でも幸せそうな顔をゾロはしていた。
「ぅ、あ、ああっ、あ」
 余裕などどこにもない。ただ自然に手が伸びて、そんなゾロの頬を撫でた。驚いたような顔をして彼はこちらを見、ニッと笑う。そして無理な姿勢で口づけられる。
 甘いキスだった。
 そのまま口を塞がれ、強い抽挿が繰り返され弱い場所ばかりを刺激されれば、前を一度も触れてないと言うのに頂点に達してしまった。きっと強い締まりに彼も音を上げあげたのだろう、中へと熱が注ぎ込まれるのを感じた。



 こんな早い時間から、コトに及んだの初めての事だった。
 不自然極まりないが、ナミに気付かれないよう祈りながら、階下に降りる。
 すると、彼女の部屋から大ボリュームで音楽が鳴り響いていた。



 部屋に返ったら、ひとまずゾロを殴って自分も殴らせよう、と硬く心に誓った。
2011.3.30.
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