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スケープゴード12


「ダメだよ、まだ寝ちゃ」
 先にシャワーを浴びたルルーシュがベッドに寝そべるのを見て、苦言を呈する。
 不思議そうな顔をして見上げて来た彼へ、スザクは笑いかけた。
「遊ぶんでしょ?」
「……っ」
 関係性は変わっていない。彼は自分の恋人だ。もっとも素直に抱き合う関係でいれるのは後少ない時間だろう。きっとその後も、彼は現実と同じように自分を謀るだろう。抱かれもする筈だ。
 だが、なんのわだかまりもなく愛し合えるのはもう最後のような気もしていた。
「約束は、してない」
「ひどいな、一日楽しみにしてたのに。それにあんなんじゃ満足してないんでしょ?」
「それとこれとは話が別だ」
 もう幾度も寝ているのに、彼の初心なところは変わらない。それを愛おしく思う。
「取りあえず、僕がシャワー浴びて来るまで起きててよね」
「約束は出来ない、今日は疲れた」
「嘘ばっかり。昼じゅう寝てたんじゃないの?」
「そんな事はない」
 憮然とした顔で嘘をつく。思わず笑えてしまって、それが更に不興を買ったようだった。
 だが、彼が待っている事は間違いないだろう。なんだかんだ言いつつ、自分達は良い恋人同士だった。男性同士というハンデをしょっても、他の恋人達に引けを取らない自信はある。
「じゃあ、待っててね」
 返事を待たず、スザクはシャワールームへ消えた。
 きっと何かを言いかけただろうルルーシュは、やはり憮然とした表情のままなのだろうなぁと思えた。



 学生が持つにはどうかと思われるローションは、ネット通販で購入したものだ。もちろん、部屋へ届けさせるなどと言うことはしていない。機情へ届けさせた。中が何かも知らず、彼らは自分へ手渡している。何度もだ。
「ふ……っ、う」
「もう少し、だから」
 既に一度昂ぶりを解放させたルルーシュは素直に鳴き、いつまで経っても慣れないという後孔のほぐしを待っている。うつぶせで、高く腰を掲げさせ、ローションの水音がするのが耐えられないとばかりに彼は頭を時折振る。
「…っや、あ、そこ……っ」
「うん、知ってるよ」
 弱い場所を刺激する。ほぐすのとは別の手で握っていた彼の熱が、芯を取り戻した事が分かった。
「やめ、さわる、な……っ」
「無理だよ、そんな甘い声で言われたらもっとさわりたくなる」
 ひくり、ひくりと震える体をなだめるように、芯を取り戻した場所を握っていた手を離し、彼の背を撫でた。それすらも感じるらしく、彼の体は妖しく揺らめく。
「スザ、ク…っ、いや、だ。早く…っ」
「まだダメ。痛い目をするのは君だよ?」
 キスマークを付けた翼の部分を執拗になぞれば、彼の呼吸は更に荒くなった。短な喘ぎさえ混じり始める。彼の体はどこをとっても感じやすく出来ている。もっとも、そう作り替えてしまったのは自分自身だけれども。そう思えば、奇妙な満足感に心がくすぐられる。
 指をもう一本足し、ぐちゅぐちゅとローションの音をわざとたてながら、彼の内部を乱した。早く挿入してしまいたいのは自分も同じだ。彼の痴態にはすっかり煽られている。屹立したものは下着を持ち上げ、せっかく着替えをしたと言うのに漏れ出たもので染みが出来てしまっているだろう。
「音、が……っ」
「うん?」
 分かっていて、聞き直す。
 更にもう一本の指をローションと共に継ぎ足すと、彼はびくんと体を震わせた。
「ぃや…だ、その、音」
「やらしいもんね」
 かぁっと、一気に耳まで紅に染まった。元から淡く色づいていたものが、彼の羞恥を促し、増した。見物だなと感じ、スザクまで体が震えてしまう。
 早く、彼の中に入ってしまいたい。
 そしてもっと思うままに鳴かせたい。
 ぞくぞくした快感が背筋を駆け上ってゆく。
「早く、欲しい?」
 こく、こく、とゆっくりとしたペースだが確実に彼は頷く。言って、と告げれば、もう彼も限界が近いのだろう、弱い場所ばかりを責めている。素直に応じた。
「早く、スザク。早く、こい」
「うん。分かった」
 片手で下着ごと、パジャマの下を脱ぐ。屹立したものは腹まで反り返り、若干脱ぎにくかった。
 そして彼を苛めていた指を、三本まとめて一気に抜く。喪失感にか彼は淡い鳴き声を上げる。
 だが、ぴとりと自らの熱をその場所へ触れさせると、彼は体を震わせた。
「早く、早くだ、スザク…っ」
 頷くいとまもなく、一気に体を貫いた。もう十分すぎる程にほぐしてある。熱塊はずるりと飲み込まれ、根本まで食い込む。
「ああっ」
「…くぅ」
 強い締め付けと、内側のうねり。ひくり、と入れただけでルルーシュは達してしまったようだった。自分も気を緩めれば持って行かれてしまいそうだ。
 まだ挿れただけなのに、耐えきれなくなる。
 ずず、と体を動かした。このままではルルーシュの顔が見えない。それが少し不満だったが、体はストップが効かなかった。
 始めから飛ばしすぎだ、と自分を諫める声がするが、抑えられない。
「ぁあ、あっ、あ、ああっ、あっ」
 突く動きに合わせて、がくがくと揺れる体は声を上げる。甘くとろけた声にも背中を後押しされる。
「無茶、だ…スザク…っ、ぅあっ、あっんっ」
 最奥までを早いテンポで抜き差しする。達したばかりの体には辛いだろう。だが、辞める気は到底なかった。そんな事出来る筈もなかった。
「ごめん、無理」
「そん……っ、あ、ああっ、んくっ」
 言葉は散り散りだ。
「もうすぐ、だから、我慢して」
 せり上がってくる感覚。頭がゆだりそうになる熱。
 ルルーシュは背を反らせ、ひくりひくりと跳ねていた。
 男の本能として最奥まで突き刺すと、吐精する。受け入れるルルーシュの背中は紅に染まり、とても目に毒だった。一度でなんてやめられそうもなかった。
 一度抜き、ころりとルルーシュに正面を向いてもらう。彼も吐精していたようで、腹部は白くべたべたとしている。
「ごめん、まだ無理」
「分かってる…んっ」
 片足を肩へ担ぎ上げ、大きく足を開かせると、そのまま再度挿入した。吐精したのにちっとも萎えていない場所が、ぬかるんだ場所へ導かれる。
「好きだよ……ルルーシュ」
 緩く、浅く動きながら、涙で目が赤くなった彼へと語りかける。心からの言葉だ。
 彼はもちろん、それを確かに受け止める。だが、いつまでそれは信じていてもらえるのだろう。明日だろうか、明後日だろうか? C.C.をこんなに待っているのに、素直に愛し合える関係を手放すのが辛いだなんて贅沢に過ぎる。
 でも、ぎゅうと抱きついて来た彼を、「俺もだ」と答えた彼を、心から愛しんだ。
 手放せる筈もなかった。



「腰がバカになっている」
 と、翌朝べたべたになったベッドから避難してスザクのベッドで抱き合って寝て、起きた彼は言った。どうやら起き上がれないらしい。
 執拗に愛した自覚はあった。それも仕方ないだろう。
「今日も欠席だね」
「今日のは、お前のせいだ」
「君も縋り付いて来たくせに?」
「それは…っ」
 徐々に彼の顔が紅潮してゆく。昨晩の記憶を辿っているのだろう。
 何度も達し、そのたびに自分が、そしてルルーシュが次を促した。実際縋り付いて、彼は「もっと」と告げた。
「……成り行きだ!」
「ふうん。君は成り行きで男と寝るんだ」
「バカ」
 ぼすん、と枕が投げつけられた。
「ごめん、ルルーシュ」
「お前はすぐに、そう謝ればいいと思って」
「だって、他に手を知らない」
 そして、頬へ唇を落とす。
 紅潮は更に酷い事になったが、彼の不満は少し落ち着いたようだった。
「お前だから…」
「分かってる。愛してるよ、ルルーシュ」
「こんな時間に言うなと、何度言わせるんだ」
 もぞもぞとまるで昨日の再現のように彼はシーツに潜り込んでいく。きっと、顔を見られたくないのだろう。その顔が少しでも笑顔であればいいと思った。
 愛しているのは本当だ。
 信じてくれなくなっても、この日の事を覚えていてくれればいいと願った。



 ルルーシュの賭けチェス通いは変わらない。
 あれから、スザクも必ず付いていくようになっていた。それは護衛の意味もあったし、時期が近づいているせいもあるからだ。
 睦言を語り、時折怒らせもしながら結局は笑顔で許してもらう、それは平穏な日々だった。
 幸せだった。
 こんな日が続けばいいと思いすらした。
 だが、心の片隅ではずっとC.C.を待っている。一年という最長の時間を過ごしたこの生活に愛着はあったが、このままでは何も変わらない事も知っているからだ。
 そして、その日が来る。



 ルルーシュは酷くその日、ご機嫌だった。
 黒のキングと言う、その世界では知らない人間はいない大物がやってくるのだと言う。是非とも対局したいものだと笑んでいる。あれからずっとルルーシュの賭けチェスは見てきたが、全く相手にならないと言うのが正直なところだった。少しでも手応えのある相手を探しているのだろう。
 租界外縁部の、バベルタワーという場所だった。復興途中にあるその場所はまだ治安も悪い。
 そして、その名を聞いた瞬間にスザクの記憶が弾けた。その名前は知っている。ゼロが復活した場所だ。今日か、と、思った。
 諦めに似たようで、期待に満ちた奇妙な感覚だった。
 昼間からリヴァルのバイクを借り、学校を抜け出す。
 これでこの関係は終わる。
「ルルーシュ、好きだよ」
「なんだ、いきなり」
 サイドカーで本を読んでいたルルーシュは怪訝な顔をした。
 最後に、もう一度だけ告げておきたかった。



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2011.4.6.
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