ルルーシュは見事黒の騎士団員全員を取り戻していた。
単機で乗り込み、やり遂げたのだからすごいと言わざるを得ない。彼のKMF操縦の腕は確かだった。今までは機体性能の違いが大きくあったのだろう。自分と対戦して勝てるか? と問われれば、それはまた別の話だが。
彼には生きる目的が必要だった。日本を取り戻す事、ブリタニアを覆す事、それらは全てナナリーのためであり、自分のためでもあったのだ。きっと失った記憶を取り戻したとき、彼は屈辱に思えただろう。最も選ぶべくもない生活を無理強いされていたのだから。
だが彼はそれからも普通の生活を送っていた。それでも、浮かぶ表情は変わっていた。
一緒に生活していたのだから、分かる。
悪い表情をすることが増えた。だが、生き生きしている。
無邪気さはどこかなりを潜め、何かを含んだ表情を浮かべる事が多くなっていた。それは自分を試しているのだろう。だが、スザクはそれら全てを完全になかった事として以前通りに接していた。
内心の探り合いがないだけ、現実よりも楽だとも言えた。
自分はただ装えばいいのだから。それに、装うと言っても既に自分はゼロを容認している。彼を許せない気持ちはどこにもない。なので、大した演技もいらない。
ただ機情の事だけは問題だった。
もはや自分を除いたメンバーの意識は書き換えられている。騙されている振りをしているが、もう必要のない鳥かごだ。自分の存在意義も大してなくなってしまっていた。
そんな時、携帯が鳴った。
ナンバーズでありながら、自分は皇帝直属として立ち動いているため、携帯を許可されているものだ。ルルーシュからのコールだった。
彼は今夜も外出している。何があったのだろう? と思い出てみれば、相手はC.C.だった。
「どうしたんだい?」
『お前、ラウンズに戻るか黒の騎士団に入るかどちらかに身を置かないか?』
「どういう事?」
前置きもなく突然告げられた事に、首を傾げる。
『もうお前の役割は用済みだろう。ルルーシュが訝しがっている。皇帝側につくか、騎士団側につくか、身の振り方を決めた方がいい』
「――それも、そうか」
『ないとは思うが、私との関係もバレれば不味い』
「確かに。君と手を結んでいる事が分かれば、C.C.、君自身も疑われるね」
『それはない』
と、彼女はきっぱりと言い切る。それだけの信頼関係があると言うことだろう。羨ましく思えた。
「少し、時間をくれないか。どちらへ進んだ方がいいか考えてみたい。それにラウンズにはそう簡単になれっこない」
『簡単だ、私がそそのかせばいいだけの話だ』
「誰に?」
『マリアンヌだよ。知っているだろう? 私はあいつと話が出来る。シャルルもマリアンヌの言うことなら怪訝に思いこそすれ、従う筈だ』
「なるほど……」
『余り時間はないと思え、まもなくナナリーが総督としてやってくるのだろう? それまでに話は決めた方がいい』
「そうだね、分かった。君にはどう連絡を取れば?」
『また、こちらから連絡をする。それまでに決めておけ。三日くらいの猶予は与えよう』
「ありがとう。それじゃあ」
それじゃあ、と言っている合間に通話は切れた。
いかにも彼女らしいと、苦笑が漏れた。
どちらへ就けば、ルルーシュに有利に働くか。
それを考えるべきだった。今回ロロはいない。嚮団との繋がりが一切ない状態だ。このままではラグナレクの接続が回避出来ないとの危惧は抱いていた。ラウンズとなり、内側から阻止すべきだろうか? いや――今回はC.C.が始めからこちらに協力的な立場で参加することになる。彼女と組み、裏側から手を回した方がいいだろう。
ならば、黒の騎士団に身を置いた方が彼女とのコンタクトも取りやすくなる。
それに、と、思う。
前回の彼と手を取り合った時間を忘れがたく思っているのも、確かだった。
彼と共に歩む未来。自分が黒の騎士団に入る事によって、戦力は増す。自己過信ではなく、それは今までの記憶に基づいた確証だ。
安易に決めてはいけない。
既に自分は、四度の失敗をおかしている。また繰り返す事は苦痛ではなかったが、それよりも先に自分に愛想を尽かしてしまいそうだった。永遠に無理ではないかと思わされてしまう。
そうならないように、慎重にすべきだった。
「おかえり、今日は早いね」
まだ時刻は八時になっていない。良い打ち手がいなかったとつまらなさそうに言い、彼は早々にシャワールームへ消えてしまう。二重生活は応えていることだろう。今日は差程深い話にはならなかったようだ。
たまにはゆっくり休むべきだろうと思った。
だが、欲が出てくる。近頃のルルーシュは深夜帰りが以前にもまして増えた。
当然、接触は減っている。
シャワー上がりの彼を待ち、その体を抱きすくめてしまった。
「なんだ……どうした」
「飢えてる」
「なんに?」
「この状態で分からない?」
「たまに早く帰ったと思えば……」
そう言い、彼はバスタオルを被ったままで苦笑を浮かべた。
「そう言えば、お預けが続いてるな」
「そうだよ」
そう告げ、至近にあった唇に口づけた。
「放っておかれた僕には、拗ねる権利がある」
「おおげさだ」
と言いながらも、ルルーシュからも口づけを返された。
唇をすりあわす軽いキスから、深いキスへと移行させる。それには、抵抗がなかった。
気を良くして、そのまま彼の手を引きベッドへ移動する。
湯上がりの彼からは良い匂いがする。いつまででもかいでいたい匂いだ。彼自身の体臭と混じり合ったシャボンの匂い。それは、平穏だった頃にかぎなれていた匂いでもあった。
「明日、俺は学校に行くからな」と予め釘を刺され、行為は開始される。
無茶はするなと言うことだ。それは、抱かれる事への嫌悪から生じているのだろうか? そう思えば悲しくなる。だから、無茶を通す事にした。
「もう……っ、もう、ダメ、ぁ、だっ」
「まだ、ダメ」
疲れは蓄積されているだろう。ルルーシュが音を上げるのは早かった。
それでもそれを許さず、スザクはルルーシュを突き上げる動きをやめない。
掴んだシーツがしわくちゃになっている。前は自分の背に回されていた指先だ。それを悲しく思いながら、仕方ないと甘受せざるを得なく、だけどそう心は素直になれなくて動きは執拗になった。
吐精を促すための突き上げだ。腹部はしどしどに濡れている。彼が何度いったのか、自分でももう良く分からなかった。
両足を肩に担ぎ上げ、より深く突くように動いている。
自分だって我慢出来ず、幾度も吐精している。だからルルーシュの下半身はぐちゃぐちゃだ。
「む、り……ッ!」
苦しそうな鳴き声を上げ、それでもまだ彼は意識を手放さない。だからまだ無茶苦茶にしていい権利があるのだろうと、スザクは勝手に理解し動きを止めなかった。
ぞくぞくとした甘い痺れが体中に充満しているような気がする。なのに、彼が全てを委ねていないことが分かって、それが水を差す。頭の一部はどこか冷静で、打ち振るう彼の頭に従う髪の動きも、シーツに刻まれた皺も、涙をたたえた瞳の甘さも、きちんと見てた。
「ぁあ、ああっ、あっ、スザク……っ」
びくびくっと、ルルーシュが震える。とろりとした液体が性器の先端からとろとろ溢れ出す。もう、色さえついていなかった。
「くっ……まだ、ダメだよ」
「無茶、するなって……言った」
「頷いてないよ」
自分はまだいってない。意識を失いかけたルルーシュが、ようやくその手をスザクへ伸ばして来た。腰を支えていた手を離し、掴む。そしてそのまま自分の背へ回させた。
ぎり、と爪の食い込む感触が懐かしい。
「っ、は……っ」
そのかすかな痛みで爆ぜそうになるのを、ギリギリで堪えた。
まだルルーシュを堪能していたのだ。だが、彼の指の力は急速に抜けてゆく。そして、ぽたりとベッドの上に落ちた。
意識を飛ばしてしまったらしい。
そのまま幾度か抜き差しし、スザクも吐精すると、泣き濡れた頬を優しく撫でた。
「ルルーシュ」
柔らかな声で呼んでみるが、もちろん返事などない。
そのまま、背中へ手を回し、強く抱きしめた。
手放したくないと思った。こんな悲しいセックスはいやだと思った。
なら、選べる道はひとつしかない。
「ねえ、僕を黒の騎士団に入れて」
意識のない彼へと告げた。
安直に決めてはならないとあれだけ思っていたのに、情に負けた。
なにもなくて構わない。ルルーシュさえいればいい。
そう、何度も思っていたことをまた繰り返す。
また失敗してしまうかもしれないとの危惧は抱きながらも、到底この腕の中の存在を手放せる筈がなかった。
三日後、本当にC.C.からの着信があった。
そこでスザクは黒の騎士団へ入団するとの言葉を告げた。
ラグナレクの接続をやめさせること、それにはルルーシュを巻き込まない事を条件にすれば、C.C.は「お前はわがままだ」と言いながらも笑ってくれた。
後は、ルルーシュが受け入れるかどうかの問題だった。
やはり自分は拒絶されている。憎まれてもいるだろう。
皇帝へ自分を売り払ったスザクの事を、果たして信用するだろうか……?
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