そして、嚮団の破壊がやってきた。
協力者はC.C.、ただ一人だ。研究者がほとんどだからとの言葉を信じ、それでもギアスの芽を残す訳にもいかず、殲滅作戦を展開する。
彼女のKMFの腕は相当のものだった。聞けば、ガヴェインの操縦をメインで行っていたのは彼女だと言う。マリアンヌとの交友でたたき込まれたとも言っていた。
彼女は、KMFの先駆者でもある。その人物からの教授であれば、お墨付きをもらったも同然であろう。
それでもたった二機での殲滅作戦は難航を期した。
ギアスを使う人間がどこに紛れているのか分からない。C.C.は気配は感じる事は出来るが、特定は出来ないとのなんとも頼りない立ち位置でしかなかった。
ただ、確実に居る。
ロロのように強制的にギアスを与えられた人物たちが。
生身でなければ大丈夫との言葉を信じ、ランスロットからは一歩も出なかった。一般人を殺す事に躊躇はなかった訳ではない。だが、ギアスを生み出す事はこの後の世界には、なんの益にもならないのだ。C.C.もその考えには賛同していた。無益に、しかもコードを継がせる為でもなく人とは異なる理に無理に人を閉じこめてはいけない、と。
彼女は幾度も失敗してきたそうだ。いつかにナナリーを攫い、爆弾を仕掛けた男がいた。
てっきり賭けチェス絡みのヤバい面子に目を付けられたのだとばかり思いこんでいたが、あの犯人はC.C.に執着したギアス能力者だったのだと言う。彼女は自分の罪だと言っていた。後悔は明らかに見て取れた。
「お前がコードを継げるようになるのは、どうやら不可能そうだな」
と、彼女は笑っていた。
自分の与えたギアスの中でもイレギュラー中のイレギュラー。しかもギアスは使用回数を重ねなければ成長しないのだと言う。ユフィを襲ったあの不幸な事故。あのような暴走も回数を重ねなければ起こらない。
是非ともそうありたいものだと自分でも思った。
早く、ルルーシュが幸せに生きる世界を作りたいと願っている。
失敗ばかりを重ねるのは、心に痛い。
『来るぞ』
C.C.からの通信が入った。
相手は、V.V.だ。嚮団のトップとしてこの事態は看過出来まい。
不死を相手に、どれだけの事が出来るだろうか……?
だが、ここにはコーネリアが捕らわれている筈だった。彼女の援軍で窮地を脱したと聞いている。それを期待するのは間違っているだろうか? 彼女も妹をあんな形で失って、ギアスを憎んでいる筈だった。きっと間違いではあるまい。彼女の出番が来るまで踏ん張る事もまた、自分達の役割だった。
『こいつ…っ』
出て来た機体はナイトメア・フォートレス。巨大な作りをしている。
かつて、ジェレミアがまだ正気を取り戻していなかった時に乗っていた機体と同じものだ。
『嫌な記憶を呼び起こすものを持ち出して…!』
『C.C.、C.C.だろう? どうしてこんな事をするの? 僕たちはずっと待ってたのに』
戦場に酷くそぐわない子供の声がオープンチャンネルから聞こえる。
『もうお前達に協力する事はなくなった。私はお前達の敵だ』
『どうしてそんな事を言うんだい? ――そこの、妙な気配を持った男のせいかい? マリアンヌの子供じゃないんだね、驚いたよ』
激しくぶつかり合う戦闘中とは思えないゆったりとした会話。
防御が非常に固く、スザクの繰り出すヴァリスもMVSも歯が立たない。
『あいつは留守番だ』
『なんだ、手を切った訳じゃないんだね。残念だよ』
高速で回転しながら、攻撃を加えてくる。固い防御はこの場合武器にもなっていた。フロートを飛ばされないよう、回避するので精一杯だ。
それはC.C.とて同じようで、近づく事も出来ず、防御一辺倒に回っていた。
「C.C.、そいつの弱点は?!」
彼女は一度戦った事がある機体だ。一縷の期待を込めて尋ねてみたが、返答は色よくなかった。
無理に海底に沈め、水圧で潰した機体だった。そんな乱暴な戦い方をした相手の弱点など知りようがない。
そこに、一発の銃撃が思いも寄らない方向から飛んできた。
反射的に確認する。
嚮団の保有するKMFがそこには立っていた。だが、明らかにナイトメア・フォートレスを狙った動きは――多分、騎乗するのはコーネリアだ。
『誰だい、僕の機体の弱点を知って攻撃するバカは』
『私だよ、V.V.』
低い女性の声。やはり、彼女だった。
ナイトメア・フォートレスの防御が解かれる。これで、ヴァリスは使える。
『ギアスの芽など…』
『消え去れ!』
彼女の銃撃と、自分の打つヴァリスは、ほぼ同時にV.V.の機体を貫いた。
一拍遅れて、派手な爆破が起こる。
『V.V.…』
C.C.の憐れむような声。だが、気付く。彼は不死人だ。
落下した先は嚮団の廃墟だった。
まだ誰もそのことに気付かず動かない中、スザクはその後を追った。
熱源反応を確認する。既に嚮団内部は掃討済みだ。あるとすれば、V.V.しかない。そしてそれは、意外な場所から発見された。
地下深く、近代的な設備に整えられた場所からはほど遠い場所。
スザクはランスロットから降り、銃を片手にゆっくりと近寄る。
追ってC.C.が訪れたのが分かった。
そこには巨大な扉があった。神根島にあったものと同じ文様が描かれてある。それらが全て繋がっている事を、今の自分は知っている。そして、そこから皇帝が姿を現す事もだ。
「ナイト・オブ・セブン。枢木スザクよ。裏切りよったか」
「元より忠誠は偽り。裏切った訳ではありません」
堂々と言い切れば、皇帝は逆に満足したように笑みを浮かべた。
ルルーシュを売ると言った時と同じだ。この男の本質はどこにあるのだろうか? スザクが嘘をつかないから気にいっているのかもしれない。彼は、嘘のない世界を作ろうとしていた。
男は、そのまま扉の中へ姿を消す。
残されたV.V.は血塗れのまま、扉の前に残されていた。
「……こいつ、コードが」
「え?」
「何故、今更……いや。お前の言っていた通りになっただけか」
C.C.は諦めたような顔をした。
「お前の告げた事は、全て事実だったのだな?」
「最初からそう言ってる」
「――分かった、今度こそ得心した。私はラグナレクの接続を止めよう。ルルーシュの望まない世界を阻もう」
ようやく彼女の顔から迷いが消えた。
百万人のゼロが日本を去り、超合衆国が作られ、そしてV.V.のコードは皇帝に奪われた。材料はもう十分だろう。
「未来びとのお前に聞く。ラグナレクの接続はまだ先なのだな?」
「ああ。これから、第二次トウキョウ決戦が行われる。その後シュナイゼルによってルルーシュの正体が明かされる。そのことによって、ルルーシュは黒の騎士団を追われ、それを助けるのがロロだ。そして命を落とす事になる。それを防いで欲しい」
「分かった、従おう」
戦闘が続く事になる。
今回の出撃は完全にスザクの独断だ。だが、皇帝は自分の姿を見ている。行動もだ。
断罪されることはあるまい。
中華で捕縛しなかったカレンとの戦いがまた始まる。だが、機体性能は捕縛しなかったことで超越的なものにはならないだろう。
それが、救いでもあった。
自分は多分フレイヤを撃たなくて済む。
彼女とは互角に戦えるだろう。
久しぶりに学園に戻れば、ルルーシュは女子に追い回されていた。
シャーリーが近頃女遊びが過ぎると愚痴っている。
「どういう事?」
「知らない! 急にデートの誘いを全部受け始めちゃって、ギャンブルだけじゃなくて女遊びまで…! もう、あんな男大嫌い!」
憎々しげに言い切って、シャーリーは目の前の書類をにらみつける。
だがそこにはぬぐいがたく嫉妬の色が浮かんでいて、彼女も大変なのだろうと思いやられた。
そんな話は聞いていなかった。自分としてもじっとしていられない状況だ。
「こっちは彼のせいでとんでもない目にあってるって言うのに……」
さすがに頭に来た。
クラブハウスへ向かいながら、独り言を言ってしまう程にだ。
「ロロ、ルルーシュは?」
「今日は……えーと、デートで」
「デート? いつ戻るんだい?」
「多分、夜遅くにならないと…」
「待たせてもらうから」
「え?」
「待つって言ってるんだ。構わないね?」
「え、ええ。構いませんが」
彼はまだV.V.が命を失った事を知らない。機情が機能してるとスザクが思いこんだままだと思っている。弟役を「演じているのだ」と言う姿は崩さないでいるが、所々にボロが出ていた。
彼もまた、いきなり女遊びをし始めたルルーシュに苛立ちを感じているらしい事が分かる。
いきなり出来た敬愛すべき兄を奪われそうになるのが、許せないのだろう。
シャーリーが現実で殺された理由もそうだったと聞く。いや、本人が告げていないのだからあくまで予想だ。しかも、ルルーシュではなくC.C.の。
ルルーシュが戻ってくるまで、随分待たされた。
その間、女子とデートしているのだと思えば苛立ちは増した。
これは浮気に当たるのだろうか。それとも、自分達の関係はルルーシュの中では既に表面上のものと化している。本気なのだとすれば、許し難い事態だった。
「随分遅いお帰りで」
「スザク…?!」
結局彼が帰って来たのは深夜を過ぎていた。
こんな時間まで何をしていたと言うのだろう。奥手な彼のことだ、深い仲にはなってないとは思うが、そうとも言い切れない。機情がなぜ機能していないのか、これほど恨んだ事はなかった。
「どこで何をしていたの? 女遊び? いい身分だね」
「それは……えーと…違う、違うんだ、スザク」
彼の焦りは本気に見えた。
おや、と思う。
表面上のものではなかったのだろうか。本気ではないのだろうか。
「随分おさかんなようだし」
「どこで、それを…」
「そんな事はどうでもいい。行くよ」
彼の腕を強引に掴んだ。そのまま彼の部屋へ直行する。しかし、女子のコロンの匂いが移っていることが酷く腹立たしかった。
「スザク、待て…」
「待てない!」
そして彼の部屋に到着すると、そのままベッドに押し倒した。
「僕の留守が応えた? それとも帰って来ない恋人は愛想を尽かされた?」
浮気か、本気かを問う。
ルルーシュは焦った顔のまま、顔を左右に振るだけだった。
「そんなんじゃ分からないよ」
そして、手を伸ばして衣服を脱がせ始めた。
「ま、待て。ロロが…」
「もう寝てる時間だよ」
本当は似た苛立ちを抱えて起きて自室にいるのだが、嘘をついた。
そんな事はどうでもいいのだ。どうせ彼は自分達の関係を知っている。
「手を出して来た訳じゃなさそうだね。……それとも、跡を残させなかった?」
「待て、誤解だ!」
「女の子のコロンの匂いで一杯だ。この状態で何を誤解だって?」
「それは、その……」
尻すぼみになって行く言葉。苛立ちは絶頂に達した。
そのまま衣服を全て脱がせる。誤解だろうがなんだろうが、やましいことのあるだろうルルーシュは素直に従った。スザクが完全に怒っている事も分かったのだろう。抵抗らしき抵抗はなかった。
「なにも、やってない」
「当たり前だろ!」
そしてそのまま、唇を乱暴に奪った。
幸いにも甘いリップの匂いはしない。味もいつものルルーシュの味だ。
唇を割り、舌を潜り込ませると、ルルーシュのように怯えた舌はなかなか応えてこなかった。
一度口づけをやめ、舌打ちをする。
「そんなに僕がいやな訳?」
「ち、違う!」
「なら、応えて」
口づけを再開する。今度は素直にルルーシュが舌を絡めてきた。そのまま息もつかせないようなキスを続け、素っ裸にした体を両手でまさぐる。時折彼は苦しそうに息を継ぎたがっていたが、簡単には許さなかった。
嫉妬をしている。こんな乱暴に始めるセックスなんて初めてだ。
それでも気は収まらない。
小さな尖りを指で軽くつまみ、時折爪を立てるとルルーシュの体は弾んだ。口の中で痛いと言っているのが分かる。
「分かってる? 君には僕がいるんだからね。女の子とデートなんて…」
「俺も、好きでやってる訳じゃない!」
「そんな筈ないじゃないか」
今までのルルーシュを知っている。どれだけ女子にアタックされようと、気付かないか、気付いたところで冷たくなりすぎないように、しかしきっぱりと断っていた筈だ。
見える場所にわざわざキスマースを残し、唇で肌を辿る。至るところにキスマークを残した。独占欲の現れだと自嘲すら浮かぶ。
「…っ、ぅ、ぁ…っ」
ルルーシュは抵抗を一切しない。膝を立てさせ、左右に足を開かせた時だけは軽く抵抗をしたが、自分の勢いに押されたように恥ずかしそうに従った。
高ぶりをなんの準備もなく、口に含む。
「あ…っ、スザク…っ」
たくさんの唾液を使って、愛撫した。じゅぶじゅぷと恥ずかしい音が響く。上目使いに見れば、興奮にか羞恥にか、ルルーシュの頬は紅潮していた。
「ぁあ、あっ、あ…やめ、やめろ、スザク」
こんな事、やったことはない。頭を引き離すように抑えられるが、快楽に負けた力は弱かった。
そして、そのまま勢いを付けて吐精を促す。指先で最奥をなぞり、その意味を教えながら口撫すれば、ずいぶんあっけなく彼はいってしまった。
口の中に吐かれたものを、手のひらに吐き出す。
「君が出したものだよ?」
見せつけるように手のひらを差し出せば、両腕で自分の顔を隠すようにした。
「……スザク、もう、やめてくれ」
随分濃かった。どうやら浮気は疑わずに済むようで、それはほっとする。
だが元来奥手な男なのだ、ルルーシュは。心だけでも他に持って行かれては困る。
「分かってる? 君は、僕の。僕は君のなんだからね」
吐き出した精液を潤滑に、後孔をほぐしはじめた。
「わか…って、る」
ぐちゅりぐちゅりと水音が酷い。粘液ではないものを潤滑にするのだ、今日は彼の体にひどく負担を掛けるだろう。だが、それでも良かった。そうすれば明日のデートなど全てキャンセルさせられる。
指一本入れるだけでも、随分狭かった。
長い間放置してしまったと後悔すらする。
「ん…ぅく、は…っ」
違和感か痛みにか苛まれた彼は、逃げるように体を動かす。でもそれは許さない。
追いかけるように、指先で彼の弱い場所を刺激し、甘い声を無理に引き出す。
その頃には、怒りは随分おさまってきていた。一度吐精させた事で満足したせいもあるかもしれない。
ほんの少し優しい動きで、更にもう一本の指を追加させた。精液は乾き始め、潤滑にはなっていない。仕方ないなと思い、スザクはそこに口を寄せた。
「やっ、やめ、スザク…っ」
「だって、苦しいでしょ」
「でも…っ、んぁ、あ」
孔の周りを舌でぐるりと舐め、たっぷりの唾液を塗りたくる。やがて舌も差し入れ、三本目の指を入れる頃にはルルーシュもすっかり乱れ始めていた。
「は…あ、ああっ、あ、あ、んっ」
「早く、欲しい?」
「ほし…っ、スザク、欲しい」
意地悪のつもりで尋ねてみたのに、素直な声が返って来た。
気を良くして、指を抜き差しする動きに変える。
「ああっ、あ、あ、ああ、ん…く、ち、ちが…っ、ああっ」
そして、三本一気に引き抜いた。
「ああっ」
悲鳴のような声が上がる。
そして、自分の前をくつろげるだけで取り出した熱塊を、そのままそこへ挿入した。
「…っ、あ、ああ、あああ…っ」
ずぷずぷと飲み込まれて行く。
狭い場所にスザクも震えるような快楽を覚えた。
根本まで埋め込むと、おこりを起こしたように震えるルルーシュの体をなだめ、しばらくしてから動き出した。
疲れている事だろう。嫉妬から始めてしまった情事だが、彼の体は素直に自分を受け入れてくれる。彼自身もそのように見える。弁解しようとした。それだけでも、十分かと思った。
抜き差ししながら、甘い声にとろけるような快楽を覚え、やがて最奥で吐精した。
遅れて、ルルーシュの先端からも白濁が飛び散った。
「無茶、しすぎだ」
「君が悪い」
「お前が聞く耳を持たないから」
「だって女の子とデートしてたのは本当だろ?」
「それは…っ」
「ほら」
口ごもった彼に、やはりかちんと来てしまう。
「明日のデートは全部キャンセル。明後日も、先明後日も。もうずっとダメ」
「お前が口出しすることじゃないだろ」
「僕が口出ししなくて、一体誰が口出ししていいのさ!」
言えば、しゅんと彼はうなだれた。
「俺の意志じゃないんだ、それは本当だ。俺も辟易してる。もうしない」
「誰の意志か知らないけど、もうしないんだね?」
「ああ」
「分かった。じゃあ、許すよ」
しばらくルルーシュは黙り込んでいた。だが、しばらくしてから口を開く。
「放っておく、お前が悪いんだ」
「――それは、ごめん」
「仕事が忙しいのは分かる。でも電話一本くらいは入れろ」
「分かったよ」
電話を入れて困るのはルルーシュの方だろうに、大丈夫なのだろうか?
だが、こんな状態で口走られたセリフこそが本音だろうと思われて、スザクは気を良くした。
NEXT