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スケープゴード21


 超合集国決議第壱號が可決された。
 それと同時に割り込まれた映像。皇帝の姿だ。今まで動きを見せなかった皇帝が、ルルーシュにようやく対峙した。黒の騎士団は既に本国にとって、目障りな存在となっているだろう。
 だが、ラグナレクの接続さえ済めば対立構造などもう関係がなくなる筈だ。
 このタイミングで彼が出て来た事は、嚮団の破壊に関係あるのだろう。
 そして、C.C.の存在。皇帝がコードを継いでも、ひとりではラグナレクの接続は為し得ない。
『スザク……!』
 赴任先へ、ルルーシュから電話が掛かって来た。声は切迫している。
「ルルーシュ、どうしたんだい」
 内容は分かっている。ゼロの告白とナナリーの保護だ。
『頼みがある……ナナリーを、守って欲しい』
 彼の口から出た、久しぶりの名前。彼はもうなりふりを構っていなかった。
『俺はナナリーを守れない。これから、俺は姿を消す。だから、頼む』
「いきなりだね。それに、君は記憶が戻っていたのかい?」
 しばらくの沈黙が落ちた。
 スザクの語調は柔らかかった筈だ。責めるつもりはなかった。なにせ、自分は最初から何もかも知っている。責めるつもりはない。しかしルルーシュの耳にはどう聞こえただろう?
 無駄に傷付けるのは本望ではなかった。
「気付いてたよ、君がゼロであることは。記憶を取り戻していたことも」
『……っ! 何故、それで…』
「君が好きだから。それで答えにならない?」
『お前は俺を憎んでいた筈だ。だからラウンズになった。皇帝に俺を売り、その座を手に入れた筈だ』
「それはその方が僕に出来る事が多かったからにすぎない。本当は、君の事なんて憎んでいない。もう、いいんだ」
『もういい…?』
 携帯の向こうから、呆然とした声が漏れ出る。
『俺は、ユフィを…ユーフェミアを殺した人間なんだぞ、それでもか』
「ああ。それでも僕は君を許す。君を愛す選択をいつだってする」
『愛する、だと? 何故そうなるんだ』
「君が大事だからだよ。――ナナリーは僕が守ろう。元よりそのつもりだ」
 彼女を皇帝の手駒になどさせるつもりはなかった。それに、と思う。
 彼の命も後わずかだ。
 まもなくラグナレクの接続が開始されるだろう。その場にはC.C.もいるはずだ。二人いれば、きっと彼を殺す事も可能かもしれない。
 ルルーシュのように人々が明日を望むギアスは掛けられないけれど、人々の心はいつも明日を望んでいる。ギアスなど、掛けなくとも大丈夫だと思えた。
 現実から随分乖離してしまったな、と今更ながらに思う。
 この道は正しいのだろうかと自分へ問う機会も増えた。ルルーシュの頭脳に頼らない作戦には、いつも危惧がつきまとう。実際、どうやってあの夫婦を消せばいいのか自分には分かっていないのだ。
 C.C.を頼るしかなかった。ラグナレクの接続さえ起きなければ。
 そして、あの場に彼等を封印できれば。
――いや、それは不可能に近い。コードを持つ皇帝はCの世界を簡単に出入りできる。
 封じ込めるのは無理そうだった。
 今度こそ、ルルーシュの手を借りなければならないだろうか。
 迷い始める。
「ルルーシュ。そこに、C.C.がいるね。代わって欲しい」
『お前、なぜC.C.の事を』
「話せば長くなる、後にさせて。君にはナナリーを守るという約束で、納得してもらいたい」
『…………分かった』
 長い沈黙の末、電話は代わられた。
『枢木か。何故私を呼び出す』
「君と簡単に連絡が取れなくなったからね、こうするしかなかった。まもなくラグナレクの接続が始まるだろう。そのために君は呼び出される筈だ。それを阻止する事は出来る。だが、僕には彼等を消す方法が分からないでいる。現実ではルルーシュが集合無意識にギアスを掛ける事により、望みに沿わない皇帝らを消す事が出来た。――今回も、そうする訳にはいかないだろうか」
『今になってルルーシュを巻き込む気か?』
「ああ。彼はまだ欲しかった情報を得ていない。母親の暗殺の事だ。それを知れるいい機会にもなると思うんだけど」
『…確かに。少し考えさせてくれ。こちらは第二次トウキョウ決戦の準備で大変なんだ』
「君が? 君はいつも超越した立場にいるくせに」
『今回ばかりはそうもいかない。私も出撃する』
「そうか。じゃあ、僕は君たちも守るように動く。ルルーシュには内緒にね」
『当たり前だ。そんな事を知ればあいつは憤慨してそのまま死んでしまいそうだ』
 そして、携帯の向こうからは笑い声が聞こえた。いつものC.C.の声だ。
『それにしてもこの代償は高いぞ、枢木。私は今、ルルーシュに殺されそうな目で見られている』
「いつか、きっと返すよ」
『期待している。では、また連絡をする』
「頼んだよ、考えて欲しい。僕ももう少し考えてみる」
 そしてお互い、挨拶もなしに通話は切られた。
 今頃彼女は、ルルーシュからの質問攻めにあっているだろう。そう思えば申し訳ない気持ちにもなった。だが、既にエリア11にいず、蓬莱島に詰めている彼女との連絡手段はもうないのだ。
 彼女からの気紛れをまつしかない。
 前回、嚮団の殲滅は上手く行ったが、今回は時間制限も付いている。ただ待っている訳にはいかなかった。



 そして決戦が始まる。
 ゲフィオンディスターバーの仕掛けられたトウキョウ租界は、一気に闇にたたき込まれた。
 第五世代以前のKMFは全て起動しなくなる。
 キュウシュウでの戦役をおとりとし、仕掛けられたそれは現実と寸分互いがなかった。
 自分のランスロットには、やはりフレイヤが積み込まれていた。
 今回は使う必要がない代物だ。そうならない事を心から祈った。ルルーシュに掛けられたギアスが発動するなら、その前に自分のギアスを発動させて欲しいと心から祈る。
 気付いた事があった。自分の生死に関わる時にも自分はギアスで時間を飛んでいた。
 あれは、ルルーシュの生きろというギアスが発動させていたのだろうという事だ。
 だから自分はきっと、このループを繰り返しているうちは、永遠に死なないだろうことが分かっている。ルルーシュが失われた時は、自分が跳躍している。
 良く出来た仕組みになっていた。今まで気付けなかったのが、嘘のようだった。
 ナナリーは脱出艇に乗り、落とされそうになっている政庁からの脱出を進められているがなかなか首を縦に振らないらしい。
 戦闘を行いながら、説得役を付き人であるローマイヤからの通信で頼まれる。
「ナナリー、早く乗って。君が脱出しなければ、逃げられない人もいる」
『でも、スザクさん」
「君の護衛は逃げられないんだ。早く!」
 カレンが出て来る。見慣れた機体だ。けっして侮っている訳ではないが、現実と同じように絶対的な機体性能の違いがある訳ではない。いつものようにほぼ互角に戦う事が出来るだろう。
 フレイヤの出番は、ない。
「こちらも混戦になってきた、一度切るよ。ナナリーはちゃんと役目を果たして!」
『スザクさん…! 分かりました。どうぞご無事で』
 ぷつり、と通信が切れる。それからは気の抜けない時間になった。
 彼女一人を相手にしていていい訳ではない。黒の騎士団は面子を揃えて総掛かりで出て来ている。
 時には集団でカレンの補佐をしてくる。
「…くっ、やられてたまるか」
 ルルーシュに掛けられたギアスが発動しそうになるのを、気力で押しとどめる。
 自分の意志で戦い抜かなければ、この戦闘に意味はない。
 ルルーシュを助ける動きなど、取れる筈もなかった。そのルルーシュはナイト・オブ・テンとその部下ヴァルキリエ隊によって捕縛されている。
「カレン、ゼロを見ろ!」
『あんたに指図されたくないね』
「ゼロをやられてもいいのか?!」
『……っ!』
 絶対守護領域がかろうじてルルーシュの機体を守っている状態だ。蜃気楼は動きを奪われ、絶対的なピンチに立たされていた。カレンもそれに気付いたのだろう。
「行け!」
『なんで……なんで、あんたが』
「それはいい、早く!」
 攻撃の手を一瞬緩めた。その隙を逃さず、彼女は戦線を離脱し、蜃気楼の元へ向かう。
 残されたのは雑魚ばかりだ。葬るのは本意ではない。脱出艇がきちんと発射されるよう、足や手、頭部のみをMVSで切り落とすくらいのことは簡単だった。
 やがて街に明かりが戻り出す。
 ゲフィオンディスターバーの処理が終わったのだろう。
 これで第五世代以前のKMFも動き始める。
 今回も決着は付かないだろう。そう思わされた。
 だが、紅蓮が救出に向かった蜃気楼の動きは違った。
 傍らに紅蓮を置き、圧倒的な火力でトウキョウ租界上空を炎に染め上げていく。
 そのまま政庁へ向かって行った。あそこに残るのは、シュナイゼルだ。
 このまま一気に片を付けてしまうのだろうか。
 スザクは降りかかる火の粉を振り払いながらも、積極的に戦闘には参加しなかった。
 不審に思われた他のラウンズには駆動系がやられたとの嘘をつく。
 戦況を見極めなければならない。いざとなれば、裏切りも必要だ。
 カレンは疑うだろう。だが、ルルーシュは受け入れるに違いない。
 そう、確信していた。



「一度帰投する」
 蜃気楼が政庁に着けるのを見て、スザクはオープンチャンネルで他のブリタニア勢へと告げた。
『その方がいい、修理してきてくれ。こちらも手が足りない。それに、政庁が…』
「分かってる、この機体でどこまで出来るか分からないけど、やってみる」
 ジノからの通信だ。
 良くしてくれた相手だ。嘘をつくのはしのびなかったが、そう言うしかなかった。
 裏切るつもりでいる。ルルーシュ側につくつもりでいる。プライベート通信で、C.C.の回路を開いた。予め聞いてあった。
「これから、ルルーシュと合流する」
『そうか。では、私も政庁へ向かう』
「頼む」
 このままラグナレクの接続を止める事が出来ればいいと思った。
 C.C.もいる、ルルーシュもいる。カレンは思わぬ付属だが、彼女がいて出来ない事ではない。
 いや。やはり、彼女はいてはならない。もしゼロレクイエムの話になったとすれば、彼女を巻き込んではいけない。
 どこかで撒く事を考えなければならなかった。



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2011.4.9.
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