「お前はまだ、自殺願望を持っているか?」
夕食後の話題としてはふさわしくないのは百も承知だ。だが、のんびりしてもいられないのが現状だった。
スザクは表情を曇らせ、かすかに頷く。
「そうか」
今日租界へ連れて行ったおかげの策だ。
租界でブリタニア人にギアスを掛ける。そこで殺人を犯させれば良い。
なんとも簡単な図式だった。
これなら、ブリタニアがきっかけとして日本との戦争は開始される。
だがこの男を殺すにはもったいないと言う気持ちが既にわき始めていた。いわゆる、情が移ったとでも言うのだろうか。殺されて、はいおしまいではわだかまりが残りそうな予感がする。
その時、電話が鳴った。
「はい」
『ルル! いったいいつまで休むつもりなの?! 河口湖なんて行ったりして何考えてるの、出席日数危ないって自覚してるの?!』
出た途端、あまりのボリュームに思わず携帯を耳元から離した。
うっかり出てしまったが、これはプライベートの携帯だ。相手はシャーリー。同じ生徒会のメンバーだった。
時刻は夕食を食べたのが若干早かったせいか、まだ十九時を過ぎた程度だ。もしかしたらまだ生徒会室にみんなはいるのかもしれない。
『はあい、ルルーシュ。そういう訳で、早く学校来なさい。いくら私でもおじいちゃんに頼み切れないからね、出席日数は』
『土産! 土産頼む!』
なんとも騒々しい事だ。リヴァルが背後でわめいている。案の定勢揃いだ。
そこで、気がついた。このボリュームの会話。きっと、スザクにも聞こえてしまっている。
おそるおそる彼の方を見ると、にやりと彼は笑ってみせた。
最悪だった。
「わかりました、でもまだしばらくは無理です。宿も取ってあるし、チケットだって買ってある。無駄にしろって言うんですか? この貧乏学生に」
『ううーん。ルルちゃんのポケットマネーの額は知らないけど、そうね。これで間違いなく落第になっちゃうわよ?』
「補習を受けますよ、それで大丈夫でしょう? では切りますよ」
『あ、ちょっとルル! それじゃあ話が……』
ぷつ、と通話を切ると、電源まで落とした。
「ふうん、君の名前、ルルーシュって言うんだ」
案の定聞こえていたらしい。
「ルルって呼んだ方がいいの?」
「勘弁してくれ」
「じゃあ、ルルーシュだね。へえ、本当に学生してたんだね」
もっとも、素行不良のようだけど――と付け足し、彼は笑う。
「まあゼロと両立させるには学校なんか行ってられないよね。すごいな、二重生活か。これじゃあ本当にゼロの正体なんて、どんだけ躍起になっても分からない筈だ」
感心した声音で言われた。だが、名がばれてしまったのは致命的だった。
これで彼を解放するのは難しくなる。最初から顔を知られた時点で難しいとは思っていたが、いつか喧伝されればたまったもんじゃない。
ゼロはゼロ。中身は不明でなくては意味がないのだ。
「大丈夫だよ、誰にも言わない」
気配を察したか、スザクは告げた。
その声音は妙に安定したものだった。
その夜の事だった。
再びの侵入者に目を覚ます。
「ルルーシュ、一緒に寝させて」
彼は名を知ってから、やたらと呼ぶようになった。今もそうだ。
甘い声で、そそのかすように告げてくる。
「ダメだ、お前の寝床はソファだと告げてあるはずだ」
「だって昨日も一緒に寝たじゃない。今日だって大丈夫だよ」
「何を根拠に大丈夫だと言ってるんだ。お前のお陰で、俺は寝不足なんだ」
「そうなんだ? それじゃ、良く寝れる事しようか」
そして、彼は唇を重ねて来た。
「……っ!」
そして、舌が自分の閉じた唇を舐めてくる。
背筋を走る感覚に、ぞわりとした。
「やめ、スザ……」
口を開いた瞬間、スザクの舌が口の中に入って来た。ものをしゃべり掛けた舌を絡め、口腔内を好きに動き回る。上あごを舐められた時、下腹へずんと来るような感覚を覚えた。
「……はっ、あ」
「こういうキスは初めて?」
スザクは問うてくる。しかし上がってしまった息で、ルルーシュは答える事が出来なかった。
初めてだった。だが、それを言えばバカにされるような気がして、それはそれで良かったのかもしれない。
「気持ちよさそうに、見える」
目元をほころばせて、スザクは言う。
そして再び唇を重ねて来た。今度は最初から遠慮なしに蹂躙される。
息をつく間もなかった。
その合間にパジャマのボタンを外されていた事すら気付けなかった。
素肌に触れた熱い手のひら。おうとつのない自分の体をなで回すそれによって、ようやく気付けたくらいだ。
「お前、どういう…」
「言ったはずだけどな、一目惚れだったって。あの頃から…」
「あの頃? それはストックホルム症候群というヤツだ。吊り橋理論とも言う。不安定な……っ、スザ…っ」
「そんなご託は必要ないよ。僕は今、こうしたいだけ。ルルーシュと寝たい」
唇が肌に落とされた。強く吸い付かれ、そこにはくっきりと赤黒い跡がつく。
「白い肌だから、映えるね」
くすり、と彼は笑ってキスマーク作りに夢中になっていく。
抵抗しようと思えば出来たはずだ。なのにルルーシュはその時、動揺の余りスザクを受け入れるしか頭が回転しなかった。
「や……っ、やめっ」
胸の尖りを唇で含まれる。なにかの間違えで残されたのではないかと思っていた器官が、快楽を生む事を初めて知った。下腹へ直接響く悦楽。それが怖くて逃げをうとうとしたが、スザクはそれを許さない。体を押さえ込み、今度はパジャマの上から勃起しかけたものを直接さすり始める。
「んく…っ、んっ」
「反応、してるよ?」
そんな事は言われなくとも分かっている。羞恥にかっと頬に血が上るのを感じた。
そして、するりとパジャマのウエストをくぐり下着までくぐって生で触られる。
「やめっ、スザク……っ!」
意図を持った動きに、ルルーシュはついていけない。快楽ばかりが先走る。
「や、ああっ、あ、あああっ」
「すごい、濡れてるよ」
もう片方の手で先端をぐりぐりといじられる。ルルーシュは身もだえするしかできなかった。
その手を抜きだし、ルルーシュに見せつけようとする。
「この、悪趣味め…っ」
「だって、とても甘そうだから……」
と、告げて。舌を出してスザクはそれを舐め取った。
「や、やめろ!」
「甘くは、ないね」
言って、笑う。
「でもルルーシュの味だ」
そして再び両手をパジャマの中へ忍び込ませ、面倒だとばかりに全てをずらし取り去ってしまった。
シーツも剥がれてしまう。
「や……っ、やめっ」
何もかもが見えてしまう。反応しきった性器も、紅に染まっているだろう体も。
「どうして? とても綺麗なのに…みたいよ、僕は」
そして、性器に唇を落とした。
「んぁっ、ああっ」
じゅぷじゅぷと唾液の音がする。それとも先走りの音だろうか。
手酷い快楽だった。女性経験のないルルーシュは、当然こんな刺激も知らない。
粘膜と粘膜がこすれ合う快楽。頭がゆだってしまう。
「や、め、……ス、ザク…、いく、から」
駆け上るのはすぐの事だった。なのにスザクは口を離してくれない。
早くいきたいのに、いくことができない。
気が狂いそうだった。
「も……っ、む、り……っ!」
びくん、と背中が反らされた。とくとくと快楽の雫がスザクの口の中に注ぎ込まれる。
羞恥に死にそうになった。
だがそれだけでスザクは終わってくれなかった。
吐き出したものを手のひらに乗せ、後孔に塗り込めてくる。
「……っ」
ひどく敏感になっていた。そんな場所ですら、感じてしまう。
細い指を一本だけ、中にゆっくり沈められる。違和感は、あった。痛みもだ。
だが、快楽が勝っていた。
自分の体がおかしくなっていることは良く分かっている。排泄にしか用いない場所を、好きに蹂躙されようと言うのだ。彼は抱きたいと言った。抱くとすればそこを使うしかないだろう。
そんな事は不可能に近いのに、抵抗らしき抵抗が出来ない。
まだ体中で弾ける快楽の泡が体の自由を取り戻してくれない。
「やっぱり、こんなんじゃ潤滑にはならないよね」
スザクは、そう言って一度ベッドを降りる。
そして台所からオイルを持って来た。
「ちょっと汚れちゃうかもしれないけど、ゴメンね。明日ちゃんと洗うから」
手の平に、スザクは調理用オイルを垂らした。そしてそれを後孔に塗り込める。ぬるぬるとした感覚が新しい快楽を生む。
「あ……っ、ああ」
指は簡単に入っていった。
「軍隊にいるとね、男ばかりだから、こういう知識だけは増えて行くんだよ」
と、スザクは内部をまさぐる。そして、ビリビリと電気が走ったような場所を抉られ、ルルーシュは悲鳴のような喘ぎを上げた。
「ここだね」
興奮にうわずった声だった。
その声にすら、欲情する。
自分は淡泊な方だと思っていたのに、とんだ思い違いだった事を知る。
指はゆっくりとさっきの場所を撫でながら、増やされて行った。とっくに再び勃起している事には気付いている。
自分の口は、すすり泣くような喘ぎしかもらさない。もうやめろ、などと言う事が出来ない。
逆に早くと思っていた。
もっと、もっと、と。
何本かの指が内部で暴れ、敏感な場所もそうでない場所も好きに蹂躙する。
「ああっ、ああああっ、くあ、あ、んっ」
そして指が抜き去られた。
変わりに、熱く滾ったものがあてがわれ、スムーズに挿ってくる。
「あー……っ、あ、あああっ」
太い性器だった。体を貫かれる感覚。未知の感覚は怖くて逃げ出したいのに、もっと欲しくもなってしまう。ぴたり、と入り口と彼の体がくっついた。根本まで挿れられたのだ。
「すごい……気持ち、いい」
うわずった声が、吐息とともに吐き出される。
その声に、ルルーシュは感じた。
「ルルーシュ、ダメ、動かさないで」
体の中が動いていることが、自分でも分かる。でもどうしようもなかった。
「じゃあ、僕も動くよ」
返事をするいとまもなかった。
緩く抜かれた性器が強い勢いで戻って来る。
「……んはっ」
その繰り返しで、突かれる毎に声は勝手に漏れた。
ゆっくりとした動きが徐々に強く速くなってゆく。
「ああっ、ああ、あ、あああっ」
体ががくがくとゆすぶられていた。頼るものがなくて怖くなってくる。
思わず、スザクの背中に手を伸ばした。
爪を立てる。一瞬スザクが息をのんだのが分かったけど、動きは止められなかった。
「や、もう、もう、いく、も……っ」
「僕も……もう、い、く」
早いテンポで抜き差しされて、最奥で精液を出された。
その感触で、ルルーシュも白濁を飛ばす。
何故こんな事にと思う思考力さえ飛び去って消えていた。
ただひたすらに気持ちが良かった。
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