指定された時間までに、金が揃えられた事を告げるメールが届いた。
時刻は既に深夜だ。明日の朝一番から動くのがいいだろう。
その旨を伝える。
相手はきっと今夜眠れないだろうなと思った。身代金の心配ではない、ゼロを捕まえられるかもしれないチャンスにだ。スザクの事も心配されているのかもしれない。
そして、朝が来る。
第一秘書の私用車を使わせた。トランクには三億の入ったトランク。
それを高速のサービスエリアのトイレにて、段ボール箱に詰め替えさせる。
予め、こちらで用意してあったものだった。ものを探ったところで足は着かない。それに、それを調べる時間もない。
緊張した声の第一秘書は、作業が完了したとつなげたままの電話で告げて来る。
そのまま、租界内をぐるりと回る幹線道路を一周させた。尾行車両がないかの確認だ。
今朝早くから、スザクとルルーシュは租界内のホテルの一室にいた。
そこからは今第一秘書に指定した幹線道路が良く見える。
一巡させ、さらにもう一巡。
周辺の車両に目を配る。
尾行車は見あたらないようだった。
そこで、次の指示を出す。
ルルーシュらの目視出来るパーキングエリアに、車を乗り捨てる事。
もちろん金はそのままにだ。
そしてそのまま放置した。
金は回収する気はなかった。今は、だ。
放置された車両はそのままパーキングエリアに停車されたままだろう。
それを一晩ルルーシュらは監視する。
車両に近寄るもの、不審な動きをするもの、全てにチェックを入れたが、枢木首相近辺の人間は既に頭にたたき込んである。その関係者はいそうになかった。警察らしき姿も見えない。
そのまま、朝を迎える。
今一度第一秘書に連絡を入れる。今度は地道を走らせ、途中で高速に入らせた。一番手近なパーキングエリアに停車させる。それもルルーシュらの視界にギリギリはいる場所だった。
「キーを付けたまま、降りろ」
告げればしばらくして、小太りの男が降りて来た。
しきりと周囲を見回している。自分の姿を探しているのか、警察の姿を探しているのかは分からない。だが、それでも構わない。
そこでルルーシュは新しい番号に電話を掛けた。
首相と同じ党に属する新人議員だ。
「申し訳ありません、首相の第一秘書が体調不良を起こしまして、現在租界内のパーキングエリアに重要な書類が置き去りになっています。それを取りに行っていただけませんか?」
柔らかな声を意識的に出した。
「ええ、そうです。ベージュのいつも私用で使われている車です。鍵は掛かったままになっています。それを今日の会合に間に合わせるため、第一会議場まで運んでいただきたいのですが」
スザクはきょとんとした顔で自分を見ていた。何が起きているのか分かっていない顔だ。
第一会議場と言えば、租界内でも随一を誇る巨大センターホールのメイン会議場だった。
書類の重要さがそれで分かると言うものだろう。
「はい、お願いします、ありがとうございます」
そこで、通話を切った。
「さあ、スザク。お前の出番だ」
「え、え? 何をやってたの? 僕たちは昨日から何やってたの?」
「身代金奪取の段取りだよ」
言って、笑ってやった。
「これから第一会議場へ向けて、中身が三億だと知らず新人議員が段ボール箱を運んでくる。もちろん第一会議場で会議などない。そこへ入る前に、お前が受け取って、配布の算段をすると告げる」
「え……そんな簡単でいいの?」
「幸いにも警察は動いていないらしい。それでいいんだ」
「もし捕まったら?!」
「お前は人質だろう? 脅されたと素直に言え」
「脅された訳じゃ……」
「じゃあ、脅してやろうか?」
「ルルーシュが出来るんだったらね」
ちっと舌打ちした。完全にスザクが上手だ。
「とにかく、そうすればいい。そうなったとしても俺は駒を一個失うだけだ、問題ない」
「あ、傷つくなあ、駒扱い」
その前に、と、スザクを連れてルルーシュは紳士服店に入った。高級なスーツを一点買い与える。
軍人の体だから、スーツは良く映えた。それに眼鏡を掛けさせれば完了だ。
「よし、それでどこかの秘書くらいには見えるだろう。行ってこい」
センターホールまでは一緒に向かった。新人議員には、こっそりとギアスを掛ける。
それくらいの手助けはしても構わないだろう。
実際、今日のセンターホール内での催しはひとつもない。不審がらせないための処置だ。
「ここから先はお前ひとりだ、頼んだ」
うん、と頷いてスザクは入って行った。
新人議員にここから先は自分が持って行くからと、段ボール箱を受け取る算段になっている。
その程度なら、きっとやってのけるだろう。
それから十五分後、新人議員はどこかぼんやりした顔で出てくる。
そして遅れる事五分、スザクがカートに積まれた段ボール箱を持ってセンターホール内を歩いて来た。
「よし。詰め替えるぞ」
十五分の間にルルーシュは普通の旅行者が持っていそうな旅行用カートを用意していた。
段ボール箱を開けてみれば、札束がぎっしりだ。
「良かったな、お前見捨てられなくて」
笑い含みに言えば、スザクはどこか憮然としている。
「まるで偽物を掴まされるのを期待してたみたい」
「そんな事はないさ。三億あればこちらも動きやすくなる。お前のおかげだ」
男子トイレ内に移動して、清掃中の札を置く。
そこで札束をカートに移し替えた。全て手の切れそうな新札だった。
「これ、このまま使ったら足がつくんじゃないの?」
「問題ない。マネーロンダリングって言葉を知ってるか?」
「あ、悪い事だ」
「そう、その悪い事をして綺麗な金に換える」
きっちりと二つのカートに札束はおさまった。一枚のごまかしもないようだった。
これでスザクが使える駒であることは証明された。
「さて。本来ならここで人質は解放なんだが……」
「してもらえないよね」
「もちろん。共犯者を逃す程、甘くはない」
軽く笑って、同じくスーツ姿に着替えていたルルーシュとスザクは目立つこともなく、租界内を歩き、ギアスを掛けてある警備員の立つ廃墟との連絡通路を通り隠れ家に戻った。
「すごい、本当に三億だ。こんなお金初めて見た!」
スザクは興奮しているようだった。
自分も、事が上手く運んで機嫌がいい。
「お祝いしようよ」
「お祝い? 残念ながらここにはシャンパンも何もないぞ」
「じゃあ買いに行こう!」
スーツを脱ぎ普段着姿になったスザクは、強引にルルーシュの手を引いた。
それくらいはいいか、とルルーシュも折れる。気が良かったのだ。
札束はまだ使えない。番号でも控えられていたら、面倒なことになる。だから全てはルルーシュのポケットマネーでまかなわれた。
シャンパン、ワイン、各種つまみ、お腹が減ったというスザクのためにピザ。
かなりの大荷物になって部屋に戻ってくれば、もう夕刻も過ぎ夜の時間になっていた。
シャンパングラスなどという洒落たものはないので、ただのコップで乾杯をしてから食事が始まる。
ルルーシュはそう酒に強い訳ではない。セーブしながら飲んでいたのだが、スザクはさっぱりざるのようで、次から次へと空けて行った。ルルーシュにもコップの中身が少しでも減れば継ぎ足す始末だ。
「おい、俺はそんなに飲めないぞ」
「いいじゃない、今日くらい」
ひどくご機嫌だ。酔いは回っているのかもしれない。
ピザは早々に食べ尽くされ、つまみと酒ばかりで時間が過ぎていく。
さすがに、深夜に近い時間になればルルーシュも酔いが周り周囲がくらくらと見えてきた。
切り上げ時だ、とベッドへ向かう。
「ルルーシュ、どこ行くのさ」
「もう俺はダメだ、寝る」
「じゃあ、僕も寝る」
「お前はソファで寝ろ」
「ソファは嫌だ」
多分、自分は酔っていた。
だから言い争いも面倒になり、スザクの侵入を許してしまった。
ベッドに共には入ると、スザクはもぞもぞと自分の居所を探る。そして、ルルーシュにキスをした。酒臭いキスだった。
「お前っ、そういう事は……っ」
「入っていいって言ったでしょ?」
「そうとは言ってない」
「でも嫌がらなかった」
そして再びのキス。
今度は長いものだった。酔いで頭がくらくらする。目を閉じればグルグル世界が回る。
舌を絡められたそれは甘美なものに思われた。
服をはだけられ、素肌に触れられる。酔いの回った手は熱い。その温度が気持ち良い。
本当は抵抗しなくてはいけないのに、自分の飲める量を誤っていた。それとも、スザクはこれを狙っていたのだろうか? 次から次へと継ぎ足される酒。自分でも何杯飲んだのかなど分かっていない。
確かなのは、シャンパンとワインが二本、確実に空けられたと言う事だけだ。
「………ぅふ、う…」
口づけを肌に落とされる。それが甘美に体中に広がる。以前の交わりを自分の体は忘れていなかったらしい。嫌悪すべきものの筈なのに、体は甘く震えていた。
ぐるぐる回る世界が気持ち悪いのに気持ち良くて、思わずスザクにしがみついていた。
「……っ」
彼は、少し驚いたらしい。
だが、動きは再開される。至る所に落とされる唇。そのたびにちりりと響く痛み。キスマークが付けられてゆく。
「は……ぁ、あ」
じわり、と自分の温度が上がっていくのを感じた。
下肢を暴かれ、それを握られる。既に快楽の雫は漏れ出している。それを潤滑に、スザクは手淫を行う。
「ああっ、あ、あああっ」
ぐちゃ、ぐちゃ、と聞こえる音が耳を犯す。
生身の快楽はとんでもなく気持ちよかった。
耐えきれず、あっという間に吐精する。
「早いよ」
「うるさい、黙れ」
確かに早かった。その気恥ずかしさも手伝いぶっきらぼうに言えば、スザクは下肢を素っ裸にさせた。そしてオイルを持ってくる。
また、あの時間がやってくるのだ。
それは屈辱的で辛いものの筈なのに、何故かルルーシュは待ちわびていた。
もっと強い快楽が欲しいと思っていたのだ。
少しの量のオイルを、こぼれないように後孔に塗り込める。指が一本差し込まれる。
それを、ピストン運動されて思わずルルーシュの口から嬌声が漏れた。
「まだ、早いよ。一本だけだ」
だがその一本の指は的確にルルーシュの弱い場所を突いている。
再び性器が芯を持つのは仕方なかった。
ほんのわずかな笑いの気配と共に、二本が一気に挿し込まれる。
「……っく」
オイルの助けがあるからか、痛みは微塵もなかった。違和感には慣れてしまっていた。
抜き差ししながら弱い場所を突く動きを、三本の指が行う。
「あああっ、あ、あ、んっ、あああっ」
吐精にまで至らない快楽が体を蝕んでいく。くらくらと世界は回ったままだ。
目を開けば、スザクがとろけるような顔で自分の目を見ていた。ばっちりと目が合う。
「すごい、気持ちよさそう」
「…っあ、ああっ、い、いい」
そそのかすような掠れた低い声に促され、ルルーシュは素直に答えてしまっていた。
「ルルーシュ、好きだよ」
そう言って、指を抜く。
そして肉塊が代わりに挿し込まれる。
「あああっ」
くぅっと、背筋がしなった。
太いそれに、耐えられなくなる。しがみついていたスザクの背中は、汗にまみれて手が滑り、ベッドに落ちてしまう。
そのまま、再びルルーシュは吐精した。
「く…っ」
強い絞り込みに、スザクは必死で耐えているようだ。
しばらくの時間、ルルーシュが白濁を吐き終えるまでの時間を待って、スザクは動き始めた。
がくがくと揺さぶられ、酔いは更に回ってしまいそうだった。
まるで人形のようにスザクの動きに合わせて声が漏れ出てしまう。
気持ちよかった。
やがてスザクも吐精してしまう。それが少しでも遅ければいいのにと願ってしまいそうだった。
ストックホルムシンドロームにかかっているのは、自分の方かも知れないと思った。
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