翌朝、早い時間だ。
家を空けているいる事を知られない為に帰る準備をしていたら、もうくせになったようで傍らに寝ていたスザクも目を覚ました。
「どうしたの、こんな時間に」
「帰る」
「え? どうして」
「家に居ることになってるんだ、朝帰りは不味い」
「ああ……」
納得したようで、再び彼は眠ろうとする。
まぶたを閉じた状態で、だがスザクは語りかけて来た。
「黒の騎士団に入るよ。でもその前に、ひとつ一緒に行って欲しい場所がある」
「どこだ?」
「新宿廃墟の、テロ慰霊館」
意外だな、と思った。そんな場所に何の用があるのだろう。
まさか慰霊する程の人数が殺されているのだから、テロ自体をやめろと説得する気でもあるまい。
「考えておく。それじゃあ」
衣服を改め、いつものカバンを持ち帰路についた。
太陽が昇り始める時間だった。
久しぶりに学校へ行けば、色んなメンバーから悪態をつかれた。
特にシャーリーだ。
「ルルは頭の使い方間違ってるの! 一緒に進級するんだからね」
「だーってさ。実際俺だって、なかなか学校こないなーって思ってナナリーに聞いたら河口湖だって言うんだもんな、驚いたどころじゃないよ」
「悪かった。せっかくだから学生の内にいろんなところへ行っておきたかったんだ」
「そういうせりふは出席日数足りてる人が言うの!」
だが、多分自分は彼等と共に進級する事はないだろうと思っていた。
それまでにエリア11の解放を終える。そうなれば日本という土地に居る理由がなくなるのだ。世界へ打って出て、ブリタニアと戦わなければならない。
ちらり、と同じ黒の騎士団に属するカレンを見た。
彼女は相変わらず猫かぶりでおとなしいお嬢さんを演じている。クラスメイトに囲まれ、たおやかに笑っている。
本来の姿を知っている身とすれば、さぞかし苦行だろうなと苦笑が漏れた。
「なに笑ってるの? いい、ルルは今後欠席一切禁止だからね!」
「補習があるだろう? それでなんとかなる筈だ」
「そんなのは奥の手なの。別に病気を持ってる訳でもないんだし、学校来られない理由ある訳でもないんだから、ちゃんと来ること。いい?」
体育会系のシャーリーはいつも熱い。約束は出来ないが、ここは頷くしかなさそうだった。
そこへちょうど授業開始のチャイムが鳴る。
先生にまで、珍しい姿があると揶揄られてしまった。
授業が終わり、今日は夕食を外で済ますと妹に告げて、隠れ家へ直行する。
スザクはパジャマ姿でなく、きちんとシャツとジーンズ姿で待っていた。いつかに買ってやったオレンジのシャツを着ている。似合っていた。
「すぐに行くつもりか?」
「うん、日が暮れると物騒になるし」
「そうか……制服のままでも、構わないか」
着替えをした方が良いだろうかと思ったが、まだ日中だ。そう治安は悪くない。
なので、そのままスザクと共に出た。
新宿慰霊館は昔新宿都庁と呼ばれていた場所にある。高層ビルが崩れ、多くの人が巻き込まれて死亡した。それを弔うために建てられた建造物だった。
入り口で、スザクは周辺を見回し細い鉄パイプを持って来る。長さは五十センチ程度だ。
「危ないから、これ持ってて」
「ああ」
渡されたそれを、ルルーシュは素直に受け取る。
「僕が先に入るから、五分後くらいに入って来てくれる? 中がどうなってるか分からないから」
「一緒に行ってもいいじゃないか」
「もしレジスタンスの巣になってたら、君の存在が邪魔になっちゃうよ。僕ひとりなら、軍で仕込まれた体術もあるからどうにか出来るけど」
「そうか、分かった。待っていよう」
スザクが必死に言うので、ルルーシュは頷くより他なかった。
「君を危険にさらしたくないんだ」
更に重ねられれば、反論の余地もなくなる。
じゃあ、と言ってスザクは中へ入っていった。慰霊館とは言え、今では弔う人も数少なく決して綺麗な場所ではない。スザクの言う通り、レジスタンスの巣になっていてもおかしくない場所だった。
きっかり五分後、ルルーシュは鉄パイプを握って中に入る。
ブリタニアの学校の制服を着たまま、鉄パイプを握った姿はいかにも滑稽だっただろう。
だが、それは映像に残されてしまった。
「なにも、ないね」
「ああ」
慰霊碑が中央にあるだけ。花は枯れ、ほこりに近くなっている。
懸念していたレジスタンスはどこにもいなかった。
「こんな場所に連れて来たかったのか?」
「いや、どんな場所か知りたかったんだ。でもここまで何もないなんて……」
スザクは困惑したような顔を見せた。
そして、ルルーシュに先に戻らせる。
せめて祈ってから外へ出たいと言ったからだ。
その必要を感じなかったルルーシュは、再びひとりで外へ出た。
五分もしないうちにスザクは戻ってくる。
「これで、いいんだな?」
「うん」
「ひとまず家に帰ろう。腹が減った、夕食を作る」
「分かった」
ここから隠れ家までは、徒歩で十分程度だ。
食材を買い足しておかなければならないな、と思ったが、その必要はないのかと思った。
彼は黒の騎士団に入るのだ。当然食事もそこでまかなわれる。
そのことをどこか寂しく思っている自分がいた。
夕食を食べ、一緒に寝る。
単純には寝れなかった。
明日にでも黒の騎士団へ引き渡す事になるのだ。ゼロといち団員との繋がりはほとんどないに等しい。遠い存在になってしまう。
その事実がルルーシュを駆り立てた。
唇を寄せ、キスをする。驚いたスザクは、だけどすぐにそれに応じた。
「珍しいね」
「感傷だ」
それが何を意味するのかはスザクには分かっていまい。
だが、再び唇を合わせると、舌を絡めあい、唾液をすすり合う。
そのことに酷く感じた。
スザクはルルーシュのパジャマを脱がし、自分も脱いでしまう。
全裸で抱き合えば、酷く暖かかった。
何もせずこのままでもいいと思ってしまう。
だが、スザクの勃起が自分のものに触れる。抱き合っているだけでも感じているのだ。
そう思えば嬉しくなった。
手を緩めれば、スザクは肌に唇を落としてくる。きつく吸い付きキスマークをたくさん作った。
そのたびに、ルルーシュも感じていく。手で体をまさぐられ、そして弱い場所をくすぐる。
「スザク…っ」
くすぐったいだけだった場所は、もはや性感帯となっていた。そのまま下腹へずんとした重みが加わる。自分も勃起していることが分かる。気持ちがいい。
お互いの勃起をこすり合うようにして動けば、思わず声が漏れた。
「…ぁ、ああ、ふ、ぁあ」
固く、熱い。だがもどかしい。
手を伸ばしてふたつの勃起をルルーシュは掴んだ。そして、手を上下させる。
「くぅ……っ」
スザクも感じているようだった。
直截の刺激は、生々しく感覚を浸食する。
そこへスザクの手も加わり、ふたつの手でばらばらにさすり合った。
「ああっ、あ、あああっ」
スザクの手は熱い。それが自分のそれに触れる。耐えられそうもなかった。
「いいよ、いって」
そそのかされるようにささやかれ、ルルーシュはそのまま白濁を飛ばした。
追って、スザクも達する。
荒い息がしばし空間に満ちた。
スザクがベッドから降りてオイルを取りに行く。その間の空白が、今日のルルーシュはやけにいやだった。早く戻ってきて欲しい。体温を分け与えて欲しいと願ってしまう。
ほんのわずかな時間だったと言うのに、とても長く感じられて、帰って来たスザクに抱きついてしまった。
「……ルルーシュ」
オイルを床において、スザクは応えてくれる。
この温度がなければ生きていけそうにないとまで思ってしまう。
何故そこまで思うのか、良く分からなかった。ただひたすらスザクが欲しかった。
ほんのわずか体を離し、スザクは手にオイルを取る。
腰の下に枕を置かれ、高く掲げられると、ぬるりとした感触がそこを滑った。
本当はまだ抱き合っていたかった。だが、慣らす事をしなければ繋がることも出来ない体だ。しかたがない。
指で丁寧にほぐされ、その温度だけで満足しなければならなかった。
一本が二本になり、三本になる。
その頃にはルルーシュも乱れ始める。弱い場所は熟知されている。そこばかりを狙うのだから、本当にスザクはタチが悪い。
「や……はや、く……っ、すざ、く」
スザクは指を抜くと、ぎゅう、と一度抱きしめてきた。
それだけで達しそうになった。
だが、体をずらし、じわじわと挿入してくる。
「あああっ、ああっ、あ」
たった二度しか寝ていないのに、慣れた感触だった。気持ちよくて気が狂いそうになる。
「あっ、ああっ、あ」
ようやく最奥まで到達すると、スザクは再び抱きしめて来た。まるで向かい合って座っているかのような姿勢で、スザクは腰を使い始める。
「や…っ、ああっ、あああっ、ふか…」
「気持ち、いい?」
「いい……すごく、い……っ」
揺らされるたび、髪がばさばさと乱れる。襟足に掛かる自分の髪の毛ですら感じた。
正面より少し下にあるスザクが上を向き、感じきっている自分の顔を見る。
「み…るな…っ」
「見てたいよ、ずっと」
「や……っ」
突き上げが激しくなった。
頭が固定していられなくなる。
首ががくがくと揺れた。
怖くなり、スザクの首に両手を回して抱きつく。そしてキスを交わした。
荒いセックスと同じ、深く蹂躙しあうようなキスだった。
「んはっ、あ、ああっ」
「どう、したの?」
「こ、わい…っ」
「なにが?」
「気持ち、よすぎ、る…っ」
体内を抉られ口腔内を蹂躙され、しがみつけるのはスザクだけ。
逃げ場のない快楽が自分を蝕む。
「いいよ、いって」
「……っ!」
くぅっと背をそらし、スザクが告げた途端に吐精した。
奥深くにもじわりとぬくもりを感じる。
そしてそのまま、スザクはルルーシュを後背へと倒した。正常位の体制で、再び動き始める。
じゅぷじゅぷと先ほどスザクの放ったものが、動きとともに恥ずかしい音を立てる。
「あっ、ああっ」
二度目の吐精まで時間はそう掛からなかった。出来上がった体が、すぐに淵へと追い詰める。
腹に白濁を飛ばせば、スザクは今度は砲身を抜き、ルルーシュのものと交わるように吐き出した。
そのことが、妙に気恥ずかしくて、だが同時に気持ちよかった。
その翌朝の事だった。
朝食を食べながら、テレビを付ける。
報道特集が組まれていた。
枢木ゲンブ首相が暗殺されていた。
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