日本軍はたしかにやられすぎた。再建は不可能に近いだろう。
わずかに残ったKMFと共に一部が姿を消したと聞いている。それらも多分、今後はレジスタンスとして活動することになるだろう。
まさか、正規軍であった自分達がそのような身に落ちるとは思ってもいなかっただろう。いや……それとも、予感はしていただろうか。ブリタニアと戦ってまさか勝てるとは思っていなかったはずだ。
いずれにせよルルーシュには関係のない話だった。自分の邪魔さえしなければ、テロでもレジスタンスでも好きにしてくれと言った気分だ。
無事ピザを作り上げ、部屋に戻るとC.C.は匂いでもかぎつけていたのか、スザクと一緒に部屋に居た。談笑までしている。
「おい、お前。人にやらせておいてなにをしている」
「なんだ、焼いてるのか? 安心しろ、若造には興味はない」
「……っ、違う」
「ルルーシュ。この人にいろいろ聞かれてただけだよ」
「何を?」
「えーと……」
「いつから出来てるのか、どっちから手を出したのか、そんな事だ」
「スザク!」
「ご、ごめ……」
どうせ素直と言えば言葉は良いが、天然のスザクの事だ。きっと素直に答えたのだろう。にやにやと自分を見上げるC.C.の顔が恨めしい。
「ピザが食べたいのなら、しばらくはおとなしくしていろ!」
「おとなしくしてただろうが。お前の部屋でじっとしてたぞ」
「〜〜〜〜〜〜〜っ、そうじゃなく!」
「ああ、お前達の事に首を突っ込んで欲しくないのだな。これだから童貞は」
出る言葉出る言葉、C.C.の言葉は全てがルルーシュを刺激する。
きっと顔が真っ赤になっているだろう。こんなに恥ずかしさと同時に怒りを覚えたのは久しぶりの事だ。
「お前には、これはやらない。俺とスザクで食べる」
「何を言ってるんだ。ピザは私のものと決まっている」
はやく寄こせ、と手を伸ばしたがルルーシュは子供のようにその手から遠くになるように遠ざける。自分でもバカな事をしていると分かっている。どうせこれはC.C.の手に渡る事になるのだ。
そうでなければ、再び自分がキッチンに立たされる事になる。
だがこの程度の嫌がらせくらいはさせて欲しかった。
痛い場所ばかりを突いてくるのだから、この女は。
「面白いなあ、ルルーシュのそんなところ、初めて見たよ」
のんびりと笑いながら、スザクが口を挟む。
「お前も! 責任を少しは感じろ!」
「え、だって聞かれたから…答えないと悪いかなと思って」
「悪くないに決まってるだろう、どうせこいつの好奇心なだけだ」
「そうなの?」
と、スザクはC.C.を向いて問う。
彼女は堂々と頷いた。
「もちろんだ」
あまりの態度に、さすがにルルーシュに悪いと思ったのだろう。スザクは上目使いで伺うようにルルーシュを見上げて来た。
もう、仕方がない。
終わってしまった事だ。
いつまでも子供っぽい真似をしている訳にはいかない。自分は、忙しい身なのだ。
「………ごめん」
「分かればいい。これから、この女の言う事は真に受けるな」
「それは酷いな、共犯者の言葉だぞ」
「俺の共犯者であって、スザクの共犯者ではない。お前も妙な事に頭を突っ込むな」
言い含めて、ようやくC.C.にピザを与えてやった。
彼女は急に黙って食べ始めた。
「黙ってればいいものを……」
「ごめん、つい」
「ついじゃないだろ、プライベートだ」
デスクへ向かった自分を追うようについて来たスザクに、愚痴る。
これからの事がある。しっかり言い含めておくべきだった。
「あいつにこれから、俺たちの事を聞かれても絶対に喋るなよ。喋った時は関係は終わりだと思え」
「えええっ、そんな!」
「お前が迂闊に言わなければいいだけの話だ」
「それは……そうだけど……」
ためらうように言いながら、嬉々としてピザを食べるC.C.をちらりと見る。
「なんだ?」
「だって、彼女がこうだったんだろう、ああだったんだろうって言ってくるから、それは違うってちゃんと訂正しておかないと」
思わず頭を抱えそうになった。
そんな手を使っていたのかと言う事と、それに素直に訂正するスザクにだ。
「構わない、誤解させておけ。もう相手にするな」
どっと疲れた。
C.C.はまだ満足そうにピザを食べていた。
対象は正しく捉えなければならない。
ルルーシュは既にC.C.の去った部屋でデスクに向かい続けていた。
日本を取り戻すには、予定以上の時間が掛かるだろう。桐原の言っていた通りだ、対応が遅すぎた。もっと早くに敗戦していれば残せていた兵力が今ではわずかになっている。黒の騎士団とて大けがはないが無傷とは言えない。
それは、ブリタニアという国を潰すにも時間が掛かるということだった。
ルルーシュの予定時計が大幅に狂う。
母は暗殺された。皇宮で起こる筈のないテロは容認され、それが正史となった。そんなばかげた話は許せない。母を守らなかった父も許さない。自分達を見殺しにした父も、弱者を虐げる国是も、許さない。
そんな国は滅ぼさなければならないのだ。
なのに――……時間が、容赦なく過ぎていく。
自分はただ焦るばかりだ。
ふと振り返ると、仮眠用のベッドでスザクが横になっていた。
眠っているのだろうか? それとも横になっているだけだろうか。
「スザク?」
「ん?」
起きているようだった。
大きく息を吐き出す。
どうやら自分は焦って周囲が見えていないらしい。時計を見れば、随分時間が過ぎていた。
その間放置されていたスザクはさぞかしヒマだったことだろう。
「すまない、時間を忘れていた」
「いいよ、それが君の仕事だ」
「……ありがとう」
席を立ち、スザクの横に腰掛けた。
すぐに手が回って来て、腰が抱かれる。
「ブリタニアを、壊せられないんだ」
「うん…?」
「今の状態じゃ、日本は弱すぎる。ブリタニアを倒せない」
「急ぐ必要は、あるの?」
「…………そうだな」
腰を抱かれたまま、とさりと横になった。頭の場所が近くなる。
「急ぐ必要は、きっと、本当はないんだ。俺が焦ってるだけだ」
「そう……。でも焦ってもいい結果は出ないよ。時間は掛ける時に掛けないと。そうしないと、僕みたいな事になる」
「スザク」
「大丈夫。……大丈夫だよ。――いや、大丈夫じゃないかな。でも、そう思う」
「そう、だな」
ほう、と息を吐いた。
体の力が抜ける。
腰を抱いていた手の、体の下側に敷かれていた方が抜かれた。
そして柔らかく髪を撫でられる。
「君は多分頭が良すぎるから、物事を急ぎ過ぎる。時間は無限じゃないけど、それでも間近に終わりがある訳じゃないんだ。今だからこそ、時間を掛けるべきだと思うよ」
「うん」
髪を撫でる手が気持ちよかった。このまま眠ってしまいたいくらいだ。
でも、それよりもしたいことがあった。
体を起こし、唇を重ねる。
「ルルーシュ、大丈夫?」
「ここは一応、防音を効かせてある」
「そう」
それで、意図は通じたようだった。スザクの方からも口づけが送られた。
「きっと、こんな事をしてる場合じゃないんだろうけどな」
「こんな時だからこそ、してていいんだよ。君は休まなければいけない」
そして、スザクはルルーシュの衣服を暴く。
至る場所に唇を落として、吐息を引き出さされる。
やわらかく撫でる手が温かくて気持ち良い。それが意図を持って動き出し、感じる場所ばかりを責めてくる。防音は効いているとは言え、それでも極力ルルーシュは声を抑えた。
下肢まで暴かれると、芯を持ち始めたものを握られ、さすられる。
「……っ、ああっ」
両膝を立てられた。あられもない格好だ。ゼロがこんな事をしていると知られれば、付いて来るものも付いて来てくれなくなってしまうだろう。
だが、ルルーシュには必要なものだった。
足を割った間にスザクの体が入ってくる。そして、勃起を口に含まれた。
「ああっ、あ、ああっ」
抑えて、抑えて、声を必死に抑えているのに、漏れ出して来る。
粘膜と粘膜がこすれ合う気持ちよさがたまらない。
だが、最後までいかせてもらえず、そのままスザクの唇は後孔へと移された。そこを舌と唾液とでほぐされる。酷く気恥ずかしかったが、ルルーシュは耐えた。他に方法はないからだ。
何もしなくても交われる体ではないことを、こういう時に思い知る。
それが辛い訳ではないけれども、不便だと思うのは仕方ない。
「っ……ぅ、あ」
唾液と舌。そして指。
ぐちゅぐちゅと音を立ててほぐされていく。
幾度にも渡る交わりの為に、少しは体も慣れていた。指をすんなりと体は受け入れる。
「スザク……早く、痛くても、いい」
「そんな…」
「いい、から…」
スザクが望むのであれば、頭を空っぽにするのであれば、そうするしかない。
早く欲しかった。早く頭を空っぽにしたかった。焦りを追い出したかった。
「分かった」
そして、スザクの熱塊が押し当てられ、わずかな痛みを伴いながら押し入って来る。
「………っ」
スザクも辛いだろう。痛いに違いない。
だが、互いに声を我慢して、根本までを埋め込んだ。
「大丈夫、ルルーシュ」
荒い息で、スザクに尋ねられる。
頷く事で、ルルーシュは答えた。
「じゃあ、動くよ」
欲情の顔をしていた。それに酷くそそられる。
背筋を走り脳髄まで染めるような快感の白さが心地よかった。
ずず、とゆっくりスザクは動き始める。最初はゆっくりと、それでも我慢出来ずにそのうちにテンポは早くなって行った。慣れ始めた体はそれを素直に受け入れ、快楽を次々と生み出していく。
「…っあ、ああっ、あっ、あっ」
突かれる度に、声が漏れる。
耐えようと思っていた事すら忘れた。頭が快楽だけで真っ白になる。
スザクの事が愛おしくて仕方ない気持ちばかりが溢れ出す。
「スザ、ク……っ」
手を伸ばして、キスをねだった。
すぐにスザクは応えてくれた。
交わりと同じ激しいキスの応酬になった。お互いを奪い合うようなキスだ。
そこからもスザクの気持ちが流れ込んでくる。
それが幸せだった。
スザクがいれば、それでいいとすら思えた。
だがそれではいけないと、まだ頭の隅っこが邪魔をする。ブリタニアをぶっ壊せとの自分の声がする。
「スザク、スザク……っもっと」
「うん、ルルーシュ」
弱い場所を、スザクは突き始めた。ぱちんぱちんとそのたびに快楽が全身に弾ける。
「ああっ、あ、ああっ」
声を消して欲しい。
憎むばかりの心を消して欲しい。
愛おしさだけで満たして欲しい。
欲しいばかりで、いやになる。
強く抱きしめて、スザクの肩口に噛みついた。
「……っ」
思いもよらない行動に、スザクは息を詰めて一度動きが緩んだ。だが、その後更に動きが激しくなった。挑発に乗ってくれたのだ。
後は、もう真っ白の世界だった。
快楽が弾けて何も見えなくなる、聞こえなくなる。
スザクだけが世界の全てになる。
ああ、この世界だけでいい――そう、ルルーシュは思いながら強い快楽に苛まれ、吐精した。
スザクも追って中へ注ぎ込む。
その後、深い口づけを交わした。幸せだった。
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