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全て夢で終わる5


 一年間切っていなかった髪に、茶色のコンタクトをはめさせれば、彼はまるで別人のようになった。
 ルルーシュは、黒の騎士団の団服を着る。複雑そうな表情を浮かべていたが、それは笑っているようにも見えた。
 そして、今である。
「このルルーシュ・ランペルージを私の第二執政官として登用する。皆、頼む」
 ゼロからの紹介だ。名にどよめいた者も多かった。それは悪帝ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアの用いていた偽名と同じだったからだ。
「名に驚く者も多いだろう。だが、彼は同姓同名の被害者に過ぎない」
 スザクはすっぱりと言い切った。いっそ潔い程だ。ルルーシュは間近で見て、ゼロも板に付いて来たなと感心していた。
 ゼロの言葉だ、皆はなにか思うところはあるのだろうが、受け入れざるを得なかった。
 そしてルルーシュは、第二執政官という座を手に入れ、堂々とスザクが傍に置く事になった。
 


 ルルーシュに手を出す事は、スザクは酷く臆病にさせた。
 本当は昔のように抱きしめてキスをして、体に触れたい。そんな思いは傍にいればいる程ふくらんでいく。だが、自分がそのような事をしてもいいのかどうかと、ためらいを生むのだ。
 自分は彼を一度裏切った身だ。そして体に醜い傷も残してしまった。
 そんな煩悶に気付かないルルーシュではなかった。
 ある夜、ルルーシュが執政室の机に向かうスザクを後ろから抱きしめて来たのだ。
 スザクはひどく驚いた。
「遠慮するなんて、お前らしくないぞ」
 言われて、スザクは苦笑する。見破られていたこと、そして奥手のルルーシュにこんな事をさせてしまった事にだ。
「ごめん」
 くるり、と椅子ごと振り返り、正面から抱き合った。
 そのぬくもりが現実のものと思えなくて、涙が出そうになる。まだスザクはルルーシュがそこにいることに慣れていない。まだまだ遠くで自分を許していない気がしてしまうのだ。
 だから、こうやって態度で示されると、夢を見ている気持ちになってしまう。
「何故、謝る?」
「なんか……気を遣わせたかなって」
「そうだな。らしくもなく考え込んでるなとは思ったな」
「だって、まだ信じられないんだ。君がここにいてくれる事に」
「慣れろよ、もう半月だぞ」
「そうだけど」
 言って、愚かな事だろうけれども口走ってしまう。
「君は、僕を憎んでないの?」
「だからそれはもういいんだって、言っただろう」
「うん……でも、それも夢みたいで」
 しょうがないヤツだな、とルルーシュからキスを送られた。
 初めてのキスのようにドキドキとする。
 ぎゅっと、抱きしめる力を強くした。好きなのだ。好きで好きで仕方ないから、殺すなんて出来なかった。憎まれても構わないから生きていて欲しかった。それなのに、こんなに簡単に許されてしまっていいのだろうか。このぬくもりに包まれていていいのだろうか。
「僕は、欲深いのかな。罪深いのかな」
「どっちでもないさ」
 そして、今度はその唇にスザクからキスを施す。
 重ね合わせるだけのそれが、もっと積極的になった。唇をトントンとノックしたら簡単に招き入れられる。歯列を舌で舐めると、つるりとすべやかな感触がして、その奥にまで呼ばれた。
 舌を絡め合い、夢中でキスをする。
 時折、舌裏や口蓋を舌で舐めると、ルルーシュは小さな声を喉奥で漏らした。
 やはり、夢を見ているようだった。愛してるとさえ思ってしまう。
 唯一無二の存在で、自分にとってなくてはならないもの。それが自分の手の内にあることが無上の幸せに感じられる。
「ここで、いい?」
 簡単になんてやめれそうになかった。このまま彼が許してくれるなら、どこまでもしてしまいたかった。だがここにはベッドもない、色気もない書類の積まれた執政室だ。
 だが、ルルーシュは小さく頷いてくれた。
 久しぶりの行為だから本当はもっと丁寧に優しくベッドで行いたかったのに、体が彼を求める気持ちが暴走してしまっている。
 そのまま、団服を乱す。
「なんか、変な感じだな」
 ルルーシュは笑う。自分が団服を着ている事に、彼もまた慣れていないのだ。
 それを乱される事でより強調されたのだろう。
 ボタンを解き、ジャケットを脱がせるとインナーはめくり上げた。
 ちょうど腹の部分に舌を這わせ、へそへ舌をねじ込む。
「……スザ、ク…っ」
 くすぐったいのか、気持ちいいのかは分からない。苦しそうな声でルルーシュが名を呼ぶ。
 この行為に興奮しているのはスザクだけではないだろう。目に見える範囲で、彼の下肢もふくらみを見せていることが分かる。
「うん」
 そして、ジッパーをおろして下を下着ごとズラした。
 緩く立ち上がっているものをそのまま口にする。
「ぁあっ」
 刺激に、ルルーシュは一瞬からだをゆらめかせた。バランスを取るように座ったままのスザクの両肩へ手を乗せる。乗せると言うよりは、掴む。
 刺激を加える度に、ぎりと強くなっていく力と奔放に上げられる声がひどくスザクをそそった。
 ハンドクリームを、片手に取る。そして、口撫を続けたまま後背へ手を伸ばした。
 一年以上も使っていなかった場所は固く閉じていた。そこをゆっくりと、だが確実にクリームを塗り込みほぐしていく。
「ああっ、あああっ、スザク…っ、あっ」
 すすり泣くような声で名を呼ばれ、ぞくぞくする。自分のものはもうとっくに痛い程勃起していた。
 だが簡単に挿入してしまえば彼を傷つけてしまう。
 口撫しながら、後孔を犯し、そして残った手で自分が作ってしまった傷跡を撫でる。
 背中にまで達するそれはまだ肉色を残している。痛みはもうないと言っていたが、痛々しく見えた。
 優しく撫でるようにすれば、ルルーシュの声は更にすすり泣くようなものになり、ついには涙がこぼれ落ちた。
「もう……スザク…っ」 「うん」
 自分の前をくつろげる。飛び出すようにして出て来た勃起を当たり前のようにルルーシュは見て、その上に自分の腰を沈めて来た。
 彼の体が早急になってしまわないように、スザクは手を添え、体の落ちるスピードを調節する。
 ずるずると飲み込まれて行く場所は酷く狭くて、今すぐにでも射精してしまいそうな程気持ちよかった。
「あ……ああっ、あ、あっ」
 抱きしめるように、体を支える。傷口は、撫でたままだった。ルルーシュの唇からは吐息に混じってあえかな喘ぎが混じる。
 そして、最奥まで突き刺さった。
「……ぅく」
 背を反らし、ルルーシュは吐き出したいだろうその衝動に耐えているようだった。
 スザクの目の前には貫通した刃の後がある。それをぺろりと舐める。
「やっ、やめ……っ、すざ…っ」
 だがやめず、そのままゆっくりと腰を揺さぶり始める。
 酷く気持ちがいい。もう、いってしまいそうだ。
「ダメ……ルルーシュ。先にいっちゃいそう……っ」
「おれ、も…っ、ああ……あ、」
 ゆるやかな動きだと言うのに、二人ともせっぱ詰まっていた。
 先に射精したのは、スザクの方だった。そして、背を舐め、手でゆるやかに追い立ててやればルルーシュもとくとくとゆるやかに射精する。
 とさり、と背中が自分の元にもたれ掛かって来た。
 荒い息と甘い匂いで室内が充満している気がした。
 ここは誰がいつ来るかも分からないような、執政室だ。だがその背徳感すらもスパイスとなり二人に悦楽をもたらしていた。
 一度吐精したのに、まだ芯を持っている場所をスザクはいたずらのように弄る。
「や、ダメだ……っ、あ…」
 その反応に、気を良くする。
 自分の熱にも再び力がみなぎってくる。そして、今度は早いテンポで腰を打ち付けた。
「あっ、ああっ、あっ、あっ」
 突く度に、ルルーシュの口から反射的に喘ぎが漏れる。
 喉奥から絞りだされたような声は酷く扇情的だ。動きが止まらなくなっていく。
 背を舐め、前を刺激し、そして強く突き上げる。伸びた髪が、動きによって弾んでいた。そのことがひどく新鮮だ。
「ああっ、あっ、あっ、んっ…スザ、ク…っ」
 彼もまた求めていたのだと知り、幸福感に支配されてゆく。
 体だけでなく、心まで悦楽に浸る。
「も……っ、や……っ、あ、ああっ」
 ひときわ高い声を上げて、ルルーシュは背を反らした。白濁が床へ飛ぶ。
 強い絞り込みの中を上下させて、スザクも追いかけるようにして中へと再び吐き出した。
 くたりとした体が愛おしかった。
 頬を撫でれば、涙に濡れている。
 ルルーシュは上半身だけ振り返り、口づけを求めて来た。
 もちろん、拒む必要性はどこにもなかった。むしろ自分がしたかった。
 濃厚に口づけを交わし、最後に目尻から流れ出る涙を舐め取る。
 ルルーシュは、少しだけ恥ずかしそうな顔をしながら目元を赤く染めていた。



 その後は、ついつい流れに流されてしてはいけない場所でしてしまったせいで、片付けに追われた。
 なんともみっともない話しだ。
 飛び散ったルルーシュの精液を拭き取り、窓を開け空気を入れ換える。
 せっかく濃密だったふたりきりの空気が薄れて行くのは惜しかったが、これからもこんな機会はあるのだと思えれば幸せになれた。
 そして、再び二人で仕事に戻る。
 ぎこちなさが残るのは、仕方のない事だった。
 ミスだって増えたのは、許してもらうしかあるまい。



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2011.4.23.
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