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割れた硝子の上を歩く24


 基地に戻ると、事件が起きていた。
 とは言え、連絡が来なかった程だ。些細なものだった。ディートハルトが謀反を起こしていた。
 まだ一日目。彼は主義者と言うより純粋な快楽主義者なのだろう。自分に忠実な男だ。ゼロと言う存在に心酔し、その存在を神にでもしようかとしている男だ。
 優秀な男である事は間違いない。だが、行き過ぎたゼロへの崇拝は時折ルルーシュに取っては煩わしくもある。そういう人間がいたからこそ、象徴としてのゼロが成り立っているとは知っていたとしても、だ。
 彼の主張は、こうだ。
 枢木スザクをゼロは重用しすぎる。私室にまで招き入れ、時を共に過ごし過ぎている――と。
 なんともバカらしい事だ。
 だが、ゼロが人らしい行動を取る事が、神……もしくは象徴には似つかわしくないのだろう。
 C.C.が許されていたのは、彼女の持つ神秘性と、正体不明の状態にベースにある。それに引き替え、枢木スザクは元日本軍人であり、枢木ゲンブ首相の息子というあまりにもはっきりとしたベースがありすぎた。
 現在、黒の騎士団内部では、彼の立ち位置はカレンとほぼ同じだ。
 ただそれは実力によるものだけで、信頼関係の面では大きく違った。
 初期メンバーであるカレンと並べる者など、そうそう居はしないのだけれども、そんなカレンですらゼロの私室には入る事は滅多にない。
 なのにスザクはゼロの私室に入り浸る。新規組であるにも関わらず、だ。
 それに賛同するものは多かったらしい。
 基地に入るのに、少なからず抵抗を受けた。
「何を遊んでいる、ディートハルト」
 気持ちは分からないでもなかった。だが、こんな事をしている場合ではないはずだ、現在の日本は。黒の騎士団は。
 低い声で、首謀者であるディートハルトへと問いかける。彼は自らが正しいと力説をし始めた。
「つまらない事を、延々と。それより我々にはすることが山積してるのではなかったのか? 新兵はもう使えるのだろうな? 新政庁へのハッキングシステムの開発は? フロートユニットの設置は。全てどうなっている。私はたった一日留守にしただけだ、そう進んでいる訳ではあるまい。それをこんな遊びに費やしてどうする!」
「しかし、ゼロ。ひとりの者を重用すれば志気も下がります。それを理解していただかないと」
「重用しているのは、結果を出しているからだ。カレンにもそれは伝えてある。彼女はこの立場を選ばなかった、それだけの事だ」
「………」
 廊下の片隅、人混みから外れた場所にカレンは立ってこの様子を見ていた。
 ちらりと視線を飛ばし、自分は何も告げてないと言う事を知らせている。顔がバレている事まで知られれば、暴動はもっと派手なものになっていただろう。
「バカげた事をやっているヒマがあるのなら、自らの役割を果たせ。それが嫌ならば去れ。それまでの事だ」
「ゼ、ゼロ……」
 マントをばさりと翻し、ルルーシュはその場を去る。
 心持ち居心地悪そうに、スザクが後に従った。
「それではこれから、彼には新しい役割を与える。私の護衛官だ。KMFは元より、体技ではここの誰も敵う者はいないだろう。異論があれば対戦する場を設ける。それでどうだ」
「……そこまでして、その男を傍に置きたいのですか」
「置きたい訳じゃない。ただ、必要なのだよ」
「どう必要なのかは……」
「愚問だ。彼は元日本軍人。その頭脳を無駄に放置する訳にはいかない」
「…………分かりました、ゼロ」
 最初の一喝で、ほとんどの暴動者は志気を下げていた。これでとどめだ。
 ディートハルトも引き下がり、本心はどうなのかは分からないままではあったが、もう食い下がってくることはなかった。
 二人で、私室へ戻る。
「大変そうだったな」
 と、C.C.が人ごとのように告げるから、またルルーシュはげんなりした。



「火種にはなるだろうな……このまま放置する訳にはいかない、か」
 部屋をロックし、仮面を脱ぐとルルーシュはほっと息を吐きながら呟いた。
「やっぱり、僕の存在って問題なのかな」
「まあな。ゼロに近しい人間は今まで作って来なかった。自分は謎の人物であり、誰でもないというのがスタンスだ。C.C.が特別視されてるのは、そいつの特異性のおかげで、黒の騎士団に属している訳でもないからこそ認められているからだ。お前の場合は、違うからな」
「愛人だとこの際はっきり言っておけばどうだ? そうすれば私は汚名を雪ぐ事が出来る」
「汚名とは、また…」
 ルルーシュは苦笑する。
「C.C.、……もしかしてだけど、愛人なのか」
 そしてこちらはまた、敵意をむき出しにしたスザクもいる。
 もう、わやくちゃだ。
「バカか、お前は。こんな童貞相手に私は勿体ない。お前で十分だ」
「ど……C.C.!」
「処女ではもうなさそうだがな。まあ、愛人とでも私がいいふらしておいてやるよ」
「い、いらない、お世話だ!」
 この女はどこまで知っているのだろう。だが、確実に全てを知っているに違いなかった。
「じゃあ、お邪魔だから私は退散する。好きにしろ」
 そして彼女はしれっとした顔で出て行ってしまった。動揺のあまり激高したルルーシュを放ってだ。その相手は全てスザクへと委ねられた。
「ルルーシュ」
「あの女……!」
「ルルーシュ!」
「なんだ!」
「僕にまで喧嘩腰にならないでよ、八つ当たりだよ」
「………っ、すまない」
 だがルルーシュは不機嫌なままだ。彼女の自由気ままさは魅力でもあるが、この際迷惑なだけだ。まさかとは思うが、本当に愛人だとでも言いふらされればたまったものではない。まあ、信じるものもいないだろうが。
「ほら、座って。深呼吸。帰って早々ごたごただったのは、確かに面倒だったけどさ……」
「まあ、な」
 せっかくのナナリーの余韻が綺麗さっぱりと消えてしまっていた。
「急ぎの仕事は?」
「ない。あるならそのうち、誰かが持ってくるだろう。まああの調子では物事も進んでないだろうし、今日は一日ヒマになるだろうな。脳内で策を練るのが精一杯だ」
「そう……じゃあ、気分転換しようよ」
「どうやって」
 この狭い室内から、しばらくは出る気はなかった。また面倒に捕まるのは勘弁してほしいからだ。
 それくらいばかばかしい事に疲れてしまっていた。
「昨日、約束したでしょ。それにC.C.が言いふらすなら、既成事実作っておかないと」
 と言いながら、スザクはベッドへとん、とルルーシュを突き倒した。
「お、おい!」
「約束だよ。昨日は拷問だったんだからね」
「それはこっちもだ!」
「それじゃあ都合いいじゃない」
「さっきの今で、そんな気分になれない」
「じゃあ、そんな気分にさせてあげるよ」
 右手を取られる。何をする気だと、かすかに首を傾げてその様子を見守った。
 スザクはかすかにまぶたを落とし、まず親指を先端から舌でなぞっていく。
「……!」
 指の股を念入りに、まるで舐め、そして次は人差し指だ。先端までたどり着くと、ゆっくりと全体を口に含まれた。
 まるで口撫されるみたいに、ゆっくりと舌を絡めながら上下させられる。
 ぞわぞわと背筋に快楽が走った。体に震えまで走る。
 スザクの顔はひどくいやらしかった。
 そして次の指へ、更に次の指へ、全ての指を舐め終わると、手のひらまでも舐められた。
「……っ、ぅあ」
 そんな場所が感じるなんて思いもしなかった。それとも、気持ちが煽られているだけだろうか。
 こんなスザクのやりかたは反則だと思った。これじゃあ、その気がなくともその気にさせられてしまう。唾液に濡れた右手は、いつも間にか緩められていた自分の上半身に導かれる。ぺたり、と手のひらは自分の胸へとくっつけられた。
 唾液で滑り、喉の奥で声が出る。これは自分の手のひらだと言うのに、スザクにされているかのように感じる。
「……ルルーシュ、いやらしいね」
 耳元で、スザクがささやいた。かっと頬に血が昇るのを感じる。
 スザクの手が導いているとは言え、これではまるで自分で自分を慰めているかのようだ。しかも男のくせに、胸なんて場所を。
 だがそれに十分感じてしまっている自分がいた。
「ぁあっ、あっ」
「勃ってるよ、気持ちいい?」
 この衣服は体にひどくフィットする。性的な変化があればすぐにばれてしまうのだ。
 その上に手のひらを置かれ、ゆっくり手のひらで撫でさすられれば、さすがに声が漏れだした。
 もどかしさに耐えきれない気持ちになる。
「スザク……そんなの、ダメだ」
 誰が、その気になれない、だ。
 あっと言う間にスザクの思いのままだ。もどかしさに耐えきれず、直截の刺激をあられにも求める。
 唇にいちどだけ、触れるキスを落とされてからスザクは下肢を乱した。
 そして勃起しているものを直截温かな手で撫でさすり始める。
「ああっ、あ、ああ、んぁっ、あ」
「気持ちよさそう……すっかりその気だよね?」
 くすり、と笑いの気配が落とされた。それが悔しいがそれを示す手段がない。
 精一杯の気持ちを込めて、自分から手を伸ばし、彼のそそり立つものに手を触れた。
「その気だ、悪かったな」
 開き直りの言葉は、吐息のような声になってしまった。そうしなければ喘ぎに負けてしまいそうだったからだ。
 スザクの勃起は酷く熱かった。
 それを、同じようにして自分も手でさする。まだ乾いたその場所が自分に入ってくるのだと思うと、いつもながら気が狂いそうになる。喜びと、思い出す悦楽と、その怖れと、信じられなさにだ。
 先端をくじれば、とろりとスザクも喜びの雫を流し始めた。
 自分の方はもう、くちゃくちゃと音を立て我慢の出来ない子のようにもみくちゃにされている。
「……ぁあっ、あっ、あ、……っ、スザク……い、いく……っ」
 全身にシビレが走るように快楽が走った。スザクの手の動きは、自分の言葉を聞いて更に速くねちっこいものになる。先端をなで回し、裏筋を強く撫で、大きな手のひらで上下されれば、もう耐えられなかった。
「あ、ああっ……あああっ」
 首ががくん、と背後に反った。それくらいに気持ちよかった。とくとくとスザクの手のひらに、白濁はまだ流れ続けている。ほぼ毎日に近いくらい交わっているくせに、何故こんなに欲しくなって、吐き出して、抱きしめたくなるのかが不思議だった。
 そのままスザクは後孔をほぐし、自分が育てた熱塊を突き入れて来る。
「や……っ!」
 そこで、またルルーシュは達してしまった。ここに来てから、それ専用のローションを手に入れた、それが互いの行為をやたらスムースにすませてしまうのだ。彼専用の体になってしまえたようで、それが嬉しくもある。
 だが、我慢も効かなくなった。
 気持ちよさがダイレクトに頭に響くのだ。
 それでもスザクは動き始めた。まだ白濁を吐き続けるルルーシュの性器はふるふると動きに合わせて揺れる。
 腹もシーツも、もうどろどろだった。
「……ぅんっ」
 スザクも、ひどく感じているようだった。目を細め、汗を垂らしながら必死でルルーシュの中をくじる。弱い場所を狙ったり、時々わざと外したりして締め付けをコントロールし、自分をスザクのものにしてしまう。それが至福に感じられた。
「ルルーシュ……」
 口づけを、交わした。
 甘い声を丸ごと飲み込まれ、舌を絡め合う。
 そのまま強い打ち付けに変わる。
「んっ、んあっ、あ、ああっ、あっ」
「は、はぁっ、あ、んくっ」
 スザクまでもが声を漏らしていた。最奥まで突かれ、もうルルーシュは考える事すらできない。
 スザクに手を伸ばして抱きしめようとするが、汗で滑ってうまくいかない。
 爪を立てて、ようやく引っかける事が出来た。
「やっ、ああっ。つよ……っ、い、ああっ、あああああっ」
 びくんっ、と跳ねるようにしてルルーシュは再度白濁を飛ばした。足の先から頭のてっぺんまで、パチパチとシャボンが弾けるようにして快楽が弾けて目も開けていられない。
「んくっ」
 追って、中の一番奥にじわりとぬくもりが広がった。
 気分転換どころではない。
 このままでは自分は使い物にならなくなってしまう。
 それが怖くて、必死でルルーシュはスザクにしがみついていた。



 本当にC.C.が、あいつはゼロの愛人だと喧伝していたと知るのは、それから半日後の話だ。
 ディートハルトに、大変聞きづらそうに尋ねられて、知った。
 大憤慨したが、もういっそそれでもいいかと思った。C.C.の件についても流してしまっているのだ。彼についてもそうした方がいいだろう。答えず、ルルーシュは仮面の中で舌打ちしたい気持ちを覆い隠してブリーフィングルームへと向かった。
 今後の対策を練るのだ。



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2011.4.25.
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