昼間の嫉妬を糧にか、今夜のスザクは執拗だった。
何度も音を上げているのに、決して許してくれない。これでもかと快楽を与えてくる。
「も……や、だめ…だ…っ」
体を横向きに、片足を大きく持ち上げられて挿入された場所は、何度もこすられて感覚が麻痺していた。だが、快楽だけは拾ってきてしまい、ルルーシュの頭を真っ白に染め上げて行く。
弱い場所を横から突かれ、思わず泣きが入る。
「だめ、まだ」
そう言って、スザクはルルーシュの破裂寸前の欲望を強く握りしめた。
「や、やだっ……いた…」
「まだいっちゃ、ダメだよ」
そんなの無理だ。弱い場所ばかり突かれ、中でいく事を覚えた体には辛すぎる。
なのに根本を指二本でしっかり掴まれ、痛い程に締め上げてくるので吐精する事は叶わない。
「スザク……ス、ザク、スザク……っ」
懇願の声は最後は悲鳴のようになった。
目も開けていられない。中をくじる感触が、生々しく全身に広がっていくのを目を閉じているから尚更感じてしまっているのだとはルルーシュは気付けない。快楽の渦に自らはまっていっているのだ。
うっすら目を開ければ、そんなルルーシュをしっかり見ているスザクと目が合った。
そして、にっと笑い掛けられる。まるでいたずらっこの様な笑顔だった。だがいたずらっこはあんなにやらしい目をしない。
欲情に溺れ切った目だった。
「……ぁああっ」
視線にまで、犯されている。
ルルーシュの表情を、変化を、ひとつも見逃さないようにスザクは自分をじっと見ているのだろう。
感度が増した気がした。なのに、射精できない。
頬に昇る血が増える。
「スザク、頼む……お願い、だから……っ」
とん、とん、と軽いリズムで突かれる体は、そのたびに頭をぐらぐら揺らされた。いや、全身が揺れている。
「しょうがないな」
さすがに、哀れを誘ったのだろう。
だが、それからスザクの動きは変わった。
横向けだったルルーシュの体を正常位に戻し、両足を肩に掛ける。より深い場所まで突かれる姿勢に恐れおののいた。
そして、抜かずにいたものが小刻みながらも強く早いペースで動き出したのだ。もちろん、ルルーシュの弱い場所は逃さずに。
「あ、あああああっ、ああっ、んあっ、あっ」
気が狂いそうだった。このまま今すぐいきたい。なのに、性器は掴まれていくことができない。
なのに、びくびくっと体が震えた。
「あああああ!」
まるで、いった時のように虚脱感が体を襲う。いいや、普通にいった時よりもずっと手酷い。まだ快楽が体中ではじけているのだ。
「ルルーシュ、どうかした?」
目を開けば、うつろになった。唇はだらしなく開いたままだ。
声すらも上げる事が出来ない。快楽が大きすぎて、指一本自由にならない。
動きを止めたスザクは、ルルーシュの前髪を掻き上げて自分の目を覗き込んでくる。
「いい……スザク……もっと………」
「!」
きっと、壊れてしまったのだと思われただろう。事実その時、自分は壊れていたのだろう。
ルルーシュは、初めて吐き出す事もなくいってしまい、その強烈な快感に支配されていた。吐精で終わるよりも手酷い悦楽だ。なかなか正気には戻れない。
「ルルーシュ、大丈夫?」
「はやく……はや、く…っ」
むずがるように言えば、スザクは再び腰を動かして来た。
「あああっ、ああんっ、あ、んあっ」
いきっぱなしの感覚だ。ずっと絶頂が続いているようで、気も狂わんばかりだった。
理性なんて欠片もない。今、もし、スザクに隠し事をしていたとして。それを問われれば素直になんでも答えてしまうだろう。それくらいの自信があった。いや、そもそも問いを理解出来ないかもしれない。答えることも出来ないかもしれない。
「ああっ、あああああっ」
「すごいね、ルルーシュ。どこもきゅうきゅう締め付けてくる」
「ぅあああっ、んっ、あっ」
「いきたい?」
その声がわんわんとエコーの掛かったように聞こえる。スザクの存在すら遠く感じてしまう程に快楽のどん底へ突き落とされている。だが、かろうじて意味が分かってこくこくと必死でうなずいた。
吐き出してしまいすらすれば、こんな恐ろしい悦楽から逃げれるかもしれないと思ったのだ。
「分かったよ」
そう言い、スザクは戒めを解く。その瞬間、とろとろと勢いなく精液が流れだしてきた。
「変だな……」
腰の動きを再開させながら、スザクは告げる。きっと弾けるように吐精すると思ったのだが、まるで先走りのようにゆっくりとしか精液が出て来ないのだ。
むずがゆさに、ルルーシュも身もだえした。
「はぁ……ああっ」
ぐ、っと、ルルーシュは必死で力を込めて、スザクの首にかじりつく。そして、唇を合わせた。
キスがしたくて仕方なかったのだ。
それを理解し、スザクはゆっくりまたルルーシュを横たえると、腕はそのままに貪るようなキスを繰り返した。
いきっぱなしの体には、キスすらも大変な刺激になった。
だらだらこぼれ落ちる精液は止まりそうにない。新しい刺激と、突く動きとによって、ついにはルルーシュは意識を手放した。
快楽が強すぎて、精神が耐えられなくなったのだ。
ルルーシュが意識を取り戻したのは、スザクがシャワーから浴びて戻って来た時だった。
セックスがあんなに怖いものだと知ったのは初めてだった。溺れてしまう感覚は味わったことはある。でも、理性まで全てすっとばして、ほとんど記憶に残っていないほどの悦楽を味わったことはない。
ただひたすら、気が狂いそうだった。
「ルルーシュ、大丈夫?」
「あ、ああ…」
喘ぎすぎた喉は、声が潰れていた。もしかしたら、防音の効いたこの部屋であろうとも、声は漏れてしまったかもしれない。それくらいに自信がない。
「シャワー……は、無理そうだね。ちょっと待ってて」
そして、スザクは再びシャワールームに姿を消す。しばらくしてから、タオルと洗面器を持ってきた。
「ぬぐってあげる」
「じ、自分でやる!」
「どうして?」
今、スザクに触られると再びあの恐ろしい快楽が襲い掛かってきそうな気がした。
「怖いんだ……さっき、感じすぎた」
「うん。なんか、すごかったね。あんなに乱れたルルーシュの姿、初めて見るよ」
「だから、それがぶりかえしそうで……」
「どうして? またその気になったら付き合えるよ、十分」
にっこりとスザクは笑う。そういう問題ではないのだとは、所詮気付いてはもらえないのだろうか。
ネコとタチでは所詮感じ方も違う。もしかすれば、通常の女性とのセックスで感じるのと同じような動きしか出来ないタチよりも、受け身になりあり得ない場所を刺激されるネコの方がより感じてしまうのではないだろうか。
なんとか、絞ったタオルを受け取ってルルーシュは自分で体をぬぐった。
後孔については、今は考えない事にした。掻き出す何てことをすれば、またおかしくなってしまうそうだったからだ。
「ねえ、ところでルルーシュ」
「なんだ?」
ひとまずの冷静を取り戻し、シーツも取り替えたベッドの上で二人並んで横になっていると、少し沈んだ声でスザクが呼びかけてくる。
仰向けに寝そべっていたのを、スザクの方へねがえりを打つ。
声の通りに、スザクは少しばかり深刻な顔をしていた。先ほどまでの欲情に溺れきった表情など想像出来ない顔だ。
「ちょっとだけ、困ったことがあるんだ」
「どうしたんだ?」
「シミレーター実験なんだけど…………僕に教えを、って人が異様に少ないんだ」
「………カレンにばかり集中してるって事か?」
「うん」
もしかして、あれだろうか。あのくすぶっていた火種がまだ残っているのだろうか。
ゼロに重用されすぎる存在。そして、愛人の噂。
どちらも、スザクに取ってマイナスになる代物だ。
「――そうか。すまない」
「え、なんでルルーシュが謝るの?」
「これは、俺が悪いからだ。俺のせいだ」
「どうして?」
「俺がお前を、手放さないから。それに嫉妬している者がいる」
彼も気付いたのだろう。いつかの混乱だ。あのときはディートハルトが指揮をとっていたが、古参メンバーに取っては面白い話で有るはずもなかった。新参者にしても、多分同じくだ。ほぼ同じ時に入団したにも関わらず、憧れであろうゼロにあんなに近い場所にいるスザクは羨望と同時に憎しみの対象になりかねない。
「本当は、手放した方がいいんだが――……」
だがこれは、ルルーシュ一人の我が儘だった。手放せばいいのだ。他の団員と同じに扱えばいい。
なのにそれが出来そうにないから、こんな事態になってしまっている。
「ダメだよ」
きっぱりと言ってのけたのは、スザクの方だった。
「僕を手放すなんて、そんなの許さないからね」
「スザク……」
「いいよ、仲間ハズレくらい。ルルーシュから離れる事を思えば、そんなの別に気になるものじゃあない。ごめんね、逆に心配掛けちゃって」
「スザクが謝る必要なんてない!」
だが、方策がないのも確かだった。戦闘で有無を言わせぬ結果を残し続ける事ででしかこれは片が付かない問題だろう。時間の掛かる事だ。
「すまない、スザク。時間が掛かるが、お前の腕なら大丈夫だ。結果を残してくれ。それが最短距離だ」
「……どういう事?」
「お前が、戦闘で結果を残せば文句を言うヤツもいなくなる。そういう事だよ」
「そう。――なら、任せて。頑張るから、僕」
にっこり笑って抱きしめて来たスザクへ、ルルーシュも笑顔を浮かべるしかなかった。
陽性の彼の傍にいると、気分まで上向きになっていく。
だから、口をついた。
自分も告げねばならないことがあるのだ。
「その実力を示す日が、近くやってくる。――だが、俺は非常に悪どい手を使おうとしている」
「どんな?」
少し手の力を緩めて、スザクは自分の目を覗き込んだ。
「俺は、日本解放戦線をおとりに使って、ブリタニアの戦力を計るつもりでいる。ついでに可翔翼訓練の実践もかねてそこへ参戦することすら考えているんだ――軽蔑するか?」
「日本解放戦線……元日本軍だね」
スザクの表情は読めなかった。無表情に近い。
だが、再び口を開いた時には、彼は少しの笑みを頬に浮かべていた。
「構わないよ。そこは、僕が決別した場所だ。ブリタニアの戦力を計れるなら、それに越した事はない。ナイト・オブ・ワンの実力も知りたいしね」
告げられ、ほっと体の力が抜けた。
「どうしたの、ルルーシュ」
知らず、緊張していたらしい。
「いや」
くたりとしたからだのまま、彼を見る。そして微笑んだ。
「お前に軽蔑されるかと思った」
「しないよ、ルルーシュのすることなら」
「……俺は、指揮官である限り、どれだけ汚いだろうと思うこともきっとこれからもしてゆく。それでもついてきてくれるか?」
「……こういう時、ブリタニアではどう言うか知ってる?」
「え?」
「イエス・ユア・ハイネス。君に永遠の忠誠を誓うよ」
「……!」
彼は自分がブリタニアの皇族だと知っている。その上でのこの言葉は……
「騎士にでも、なるつもりか?」
「君が望んでくれるなら」
「…………恋人を、騎士になどしない。そんな上下関係は、いやだな」
「そっか」
そしてくすくすと彼は笑い出した。
「そう言ってくれると思ってた」
そして、唇にキスを送られる。
「じゃあ、恋人として。いつだって君についていくし、君の判断を信じるよ。それならいい?」
「……ああ」
むずがゆい気分にさせられた。
だが、非常に心地良かった。
抱きしめられた腕に包まれるようにして、自分もスザクへと腕を伸ばして抱きしめる。
額同士を合わせて、近い場所で、「おやすみ」と告げた。
キスの代わりにぎゅっと体を再び抱き合い、そしてふたりは眠りに落ちた。
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