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割れた硝子の上を歩く28


「どういう事だゼロ! なんでこんな事に!」
 一番に食って掛かって来たのは、やはりと言うか玉城だった。
「ブリタニアが日本解放戦線へと一斉攻撃を掛ける。そこへ我々も便乗させてもらう事にした」
「……!」
 一瞬の静寂の後に、小さなざわめき。
「どうしてだよ、訓練じゃなかったのかよ!」
「玉城。実戦でしか、能力は身に付かない」
 激高した玉城を抑えたのは、カレンだった。
 実地で行ってきたその姿を見ている玉城も、その言葉に黙る。
 他の面々もだ。
「生きのこりたければ、自分の全ての五感、能力を発揮しろ。日本解放戦線のサポートに回る」
「ゼロ!」
 次に食って掛かって来たのは藤堂だった。
「知っていたのか……だから」
「……すまない。だが、この機会を逃せば共同戦線も張れなくなる。互いが命賭けでなければ、
無駄なプライドが邪魔をする」
「……それは、そうだが」
 元日本軍人のプライドの高さは知っているのだろう。
 藤堂の言葉も弱くなった。
「もし、ここで去りたいものが居ればこの場に残れ。ここも決して安全とは言えないが、これから向かう先よりは格段の安全があるだろう」
 しばらく、待つ。
 ざわめきが再びよみがえった。
「俺は、行きます! 俺はブリタニアを倒すために黒の騎士団に入ったんだ! ここで立ち止まったら、何の為に入団したのか分からない」
「私も! 黒の騎士団に入団したのは、日本を取り戻すため。そのためなら何でもします」
「命を失うかもしれないぞ」
「その覚悟は元よりしてます」
「わかった、ありがとう」
 そのふたりに続いて、続々と名乗りを上げていく新兵達。いずれ誰かがゼロと名を呼び、ゼロコールが始まった。
 それを手で制し、作戦を伝える。
「ブリタニアは全方向からこのナリタを包囲している。ここも安全とは言えない、と言ったのはその意味だ。相手も日本解放戦線の本拠地がここにある事は知っているが、細かな場所は特定出来ていない。あぶり出しをするために、この作戦をとらざるを得なかったのだろう。――藤堂!」
「はっ」
「連絡は取れるか」
「混乱状況にあるかと思いますが」
「それでも構わない。黒の騎士団がバックに就くと伝えろ。そして軍備を一部貸し出すよう、依頼してくれ」
「分かった」
 藤堂は駆け足で自分のKMF、無頼改へ向かっていく。
 それに呼応したか、他のメンバーも自分のKMFへと騎乗して行った。
「作戦は各自にデータで送信してある。その通りに動くように。中央突破、まずはそうなる。先陣はカレンとスザクが切る。私はその後に続く」
『分かりました!』
 そこで、自分も無頼に乗った。実際に可翔翼を使うのは初めてのことだ。不安がないと言えば嘘になる。
「可翔翼の扱いには気をつけろ。まだ、しばらくは出番はない。移動はランドスピナーを使え」
『了解しました!』
 本体に出会う直前に、全員が飛翔する。既にエナジーフィラーは新しいものに交換済みだ。移動で消費した分は考えなくとも良い。
「エナジーに不安を感じたら、すぐにでも補給部隊に向かう事。忘れるな」
 これにもまた全員の返事が唱和される。
『ゼロ、日本解放戦線に連絡が取れた。エナジーフィラーとKMF用重火器を準備してくれるそうだ。基地ポイントは今から送信する』
「待て、藤堂。その情報は今から取りに行く。データで流せばブリタニアに流れる可能性も高い」
『それは……! そうだな、分かった。こちらへ来てくれないか』
「分かった」
 一時、KMFから降りる。
 既に一度、日本解放戦線からこちらへデータとして渡ったものだ。ハッキングでもされていれば事だったが、二重に危険を犯すつもりはなかった。
 藤堂のKMFは騎乗口が開いている。そこへ、自分が足を掛け昇った。
 ここからそう距離は離れていない場所が本拠地だった。見れば、この山全体を基地として改造されていることが分かる。
「なるほど……この短時間に、やるな。日本解放戦線」
「ゼロ、お前はこの作戦の事をいつから……」
「先日の事だ。軍のデータをハッキングしていたら発見した。このチャンスを逃せば、日本解放戦線は滅びる。ブリタニアが全勢力をぶつけてきているぞ。こちらも気が抜けない」
「そうか」
 どこか疑いの目はあるようだった。
 しかし、確証はない。
 その限り、言葉にはしない。そういう男だった、藤堂と言う人間は。
「では、向かうぞ。本拠地周辺を木に紛れ、固める。余りに分かりやすくすれば相手に教えるようなものだからな。藤堂、その部隊の指揮はお前が取れ」
「承知」
「私はカレンらと正面突破の部隊を指揮する」
「任せた、頼む」
「そちらこそ任せたぞ」
 ひとつ頷いた彼を見て、自分のKMFへと戻った。既にC.C.が乗り込んでいる無頼のコクピットは酷く狭い。
「膝の上に乗ってもいいか」
「バカか。動きにくくなるだろう」
「早く副座式のKMFを作ってもらいたいものだな。そうすれば楽になるものを」
「そう我が儘も言ってられないだろう。お前の気紛れはいつ発揮されるか分からない。その為の開発よりも、黒の騎士団の保有するKMFの基礎スペックを上げる方が先だ」
「……ケチ」
「なんだと?」
「いいや、なにも」
 しれっとした顔で知らない顔をするのだから、腹がたつ。しっかりケチと言う言葉は聞こえていたし、聞こえていたことに気付いているくせに、だ。
「守ってくれるんだろうな」
「ああ。私がいれば、お前の命くらいは助けられる」
「……任せたぞ。死ぬ訳にはいかない」
「私もお前に死なれては困る」
 シート裏の狭い空間に中腰で立ち、両腕をルルーシュを背後から抱きしめるようにC.C.は回して来た。また、スザクが見れば憤慨しそうな姿勢だなと思えば笑えて来た。
 良いリラックスになった。
「では全軍、進行開始」
 号令一下。
 静かにKMFは動きはじめる。重火器隊も同じくだ。
 敵のIFFを見れば山腹中央に向けて三つの部隊が動いていた。それらのどこかにナイト・オブ・ワンがいるのだろう。だが、そこには日本解放戦線の本拠地はない。
 気付くまでが勝負だと思った。
「急げ、日本解放戦線には差程持ちこたえる力はない」
 どんどん消えていく、褐色のIFF。これは日本解放戦線のものに違いない。
 やはり彼等には差程の力はなかったのだ。テロを行うのが精一杯。正規軍として戦うにはあまりにも脆弱すぎる。
 幸いにもブリタニア勢に飛ぶKMFは存在していなかった。
 目視出来る場所に来ても、地上戦が展開されている。
「飛翔!」
 号令を掛けた。
 全機が可翔翼を稼働させ、地上を離れる。
 当然、バランスを崩したものもいた。隣の機体に接触し、爆発を起こしたバカもいる。
 それでもこちらの数は差程減りはしなかった。
 何よりも、飛ぶKMFの部隊はブリタニア勢にも日本解放戦線勢にも、脅威をもたらしたようだった。 空へ向けて撃たれるアサルトライフル。だが、射程には入らない。
 逆にこちらから撃つ銃弾は重力も手伝ってか、面白いくらいに良く当たる。
 戦況は一望出来た。
 IFFの示す通りに日本解放戦線が圧倒的に押されている。
「カレン、スザク!」
 呼びかけに応じるようにして、二機が飛び出して行った。そして、カレンの輻射波動、ランスロットのヴァリス、その二つを用いて中央隊を殲滅していく。
 他の新兵や古参兵達も頑張っていた。
 なにより、空という絶対的に守られた空域にいる事が幸いしている。
 ルルーシュもアサルトライフルで一機ずつ、確実に潰しに掛かっている。
 殲滅はまもなくのことだった。
 そして、日本解放戦線に合流する。
 この戦闘のみでエナジーフィラーはほぼ半分以下に減っていたのだ。補充を受けなければいけなかった。



 補給を受け、再度黒の騎士団は動き出す。
 今の軍勢にナイト・オブ・ワンはいなかった。だが、このイレギュラーを間違いなく彼も知る事となるだろう。次にぶつかる事はおそらく間違いない。
「カレン、スザク。次に備えろ――来るぞ」
『了解!』
『分かった』
 果たしてふたりで大丈夫だろうか。だが、他にふたりに匹敵出来る程の戦力はない。
 死なないでくれよ、と祈るより他はなかった。
 もし死なれでもすれば――自分は、どうするだろうか。
 世界に絶望するだろうか。
 ナナリーを残して?
 まさか、そんな事はありえない。
 だがもはやスザクのいない世界など考えられなかった。
 そして、次の部隊に衝突する。
「――いたぞ」
 ギャラハッド。背中に強大な剣を装備している。
 あの剣が抜かれれば、KMFなど木っ端微塵だろう。
「気をつけろ、あの剣が抜かれれば終わりだ」
 だが、彼の戦い方はあの剣一本だ。その武器に絶大な信頼を抱いている。
 抜かせる前に、叩く事が出来るだろうか。
 スザクは遠距離からヴァリスをまず撃ち込んだ。それはギリギリのところで躱される。ファクトスフィアがスザクを捉え、片手が動いた。それを死角に回り込んだカレンが輻射波動を撃ち込もうと、懐に飛び込もうとしている。
「カレン!」
 思わず、叫んだ。ナイト・オブ・ワンはカレンの動きを読んでいた。彼女より一回り大きなKMFだ、振り回した手がかすっただけでも命取りとなるだろう。
 それを回避しようとした動きを、スザクがフォローする。MVSを抜き、腕を粉砕した。
「よし!」
 だが、それが逆鱗に触れたようだった。落とした腕は右腕……利き腕だ。ギャラハッドの強大な剣は使えない。だが、その機体だけでも十分こちらにとっては脅威となり得る。
「………スザク!!!」
 振り払われた腕だった。手首より先のない腕だ。それが、無造作に振り回される。
 それがスザクの可翔翼に触れ、粉砕した。ランスロットはバランスを崩す。
「スザク!!」
「お前が回り込め!」
 告げたのはC.C.で、その声は焦りに彩られていた。そこで弾かれたようにルルーシュは動き出 す。衝撃に、頭が動いていなかったのだ。あの質量の自由落下速度と、エナジーを用いた自分の移動速度。方程式と数字が頭の中を無数に乱舞するがそんなもの役に立ちはしなかった。
「カレン、後をしばし任す……!」
「了解!」
 彼女はなんとか彼にとりついて、輻射波動を撃ち込む寸前だった。
 だが、スザクは落下してゆく。
 そのまま。森の中へ。
 彼の落下していった場所へ向かう。あの高々度から落ちて機体は無事ではあるまい。
 焦っていた。ひどく、ルルーシュは焦っていた。



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2011.4.29.
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