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割れた硝子の上を歩く34


「僕、やるよ」
 明後日決行と告げた後のスザクの言葉は、これだった。
「でもお前……」
「もう二ヶ月も寝てたんだ、骨もくっついてるだろうし、脇ももう痛くない。出血なんてとっくに止まってるしね」
 挑発的に笑い、さあ、と促す。
「医者に診せてからだ。そうじゃないと、俺は判断出来ない。それにお前のランスロットはまだ…」
「無頼でも大丈夫だよ。元々、僕は無頼を駆ってたんだ。そっちの方が慣れてる」
 強い口調だった。これでは、簡単にルルーシュには覆せそうにない。
「日本を解放する戦いなんでしょ、これは。それに参加出来ないなんて、償いもさせてもらえないみたいじゃないか」
 ああ、と思った。
 父の殺害を、戦争に直結させて彼は考えているのだ。
 事実そうでもあった。それを利用しての開戦だった。
 だが、遅かれ早かれ、戦端は開かれていたに間違いないのに。
 しかし、それを告げたところでスザクは首を縦には振らないだろう。彼の罪の意識は自分でしか許す事は出来ないに違いない。
「ひとまずは、医者に診せてからの話だ。それでダメだった場合は、ゼロとして出撃停止を命じるからな」
「……う、分かったよ」
 内線で医者を呼ぶ。診察にはそう時間は掛からなかった。



 再びのブリーフィングルームには、外側にスザクとカレン、ビスマルクの姿が揃っていた。
 三人とも、椅子に腰掛けている。
「決戦は明日になる。グループ分けはは先に述べた通りだ。周知は徹底したか?」
 それには皆から、承諾の返事がくる。
「民間人に攻撃は加えない事。憎いのはブリタニア人ではなく、ブリタニアであること。これはもう皆分かっていることだな」
「ああ」
 扇の返事。他も皆、頷いている。
 民間人に手を掛けた時点で、それは単なるテロになってしまう。自分達が行おうとしているのはそれより一歩上の段階、戦争なのだ。それを忘れてもらっては困るのだ。
「スザクが戦線に復帰する。医者の許可が出た」
「待ってちょうだいよ、ランスロットには手を……」
「いいんです、無頼を一機貸していただければ、僕にはその方が慣れた機体だから」
「と、言う事だ。ビスマルク、カレンの中央突破隊にスザクも加える。私も基本的にはそちらへ入るが、遊軍と言う形で空から弱い場所を補強するつもりだ」
「ひとりでですか?! そんなの危ないです!」
「大丈夫よ。ガヴェインなら、エナジーを気にすることもないし、空中戦を我がものにできるわ」
「どういう……」
「ガヴェインはエナジーフィラーを二つ搭載出来る。その上、換えのパックも搭載出来る。武器のハドロン砲は超強力なエネルギー体だよ。要するに空中戦に特化した機体なのさ」
 ラクシャータからの説明で、驚いた顔をしたものも多かった。
 事実ルルーシュが耳にしたときも驚いたものだ。そこまでの技術があったのかと。
 インド軍区はKMF技術に特化した研究所がいくつもあると言う。その中でも随一の技術を持つのがラクシャータの研究所だ。かつてはブリタニアにも在籍していたと言うのだから、技術力については折り紙付きだ。
 その彼女の新しい機体は、ゼロにうってつけでもあった。
 前線に出たがる指揮官には、高度な防御システムも必要だ。情報処理システムについては先だって確認して、問題がないどころか笑いすら浮かびそうな程、高度なものだった。
 主に、中央部隊の補助に回ることとなるだろう。
 その前に政庁へ赴く事が必要だ。愚鈍な義兄だが、母マリアンヌ暗殺について何かを知っているかもしれない。ギアスで聞き出す事が必要だった。



 部屋に戻ってからも、ルルーシュは浮かない顔をしていた。
 医者の許可が出たとは言え、スザクは念のために松葉杖を用いて移動している。こんな病人を戦場に出すのは、やはりイヤだった。
 それに気付いたのだろう。スザクはルルーシュへ笑いかけて、松葉杖を離す。
「バカ…っ」
「本当はこんなの、必要ないんだ。そもそも松葉杖って腕に負担が掛かるでしょ? 同じ骨折した左腕に負担が掛かっても問題ないんだから、足だってそうだよ」
 言われて初めて気が付いた。ひどい失態だ。
 平気そうにスザクは歩いて、ルルーシュの元にやってくる。
「ほら、平気でしょ?」
「みたいだな……お前は本当に、体力バカだ」
「あ、酷いなそのセリフ。傷つく」
「そんな繊細さがお前にもあったのか?」
「あるんだよ、一応。君に対してだけはね」
 そしてふんわり笑って、口づけを落として来た。
 仮面は部屋に入ってすぐに脱いでいる。不意打ちのキスに、ルルーシュは酷く狼狽した。
「二ヶ月もお預けだったんだもの。このくらい、いいよね。風邪じゃないのにキスすらも君は許してくれないんだから」
「キスだけでお前が終わる訳がないだろう」
「……確かに」
 長いお預けの期間だった。ルルーシュだって、キスひとつで軽く欲情出来てしまう。
 だが、明日は決戦の日だ。そんな事をしている場合ではないと思ったのに、スザクはそのままルルーシュをベッドへと引っ張って行った。
「おい、そんな場合じゃないだろ? 明日は……」
「だから、だよ。負けるつもりはないけど、明日はお互いの生死すらも分からない。だから、君が欲しいよ」
「……」
 言われてみれば、そうだ。
 軍隊としては黒の騎士団の方が圧倒的に有利にある。武力も、結束も。だが、数が絶対的に足りない。数量で押されれば明日の命は互いに確定していないのだ。
 負けるつもりなど、ない。
 だがしかし……
 ルルーシュは、腕を伸ばした。
 そしてスザクの頭を抱きかかえ、キスを求める。
 不安がある訳じゃない。だけど、と一度過ぎったものが心の隅っこに引っかかっているのは確かだった。
「ルルーシュ、いい?」
「ああ」
 スザクの怪我は、本当に大丈夫だろうか。ここで無理をさせて悪化させたりしないだろうか。
 そんな思いも過ぎる。
 だが、欲しいと言う気持ちはルルーシュにも抗いがたく存在していた。
 くるりと体勢をひっくり返して、スザクをベッドに横たえる。
 ルルーシュから手を伸ばして、スザクの服装を乱していった。いつだってリードされるのは自分の方だ。同じ男だと言うのに、そればかりじゃなんだか情けない。
 たまにはこちらが主導権を握っても構わないじゃないかと思えたのだ。
「ルルーシュ?」
「いいから」
 唇にキスをひとつ。そして、首筋、耳朶、乱したシャツの内側へいくつも。
 なめらかに鍛えられた筋肉を内包した肌は、非常にすべやかだった。熱い温度に気持ちが高まる。
「僕も、触りたい」
 そう言って、スザクの手が伸びる。上に被さるようにしたルルーシュの衣服を乱し、手であちこちを触れて来た。その手の温度に、更に欲情する。彼の手は非常にポイントを心得ていて、ルルーシュの弱い場所を逃さず触れて、執拗に撫でる。
 こちらがうっかりおざなりになってしまいそうになって、慌ててスザクの肌に戻った。
 勃起は既に痛いほど勃ちあがっており、スザクのものは衣服越しに自分の太ももに当たった。それが可愛そうで、下肢を乱しそれを取り出す。手で、愛撫した。
 下でスザクが苦しそうでいて、悦楽に満ちた顔をしている。酷くそそられる。
 自分だって勃ちあがりすぎて痛い程だった。それを察したか、スザクも同じように自分のものを握りしめ、ゆっくりとさすり始めた。
「……っ、あっ」
 直截の快楽は頭を蝕む。久しぶりの感触に、あっという間に達してしまいそうになった。必死で下腹に力を込めてそれをやり過ごし、スザクの愛撫を受け入れる。自分の手淫もスザクを追い詰めているようで、先端からは甘い液体がしみ出していた。
 それを全体に塗り込めるようにしながら、さすっていく。
「……ぅっ、あ、ルルーシュ、いっちゃうよ、そんな、したら」
「いいよ、いけよ」
 手の動きを執拗にした。それだけでいってくれたら、何て幸せだろうと思いながら必死で愛撫した。
 やがて内側がどくんと跳ねた感覚がして、白濁が飛ばされた。
 それを見ていた自分は、視角から犯されてつい道連れにされてしまう。
「ああっ……っ」
「くぅっ……」
 スザクの腹の上に、ふたりの白濁が広がった。みてる間にベッドに垂れてゆく。
 医者に見られたら怒られるだろうか? だが、出撃をもう許可したのだ。構わないだろう。
 自分で、ルルーシュは後孔をほぐし始める。最初は指一本も苦しかったのに、スザクが何をしてるか気付いた時点で前をさすり始めたおかげか、徐々に柔らかくなっていった。
 表情をじっと見られている。それが、ひどく気恥ずかしい。
 でも、それが気持ちいい。
 倒錯していると感じながらも、それをやめるつもりにはなれなかった。気持ちよすぎて頭がゆだりそうになる。やがて自分でも自分の気持ち良い場所を見つけて、ひとりで乱れ始めた。それもスザクは見ている。視線で犯されている。
「……よさそうだね」
 小さな声に、びくんと感じた。欲情に掠れた声だった。
 スザクの手が伸びて来る。ぎりぎり届く後孔に、スザクの指までもが入ってくる。
「ああっ、あああんっ、あっ」
 スザクの指はルルーシュの指をそそのかし、弱い場所ばかりを抉るように動いて来た。
 ぱちぱちと快楽が弾けていく。このまま指だけで達しそうになり、それはイヤだと指を引き抜けば、スザクが挑発的に自分を見ていた。
「ねえ、自分で挿れて?」
「………っ」
 スザクは横たわったまま、ルルーシュの痴態に再び熱さを取り戻し屹立させている。
 そこへ、手を添えた。
 自分の後孔に沿わせて、一気に体を貫く。
「あああああっ!」
「るるー、しゅっ」
 背をしならせて、一気に達した。深い深い場所まで一気に来られるのは、それほどに酷い快楽だった。
 だがスザクはまだ達していない。
 ゆっくりとまだ快楽で不自由な体を上下させる。そのうち、そんな動きに焦れたかスザクも腰をつか始めた。ばらばらに動く感覚が気持ちよすぎる。内側がひくひく痙攣しているかのような感覚すらも分かる。
「ああっ、あ、ああ……ああっ」
「ルルーシュ、ルルーシュ……」
 両手を握り合った。
 そのまま、テンポを合わせてふたりで動く。
 スザクが放った瞬間、再びルルーシュもスザクの腹の上に白濁を吐き出してしまっていた。



 明日が決戦になる。
 その後も同じ快楽を分け合えればいい。
 そう思いながら、手をつないでふたりで眠った。
 明日は、朝からハードだった。



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2011.5.3.
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