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割れた硝子の上を歩く40


 シュナイゼルの施政は穏やかに見えて苛烈を極めた。
 表面的には生産性を上げるための都市改造計画や、対日本人――いや、イレブンへの穏和策を取り入れている。だが抵抗するものには容赦しない。
 テロ組織は片っ端から探索され、潰されて行った。
 その中で、黒の騎士団も危機は迫っている。大所帯になったがために、身動きが取れなくなったのが痛手だった。身軽に基地を移せれば良いのだが、今は技術班が総掛かりで様々な研究を行っている最中だ。それらが完成しなければ、再び黒の騎士団は立ち上がれない。
 なので、基地を死守することがまず第一であり、そのためには場所を特定させないことが大前提にあった。
 出撃は小規模で。それも戻る場所はゲットーと成り果てたかつての日本人居住区へと散らせる。
 小規模な基地はいくつも作った。そこでKMFの補給と修復、パイロットの休息が行われた。
 ゼロとしてルルーシュも各地を飛び回っている。
 ゲリラ的な動きが主流となった。テロよりも酷い状況だと自嘲する。
 自分達は唯一の日本のための軍隊となったはずなのに、最下層の戦い方をしている。
 苛立ちは確かに存在した。それを見破ったのは、当然だろうがスザクだった。



「ルルーシュ、しばらく休んで。僕たちもしばらく行動を自重する。こんな戦い方じゃ、矯正エリアから昇格出来ない上に、こちらの消耗が激しい」
 分かっていた事だった。
 イレブンとなってしまった日本人達は、もはや諦めを抱きつつ平穏な日々を求めはじめている。
 それを乱しているのは自分達だ。それは彼等の希望にも繋がっていたが、動ける人員の少ない黒の騎士団の消耗が激しいのも確かだった。
 ヴァリスの量産は始まっていた。なので、スザクとカレンだけが動ける状態ではなくなったのは助かった現実だ。しかし、それでもまだまだ追いついていないのも現実であり、扱い方を覚え、ヴァリスを与えられた人員のみが動いている。
 疲労は蓄積されて行くだろう。
 ひとつひとつは耐えられない事ではないが、積み重なれば重くなる。
 そういうものだ。
 ルルーシュ自身もそうだったのだろう、きっと。
 そそのかすように、スザクはベッドへ自分を誘う。
 ゆっくり眠って欲しいとの願いだったのだろうが、それを自分はかなぐり捨てた。
「スザク」
 名を呼び、口づけをせがむ。
 少しだけ彼は困った顔をしたけれど、彼は望み通りキスを与えてくれた。
 彼は、自分に特別甘いと思う事がある。
 それは愛されている証拠なのだろう。
 誘拐犯と人質、そんな関係から始まった筈だった。ただのストックホルムシンドロームだと思っていた事もあった。だが今は、欠くことの出来ない自分の一部として彼は存在している。
 それは彼も同じなのだろうと思う。
 関係性が変わっても、彼は自分を一番に考えてくれる。
 大事にされていると感じられる。
「少しだけだよ?」
 そう言い、口づけを少し深いものに変えながら、ゼロの扮装を乱して行った。
 全てをスザクに委ねたかったので、ルルーシュは抵抗もしなければ、手伝いもしなかった。
 きっと、甘えていたのだ。
 そんな事を自分がするなんて思ってもいなかったのに、自分は彼に甘えている。忘れていた感情だった。甘やかす事ばかり覚えて、甘えるなんて事、頭の隅にも存在していなかった。
 乱され現れた肌に唇を落とされ、素直に声を上げる。我慢もするつもりはなかった。
 ただなにもかもを享受したかった。
 疲れていたのだろう、きっと。
 乳首を責められ、下腹に響く快感に小さく呻く。そのままスーツを脱がされ、一糸まとわぬ姿になって、スザクを受け入れた。
 スザクはきっちり着衣したままだ。倒錯した感覚に襲われる。
 甘えを彼も知っていたのだろう。
 だから、精一杯に自分を甘やかしてくれた。
 弱い場所をやんわり優しく愛撫される。頬に、額に、鼻の頭に、そして唇に、顔中にキスを落とされてくすぐったい気分になる。その合間にも手は体をまさぐり続け、感じる場所を探り当てては喉奥で甘い声が漏れるのを止めずにいた。
 やがて唇は耳朶に辿りつき、唾液の音と共にぞくぞくとした感覚を送り込まれた。
 背筋を走るのは、明らかな快感だ。
 肝心の場所を触ってもらえなくてもどかしい気持ちになったのを察したか、スザクは素直に屹立したそこを握りしめた。我慢の出来ない子のようにこぼれた甘い液体を塗り込められ、ぐちゅぐちゅと音を立てながら手淫される。
「……ああっ、あ、ああっ」
 直截の愛撫はやはり我慢の出来るものではなかった。
 ここ数日――いや、一ヶ月以上も緊張に満ちた時間が過ぎて、こういった関係を持っていなかったのだ。ルルーシュは自分で始末することもしていなかった。あっという間に限界が訪れる。
「もっ……すざく…っ」
「いいよ、いって」
「や…あ………あああっ」
 びくんっ、と体が震える。それと共に白濁がスザクの手を汚していた。
 体の芯から震える快楽に、一時的に全身の自由が奪われた気がした。
 だが、それだけでは足りない。自分はもっと強い快楽を知っている。こんなものじゃ、足りなくなっている。
「スザク……っ」
「分かってるよ」
 優しく微笑まれ、キスを与えられた。
 軽いキスだったのに、追いかけたくなる気持ちになり、スザクの首に腕を回す。そして再び唇を重ね合わせ、蹂躙しあう深いキスを繰り返した。
 その合間に、スザクは次の準備を始める。素直に繋がれない体がもどかしい。いますぐにでもスザクが欲しいのに、そう簡単にはいかないのだ。不便な体で悔しいと思うが、自分が女であったら良かったのにとは一度も思った事はない。そりゃあ、セックスの時は便利だろう。
 だが、女性としてスザクと並び立つにはカレンほどの実力が必要で、それを自分は持ち合わせていない。何より、彼はルルーシュと言う人間を愛してくれたのだ。不便であろうが、それでも構わないと愛してくれた。そのことが心の酩酊を深める。
 指を何本入れられたのか分からないまま、喘ぎ続ける。
 既に弱い場所はとっくに蹂躙され、好き勝手に弄られ続けてそのままいってしまいそうだった。
 だが、スザクはまだそれを許してくれない。
「そう言えば……」
 ふと、彼は思い出したような声を出した。
 うっすら目を開くと、涙の幕の向こうにスザクがにっこりと笑っているのが見える。それは、悪い笑みだ。
「感じたいよね、ルルーシュ」
「う、ん……っ」
 そして、屹立の根本を抑えられた。これは知っている。いつかに感じた、手酷い快楽の一歩手前の準備だ。
「スザク……スザク!」
 怖くなって名を呼ぶが、彼に意図は通じなかった。もっとも甘い声で呼んでもそんな意図通じる訳がなかったのだけれど。
「一度だけ、ものすごく気持ちよくなろうね」
「や……っ、ああっ、あ、ああっ」
 指を抜き差しされ、最後に抜かれる。
 抜き出された瞬間に軽くいきそうになるのを我慢した。いや、我慢しなくともスザクが根本を抑えている以上、射精は出来ないのだが。
「いくよ?」
 そして、熱い塊が入り口に押しつけられ、徐々に入って行った。
「ああ…………あ……」
 ずるり、ずるり、と入り込んでいく塊。スザクが内側にいることに涙があふれ出る。
 そしてぴたりと根本まで挿入された後、ゆっくりと彼は動きはじめた。最初は優しくゆさぶるように。そして、そのうちに彼も我慢出来なくなったか、弱い場所を狙いテンポは早くなってゆく。
「ああっ、あああんっ、んっ」
 とっくに吐精の予兆はしていた。弱い場所を狙われテンポ早く突かれた時点で軽く絶頂に達していた。だが、射精は出来ない。
 そこから、ルルーシュの記憶は酷く曖昧なものになった。
 スザクを求め、もっともっととせがみ、そしてキスを激しく求めた。足りないと告げ、奥まで欲しがった。それに全てスザクは応えていく。
「いきた……いきた、い、スザ…っ、スザクっ」
「もう、いってるよ」
 ひくんひくんと体は震え続けていた。吐精しない絶頂に蝕まれ続けていたのだ。
「すごい、いやらしい。ルルーシュ」
「ああっ、スザ、ク、もっと……いきた……っ」
 一度、中でスザクは吐精した。でもそれでも足りず、スザクは動き続ける。途中戒めは解かれていたけれども、以前と同じように勢いのない射精が続くだけでルルーシュは絶頂をさまよい続けていた。
 それでも、まだ足りないと思ってしまうのはなぜか。
 彼が欲しくて欲しくて、こんなにもくれているのにほしくてたまらない。
「スザク………愛し、て、る」
「ずるいよ、ルルーシュ」
 抜き差ししながら、上がった息の中でスザクが呟く。
「そんなの、僕の、方が、愛して、る」
 くう、と感覚が狭まった気がした。世界が閉じていくような感覚。
 そして、強い強い絶頂感。
 締め付けに、スザクは吐精した。
 ルルーシュも、追ってとろりと精を吐き出していた。



 そのまま気を失うようにしてルルーシュは眠った。
 スザクが身を清めてくれた事すらも記憶に残っていなかった。起きたのは、朝も遅い時間だ。スザクも共に眠っていた。
 そこへ乱入してきたものがいる。
「おい、邪魔するぞ」
「……後にしてくれ」
「そういう場合じゃない。早く起きろ」
 この部屋に自由に出入り出来るのはふたりを覗けばC.C.ただひとり。
 その彼女が、切迫した声を出している。
「なにかあったのか」
 さすがにルルーシュも目が覚めた。基地がばれたのだろうか? まさか。ここは移動用の小さな分室だ。PCも扱えない彼女がそれを知る事はまずない。
「神楽耶が来ている。ひどい剣幕だ」
「神楽耶? どうして?」
 もぞもぞとルルーシュを抱き直しながら、スザクが呟いた。さすがに彼も起きてしまった。
「私が愛人なのかと問われたから、素直に枢木の方だと答えたら、連れていけと言われた」
「――! それは! 来ているじゃなくて連れて来ただろう!」
「まあ、そうとも言う」
 しれっとC.C.は返してきた。
 がばった起き上がったルルーシュの格好は全裸に近い。今更C.C.にセックス以外の何を見られようと動揺はしないが、その事実には酷く驚愕した。
「早く準備をして仮面を被れ。今すぐにでも扉を蹴破りそうな勢いだぞ」
「お前、なにをしてくれる!」
「事実を述べたに過ぎない」
「スザクは俺の愛人じゃない!」
「それじゃあなんだと言うのだ? そのような格好で」
 冷たい目で見下された。キスマークだらけの上半身。半裸しか見えていないが、昨夜はセックスしていましたよと誰が見ても分かる姿だ。
「こ……恋人、だ」
「はっ」
 彼女は笑い飛ばした。
「それのどこが違う」
「違うんだ!」
「まあいい、お前の細かなこだわりはどうでもいいんだ。だから早くゼロになれ、お前は。それに枢木。お前も早く服を身につけろ。私は神楽耶の相手をしていてやる」
「…………………恩に着る」
 非常に言いたくなかったが、言わざるを得なかった。
 時間稼ぎはこの際、必要だったからだ。
 その原因が彼女とは言え、いずれ愛人疑惑は彼女の元へ伝わっていただろう。
 自称「妻」と名乗る彼女に取っては耐え難い事なのかもしれなかった。



「あら、おはようございますゼロ様、そしてスザク。久しぶりですわね」
 結局彼女とスザクはいとこだと言うのに、彼女が乗り込んで来てからの対面はこれが初めてとなった。最悪だ。
「おはよう、何の用? ここは君の来るような場所じゃないよ」
「妻として、用事があります」
「それは君が勝手に……」
「いずれ日本が独立した際、顔が必要になります。ゼロ様は顔をさらせない身。だとすれば、皇の血を引く私がふさわしいでしょう?」
「……そんなもの、名ばかりじゃないか」
「六家を捨てたあなたにはそうかもしれませんけど。それでも、皇の血はまだまだ高貴としてあがめられます。使えるものは使わなければ」
「――それで? こんな時間から何の用?」
 そこで、神楽耶は何故かひどく華やかに笑った。
「妻からのご挨拶です。英雄色を好むと申しますわ、愛人結構、相手が男の方、それもスザクだと言うのには驚きましたけど、どうぞご自由になさってください」
「――……君、それを言うために来たの?」
「悪かったですか?」
「……………変わった方ですね、神楽耶嬢」
「そうですか?」
 にっこりと彼女は微笑む。
 毒気を抜かれるような微笑みだった。
「――と、言う事だそうだ」
「お前、知っていたな、C.C.」
「なんのことだ?」
 しれっと言う彼女の事だ。単に騒がせたのは彼女の嫌がらせに過ぎないだろう。
 昨日は彼女も同じ宿舎に泊まっていたのに、追い出してしまったのだから。
「理解のある妻で良かったではないか。喜べ」
「――………っ」
 言いたい事が山とあったが、ルルーシュはそれでも我慢した。
 ここで反論すれば、何故か負けだと言う気がした。
 それは神楽耶の存在があったせいかもしれなかった。



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2011.5.6.
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