アヴァロン級のフロート艦船はまだ黒の騎士団が徴用した一隻のみだ。
なので、シュナイゼルの出番と言っても主力の集まるペンドラゴンからの出撃は少ない。フロートユニットを搭載したナイト・オブ・ラウンズ。そして、その親衛隊くらいなものだ。
なのでまず周辺の兵を動かしたようだった。
数量が一気に増える。
『おいゼロ、これでいいのか?』
「ああ。まだ引き際ではない。もうしばらく続けてくれ」
『分かった』
三番隊隊長、影崎は一気に増えた物量にひるんでいる。だが所詮、守備兵。戦い慣れした黒の騎士団の相手ではない。
相手もフロートを使用している以上、戦術をきちんと立てている自分達の方に分がある。センターに位置取る親衛隊の動きは見事としか言い様がなかったし、今回初めて戦闘に参加するジノ・ヴァインベルグの働きも大きかった。彼はスピードが売りのようだ。素早い動きで的確に敵を仕留めていく。
得難い人材だったと悦にいるが、本来はブリタニア側の人物。
他にもナイト・オブ・ラウンズが出てくれば互角の戦いとなるだろう。
長剣を使用していないナイト・オブ・ゼロ、ビスマルクの動きも鮮やかだ。相手の先を読み、動く。まるで相手がどの航路をとるか分かっているかのように動くので、感心してしまう。
自分自身はその背後に就き、舞い込んでくる邪魔者をヴァリスで片付けて行った。
ブレイズの使い方は想像以上に簡単で、しかも便利だった。これだけでも武器となる。
肘に発生させたブレイズをたたき込めば、機体はもろく壊れ去る。実弾を弾くシールドは硬度も素晴らしいものなのだ。
改めて、この戦況を俯瞰して眺める。
相手の数は多いが、圧倒的にこちらが有利だ。数量だけでは勝てる相手ではないと知ったか、逃げだそうとする者すらいる。
それを指揮官に仕留められているのだから、哀れな話だ。
結果は時間の問題だと思われた。多分、ナイト・オブ・ラウンズが到着する前に決着はつく。
八割方の勢力をそぎ取った時点で、ルルーシュはアヴァロンに通信を入れた。
上空に飛行するように、と。
そして味方全軍に通信を入れる。アヴァロン到着次第、最初に決めてあったポイントまで後退すること。
最後の留めはアヴァロンが決める。
上空からのミサイル攻撃は、ブレイズルミナスがあったとしてもとっさに対応は出来ないだろう。
そして、その予想は当たった。
「よし、帰投する」
ガレスはこのままいただくことにした。現在、帝国でも最新のKMFだ。今後も出番はあるだろう。
それに、ラクシャータがきっと喜ぶ。
基本的なフレームや武装は日本の無頼と変わらないものの、スピードが全く違うのだ。使用しているサクラダイトの量が違うのだろう。彼女に取っては良い研究材料になる筈だった。
「お疲れ様です」
アヴァロンに帰投し、艦橋に姿を現せば操舵員達が一斉に頭を下げる。
「そちらこそ、命令に従ってくれて助かった。残存勢力は0だ」
完膚無きまでに全滅させた。ガレスごと帰投したので、そこには残骸しか残されていない。何が起きたのかも分からないだろう――ああ、いや、違う。たった一機だけ無事に残っているものがいる。
謀反を起こした、辺境伯だ。
彼は訳も分からないままに処罰を受けるか、駆けつけたナイト・オブ・ラウンズに討たれてしまうのだろう。
内側から腐らせて行くというのは、そういう事だ。
ゼロとして今回の戦闘の労をねぎらい、私室へ戻る。
シャワーを浴びたらしいスザクが頭を拭きながら、「お疲れ様」と言ってきた。
「簡単だったな」
「うん、思ってたよりずっと。――それにしても、あのガレス? 使い勝手はいいけどやっぱりランスロットで出たいな」
「我が儘を言うなよ、そうすれば一気にネタばらしになってしまう。黒の騎士団が噛んでいる事を示すのは、皇帝を前にしたときだけだ」
「そう…」
心なしがっかりしたような顔をして、またかしかしと頭を拭き始めた。
「くりくりだな」
濡れたスザクの髪の毛は、常よりもずっとくりんくりんと癖毛が出ている。それが可愛くもある。
「そう? 濡れるとこうなっちゃうんだよね……もうちょっとしたら切らなきゃ」
髪の一房を引っ張って、彼は呟く。
そう言えば、最初に出会った頃より随分髪は伸びていた。
「切ってやろうか?」
「ルルーシュが?」
「こう見えても、妹の髪は俺が切ってたんだ」
「……ロングヘアとショートは違うよ?」
「疑ってるのか?」
「いや、そうじゃないよ!」
ぶんぶんと頭を振るが、そうすれば水滴が飛ぶ。
「じゃあ、また今度頼むよ」
今は切らせてくれないらしい。疑っているようだと少しルルーシュはふてくされた。
だが、そんな場合でもないのが実情だ。
次の準備にすぐに取りかからなければならない。
「次は侯爵か――軽いな」
同じ事の繰り返しになるだろう。
いくつ繰り返せば、皇帝本人が出てくるだろうか。
それとも、先に思いついたシュナイゼルにゼロを捕らえさせる作戦と採った方が良いだろうか。
若干悩む。
しかし後者を選んだ場合、この目の前の存在はひどく嫌がるだろうと思われた。きっと捕らえられれば、宮殿に連行されるのはゼロひとりになる。スザクの目の届かないところで全てが終わる。
上手く事が進めばいいが――いや、実際ギアスがあれば進むのだが、万一と言う事がある。
きっと不安に思うだろう。
まだ作戦は開始したばかりだ。この考えは少し棚上げしておく事にした。
いずれにせよ、最終的には皇帝の前に出る事が目的だ。
それまでにいくつもの反乱をせいぜい起こしておくことにしようと考えた。
辺境から始まって、ペンドラゴンに近づいていく。
反乱は既に片手では足りない数を起こしていた。
近づくにつれて、徐々に守備部隊から実戦部隊に変化していくのが分かる。親衛隊の負担が増して来た。
それでも音を上げないのが、彼等だ。まだまだ大丈夫だと、次をせっついて来さえする。
そして、やがてペンドラゴンという場所で起こした反乱で遂にナイト・オブ・ラウンズが出てきた。以前にも対戦した事のあるモルドレッドだった。
「あの火器はブレイズルミナスでも防ぎきれない、注意しろ!」
ただでさえ協力なハドロン砲を四機搭載したシュタルクハドロンは、ブレイズルミナスなど簡単に突破する。
「親衛隊、モルドレッドを叩け。シュタルクハドロンにだけは気をつけろ」
「了解!」
速さで攪乱する。四機掛かりの攻撃だ、少しはこちら側にも分があるだろう。
あれも捕獲出来れば、文句のつけようがないが、さすがにそろそろラウンズが寝返ってばかりなことに、騎士団員も不審に思い始めている。
搭乗者は十五歳の少女だ。ナナリーと同じ歳の少女が、戦場を駆けめぐっている。
出来ればそのまま解放して、平和な時間を過ごさせたいが、それはルルーシュの勝手に過ぎないだろう。彼女はきっと望んで帝国の騎士になった筈なのだから。
自分が混じっては邪魔になる。四機の動きを随時確認しながら、ゼロは確実に実戦部隊であるKMFを相手に戦う。さすがにやりにくくなってきていた。
自分の技量が劣るとは思わない。だが、ブリタニアという軍事国家で最前線に立つ事もあるだろうKMFを相手にするには、少々実力差があった。
本来ルルーシュは指揮官だ。KMFの操縦が抜きん出て優れているという訳ではない。あくまで一般兵レベルなのだ。
「……ちっ、面倒だな」
数も多かった。首都から回された軍隊だ、他の者達も苦戦し始めている。
「そちらはどうだ」
『今のところ、動きなし。やられてもないけど、やってもないよ』
スザクとのプライベート回線だ。
『それよりそっちはどう? こちらからは分からないんだけど』
「それなりに苦戦中だ。――さすがは本陣に近づいて来ただけの事はある」
『無茶はしないでよ』
「分かっている」
そこで通信を切った。
目の前に同じガレスが剣を振りかざして向かってくるのを、ヴァリスで打ち砕き、更にMVSでとどめをさした。武装はここに来て、一部黒の騎士団の者を使っていた。
同程度だとこちらが不利になるからだ。
そして、相手側の武装も変化を見せている。
最新鋭の機種に、最新鋭の武装。そんなものを相手に戦うには一瞬の気も抜けない。
「影崎、そちらはどうだ!」
『左翼部隊は壊滅させました、これより本陣に戻ります』
「良くやった」
別働隊がいたのだ、今回は。それを三番隊隊長でもある影崎が率先して出向いている。そして、見事片付けたようだった。これで挟撃の可能性がなくなった。その上、こちらの戦力が増す。
少し息をつけた。
その時、中空に激しいエネルギー体が発動された。
――シュタルクハドロンだ。
誰も巻き込まれていないだろうな、と咄嗟に確認した。
四機は四散して、上手く逃れている。息をついたその時だった、衝撃がルルーシュを襲う。
「……ちっ」
右肘の部分に突き刺さる鉄の刃。そのままルルーシュは右腕を捨てることに決めた。連鎖して爆発を起こしてはたまらない。
片腕になった将を見逃す相手ではない。
圧倒的なピンチに立たされる事になってしまった。
自分が言ったのだ、気を抜くなと。なのにこれはどういう事だ? 自分が気を抜いてどうする。
『ゼロ、大丈夫か?!』
『ゼロ!』
次々と通信が入るが、今はそれが邪魔だ。一括して「平気だ、自分の仕事をこなせ」と命じ、自分は残された左腕とスラッシュハーケンで敵を撃墜する。
破損を受けたのがフロートでなくて良かったと思った。
しかしほっとしてもいられない。
数が多すぎる。幾人かがこちらの援護に回ってくるが、数が圧倒的に足りない。
『ルルーシュ!』
あ、と思った。
肩から胸に掛けての斜めを、敵の刃で切り裂かれる。
上手く脱出装置が働かない。
そのまま、フロートの一部も破損を受けた。
失墜の感覚がする。
『ルルーシュ、ルルーシュ!』
「バカ、お前はラウンズを……っ」
モルドレッドを囲む中から離脱した一機があった。スザクだ。
間に合うだろうか? この高さから落ちれば自分の命はない。
こんな場所で死ぬ訳にはいかない。しかしスザクが抜けては他の親衛隊に負担が掛かる。
モルドレッドを自由にさせれば、そこでこの戦闘はおしまいだ。
どうする? どうすればいい?
だが有効な考えはルルーシュの脳裏に何も浮かんでこなかった。
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