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割れた硝子の上を歩く53


 人員の補給は、藤堂率いる一番隊となった。日本の配備に回したかったのだが、本人及び隊員の是非にとの思いにより、実現した配置だ。
 実際、ブリタニア本国を攻めるには親衛隊と三番隊のみでは不安もあった。
 これは、喜ぶべき事態であるのだろう。
 日本に戻れば作戦の現在の遂行率に喝采を上げている黒の騎士団が待っていた。
 一日、ラクシャータは時間が欲しいと告げた。
 収拾したモルドレッドのデータ解析に当たりたいそうだ。実際再び遭遇すれば困る事態に陥るのは目に見えている。一日程度の時間ならば公爵らの蜂起にも間に合う。
 ゼロとして、ルルーシュはそれを了承した。
 それにはビスマルクとジノの協力も要請された。同じラウンズとして戦ってきた相手の事だ。
 パイロットについてのデータも欲しかったのだろう。
 ふたりには命令を与え、通信では簡潔にしか行えなかった幹部との打ち合わせを密に行った。
 全てに解放されたのは、午前も二時を過ぎようという時間だった。
 時差もあり、ルルーシュは疲弊していた。
 だが、先に部屋に戻っていたスザクの存在が癒しとなっていた。彼はきっと起きたままいつ終わるとも限らない打ち合わせを終えたルルーシュを待っているに違いなかった。
 そして、現実に部屋に戻ればとっくに寝こけたC.C.と違い、眠そうな顔はしていたがスザクが
「おかえり」
 と告げてくれた。
 マスクと仮面を外すと微笑みが浮かぶ。
「ただいま」
「お疲れ様、随分長かったみたいだね」
「ああ……これが最後の打ち合わせとなることを祈りたいものだな」
 ブリタニア本陣を叩く作戦のための会議だった。
 日本に残る人員に、再びここを守れと直截伝えられるのは、本陣を叩く事に失敗したときだけだ。そのような無様な事態になど、ここまで来て行いたくなかった。
 意図が通じたか、スザクも「そうだね」と微笑む。
 その瞳には、強い決意が示されていた。



「それよりお前、眠らなくていいのか?」
 時刻はそうこうしている内に、午前二時半を向かえようとしている。
 明日は一日猶予があるが、眠りに就くには遅すぎる時間だった。
「僕、移動中寝てたんだよね――多分時差のせいだけど眠くなくて」
「そうか? 顔は眠そうだがな」
「そう?」
 慌てたように、スザクは自分の頬に手をやる。そんな事で分かる筈がなにのに、妙にかわいらしい仕草に心がくすぐられた。
「君こそ寝ないと。明日も忙しいんでしょ?」
「まあ、それなりに。――でも、まだ起きてられる」
 潜めたニュアンスに気付いてくれるだろうか?
 あけすけに誘いを掛けるのは、気恥ずかしさが存在した。彼は今そんなモードではないのだ。
 だから遠回しに告げたのだが、案の定どこか鈍いところのある彼にはそんなもの通用しなかった。
「そうなんだ。じゃあ、お茶でも……」
 と、立ち上がったスザクを、ルルーシュから抱きしめる。
 驚いた顔のスザクは、一拍おいてからようやく意味を理解したようで表情を微笑みに変えた。
 そして、抱きしめられた体を抱きしめ返して来た。
「はっきり言ってもらわなきゃ、気付けないよ」
「気付けよ、それくらい」
 間近で笑うスザクの顔に、こちらも同じように引きずられそうになった。
 だけど甘いニュアンスが壊れてしまいそうで、微笑むだけに留める。
 しかし、口づけようとした瞬間に思い出した事があった。
 この部屋のベッドでは先にC.C.が眠っている。ここで事に及ぶ事は出来ない。
「狭いかもしれないけど――」
 と、スザクは自分の手を引いた。
 どこへ向かうのかは分からなかった。だが設備を抜けて倉庫へ向かう段階になって、ようやく気がつく。ランスロットだ。
 あそこなら、人目にはつかない。だが確かに狭いだろう。ふたりも乗れば、定員オーバー間違いない。
「あら、あんたたちどうしたのさ」
 夜を徹して作業に勤しんでいるラクシャータがいち早く自分達の姿を見つけた。微調整のため、アヴァロンに乗せていた親衛隊の機体も全て一度この場所に移されている。そんな場所で、と思ったけれども他に思い当たる場所はなかった。執務室にはまだ人が残っているだろう。扇と藤堂が打ち合わせを行っていた。自室にはC.C.、倉庫など空いている場所はあるかもしれないが、鍵が掛かるわけではない。
 そして、ランスロットの調整は到着した後、早い時間に終わっている。
「おい、スザク……」
「大丈夫だって――すいません、ラクシャータさん。調整した後の機体、見ていいですか?」
「もちろん。で、ゼロはお付き添い? それとも逢い引きかしら」
「まさか」
 ずばりを言い当てられてぎくりとした自分と違い、スザクは笑ってごまかす。
「彼もこの機体の事は良く知らない。一度中を見せておきたいんです。――いいですよね?」
「ああ、構わないよ。あたしらはこっちで手いっぱいだからね」
「すいません、よろしくお願いします」
 モルドレッドとの対戦データを白衣の研究員達が囲んでいた。そんな場所で何をしようと言うのだと言う気持ちになったが、心のスイッチは押されたままだ。
 そのまま、スザクに導かれるままランスロットのコクピットに入った。
 彼女らの注意は既にこちらにはなかった。



「スザク!」
「ごめん、だって咄嗟に思いつけたのがここしかなかったから」
「だからと言って」
「大丈夫だよ、第一駆動系を動かさなければ身動きが取れないし、ファクトスフィアは閉じておく。ここから向こうも見えないよ」
 ほぼスザクの膝の上に座る形になったルルーシュは、それでも躊躇いが取り払われる事が出来なかった。
「ここより安全な場所は、ないはずだよ」
「――確かに、そうだが」
 私室を除けば、誰もが鍵を持っている部屋ばかりだ。スザク個人の部屋はないため、個室は除外する。ここ以上に内鍵の掛かる場所はないだろう。
「どうせ、時間は掛けられないんだから。ね?」
 明日も忙しい。自分を気遣っての言葉だと分かる。
 だが、他に手はなかったのだろうかと頭がぐるぐるするが、その合間にスザクはゼロの仮面を外し、口づけを施して来た。
「……んっ」
 するりと入り込んできた舌が自分の舌を促してくる。そのまま誘われるようにスザクの口腔へ舌を滑らせると、強く吸われ、甘噛みされた。
「んんっ」
 スイッチは入ったままだった。安易にそれは快楽を体に伝えてくる。
 こんな場所で欲情して、交わろうとしている自分達は頭がおかしくなってしまったのではないだろうかと思ってしまうが、もう止める気にはなれなかった。
 装甲を隔てた場所では戦闘の為に必死になっている人たちがいる。
 なのに、自分と来たら命じておいてこのていたらくだ。
 膝の上に横座りになっていたのを、またがるように姿勢を変えた。頭を抱きかかえて口づけをより深くする。目をうっすら開けば、彼もまた自分を見ていて、慌てて目を閉じた。
「どうしたの?」
 口づけを一度解く。問われた言葉に、上手く返す事が出来ない。
「恥ずかしくなっちゃった?」
「……っ、このバカ」
「図星だからって、バカはないと思うんだよね…」
 と言いながら彼は面白そうに笑い、服を乱して行く。目の前にある尖りをいきなり吸われて、ひくんと体が震えた。
「声、出しても大丈夫だよ。外には聞こえないから」
「……知って、る」
 KMFの作りなどは大抵同じだ。通信機を使わなければ意志の疎通など出来ない。そして現在のランスロットは最小限の明かりを灯しただけの状態で、他の電源は入っていない。
 ぴちゃぴちゃとわざと音を立て、尖りを舐め続けられて、じれったいような感覚が生まれ始めた。スザクの頭を抱えていた力がつい強くなる。
「――ダメだよ、ルルーシュ。動けない」
 そして、スザクは両手を自分の肩の位置へと移動させた。
「ここならいいから」
「う、ん…っ」
 かり、と先を噛まれ、つい甘い声での返事になった。
 些細な感覚しか与えられていないのにこの密閉空間で刺激されたルルーシュの感覚は、既に痛い程の勃起を生んでいる。
 この格好では下を脱ぐ事が出来ないと気付いたのは、ふたり同時の事だった。
「ルルーシュ、片足上げて」
「ああ…」
 右足をあげると、再び横抱きの格好にされる。そしてそのまま、下だけを素っ裸にされた。
「スザク…っ」
「だって、ここじゃあ狭いから」
「でも…」
 装甲の外側が気になる。見える筈もないのに、意識してしまう。
 そして再びスザクは自分にまたがせる格好を取らせ、ライフキットを取り出した。滅多に使う事もない、応急処置の為の道具だ。攻撃を受け、そんな物で助かる余裕があることなどまずない。だが必ず積み込まれているものだった。その中から軟膏を取りだして、そのまままっすぐにルルーシュの後孔をほぐしはじめた。
「……っ」
 ぐ、とルルーシュはスザクの肩を強く掴んだ。
「力、入れないで」
「無理だ……」
「無理な筈ないよ、何度だって僕らは抱き合って来てるんだから」
「でも、だからってこんな場所で」
「どこでだって一緒だよ。僕らふたりきりの場所なら」
「……っ、あっ、やめ……っ、スザク……っ」
 指が侵入してくる。それを意識していないのに、緩め受け入れようとしている体があった。
 この行為には慣れきってしまっているのだ、既に。
「ほら、大丈夫」
 くちゅり、と溶けた軟膏が音を立てた。狭い場所なだけに、小さな音なのに伝わりやすい。
 気恥ずかしさに、ルルーシュはスザクの頭の横に顔を埋めた。
 荒立つ息を気にしながらも、指は増えて行く。それらを全て飲み込んでいく自分の体が恨めしい。
「ルルーシュ……」
「は……っ、はぁ……っ、あ」
「余計、感じる……そこ…」
 ルルーシュの唇の場所は、スザクの耳元だった。彼の声がせっぱ詰まっているのに気付く。
「ごめん、我慢出来ない」
 指を抜き出すと、スザクは前だけを緩め、屹立したものを取り出した。
 そしてゆっくりルルーシュの体の中に埋めて行く。
「あああ……っ、あ、まっ、…まて、スザ……っ」
「待てない」
 ずるずると自重も加わり、埋まっていく楔。
 スザクの息も狭い空間にひどく荒く響く。
 自分の甘い声など、耳をふさぎたいくらいだ。
 根っこまで埋められると、軽く体を揺さぶられた。
「ああっ、あっ」
「すごく…きもち、いい……っ」
 そして本格的に動き出す。最奥まで突かれる体勢に、ルルーシュはひどく感じた。
 それはこの密閉空間のせいであるかもしれず、装甲一枚の外側に人がいるせいかもしれず、相手がスザクだからかもしれず、全てをひっくるめた理由かもしれなかった。
「ああっ、あっあああ!」
 いつもより、ひどく感じた。
 ルルーシュは声をコントロールすることを忘れている。もしも聞こえたらどうしようなどと最初に過ぎった考えなど、もはや地平の果てにまで行っても探せないだろう。
「あっ、ああっ、あっ、ああっ」
 下から突き上げる動きの度に、声が漏れる。
 スザクの肩をぎりぎりと掴んで、髪が乱れるのもそのままに、首をがくがくと動くがままに揺れさせた。
「ルルーシュ」
「……んっ」
 下から呼ばれ、唇を求められる。
 素直に、ルルーシュは従った。
 突き上げられる動きのため、ひどく難しいキスとなってしまったが、満たされた気持ちになるのはいつもと変わらなかった。



 中に出され、それをそのままに衣服を着込む。ルルーシュのものはライフキットに入っていたガーゼでぬぐわれていた。
「どうせなら、お前も中で出さずに……」
 恨み言を言いたくなる気持ちにもなった。漏れ出しそうで、非常に気掛かりなのだ。
「ごめん、我慢出来なかったんだ」
 素直に謝られれば、どうしようもなくなる。
「………今度から、こういう場所は無しだからな」
「え、良くなかった?」
「良く………っ」
 ぼっと赤面したのが自分でも分かった。良すぎた。だから、良くないのだ。
 こんな背徳的な気持ちに浸るのは、良くない。
「C.C.のいない私室でだけでしか、今後はナシだ!」
「ええ、そんなの難しいよ。C.C.はなんだかんだとルルーシュの傍から離れないし」
「でもダメだ! こんなのがバレたらどうするんだ」
 きっと匂いもこもってしまっているだろう。
 この後コクピットを開け放って置くとは言うが、誰かが気付いたらどうしたら良いだろうか。ゼロの威厳も威信もあったものではない。
 だが、乗ってしまった自分も悪い。スザクばかりに文句を言うのも、お門違いかもしれなかった。
 それでも、八つ当たり気味になってしまうのは、気恥ずかしさが九割を占めていた。
「そっか……じゃあ、僕も個室もらおうかな」
「……空室はないぞ」
「え、そうなの?!」
「人が増えたんだ、それに俺たちは明後日にはまたブリタニアだ――ここに次に戻る時は、世界が変わった後になる。こんな場所に潜んでいる必要はなくなる」
「そうか。僕たちふたりで住める場所が出来ればいいんだね」
「多分C.C.もついてくると思うが」
「じゃ、寝室を別にすればいいんじゃない?」
 楽しそうに話すスザクに、徐々に気恥ずかしさもほぐれていく。
 夢物語のようなお話は聞いていて、ルルーシュに取っても幸せな思いを抱かせてくれた。



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2011.5.16.
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