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割れた硝子の上を歩く54


 一番隊、及び三番隊のKMFと親衛隊のKMFは調整を終えてアヴァロンに積み込まれた。
 日本側との折衝も終え、モルドレッドの解析データを受け取ったゼロはそのまま再び、ブリタニアへの航路へ向かう。
 半日あまりの空白の時間がそこに存在した。
 だがその時間は、綿密な打ち合わせの時間となった。
 ラクシャータらのモルドレッドの解析データは、有効な参照になった。シュタルケハドロンの防御策は残念ながら見つからなかったものの、各機のブレイズルミナスの強度はより増している。四発全てを発射されては防ぎようはなかったが、あるいは一発なら弾けるくらいには。
 藤堂、影崎、及び親衛隊は面を合わせて、ブリタニアの首都ペンドラゴン攻略についての打ち合わせを行っていた。一般市民への影響を考えれば、結構難しい課題だった。
 戦争を行おうとしている。
 その上で、首都決戦を行おうと言うのに非戦闘員を巻き込まない戦い方をするのは無謀もいいところだった。
 だが、ブリタニア人であるからと言って殺す対象にはしたくないのがルルーシュらの本音だ。
 虐殺者にはなりたくない。
 出来るのであれば無血開城が望ましいが、あの軍事国家がそんな簡単に許すとは到底思えなかった。
 ラウンズは全て投入されると考えて良いだろう。
 それらを引きつけるのは、藤堂ら一番隊の役割となった。ペンドラゴンから一歩外に出た郊外での戦闘を試みる。それには高度な戦術が必要だったが、ルルーシュという頭脳と、藤堂という戦闘力があれば不可能ではないと考える。
 親衛隊はその補佐に回る。
 主に、ビスマルクとジノだった。ふたりならば機体性能も合わせ、ラウンズと対等に戦えるだろうからだ。
 そして、三番隊とルルーシュ、親衛隊の残りふたりは首都ペンドラゴンを目指す事になる。
 宮殿にいる人間には、この際犠牲になってもらおう。所詮腐敗した権力にしがみつく者たちだ。後生に残しても邪魔な存在でしかない。
 ここになって初めて、ゲフィオンディスターバーの出番が来る事になった。
 郊外におびき寄せたラウンズに対して使用する。
 現在のラウンズは欠番が多いとは言え、まだ五人も存在するのだ。
 いくら元ラウンズがいるとは言え、荷が重い。
 数カ所に前段階でゲフィオンディスターバーを設置する。そこへおびき寄せる作戦を立てる。
 それを実行に移すのは、藤堂が指揮を執る事になる。
 まずはそちらが先行する作戦だった。
 ラウンズを全て出さなければ、ペンドラゴンの攻略は難しい。
 万一残ってもひとり程度にしておかなければ、数量で来るであろうペンドラゴン上空での戦闘は厳しいものになる。
 先行して、公爵三家の蜂起が現在始まっている筈だった。
 ペンドラゴン近くを守る家だ。私兵もそれなりに強い。黒の騎士団のサポートがなくとも授けた戦術と自前の兵士で兵力はある程度分散されているだろう。
 そこへ、次にペンドラゴンへと藤堂らが突入をし、残るラウンズらを引き出す。
 ジノ、ビスマルクがそこにいることが必須条件だった。彼等はブリタニアを裏切った身だ。
 どれほどの仲間意識がそこにあるのかは知らないが、きっと皇帝の騎士として存在していたラウンズの裏切りは重く見られている事だろう。
 追っては、必ず来るに違いなかった。
 もちろん、データでの補足も行っておく。
 帝都ペンドラゴンへのデータ侵入はシュナイゼルのお陰で簡単になっている。
 それに、シュナイゼルという駒がある限り、ラウンズの出兵はほぼ百パーセントの確実性を持つのだ。
 そこで、最終的にルルーシュ率いる三番隊と親衛隊の突入が行われる事になった。
 この時点で、完璧にシュナイゼルには裏切ってもらうこととなる。
 侵入ルートの確保。そして兵力の分散と拡散。完璧な隙を作らせ、そこを狙う事となる。
 シュナイゼルはどこかで回収しなければならなかった。彼はまだ失ってはならない重要な駒だ。
 皇帝を倒した後の、仮の皇帝として君臨してもらわなければならない。
 ブリタニアという国を最終的に壊す傀儡として、生きてもらわなければならないのだ。
 マップを開きゲフィオンディスターバーの設置確認をし、主戦場を決め、突入時刻を決め終えたのは、まもなくブリタニアへと到着する頃だった。
 各自に三十分程度の休息を与える。
 眠れもしないだろう時間だが、各自気が立っていて、眠るどころではないだろう。
 作戦を咀嚼してもらう時間と考える事にした。
 ルルーシュは、ひとまず私室へと戻る。
 仮面を取り、マントを脱ぐとどっと疲労感が押し寄せて来た。
 今からだというのに、既にここまで疲れてしまってどうしようと言うのだろう。
 だが、一緒に戻ったスザクにはルルーシュの緊張を見て取れるだけの余裕があった。
「少し寝なよ、僕が起こしてあげるから」
「――助かる」
 気は張っている。
 だが、この緊張の糸は張り詰め過ぎていて、少々危険だった。
 一時緩める必要がある。それには仮眠が最適だった。
 眠れるかどうかは別問題とし、ゆっくりと過ごす時間が必要だ。
 ソファに身を沈めると、傍らに座ったスザクへともたれかかった。
「どうせ寝るなら、ベッドにしておけば?」
「本格的に眠っては、困る。それにこれも気持ちいい」
 目を閉じて、スザクの体温を感じた。
 じんわり広がる高めの温度が気持ち良い。
 目を閉じれば、ちかちかと先ほどまで見ていたモニタ画面の残像が映ったが、それもそのうち消えた。暗闇に落ちる。
 きっと、本当にルルーシュは疲れていたのだろう。
 ものの五分もしないうちに、寝息を立て始めてしまっていた。



 スザクに声を掛けられるより前に、ぱちりと目は覚めた。
 ちょうど時間だったようで、スザクがひどく驚いた顔をする。
「すごいね、君の体内時計」
「そうか……? もう時間か」
 ちらと目を壁掛け時計に走らせれば、約束していた時間が近づいている事を示していた。
「お前も少しは休めたか?」
「僕は疲れてないし、ルルーシュの傍にいれれば、大抵安らぐから」
 ふ、とルルーシュは笑った。嬉しい事を言ってくれる。
「じゃあ、問題ないと思って差し支えないな?」
「もちろん」
「では、始めようか」
 ソファから立ち上がる。既に意識は冴えていた。
 さっきまで眠っていたのが嘘のように、冴え冴えとした感覚が身を包んでいるのが分かった。
 きっとこの作戦は成功する。
 それが、確信出来た。
 甘い考えは不必要だ。それが足下を崩す原因になりかねない。
 しかし、現在のルルーシュにはやり遂げられる自信が満ちていた。
 これは、勘と言っても良いたぐいのものだった。
「勝ちに行くぞ」
「うん」
 スザクも声を引き締め、部屋を出るルルーシュに従い着いて行った。
 艦橋には既に、人々が集まり始めていた。



「兄上、戦況はいかがですか?」
 通信室に入り、ルルーシュは公爵三家の蜂起状態を確認する。
『そうだね、少し手こずるように手配したから、まだ続いているよ。これで良かったかな?』
「ありがとうございます。それでは、こちらの作戦をお伝えします」
 公爵三家の戦闘は続いている。
 予定通りの行動だ。ますます、このまま上手く行くパターンが見え始める。
 先ほどの打ち合わせ内容をそのままシュナイゼルへと伝えた。彼なりの視点で、若干の修正を加えられたが、細かな時間の分配くらいなものだった。それはそのまま通る事となる。
「それでは、まずは一番隊を出します。――ラウンズの投入を」
「分かっているよ、ゼロ。全てを投入することにしよう。そしてポイントに誘導する。それでいいんだね?」
「はい、兄上。よろしくお願いします」
 あっさりと作戦決行は決められた。
 通信室から出ると、緊張した面持ちの藤堂がそこに控えている。
「一番隊、三十分後に出発。準備は整っているな?」
「もちろん。だが、上手く行くかどうか……」
「弱気でどうする! ラウンズが出てくればゲフィオンディスターバーの地点までおびき寄せる。相手もその装備についての知識は少ない。対策など一手も取られていないだろう。そこを、総員で叩け」
「承知」
「誘導にはビスマルクとジノを使え。いいな?」
 彼は、こくりと頷いた。
 予め決めてあった作戦内容だからだ。
「では、準備開始。我々も遅れて三十分後に出撃する」
「御武運を」
「お前もな」
 彼が右手を差し出して来たので、ルルーシュは握手に応えた。
 そしてひとつ頷き合う。
 それを合図に、彼は艦橋から出て行った。一緒にいたビスマルクとジノも付き従った。
「三番隊と残る親衛隊も、準備開始。今から一時間後にペンドラゴン突入だ。いいな」
「了解」
 これも決めてあった時間帯。
 既に三十分の休息時間に準備は整えられているのかもしれない。
 彼等もまた、艦橋から出て行った。
「アヴァロンは一度ペンドラゴン上空で藤堂らを降ろした後、離脱する。ゲフィオンディスターバーのおまけのステルスが効いているから問題はないが、目視はされる。気を怠るな」
「はい」
 操舵員達の揃った返事。
 全てが心地よく響いた。
 
 残りの時間は三十分。
 そこから、戦争が始まる。
――いや、もう始まっている。
 公爵三家は既に戦っている。それ以前から準備は怠らず行ってきた。
 ブリタニア内部の不信感は高まっているとの情報はシュナイゼルからも寄こされている。
 
 あの巨大な国の崩壊は、まもなく決定的なものとなるのだ。



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2011.5.18.
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