一番隊が出撃して行く。
その様子を見守り、MAP上に点在するIFFを確認した。初期配置は予定通り。
ジノとビスマルクが突出している。彼等を先頭に、ペンドラゴンへと向けて進軍を開始する。
フロートユニットを用いての事だから、上空に到達するのはすぐの事だった。
それにタイミングを合わせたように、敵IFFが登場する。
目視はもう出来ない。既にアヴァロンはペンドラゴン上空から一時離脱している。
盤上の駒のように、上手く一番隊は動いていた。逃げるような動きを真似、彼等を追わせる。途中、二つの光点が一時停止した。ジノとビスマルクだろう。元同僚達と通信でも行っているのかもしれない。だが、再度動き出す。そこはゲフィオンディスターバーの埋まる、罠のポイントだ。
まずモルドレッドが通過した瞬間、こちらでスイッチを押す。
その瞬間に光点が停止した。ゲフィオンディスターバーは効果を十分に発揮しているらしい。
次いでナイト・オブ・ファイブの乗るパーシヴァル。これも光点が停止する。
第一駆動系が止まった証拠だ。
しかし、残るノネットとモニカ、ドロテアの三機は止まらない。時期に、ギャラハッドと交戦状態に入る。そこをジノが割って入り、混戦状態となった。
幸いにもそこにはナイト・オブ・ラウンズのみが出兵されているらしい。
多勢を罠にはまった二機に回し、ナイト・オブ・ラウンス同士の高度な戦いについて行ける藤堂と、その藤堂が選りすぐったであろう数名だけが混戦に飛び込んだ。
「実戦はやはり思い通りにはいかないな……」
上手くゲフィオンディスターバーが作動しなかったのか、それとも航路が逸れたのか。
こちらではスイッチを入れていたが、うっかり味方機が侵入しないようにと三機分のゲフィオンディスターバーはスイッチを切った。
ラウンズの序列は数字ではないと言う。ナイト・オブ・ワンのみが特に優秀ではあるが、他は並列しているようなものだ。ビスマルクの戦いに掛かっていると言っても良い状況だろう。
IFFコードを見ながら、藤堂へ時々指示を飛ばす。
数機とは言え、闇雲に突っ込むのでは元ラウンズのふたりの邪魔になるだけであろうし、陣形も作れる。
ジノは遊軍として好きに動かせる。
そして、藤堂らはビスマルクの背後に回らせ、時差を使いヴァリスの一斉掃射を行う。
敵IFFは縦横無尽に動く。早い。
こちらの機体では対応出来ないかもしれない。
ガレスに慣れた三番隊を出したかったところだけれども、それはこちら側の作戦の崩壊に近づくだけで無意味に過ぎなかった。
「藤堂、斜陣を取りジノの元へ誘導しろ」
『承知!』
まだ味方機は一機も落とされていない。良い戦闘をしている。
「一番隊、パーシヴァルとモルドレッドはどうだ」
『今叩いてます。二機とも動けません』
「間違っても有効範囲内に入るなよ――後は任せる」
『了解』
現場の指揮を執っているのだろうふたりの声が重なった。背後からは爆撃音が繰り返されていた。
あの二機に対しては問題がなくなった。
後は、元ラウンズらの対している三機のみが問題だ。
一機でも引き返えされれば、こちらがやりにくくなる。
だが出撃時刻は刻、一刻と迫っていた。
「三番隊、及び紅蓮とランスロットは出撃準備開始。C.C.、ガヴェインの準備も頼む」
『了解』
『了解だ』
ひとりだけ機嫌悪そうに不遜に答えたのは、C.C.に違いなかった。
思わず苦笑する。この場になっても尚、その態度を崩すつもりはないのか、と。
彼女には自分に生きていて欲しい理由があるらしい。その理由を語った事はないが、自分が生きて目的を達成出来なければ、彼女の願いは叶えられない。
何がどうあっても、自分達に主従の関係はない。あくまで対等な共犯者でしかあり得ないのだ。
その彼女が、自分の目的の為とは言え戦場に直截身を置くのだから、大した譲歩なのだろう。
不満げな口調がそう語っているような気がした。
だから、苦笑するのだ。
一番隊は今のところ、上手くやっている。
次は、自分達の番だった。
C.C.に操縦の全てを任せ、自分は一番隊の戦場と三番隊――自分達の戦場を俯瞰して見た上で指示を出して行かねばならない。
忙しくなりそうだった。
アヴァロンは再びペンドラゴン上空へと向かっている。
今度は無事と言う訳にはいかなかった。対空砲が撃たれる。だが、巨大なブレイズルミナスが発現し、それら実弾は全て弾いた。
降下は難しい。だからと言って、ここで機体を出せば、あの対空砲はKMFのブレイズルミナスでは弾けないだろう。
「やりすぎですよ、兄上」
ぼそっと口内でつぶやきつつ、彼の裏切りを早める事を決断した。
「シュナイゼル」
『はい』
「対空砲火中止、その上で我々の人質となってもらう」
『分かりました』
彼は非常に従順だった。ギアスと言う力が恐ろしくなってしまう瞬間だ。
他の誰でも同じような反応は示す。だが、自分はシュナイゼルと言う人間を良く知っているつもりだった。だからなのだろう、この抱く感覚は。
やがて、命じた通りに対空砲火は止む。
「よし、アヴァロンを降下。対空砲へ一斉射撃」
「はっ」
機関士が命じた通りの行動を取る。
同じ事なのに、シュナイゼルへ掛けたギアスの方が強く感じてしまうのは、素の彼を知っているからだけに過ぎないのだ、本当に。
対空砲を撃破。完膚なきまでにたたきつぶした要塞都市は、きっと今頃パニックに襲われているだろう。かつて母を虐げた人々、自分達兄妹を見捨て、見下げた者達、全て。
だが気持ちがすっとする訳ではない。
復讐を行いたいのは事実だった。
なのに、その復讐相手がみつからない。
そんな状態で、すっと出来る筈がなかった。
「皇帝陛下にお目通りさせていただこうか」
ゼロとして、ルルーシュは動き始める。マントを翻し格納庫へと向かう。
アヴァロンはKMFを射出し終えた時点でこの場から立ち去るよう命じ、可能であれば一番隊の補佐を行う事を伝える。
格納庫には、親衛隊ふたりがまだ騎乗せず待っていた。
「どうした、出撃だ」
「分かっています、ゼロ」
カレンが戦闘前の燃えさかる炎のような瞳を向けて来る。
「私たちは、勝ちますよね?」
「ああ、もちろんだ――不安だったのか?」
「いえ。私たちは親衛隊。ゼロがいらっしゃるまで、ここを離れる訳にはいきません」
「そうだ。僕たちが君をサポートする。もちろん、命じられた行動は必ず取る。だけど、万一君に何かあった時には真っ先に駆けつける事を約束するよ」
「……ありがとう、ふたりとも。その言葉に感謝する。だが万が一は起こらない。このまま、出撃だ」
「分かりました」
「分かったよ」
ふたりは唱和し、自分の機体へと戻って行った。
気が引き締まる。
自分もガヴェインに乗り込めば、既にC.C.がその場に待機していた。
「人気者だな、お前は」
「ゼロである限りはな」
「王の力は人を孤独にする――違ったかな、これは」
「なんだ、それは」
「契約時に話した筈だ」
「ああ。そうだったな。――だが俺は、孤独からはほど遠いな、まだ」
「王にはなっていないと言う事かもしれないな」
と言い、彼女ははははと笑った。
「主に俺は指令を出す事に集中することになる。操縦は任せたぞ」
「分かっている」
彼女は振り返り、そして少しだけ微笑んだ。
「お前が、勝つ事を願っているよ、私は」
「そうだな。お前の願いのためにも」
「ああ」
だが彼女の柔らかな微笑みと言うのは非常に珍しいものだった。自分に向けられたそれに若干の狼狽を隠しきれない。もちろん仮面を被ったままだったので、きっと彼女にはバレなかっただろうが。
「いつまで仮面を被っている気だ? 面倒だぞ」
「分かっているよ」
そう告げ、仮面を外した。
傍らに置き、ドルイドシステムを立ち上げる。
一番隊の戦況が気になっていた。
「では、発進」
射出口が開かれ、KMFが次々と可翔翼を用いて飛翔して行く。
対空砲は既にない。無防備となった都市へと降りたって行く。
もちろん相手もそのままぼんやり待っていた訳ではないようだった。
合わせたようなタイミングで、KMFが出てくる。
一番隊は先ほどと同じ状態で交戦中のようだった。IFFの数は敵味方共に減っていない。混戦状態になっていなければいいがと、懸念材料が一個だけあった。
「対応が早いな……さすが兄上。早くにこちらへ来て欲しいものだ」
「これが終わるまで、後少しだろう」
「その気持ちが命取りになる。いくら兄上が傀儡とは言え、戦士達はほんものだ。気を抜くな」
「分かっているよ――数を減らす。ハドロン砲の準備を」
「分かった」
味方機を下方へ一機に降下させ、周囲を飛び出してきた敵KMFのみにする。そこで遠慮無くハドロン砲を三百六十度に向けて発射させた。
この高出力の火力に、KMFなどはひとたまりもない。
脱出艇を用いれた機体はあるのだろうか? ……おそらくはないだろう。
大量虐殺の後、各個撃破の戦いとなる。今の攻撃でかなりの数は減った。
ただ、都市内にはまだまだKMFは隠されているものだと推測する。それとも、三公の反逆にかなりの数が出払ってしまっているだろうか?
「兄上、残存KMFの数は?」
『後五十機はいるね。いつもよりは数が少ない』
「そうですか……その出撃は、今しばらくお待ちください」
『分かりました。ゼロの命令通りに随時対応します』
ひどい違和感を感じ、それを苦笑でごまかした。
従順なシュナイゼルなど、気味が悪い。だが、必要な戦力だった。
各個撃破となると、機体性能の問題が出てくる。ガレスに慣れた三番隊は、無頼の動作の遅さに若干の焦れを感じているだろう。ここくらいはガレスを使用しても良かったかなと思わないでもない。
しかし内部には、『黒の騎士団』が攻めて来たのだと知らしめる必要があった。
日本が立ち向かっているのだと言う事を、だ。
だが親衛隊と自分が、自分達の機種に乗ってさえいれば解決出来た問題かもしれなかった。――いや、やはりダメだ。からくりがばれてはいけないのだ。
今までの全ての蜂起はブリタニア人によるブリタニアの攻撃でなくてはならない。
日本はそれに便乗して、攻撃を行っている形を取らなければ意味がない。
内部から腐り、そして外部からも攻撃される。下手をすれば今現在交戦中のEUも出て来る可能性もあった。
そうなればまたややこしくなるので、今は避けて欲しいものだが――と、思っていた時に、最初の犠牲者が出た。
上手く射出装置は働いたようで、飛行艇は宙を舞い、パラシュートで落下してゆく。
「誰だ?」
『三番隊、吉崎です。命に別状はないとの事でした』
「分かった。気を抜くな」
『はい!』
影崎がそれでも確かな手応えを感じているのだろう。威勢の良い声で返事をする。
実際、現在の戦況はこちらが有利だった。
一番隊の情報を確認する。
敵機のIFFが一個ロストしている。ゲフィオンディスターバーにはまったモルドレッドだろうと思われる。もう一機は意外と粘っているようだ。
だが、IFFの数が足りない。
「マズイ、戻って来るぞ、ラウンズが」
引きのMAPへ変更した。
そこには、ゲフィオンディスターバーに捕らえられなかった内の一機がペンドラゴンへ向けてまっすぐに直進していた。
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