「一番隊、離脱したナイト・オブ・ラウンスはどれだ?!」
首都への直進コース。スピードは速い。
『機体名は分かりません。モニカ・クルシェフスキーのものだと思われます』
返答したのは藤堂ではなかった。彼は今、混戦のただ中にいるのだろう。
「モニカか……」
ビスマルクからもジノからも聞いていた。普段はおとなしい性格だが、いざ戦闘となると残虐性が増すのだと。ラウンズは全て手強い。モルドレッドのような特殊機でないことだけが救いだとは言えるが、こちらへ来られるのはイレギュラーな事態でもあった。
「シュナイゼル、モニカに現地に戻る指令を入れろ」
『入れています、だが聞き入れません』
「なんだと…」
『所詮は皇帝の騎士。皇帝の命が脅かされようとしている今、彼女はどの命令より皇帝の命を優先するでしょう』
「そうか……」
それを失念していた。彼等は皇帝の騎士なのだ。
皇帝の命を守るため、命令を守るために存在する。現在は貸し出されているだけにすぎなかったのだ。
「スザク、モニカが来る。お前は向かえるか」
スピードにはスピードを。モニカに対するにはカレンかスザクしかいなかった。
カレンの輻射波動には若干の時間が掛かる。ここはスザクの出番だろうと思われた。
幸いにも各個撃破の成果は見え始めている。残り五十機はいずれ出てくるだろうとは思われるが、スザクがいなくともカレンと、ガヴェインがあればかなりの数を減らす事が可能だろう。
『分かった、向かうよ。方向は?』
「主戦場からまっすぐの直進コース。二時の方向だ」
『了解!』
そこで、白い機体が離脱する。
無駄のない、すみやかかつ迅速な動きだった。
「カレン、スザクがラウンズ対策で抜ける。負担が増えるが頼む」
『分かりました!』
その合間に、カレンは一機を輻射波動で爆破させていた。容赦のない力だ。圧倒的有利に思われた。
「藤堂、そちらはどうなっている」
『すまない、今は待ってくれ!』
「分かった、落ち着き次第連絡をよこせ。モニカの件はこちらで片付ける」
『申し訳ない……っく』
押されているのだろうか。やはり、数が足りなかったのかもしれない。
「シュナイゼル、五十機を出すのをストップさせられるか?」
『それは難しいですね、今も何故出撃しないのかとせっつかれているところです。出撃は時間の問題かと』
舌打ちをした。
有利に事が進んでいるのは現在のこの位置だけらしい。
それも時間の問題で再び混戦が始まる。
早急に先ほどと同じ手を使って数を減らし、一番隊へ合流するのが望ましいだろう。
作戦は順調には進まない。所詮は人と人のやり合いなのだ。ゲームのようにルールがある訳ではない、思い通りになど進まない。
ガキン、と後背で大きな音がしていた。
スザクとモニカの戦闘が始まったらしい。
残念ながら、目視で確認出来る程の余裕がない。IFFコードで確認出来るだけだ。
アンノウンから、モニカの機体は名が分からないながらも「モニカ」と表示されるようになった。
「三番隊、各個撃破を続けよ。全てを撃退した後、新しく出てくる事を忘れるな、ここは首都だ、防衛は固い。余力は残しておくように。エナジーの危険がある者は早急にアヴァロンまで戻り、今のうちに補給せよ」
命じた途端、数機がアヴァロン――主戦場の方向へと向かっていった。
無駄な動きの多かったものだろう。もしくは、攻撃を受けすぎた者たちだろうか? フロートもだが、ブレイズルミナスもまた、エナジーの消費が激しい。余り頻繁に使っていれば、エナジー切れを起こしやすくなる。
敵機は点在しているだけに、ルルーシュの機体は戦いにくかった。
指令機として存在しているだけに、攻撃を仕掛けてくる機体は多い。だが、それらは指先全てに備えられたスラッシュハーケンで処理が出来る。ハドロン砲を使うには味方機も混在しすぎて危険な状態だったのだ。
早く出て来るなら出てくればいい、と思う。早くこちらの片を付けてしまいたかった。
そうしたら、味方機は主戦場へと向かわせることが出来る。
そちらで、決着を付けてもらう。
自分はそのまま降下し、シュナイゼルを人質に取り、皇帝に直截会いに行くつもりだった。
スザクとモニカは互角の戦闘を行っていた。
スピードも戦闘慣れもモニカがまさっている。だが、スザクには負けられない理由があり、それは他の誰よりも強いと自負出来るものだった。気力で勝っていると言っても良い。
他の機体からは何が行われているのか分からない速さでぶつかり合い、時に剣を交え、隙を突いてスザクはヴァリスを放つ。それら全てを避けられたり受けられたりするのだから、かなり厳しい戦いでもあった。
だが、スザクとて負けてはいない。彼女の放つスラッシュハーケンは全て叩き斬ったし、刃も受けて立っている。モルドレッドやトリスタンのような特殊機体ではなく、純粋に一般機をカスタマイズさせ、スピードに特化させた機体のようだったのがスザクの現在の、唯一ほっとできる要因だった。
ここでシュタルクハドロンなどが出てくればまず勝ち目はなかっただろう。
一瞬の気も抜けない時間が過ぎていく。もうどれくらい戦っているのかは分からない。
額から汗が流れ、目に入りそうになるのを手の甲でぬぐう。その一瞬の視界の曇りが命取りになりかねない相手だ。
「はぁ……はぁ……っ」
息が上がってきた。
彼女はどうなのだろうか。余裕な顔をしているだろうか。それとも、ここまで対等に戦えている事に彼女とて焦りを感じているだろうか?
相手は帝国最強の騎士のひとり。相対して、そう持つ相手は存在しない筈だ。
だが、同僚とも模擬戦くらいは行っているだろう。
ここにジノがいれば――と、思う。
彼との手合わせは良い勉強になっていた。彼も速さは相当のものだった。
その模擬戦があったからこそ、モニカの速さにもついて行ける。
「ルルーシュ、そっちはどう?」
そんな余裕もないのに、声を掛けてしまう。彼の声が聞きたかった。
『大丈夫だ、お前が押さえていてくれる限り、こちらはまもなく片付く。そちらこそ大丈夫なのか?』
「結構厳しいかも」
『カレンを回そう』
「そこまで――」
と、言いかけて。
これは自分の戦闘ではないのだと思い出した。妙なプライドにこだわっている場合ではない。
早く片付けなくてはならない相手だ。
向こう側に余裕があるのだとすれば、カレンの助力は大変ありがたい。
「分かった、お願いする」
『後少し耐えてくれ』
「分かった!」
そう答え、通信を切った。
カレンならばこの速さにも着いて来れるだろう。その状態で二対一になれれば、まず勝てる。現在ですら平行線なのだ。自分が押さえることが出来れば、カレンの輻射波動がある。
彼女の赤い機体は、すぐに目視出来る場所にまでやってきた。
相手にも分かっている事だろう。動きが段違いにスピードアップする。あれでもまだ手加減されていたのだろうか? それとも、火事場の馬鹿力のようなものだろうか。だが、ここで逃す訳にはいかない。
こちらも精神を研ぎ澄まして彼女の動きを追う。カレンはしばし合流する機会をうかがっているようだった。迂闊に入れば、邪魔になると理解しているのだろう。懸命な処置だ。
「カレン、左から回り込め!」
『分かった!』
追い詰めた、と思った。
彼女に指示を出す。挟撃のチャンスだ。
上下には逃げることが可能だが、このスピードはまだ維持出来る、逃げられたところで自分は追いつける。カレンも見ていた事でモニカのパターンも理解しただろう。
「よしっ」
彼女の剣が振りかぶられた。逃げられないと察したのだろう。正々堂々とした姿は美しくもある。
「ごめん」
自分もMVSを振りかざし、彼女の剣を受ける。その一瞬の制止の時間を、スザクが命じなくともカレンは見逃さなかった。
背後から輻射波動を撃つ。
機体は内側から沸騰し、脱出艇も使用出来ない状態で破損された。
モニカのIFFが消失した。スザクとカレンがやったのだとすぐに理解出来た。
余裕はあったのだ、もっと早くにカレンを回せば良かったと後悔する。だがそれは一瞬の事。
すぐに敵機が増援された。
ルルーシュは味方機を後背へと引くことを指示した。
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