味方機を一度集結させる。
敵機は一度殲滅した。その上での増援だ、時間的に余裕がある。
自分の後背に布陣させ、エナジーフィラー補充してきた者も含めて偃月の陣を敷かせる。少数だから薄いものだが、これからこちら側もハドロン砲で大幅に数を減らす予定だ。
機能することだろう。
次々に射出されてくる敵KMFはやはりガレスだ。スピードに注意しなければならない。
やがて戻って来たカレンとスザクには、エナジーの補給に向かわせた。彼等が一番の働きを見せている。エナジー消費も激しいだろう。その上で、その場にとどまり混戦となっている一番隊の補佐を行う事を命じた。
こちらはいくらガレスと言えど、一般兵が相手なのだ。ラウンズ相手にしているのとは訳が違う。
心配だとの言葉はあったが、その時は必ず呼ぶ事を確約し、彼等を向かわせた。
敵機は五十。数は分かっている。
ほぼその程度かと思われたときに、射出口へと向けてハドロン砲を撃ち込んだ。
そして左右に振り、滞空しているガレスも撃ち落とす。
出陣してきたばかりの者だった。まだこちらの陣形把握すらしていなかっただろう。
数は劇的に減った。
「よし、このまま前進する」
自分が戦闘に立つ陣形だ。好んで使うものでもあった。
志気も上がりやすく、勢いも付く。
点在したガレスにはそれぞれがヴァリスを叩き込む。自分もハドロン砲をもう一撃撃ち、射出口を完全に破壊した上で残存機を更に減らした。
「これで、見えたな」
「ああ」
さすがにC.C.も同意した。
密集する軍隊に対し、ハドロン砲は非常に有効だった。
後は戦意を失いつつある敵機の掃討のみになった。
「後は任せた、私は直截本陣に乗り込む」
『ひとりでですか?!』
「なに、C.C.がいる。問題はない」
なにより自分にはギアスがある。問題など生じようがなかった。
「シュナイゼルを人質に取り、皇帝を殺害する。シュナイゼルには傀儡皇帝となってもらおう」
『そんなに上手く……』
「私はいままで、お前達に奇跡を見せて来たつもりだが?」
言えば、影崎は黙り込んだ。
確かに無数の不思議がゼロと行動を共にしてから生じていただろう。それは全てギアスがもたらした結果なのだが、それを知らない彼等に取って、ゼロとは奇跡を起こす無敵の男に違いない。
『分かりました』
「では影崎、この陣をこれからお前に任せる。敵の掃討が終わり次第、一番隊に合流し、ラウンズを殲滅せよ」
『了解!』
彼等をその場に残し、ルルーシュはC.C.に命じ機体を下降させてゆく。
射出口のひとつくらいは残しておけば良かったかな、と今になって思った。
仕方なく、ガヴェインは皇宮正面に乗り付ける。
降りる途中で警備兵が銃を構えたが、即座に「自決せよ」とのギアスを掛けたルルーシュの勝ちだった。
彼等は自分ののど笛を打ち抜き、皇宮前を血塗れにする。
その血溜まりを踏み、ルルーシュは懐かしき皇宮の入り口を開けた。
一番隊の戦場はまさに混戦だった。しかも一番隊側がたった二機の相手に押されている。
ビスマルクとジノはその中でも良く動いてはいた。ビスマルクが一機――おそらくドロテアの相手をし、ジノは残る一方を担当している。主に押されているのはジノの方だ。ノネットはあのコーネリアの先輩だとも言う。実力差が存在するのだろう。それを藤堂らが補おうとしているのだが、やはり戦術だけでは勝てる相手ではなかった。
機体性能、そして本人の能力が突出している。
合流し、状況を見たカレンとスザクは、ルルーシュの判断を正しく思った。
このままではこちらが落とされてしまうだろう。そうすればルルーシュらが危なくなる。彼等は皇帝の騎士。自由を取り戻せばすぐにでも首都ペンドラゴンへ戻ろうとするだろう。
『スザク、あんたはあっち!』
と、ビスマルクの方を示す。
『さっさと片付けてこっちに合流して。その方が早い』
「分かった」
ドロテアは確実に押されている。その補助を自分がすれば、確かに早く戦闘は終了するだろう。カレンはしばらく我慢の時間を強いられる事になるかもしれない。だが、それを乗り越えればビスマルクとスザクのふたりが駆けつける事が出来る。
『藤堂さん、入ります!』
通信がつなぎっぱなしになっていた。彼女の声が筒抜けだ。
切迫した声とは正反対に、動きは冷静だった。その彼女の姿を見ながら、通信をこちら側から切断する。
そしてスザクも与えられた戦場へと向かった。
皇宮内はしんとしていた。
この騒乱に怯え、文官らは全て部屋に閉じこもってしまっているのだろう。中には少しでも離れようと自分の邸宅まで戻った貴族もいるかもしれない。
「なんだ、人望がないなシャルルのやつは」
「――シャルル? お前、何故その名を知っている」
「知人だからだ」
C.C.はしれっとそう告げた。
「なんだと?!」
長い廊下を歩きながら、ルルーシュは衝撃を受けていた。
「お前の母親とも面識がある。いや、友人だったな……私たちは」
「お前と、母さんが……?」
「お前の母親はギアス能力者だ。私が能力を授けた――もっとも、契約は不履行にされたがな」
平然と言ってのける彼女に、ルルーシュはどうしていいのか分からなかった。
激高する感情がある。だがそれと同時に、冷たくひえた氷のような感覚も存在しているのだ。
得体の知れない女だとは思っていた。だが、まさか。
「裏切っていたのか」
「いや。私に取っての共犯者はお前だけだ」
「今は、と言う意味ではないのか?」
「さすがだな、ご名答だ」
「昔は皇帝とも手を組んでいたのだろう」
「……――そういう事に、なるのだろうな」
「じゃあ母さんの! 母さんの死もお前は真実を知っていたんじゃないのか?!」
「ああ。知っている」
「何故それを言わなかった!」
激高が氷の感情に勝った。
立ち止まり、C.C.の両肩を掴み正面を見させる。
「問われなかったからだ」
「だが俺の目的は知っていた筈だ」
「ああ。だがこれを告げれば――お前は多分、失望する」
「どういう事だ?」
「全て話してやるよ、お前が目的を遂げた後に」
「………っ」
これで相手が男ならば、殴っていたところだろう。
それを寸でのところで堪えるだけの理性は残っていた。
「皇帝は殺す。お前の知人だろうがなんだろうが構わない。それでもいいんだな」
「くどい。私はお前の願いを叶えるために、傍にいる」
「――なら何故、今そのような事を言う」
「後で言うより、今言っておいた方が反則ではないだろうからな」
「……どういう意味だ」
「恨み言と取られては適わないと思ったんだよ」
うっすら笑いすら浮かべ、彼女はルルーシュの手を振り払い歩き始めた。
その後を追う形でルルーシュも歩く。
「お前は全て知っていると思っていいのだな」
「ああ。だから、お前が目的を遂げれば全て教えてやろう。問題はないはずだ」
「――分かった」
引き際は心得ていた。なによりも、目の前には壮麗な扉があった。
門兵はもちろん、ギアスで自分達を素通りさせた。
扉を開く。
長い長い赤い絨毯の向こうの玉座に座る男は、全く動揺の様子がなかった。
むしろ、扉が開く事、そこに自分がいることを知っているかのような様子だった。
すぐさまスザクは戦場に突入する愚を犯さなかった。
一応はビスマルクが押している状態だ。下手に手を出せば、邪魔になりかねない。これが劣勢であればすぐに混じるべきだったのだが、状況は良く見極めなければならなかった。
「ビスマルクさん、参戦します」
『助かる』
一言、返答があった。
「タイミングを見ますから、入り込める隙を作ってください」
『了解した』
無骨な男の声だ。だがまだ余裕が感じられる。自分の参戦は必要ないかもしれないとも思ったが、ドロテアの動きも細かくではあるが確実にギャラハッドを傷つけていた。
『今だ!』
はい! と答え、ヴァリスを撃ち込む。ランスロットはドロテアの死角に当たる場所を確保していた。IFFを見ればすぐに分かるだろうが、そんな余裕はないだろうと踏んだのだ。それは的中したらしい。
見事に不意を突いた攻撃は、決まった。
脇を抉るヴァリスの高出力。吹っ飛ばされ、無様な姿をさらす。
そこへ、ギャラハッドが強大な剣を振り落とした。背中を下にして転がっている体勢だ。もちろん脱出艇は使えない。
一拍の間をおいて、ドロテアの機体は派手に爆破された。
『助かった、礼を言う』
「いえ。それよりも、向こうが…」
『分かった』
カレンが参入したことで、ノネットの機体は押され始めていた。ここへふたりの機体が参戦すれば、最後の一押しになるだろう。
「カレン!」
『待ってた、早く!』
押さえ込んだ機体に、輻射波動を撃ち込もうとしているが、辛くも逃げられている。それを背後から押さえつけ、MVSで斬りつける。
不意打ちを食らった形のノネットは背後に意識が一瞬向いたのだろう。
今度の輻射波動からは逃げれなかった。
巻き込まれないよう、スザクは沸騰を始めた場所から一歩大きく飛びずさり幅を取る。
『まさか……私が……!』
オープンチャンネルの声だった。
最後の絶叫には耳を覆いたくなるが、これが自分達の行っていることであり、現実だった。
自分達は人殺しをしている。それも、複数の人々を。
単に敵対していると言う理由だけでだ。
だが、殺さなければ殺されるのが戦場なのだ。
逃げる事は許されなかった。これが、スザクの選んだ道なのだから。
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