扉を開けて入って来たスザクは、既にシャワーを浴びたのだろう。
濡れた髪で、廊下からの照明を受けて水滴を光らせている。
ああ、いつかと同じだと思っていた。あのときから既に自分はおかしかったのかもしれない。
スザクを特別に見ていたのは、自分自身だったのかもしれない。
ベッドの上に座り、ぼんやりとそんなスザクを見上げていた。
「ルルーシュ、反則」
「何が」
「そんな顔して、僕を見ないで。期待しちゃうじゃないか」
「………ごめん」
そう告げると、スザクは苦笑する。
「謝られるのも、辛いな」
結果的に自分はスザクを振った事になるのだろうか。彼は自分を好きだと言ってくれた。なのに自分は逃げ出した。――立派に、振った事だろう。
でも胸は苦しいままだ。
そして、スザクを独占したいと言う気持ちもそのままだ。
なのに、どうしたらいいんだろう。
「もう寝るね。ルルーシュ、シャワーは? いいの?」
「今日はもういい」
「そう。じゃあ、電気消すけど構わない?」
「ああ」
極力スザクはこちらを見ないようにしているようだった。
それは、そうだろう。きっと嫌われてしまったのだから。
彼の気持ちに応えられなかった自分が悪い。
またじんわりと涙の気配がする。
でも泣く訳にはいかなくて、自分もベッドに横になろうとした。
そこで、気付いた事がある。
自分がどうしたいのか。スザクにどうして欲しいのか。
困ってしまった本当の理由がそれで、分かってしまうような気がした。
「スザク、そっち行く」
「え?」
「一緒に寝よう」
「な……ルルーシュ?!
淡々とした声で告げれば、スザクはひどく驚いた声を出していた。でも構わず、彼のベッドに入り込む。でも彼には背中を向ける。
「分かってるの、意味? 僕は君が好きなんだよ?」
「分からない。好きとか恋愛とか、意味が分からないんだ。でも、こうやって一緒に寝るのは好きだった」
「そう……じゃあ、僕は生殺しですか」
「生殺し?」
「うん。だって君と一緒のベッドで何も出来ないなんて、辛いよ。ずっと前もそうだったけど、いろいろしたくなる。抱きしめてキスして、そして……」
「全部したじゃないか」
「してないよ!」
「した! 抱きしめたしキスもしたし」
「え?!」
がばっと彼は起き上がった。シーツがまくれあがって、寒い。
「抱きしめは……してた、かも、だけど。キスなんて」
「してた。寝ぼけてたけどな、お前は」
「嘘……それ以外には?」
細い、掠れた声でスザクが尋ねて来る。
「それだけだよ。それだけでも十分俺には心臓に悪かったけど」
「ご、ごめんルルーシュ」
いつも朝はルルーシュの方が早かった。ベッドから抜け出す時も彼はほぼ寝ぼけていたから、夢だとでもばかり思っていたのだろう。全て。
いつだったかに、いい夢をみた気がすると言っていた事を思い出す。
それは自分を代用品にして誰かとキスする夢だったんだろうと思っていたが、そうではなかったと今では分かっていた。自分とキスするのが良い夢だったのだ、彼に取っては。
「それで、一緒になんて眠れないよ。ごめん、ルルーシュ。僕、君のベッドに行くね」
「いい、構わない」
ぐい、と手を引いた。
そしてそのままベッドに引き戻す。
「背中向きで寝るから、キスなんて出来ないだろう? だから大丈夫だ」
「でもどうして」
「俺にも分からないんだ。お前をどうしたいのか分からない。そのせいでもうぐちゃぐちゃだ」
「それは……僕が原因?」
「ああ」
「そのキスが?」
「ああ」
「――ごめん」
「謝るな。お前が悪いんじゃないんだ――多分、きっと」
きっと。期待している自分がいる。
だからこうやって試そうとしている。
スザクにはひどい話だ。でも、彼は自分を責め続けている。
そして目を閉じた。
ふわりとスザクの体温を感じれる距離だ。とても落ち着く。
このまますっきりと眠りに落ちてしまえそうだった。そしてそのまま意識は闇に落ちた。
翌朝目覚めたら、背後からスザクに抱きしめられていた。
心の奥底から、安堵したような気持ちになるのは何故だろう?
背中いっぱいに広がるスザクの温度が気持ち良い。
ああ、スザクが好きなんだとぽろりと心に感覚が落ちて来た。
「スザク、もう起きるから」
いつかの時間の再来だ。彼は完全に眠っている。
腕を解いて、くるりと体の向きを変えた。本当は起きなければいけないのに、眠っているスザクが見たかった。そしてまた、あの笑顔が見れたらいいなと思った。
「スザク」
頬に触れて、そして今度はこちらからキスをしてみる。
ほんの短い、ふれるだけのキスだった。
だが、スザクの濃い茶色の睫が震えるように動く。
あ、起きるな――と、思ったらその目はゆっくりと世界を映し出した。
きっと彼が見ているのは、自分の姿に違いない。
じっと自分を見て、まばたきをひとつして、そしてにっこりと見たかった笑顔がその後に浮かんだ。
「ルルーシュ」
甘い声で呼ばれる。
答えたくなる気持ちを我慢する。彼はまだ寝ぼけている。目が覚めてしまったら、こんな笑顔も行動も取ってくれなくなる。
「ルルーシュ」
ぎゅう、と抱きしめられて、キスをされる。
甘い甘いキスだった。
唇を重ね合わせ、そしてそこを舐められる。
思わずびっくりして唇を開けたら、そこへ舌が滑り込んできた。
「……っん」
舌が、縮こまったルルーシュの舌をなだめて柔らかくしていく、歯列を舐められ、口蓋を舐められて、ぞくりとする。
男の生理現象で朝から勃っているスザクのものが、ルルーシュの太ももに当たってドキリとした。
ぴちゃり、と音を立てて舌を抜かれる。その喪失感が寂しくもあった。だから追いかけてルルーシュもキスをする。今度は自分の舌をスザクの唇の合間から差し込んだ。
盛大な歓迎を受けた。
強く吸われ、甘く舐められ、時折甘噛みされ、こちらは生理現象ではないのに勃ってしまいそうになる。マズイ、と思って逃げようとしたらスザクはそれを許さずにより自分を抱きしめる力を強めてきた。
「ルルーシュ、好きだよ」
そして、ぐい、とルルーシュの両肩をベッドに押さえつけると、スザクは上に乗りかかってきた。
「スザク?」
「起きてるよ、ルルーシュ。甘すぎだよ?」
「………っ!」
いつから、と問いかける言葉はそのまま唇に飲まれた。
勃ちあがったものを、腿に押し当てられる。熱い温度に息を飲んだ。
口づけは荒く、貪るように続けられている。
「……っん、く」
唾液が垂れて、流れていく。その間にも勃ったものはより成長していくようで、自分の物もすっかり勃ちあがってしまっていた。
「ルルーシュ。君は僕をどうしたいの?」
「………」
「僕の気持ちを知った上で一緒に寝るって、どういう事?」
「……」
「ずるいよ、ルルーシュ。我慢なんてとっくに出来なくなってるのに、もう無理だよ」
と、髪を梳かれ、頬に、額に、鼻の頭に、あちこちにキスを落とされる。ゾクゾクして思わず腰が揺れた。
「は……あ…っ」
「煽らないで」
「無理……っ、そんな事、されたら……っ」
「無茶苦茶に、しちゃうよ?」
とくん、と心臓がなった。
スザクになら何をされてもいいと思った。構わない、むしろ無茶苦茶にして欲しいと望む。
そこへ。
――ジリリリリリリリリリリリ
と、目覚まし時計の音が鳴った。
スザク用の物だ。寝起きの悪い彼の為に、音量はかなり大きめに設定されてある。
思わず気が抜けた。
緊張にこわばっていた体の力が抜け、ベッドに全ての体重を預ける。
それはスザクも同じだったようで、そのままルルーシュの上にスザクの体は落っこちてきた。
「………なんか」
「ああ」
「格好悪いね」
「そうだな」
「………起きないと」
「そうだ。朝食を作っていない。ナナリーが起き出してしまう」
慌てて、スザクが先に起き出して、その後をルルーシュは追った。
顔を洗ってまずさっぱりさせる。
自分達は今、何をしようとしていたのだろうか。
そう思うと鏡に映る自分の顔がじわじわと赤くなっていくのが分かる。
何を考えていたのだと思う。朝から――朝、だから?
スザクが寝ぼけていると思っていたから。
だから大丈夫だと思っていたのだ。
自分の気持ちを確認しようとした。
彼に取っては酷いやり方だったかもしれないけれども、自分には必要だと思われたのだ。
その結果が、あれだ。
「ルルーシュ、交代、いい?」
「あ、ああ」
スザクの顔を上手く見れなかった。
目を少し下側にして、彼と交代する。
息をひとつだけ、大きく吐き出した。
気分を変える。朝食とお弁当をこの短時間で作らなければ行けないのだから、とはりきってキッチンへと向かった。
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