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機械仕掛の恋13


「スザク」
 そんな自分を見兼ねてだろう、ルルーシュは席を立つと自分の元へ歩み寄り、抱きしめてくれる。
「俺は、スザクの所にいたいよ」
「――ルルーシュ」
 抱き返すかどうか迷っていた腕が、自然に彼に回った。
 そして唇を合わせる。
「誰のものだったのかの記憶なんかない。フォーマットされてしまったのならば、俺はもう要らない存在なのだろう。それでも良ければスザクの元に置いて欲しい」
「それは」
「居場所が欲しいから、と言う訳じゃない。お前の元がいい。それだけなんだ」
「――どうして?」
「それは……俺にも、良く分からない」
 言うと、ぎゅっと顔を自分に肩口へと埋める。
 本当に分からないのか、分かってても言いたくないのかは、スザクには分からなかった。だけど、彼のぬくもりだけは分かる。
 抱きしめて耳元をキスを、し。
「いいよ。居て欲しいよ、僕も」
 とだけ、告げる。
 弾かれたように彼は頭を上げ、自分を見た。
「素性が分からない、壊れた機械だけど……それでも、構わないのか?」
「僕はね。――君が、好きだよ」
 言ってしまった。
 他の誰かに言ったことも、セックスの最中に告げた事もあったけれども、素面で告げたのはおそらくこれが初めてだろう。自制なんてとっくに置き忘れて、捨て去られていた。
 彼が好きだ。その気持ちを抑制するつもりなんて、もうなかった。
「ルルーシュ、大好きだよ」
 そしてキスをする。触れるだけのぬくもりが優しくて気持ち良かった。
「僕はラウンズだ。人殺しもするし汚い手だって使う。それでも、僕で構わないのか?」
「いいや、その度に悲鳴を上げているお前を知った。だから、そんな事は関係ない」
「――っ」
 あの夜の事を言っているのだろう。確かにやりきれなかった。しかしそんな事は日常的に起こり得るのだと自分を説得するしかなかった。
 その弱さを、彼は受け入れてくれると言うのだ。
 抱きしめる力が自然と強くなる。
「……ありがとう」
 そう言うのが、精一杯だった。
 そのまま、ベッドルームへと向かう。それが自然な流れのように思えた。
 昨日のような激情に身を任せた抱き方ではなく、優しく優しく、とろけるように抱いてやりたいと思った。お互いの気持ちを大事にして、抱き合いたかった。
 ロボット? アンドロイド? セクサロイド?
 それがどうしたと言うのだろう。愛する事をプログラムに組み込まれていたとしても、人とてそれは同じ事だ。誰かを愛さなければ生きてなど行けない。
 彼で良かった。いや、彼でなくては、スザクはダメだった。
 衣服は床に脱ぎ落とし、素肌でベッドに上がる。
 優しいキスを送り、そのまま肌を愛撫する。そしてあちこちにキスマークを作った。彼の肌は非常に敏感で、鋭いだろう痛みにも呻くように喘ぐ。
 スプリングの効いたベッドが彼が呻く度に、ゆるやかに弾む。
 手を伸ばせば、彼のものはゆるやかに屹立しようとしていた。それをやんわり手で包み込み、手淫する。
「……っあっ、あ、んっ」
 びくん、と彼の体が跳ねた。
 それをなだめるようにキスをし、再び上半身にキスマークを次々と作ってゆく。
 やわらかく舌を使い肌を舐め、時折吸っては他の場所に移動する。その繰り返しの果てに、彼のものへとたどり着く。
 立派に勃起したそれを、スザクはためらいなく含んだ。
「……すざ、く」
 彼はセクサロイドだと言う。本来なら奉仕する側の立場なのだろう。だが、全くそんな気配は見えない。彼は人に愛された人にしか見えない。むしろ性知識の少ない、おぼこささえ感じさせられた。
 行為に対し、驚いたような戸惑ったような声が向けられる。
 上目使いに彼を見、そして微笑む。
 く、っと屹立が更に固くなった気がした。彼の表情もくしゃりと歪む。
「……っんっ」
 ぐちゅぐちゅと唾液の音を立てながら、そこを吸い、吐精を促す動きを繰り返す。
「んぁ、あっ、ああっ」
 その最中に、指を後背へと回して孔へと差し入れようとした。しかしそこは昨日と違い――今までと違い、固く閉ざしている。
 何故、と思いながらもそこをゆるゆると撫で、なだめるようにしてほぐす作業に入った。
「や…っ、ああっ、すざく」
 潤滑剤が必要かもしれない、と初めて思った。これじゃあ本当に男性同士のセックスと変わりがない。唾液を手のひらにのせ、屹立への愛撫はそのままに、後孔を唾液でびちゃびちゃに濡らした。
 意識が後孔へ向かっていたせいか、気付けなかった。ルルーシュの手がスザクの頭へと向かっている。そして髪をくしゃりと掴むと、もう瀬戸際に立たされた顔をした彼の表情に出くわした。
「も、……だ、め、だから…っ、すざく」
「大丈夫、だよ」
 先端を舐めて、そのくぼみを抉るように舌を尖らせて引っかける。
「ひぁっ、あああっ」
 その瞬間に、白濁が飛び散った。
 スザクの顔にもそれは飛び散る。
「あ……っ、ああっ」
 ひくり、ひくりと彼の体が震えている。
 ようやく状況を把握したのはその数秒後で、慌てたように「すまない」と言い、手を伸ばしティッシュを数枚引き抜いた。だが、それは結局使われる事がなかった。
 ふっと甘いとろけるような顔をしたかと思えば、彼は後孔を弄られたまま、スザクの顔を舐め出したからだ。舌だけを出し、飛び散った自分のものを舐め取る。ひどく淫靡な状態に、スザクの熱は暴発しそうになった。
「ルルーシュ、いいから」
 その頭を、やんわり留める。だが、彼の舌は巧みに動く。
「ル、ルーシュ…っ」
 顔を舐められているだけだ。どこも性感を刺激される場所に触れられている訳ではない。
 だが、スザクはもうそれだけでいってしまいそうだった。
 急ぎ、後孔をほぐしに掛かる。
 やはり固く閉じたそこは、唾液などでは全く潤滑剤にはならなくて、困惑する。
 はっと気付き手を伸ばしたベッドサイドには、傷薬が置いてあった。以前軽く怪我をしたときに渡されたものだ。人体に危険はないだろうと判断し、チューブからそれを数センチ取り出す。
 それをベタリと後孔の周りへ塗りたくり、指全体にも絡ませた。
「……っ」
 そこで、陶酔したかのようにスザクの顔を舐めていたルルーシュの動きが一瞬止まった。
 だが、為される事を理解したかのようで、動きは再開された。
 早くルルーシュの中に入りたい一心で、後孔をほぐしていく。入り口をくるくると円を描くようにして緩め、指をようやく一本入れる。
 傷薬のぬめりを借りて入れた場所は、昨日と同じ場所とは思えない程狭く、また固い場所になっていた。
「ん……っあ」
「痛い?」
 今度こそ動きを止めたルルーシュへ問いかけると、首を左右に振った。
 そして、ゴメンと告げる。
 その意図を計りかねて尋ね返すと、昨日みたいに出来なくてごめん、と再び言葉が返ってきた。
「どうして?」
「――俺が、本当にお前と寝たいと思ってるから」
「……どういう事だ?」
「体が多分、お前を試してる。面倒な事になってもいいのかと」
「光栄だね」
 くすり、とスザクは笑った。
 一本だけ差し入れた指が内側をやわやわと撫でる。奥を広げる動きをしたまま、その違和感にか表情を少し顰めているルルーシュへと口付けた。
「試される程、愛されてるって事でしょ?」
 もう一度微笑んで、口付けを落とした。彼はひどく驚いた顔をして、自分の瞳を覗き込んだ。
「言ったでしょ? 好きだって。だから試されるのも嬉しいし、応えてみせるよ」
「スザク……」
 名を呼ぶと、彼の表情はくしゃりと歪む。そして涙がぽろりと落ちた。
「好きだ、スザク。俺もお前が好きだ」
 くしゃくしゃの顔のまま、涙をぽろぽろこぼしてそう言ってくれる。それが何よりも幸せだった。
 ほころび始めた後孔へ、指をもう一本追加する。彼の感じる場所へわざと触れて、彼を跳ねさせた。
 内側は柔らかくなり始めている。彼の心のままに、和らいでいるのだろうか。そう思えば嬉しくなる。
 執拗にその場所を弄れば、彼はぽろぽろ涙を流しながら必死で喘いでいた。
 柔らかくなって来た場所に、ほっとする。もう受け入れる事は可能だろう。
 自分の暴発しそうな程に腫れ上がったものを取り出すと、彼にゆっくりと挿入した。
「……あ、あああっ、あ」
 ルルーシュはシーツをきゅっと掴んで、多分ひどいだろう圧迫感に耐えている。
 今までのセックスとは完全に違った。彼もまた、自分を試しているのだろう。
 それだけの苦しい思いをしても、自分を受け入れようとしているのだ。
 心の底の方から、じわりと暖かいものが沸きだして来た。それがなんと言うものなのか、知っている。好きだと言う感情、そして愛してるという思いだ。
 こんな短い間に、なぜ自分は彼へと恋に落ちてしまったのだろう。
 出会い方だって不自然だった。それに彼はそもそもが人ではなかった。
 だが何もかもの垣根を越えて、自分はまっすぐにルルーシュに恋した。
「ああっ」
 ようやく根本まで入ると、最奥を突かれたルルーシュが辛いようで、だが感じ入った声を上げた。
 馴染ませるまで、しばらくそのままにする。前傾姿勢になり、彼に口付けを落とした。
「いや、じゃないのか?」
「どうして?」
「すぐに、気持ち良くなんか、なれない」
「もうなってるよ」
 苦しそうな息の下、ルルーシュは問いかけてくる。愛らしい質問に自分は多分微笑みながら答えた。
 まだ締め付けられた場所は痛いくらいだ。だが心が充足していた。
「好きだよ、ルルーシュ」
「うん、スザク」
 唇を合わせる。そのまま舌を絡め合い、彼の舌を吸い、甘噛みし、そして舐めた。
「…っん、んんっ」
 彼は感じ入ったような吐息を落としながら、それに応える。幸せだった。
 そして、ようやく馴染んだのだろう、少しの余裕が生まれてくる。
「動くよ?」
「ああ」
 手を、握り合った。
 恋人どうしのように指を一本一本絡め合って、握った。
 そして、最初は小さく腰を前後させ、そして彼を少しずつ甘い声で鳴かせて行った。



 シャワーを浴びたのは、深夜を過ぎた時間だった。
 夕食すらも取っていない。もしかしたら執事がノックくらいはしたのかもしれなかったが、途中から奔放に乱れだしたルルーシュの喘ぎを聞き、遠慮したのかもしれない。
 ようやく彼の体を離す気になれたのは、もう彼の声も殆ど掠れてしまう程喘がせた後だった。
 幾度吐精したのかも分からない。
 すわぶるように性器にからみつく内側を、何度抉ったのかも分からない。
 ただひたすらにお互いの熱を交換した。
 いつもは低い彼の体温が、徐々に上がっていくのが嬉しくて仕方なかった。
 もう腰も立たない様子のルルーシュを抱きかかえてシャワールームへ向かう。
 丁寧に体を洗い、中へ吐き出した自分のものを掻き出す時にだけ、彼は再び欲情の火を灯したようだけれどもそこをぐっと我慢して、綺麗にすることだけに専念した。
 スザクも全身汗と粘液まみれになっている体を綺麗にする。
 二人で同じバスタオルを使い水気を拭うと、べたべたになったベッドを避け、狭いソファで抱き合うようにして眠った。
 幸せだった。



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2011.6.15.
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