許せる事は出来るだろうか、と考える。
思わずため息がでる。考えるという事ですら既に面倒だった。
まもなく朝が来る。自分の格好はあられもないと言う言葉がぴったりだった。こんな姿は女性陣はもちろんのこと、他の誰にも見せられない。
この床で寝こけている男にでも、だ。
今まで意識を失っていた。目覚めたのがこんな時間で良かったとだけは思えた。
風呂に入らなければならない。
億劫に、考える。
女性陣を起こしてしまうのは本望ではなかったが、メリー号の狭い船室では、きっとシャワーの音が響き渡ってしまうだろう。それでも仕方なかった。
体を起こすと、ぎしぎしと全身が悲鳴を上げた。
許せるだろうか? 再び考える。
それは許せそうにないからに他ならない。それでも仲間だった。サンジはテーブルを伝ってラウンジを出る。
ほとんどの体重を手すりやあちこちに預け、そしてようやく風呂場にたどり着いた。
うっかり早起きした女の子たちがいなかったのだけは幸いだった。
昨晩の事だ。当たり前に酒を所望しに来たゾロは、そのままラウンジに居着いた。近頃たびたびあることだった。そうすればなんらかのつまみが出てくる事を学習したようだ。
その夜も魚の骨を揚げ、スパイシーな香辛料で味付けしたものを出してやった。
どうやら気に入ったようで、酒の進みも早い。
「おい、あんまり呑みくさるなよ。量に限りがあるんだ」
「わァってる。それより、これのおかわりはあるか?」
空になった皿を見せられる。でも、魚の骨など調理途中にたまたま出た端数に過ぎない。もう作ってあげることは出来なかった。
「ねェよ、足りねェか? 他なら用意できっけど」
「いや、ねェんならいい」
あっさり諦め、残り三分の一になった酒瓶をボトルに直接口をつけて呑む。
グラスくらい使えといつも言っているのに、改まったことはない。もうサンジも諦めていた。
「明日の準備は終わりか?」
手の止まった自分を見て、ゾロが尋ねて来た。自分の動向を気にするなんてひどく珍しい事だったので、驚いた。
「ああ、準備完了。明日も旨い朝メシ食べさせてやれるよ」
そして胸ポケットから煙草を取り出し、一服した。一仕事終えた後の一服はひどく旨い。
「お前もあんま夜更かしすんなよ。どうせ起きてんなら見張り代わってやるとか」
「面倒臭ェ。当番じゃねェんだ、何してようと構わねェだろ」
「ま、そりゃそうだ」
じゃあ、と自分はシャワーを浴びに行こうとした。明日の朝も早い。そろそろ寝る時間だ。
ゾロの傍らを通りながら、「おやすみな」と告げれば、突然に手首を掴まれた。
驚いてゾロの顔を見る。
ひどく凶悪な顔をしてるなと思ったが、その考えは正解だった。
強く掴まれた手首が、思わず折れるのではないかと危惧を抱いた。それほどの強さだった。なのでゾロの動きに従わざるを得なかった。
ゾロは無言のまま、手を引き自分の元へたぐりよせる。
「お、おい。どうしたんだよ」
ゾロはやはり無言だった。ただ、たぐり寄せられた上に、そのまま床へ縫い止められた。体も思わずついていく。こいつは何がしたいのだろうと思った。凶悪面はそのままだ、新しい喧嘩の仕掛け方かと思った瞬間、空になったボトルが投げられ、その手でシャツを引っぱり破られた。
「ちょ…てめェ、何やってやがる!」
作業に邪魔だったから、ジャケットは脱いだままだった。シャツはお気に入りだ。ボタンが全部飛んで、もうこれは使い物にならないだろうと思えばむかつきは増した。思わず、床に縫い止められたまま、足を振り上げる。
その足をゾロは軽々と受け止めた。
そして、にやりと彼は笑ったのだ。
体のどこかがぞわりと震える笑みだった。
それからが散々だった。
体幹を押さえられ、動きは封じられた。脱がされたシャツの下、素肌を手でまさぐられる。
こいつはおれを女の代わりにするつもりなのだと気付いたのは愚かにもその時点でようやくだった。
「や、やめろっ、ゾロ!」
力任せにベルトを引きちぎられ、下肢もむきだしにされる。抵抗はやめなかった訳ではない。だが、弱点を握られ、動きを封じられたのも確かだ。
「………やめろ、ゾロ」
低い声で、告げる。だがゾロは終始無言のままだ。何を考えているのかは、あの笑み以来変わらない無表情に見える好戦的な顔で、読めない。
無理矢理に熱を与えられる。男の手などとんでもなかったが、大きな手のひらが自分の性器を握り込み、剣ダコのでこぼこでさすられ、気持ち良くないはずがなかった。不幸にもここ最近は自分でも処理をしていない。快楽の芽はすぐに育ち始め、サンジを飲み込み始める。
ただ、意図の分からないこの状況がイヤだった。
ゾロが何か一言でも言えばいい。女の代わりにするには、男の性器など邪魔なだけだろう。なのに、何故追い立てようとするのか。それが分からない。
息ばかりが荒くなり、声を漏らさないようにするのが精一杯になってくる。頭の中はただ解放ばかりを求め、真っ白く染め上げられようとする。
その、直前に。
手を離された。
「……え」
思わず声が漏れた。もう今にもイきそうだったのだ。それはゾロにだって分かっていただろう。ゾロはしかし、無言だった。そしてそのまま、足を大きく広げられる。
「や、やめろ……っ」
全てをさらされてしまう。息のあがった声はみっともなかったが、せめて言葉だけでも抵抗したかった。
快楽にしびれた体が、不自由だ。振り払ってしまいたいのに、簡単に動けない。吐精直前まで追い立てられた体はその先を求めてやまない。
その体に、ゾロが触れた。なでるように性器に触れ、そのまま下へと移動する。指先一本で、袋をなぞられ、そして後孔へとたどり着かれた。
思わず息を飲んだ。
やはり、そうなのかと。
ゾロの指は乱暴に中へ侵入してくる。先ほどまで弄っていたサンジの先走りだけのぬめりしかないそれは、痛みしかサンジへ与えない。奥歯を噛んで、声を耐えた。ここで声を出せば負けのような気がした。
やめろ、と言いたい。
だがその声すら痛みに上擦りそうで、発する事が出来ない。
そして無理だと気付いたのか、指は抜かれる。ほっとした。
だが、両手まとめ、テーブルへと縛り付けられる。
「どうする……つもりだ」
どうせ返答はないだろうと思った問いかけだった。だが意外にも答えがあった。
「そのままじゃ使えねェ」
「使う?! ふざけんな、早くこの手を解け!」
痛みに、快楽はしぼんでいた。性器は既になえている。今なら強烈な蹴りをたたき込む事も可能だろう。
がたがたとテーブルを揺らすが、縛られた箇所はびくともしない。いっそこのテーブルを蹴り壊してもいいかと思ったが、そういう訳にもいかない。どう説明すればいいというのだ? まさか喧嘩でテーブルが大破するなどあってはならない。明日の朝食はここで食べられるのだ。その場所を失ってはならない。そんなサンジの職業意識が邪魔をする。
ゾロは適当にキッチンからオイルを持ち出すと、戻って来た。
「勝手に使うんじゃねェ」
「その口も塞ぐぞ」
「やれるもんならやって………っ!」
裂かれたシャツを、ゾロは手にしていた。口に無理矢理押し込められる。
本当に、されてしまった。
そして手のひらにこぼしたオイルを、ゾロは後孔に塗り込め始めた。気持ちの悪い感覚しかなかった。だが、指の侵入をスムーズに受け入れてしまう。
このままではいけないと思考ばかりが空回りする。
声も出せない、足は大きく広げられ、ゾロに押さえ込まれている。身動きが取れない。
「……っ、っ!」
「うるせェよ」
声にもならない声を上げれば、面倒臭そうに言われた。
指が増やされてゆく。一本だったものが二本に、そして三本に。
オイルでぎとぎとになった手で、前もしごかれた。
イく寸前まで追い上げられていたものだ。すぐに芯を取り戻し、快楽を植え付けられる。ひどく屈辱的なのに、なにもする事が出来ない。睨みつけるしか出来なかった視線すら、時折揺らぐ。
「ほら、イけ」
内側をぐちゃぐちゃにされ、そして強く性器をしごかれた。
頭が真っ白になる。
その瞬間に、サンジは白濁を飛ばしていた。
快感と息苦しさに頭が回らなくなってゆく。その間に、太いものが挿入されていた。違和感は少ない。少なくとも、無理矢理指を突っ込まれた時のような痛みは欠片もなかったし、気持ち悪さもなかった。最悪だった。
体をゆさぶられ、好き勝手される。
そのうち、内側にもひどく感じる場所があることにも気付いていた。
口に布を突っ込まれていて、良かったのかもしれない。さもなければ、自分はあられもない喘ぎを漏らしていただろう。前に与えられるより、鋭く酷い快感は体中を蝕んで行く。抵抗など、もう出来る筈もなかった。
一度も触られていないのに、勃起している事を知る。
そして、とろとろと快楽の雫が流れ落ちている。
羞恥に目がくらみそうだったが、そんな考えもゾロの動きによってすぐに打ち消され霧散してしまう。
「……っ、ぅ、ぅっ」
「もう、平気そうだな」
途中、耐えきれなくなって目を伏せた。
自分がゾロの動きに合わせ、声を漏らしている事には気付いていた。だがどうにも出来ない。こんな快楽があることすら知らなかった。
うっすら開いたまぶたの向こうのゾロの顔は、快楽に笑んでいた。
手をほどかれる。そして、口から布を取り除かれた。
「は………ぁあっ、あ、ああっ」
一気に流れ込む空気に安堵したのもつかの間、動きに合わせて今度こそごまかしようもなく喘ぎが漏れる。
手酷い快感だった。拷問でもされていた方がマシだとすら思えた。
そして、ゾロの動きが早くなる。出される、と思った。中に出されるのはゴメンだ。だが、それを訴える口はない。喘ぎだけに埋め尽くされている。
やがて、最奥に突き刺したまま、ゾロの動きは止まった。胴震いがし、中に暖かいものが広がって行くのを感じる。
気持ち悪い、と思ったのに、サンジもまた吐精していた。
体と思考は完全に分離されていた。
そして抜かれ、ようやく終わったと思ったのに、それは終わりの合図ではなかった。
ゾロはテーブルの上に座る。
引っぱり上げられるように、力の抜けた自分の体も同じ場所に置かれた。
膝の上にのせられ、足を精一杯開かされる。
「や……やめ、もう……っ、こん、な………っ」
ずずず、と挿入される熱。
あられもない格好だった。扉を開けばすぐに見える場所だ。だがサンジの喉は悲鳴のような喘ぎを上げ、ゾロを受け入れていた。
最悪だ、とまた思う。
「……あっ、ああっ、あっ」
くびれの場所が、ちょうど良い場所に当たってしまう。声はあっという間に喘ぎに乗っ取られる。腰をもたれ、上下させられる体には力が入らず、頭ががくがく揺れた。
なにがなんだか、良く分からなくなってゆく。
「や……っ、ああっ、イく、も……イく……」
「イけよ」
「あ、あああっ」
耳元でささやかれた声にぞくりとした。そのまま、吐精してしまう。不随意に震える体を、それでもゾロはまだ上下させる。イったばかりの体にはつらすぎる快感に、頭を打ち振るった。
だがゾロが許す筈もない。
そのままゾロが再び深い場所へ吐き出すまで、動きは続けられる。
そして、それはサンジが意識を飛ばしてしまうまで続けられた。
そして、朝を迎えた。
ゾロの意図は良く分からないままだ。あの欲情した声でイけと言われた事を思い出すと、体が震える。得体の知れない快楽は体に根付いてしまっていた。
だが、彼はきっと自分を女の代わりにしたにすぎないのだ。
シャワーを浴び、あちこちにこびりついた自分の精液を流し、屈辱的にも中に出されたものをかき出す。自分の指でさえ、昨晩の快感を呼び起こしてしまいそうで怖かった。
許せるだろうか。きっと一度のみで済むはずがない。
ゾロは味をしめ、また自分の体を使おうとするだろう。
そして根付いてしまった快楽を忘れられない自分が流されてしまう姿も目に見えてしまう。
ラウンジに戻れば、朝の光がようやく室内に入り込もうとしていた。
がたがたになった体は、湯で少しだけほぐされた。精一杯の力を込めて――それでも常の十分の一にも満たないだろうが――、ゾロの無防備な腹を蹴る。
「………ってェな」
「死ね。そんで海に沈め」
「あァ? なんの為に」
「てめェ……っ」
悪びれない姿に憎しみを感じた。射るように睨みつける。
そして、再び蹴り付けた。
「早く風呂入れ。寝るなら死ぬまで寝てろ、おれはもう起こさない」
「ありがてェ話だな」
馬鹿にしたような声で笑われた。
「てめェも感じまくってやがっただろ。相性よかったんだな」
「そんな事ある訳ねェだろ!」
へぇ、と、含みを持たせてゾロは笑う。昨晩の事を思い出している顔をする。
「やめろ!」
「おれの自由だろ」
「おれへの冒涜だ」
「知るか、そんなん」
そして、ふいとそのままラウンジを出て行ってしまった。
許せそうにない、と結論付けた。
あんな男、とっととくたばればいいのだ。
体調が回復したら、自分が葬ってもいい。
船長がなんて言おうが構わない。
サンジは、握りしめた手でテーブルを殴りつけた。
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