やはり、そのままで終わる筈がなかった。
自分としては警戒していたつもりだった。気を張り、ひとりにはならないようにして、日々を過ごす。それでも深夜の時間はどうしてもひとりになってしまう。
ゾロがやって来た時は、気を張りつめていた。
もう決してつまみなど出さなかったし、近寄る事もしない。酒を所望されれば棚を指差し、抜いていいものを言葉でだけ指示する。
その声音も冷たいものだったと思う。
そんな自分を、ゾロが笑ってみていたのが腹立たしかった。
あれから彼は、まるで今までと同じ普通の仲間のようにして過ごしている。あんな夜があったことすら夢だったのかと思わせる程、毎日昼寝を貪り、体をいじめているんじゃないかと思うような鍛錬をし、時折他の仲間と笑い合う。
ずるずると残ったからだの痛みが取れ、一週間も過ぎた頃だろうか。次の島が見えた。やはり陸と思えば気分は高揚する。足りない食材をチェックし、買い出し予定を立て、まだ見ぬ食材に想いを馳せているときに、それは来た。
思えば、こういった気の弛みをヤツはずっと待っていたのだろう。
両手をしばられたのは前と同じだった。
テーブルに縛り付け、床に転がされる。
「てめェ……もうすぐ陸だってのに、何やってやがる」
「前と同じ事だが?」
しれっとゾロは言う。明日にも陸に到着する。そこへ行けばそれなりにゾロがもてる事をサンジは知っていた。素人、玄人問わず一定の層にやけに受けがいいのだ。
自分と好みが被る事がないので、今まで適当に町中で見かけた時はふぅんと納得していたものだ。なのに、またこいつは自分を使おうとしている。
「島でお姉様にでも優しくしてもらえっ」
今度は自由だった足を、思い切りみぞおちへ入れた。
だが、手が不自由だった分威力はいつもより落ちたのだろう。それとも、堪えたのだろうか? 喧嘩の時のように吹っ飛ぶ事はせず、その場でゾロはみぞおちを押さえて睨みつけてくる。けほ、と小さな咳を一度だけした。
「その足、邪魔だな」
そう言うと、睨みつけた視線のまま、その場を立つ。そしてタオルを数枚と以前使ったオイルを片手に戻って来た。サンジはその間になんとか逃げる術はないかとじたばたしていたのだが、よほど強固に結ばれているのか、手を縛るバンダナは弛みもしない。以前と同じように、テーブルはがたがた言うだけで動かなかった。
「…………っ」
戻って来た彼の姿を、サンジもまた睨みつける。殺さんばかりの力で睨んでいるのに、ゾロも睨みつけたままだ。まるで喧嘩の最中であるかのようなのに、行動は常軌を逸している。
何をするのかは分かっていた。言葉が言葉だ、足まで封じられればどうにもできない。だが、その前にゾロの手は自分の首筋に伸びて来た。
首を絞められる。
殺す気か、と息苦しくなっていくのと同時に、視界がかすみ始めた。
「最初からこうすりゃ良かったんだよな」
とのゾロの声を遠くに感じながら、サンジは意識を失った。
「…………ぅあっ、あっ」
意識を取り戻したとき、すでに体内にゾロが居た。
鋭い感覚が頭のてっぺんまで駈け上る。思わず、声が出た。
「ふぅ、あっ………なっ、に……っ」
全身の自由が効かない。ゾロの顔を見ないように自分の体を確かめれば、片足ずつ膝を立てられた状態でタオルで縛られていた。両手は依然、縛られたままだ。体のどこも動かす事が出来ない。
ただ、ゾロが中を行き来する。感覚だけが研ぎすまされて、快楽の最中に突き落とされている事を知る。
「て、め……っ」
「目ェ覚めたか」
そう言って、ゾロが笑った。反応がなくてつまんなかったとまで言い腐る。
睨みつけたいのに、視線までもが自由にならない。ぼやけた視界は目が涙で潤んでいる証拠だ。快楽はそこまでサンジを突き落としていた。
「……っ、ぅ、………っ」
せめて、声だけはと意地を張る。
ゾロが動くたびに理性が弾けそうになるけど、必死で引き止める。
両目を閉じた。その瞬間、頬を涙が流れてゆく。
「っ………」
快楽のせいだ。だが、それに引きずられたように涙は次から次へとこぼれ出して行った。
悔しかった。
こんな顔を見せるのは、酷く屈辱的だった。だが悔し涙が止まらない。
その間にも快楽は理性を侵略しようとしてくる。
自分が弾けそうになっていることには気付いてた。だが、イきたくなかった。
こんな男の手で自分が快楽を覚えている事が許せない。
「その顔はそそるけどよ、声出せよ。おら」
あごを持ち上げられる。強い突きが自分の弱い場所をえぐる。
「……っ、くっ…………ぅ、」
奥歯を噛み締めた。決して言う通りになんかしてやるものかと思った。
だが、同じ場所ばかりを狙われて頭がどんどん白んでいく。
「………………っ、っっっ!」
びくん、と自分の体が跳ねる。その瞬間、白濁が腹を汚す。
目は決して開けなかった。調子に乗るゾロの顔など、見たくなかったからだ。
その間もゾロは体の中を行き来し、やがて前回の再現のように最も奥で精液を出される。じわりと広がるぬくもりが気持ち悪い。
当然、それで終わらなかった。
うつぶせにされ、足も手も酷くいたかったが再びゾロが体内へ侵入してくる。
「っとに強情だな、てめェ」
背後から笑いの気配と共に、そんな事を言われる。
「こんな感じてやがるくせに」
と、屹立したものに手が這わされた。
「や……っやめ、ぅあっ」
挿入された瞬間に勃起していた。体に植え付けられた快楽がそうさせたのだ。
お手軽すぎる自分の体が恨めしくもあった。
ゾロの手は、そのまま作為を持って動き始める。
「……ぃあ、あっ、ああっ、あ」
直截すぎる感触に、声が我慢出来ない。体内で作られる快楽よりずっとマシで知っているものだと言うのにだ。
「そうそう、てめェはそうやってあんあん言ってりゃいいんだよ」
手の動きは変わらないまま、ゾロは再び動き出す。
手酷い快楽が再びやってきた。さっきの快感もまだ完全に過ぎ去ってはいないのだ。すぐに落ちるところまで、落ちた。
「ああっ、あっ、あ、んっく、あああっ」
一度口火を切った声の止め方が分からなくなっていた。喉の奥から絞りだすように、喘ぎが漏れる。
再び、頬を涙が伝った。そのまま床へと落ちて行く。
うっすら目を開けば、見えるのは使い慣れたラウンジの床の板目だ。そこへ、自分の涙が吸い込まれてゆく。
「あ、あ、ああっ、や、やめ、そこ……っいや、だっ」
先端をぐりぐりと弄られ、思わず泣きが入った。体内を好き勝手に暴れているものが生み出す快楽とは別に、思考を殺してくる。
意外にも素直に、訴えると手は離れて行った。
「これでイかれちゃ、つまんねェしな」
と、理由を告げられる。また、中でイかされるのかと思うとぞわりとした。
何か縋るものが欲しかった。手がせめて自由になれば、なんとか乗り切れそうな気したのだ。だが、そんな事をさせてはもらえない。
再び弱い場所を突き、喘ぎを引き出さされる。
縛られた先の手のひらをぎゅっと強く握った。
それが精一杯だった。
幸いにも意識を飛ばす事なく、その日の強姦は終えられた。そう、これは紛うことなき強姦だ。快楽によって、心を殺されていく。
手をほどかれ、足をほどかれた瞬間、ゾロを思い切り蹴った。
気を抜いていたのか、気持ちいい程彼は吹っ飛んで行った。
「………てめェ」
足腰はがたがただ。それでもそれだけの威力のある蹴りを繰り出せた事に安堵した。なんとか這うようにしてテーブルに捕まり、立ち上がる。以前と同じように体中が悲鳴を上げている。
だが、それをねじ伏せた。その方法は戦闘で知っている。
「死ね。殺してやる――こっちが殺される前に」
「いい根性だ」
にやり、とゾロが笑った。腰に得物はない。素手の内に蹴り殺してやると思った。
だが、ゾロはいかにも楽しそうな高笑いをしたのだ。
こいつは気が狂ってるのか、と思った。
「そうでなくちゃな」
そして、凶悪な面を向けてくる。
素手でも彼は強かった。だがリーチの分だけこちらに分がある。本気で殺す気でいった。だが、彼とは喧嘩慣れしている。こちらの手を知り尽くされているのだ。
間一髪の所で逃れたり、痛みを軽減する方法を知っていた。
ひとしきりやり合った後、自分に限界が来た。切りがないのだ。
一瞬の気の弛みを縫って、体中に悲鳴が鳴り響く。
「………っ、くそっ」
隙を見せた。ゾロが来るだろうと思った。
だが、彼は来なかった。
リーチ外の場所から自分を見、真剣な顔をしている。
そのまま、サンジは膝をついた。屈辱だった。
それを見届けると、ゾロはふいとラウンジから出て行く。
ぱたん、と扉の閉じられた音で、意識までもが遠のいて行った。
張りつめていた糸が切れたのだ。
もう一方の膝もつくと、そのままその場に倒れ込んだ。
無茶をされた体は、もう自由を取り戻せそうになかった。
再び、朝が来る前の時間だ。
ふと違和感を感じた。自分に毛布がかぶせられている。
誰がやったのだろうかと血の気が引いた。自分は素っ裸で体中にいろんな粘液が乾いたものが付着している。
明らかに強姦された後だと分かる姿だ。
見張りのチョッパーだろうか?
だが、チョッパーならこの姿に驚いてすぐさま治療を始めたに違いない。
では誰だろう。まさかではあるが、女性陣かもしれなかった。哀れんで、せめてと思い毛布をかけたのかもしれない。
手がかたかたと震えていた。
誰かに知られたかもしれないと、想像するだけでも恐ろしかった。
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